World of Fantasia

神代 コウ

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さらば、雨のオルレラ

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 オスカーの口から語られたのは、子供達の魂の入れ物。即ち肉体の行方だった。彼は実験を施していた子供達が何処へ送られているのか、その秘密を掴んでいた。

 オルレラの研究所で行われていたのは、被検体である子供達の魔力を集めるメカニズムや効率化についての実験と研究だった。故に、彼が子供達の為と思い行っていた、感情や言葉を与えるといった行いも、本家の研究員達の手の上での出来事でしかなかったのだ。

 時々研究所を訪れ、研究の成果である子供達を回収しにやって来る本家の研究員達。彼らは現地の研究員であるオスカーらに、子供の送り先やその後どうなるのかなどを教えることはなかった。

 オスカーの記憶に関する能力も、何故か本家の研究員達には通用せず、過去に一度記憶の操作を試みたが、その行いがバレてしまい逆に彼の記憶がいじられてしまった事があった。

 裏切り行為と見られるオスカーの叛逆は、本家の研究員達によって上の者に報告され、その処分が下される事となる。

 オスカーは本家の研究員達に記憶操作を行おうと画策する前の記憶まで戻され、従順な操り人形だった頃の彼に逆戻りさせられてしまう。

 だが、そこで想定していた以上に早く、彼は再び子供達の行方を探ろうという決断に至ってしまった。

 記憶の操作を行う能力を持つ者故のことか、オスカーは過去に辿った自身の行いの中で当時の記憶が蘇り、このままでは自分の行為がバレてしまうことを悟った彼は、直接本家の研究員を狙うのではなく、その下で下っ端として扱われている配送元の人間をターゲットにし、その行方を探ることに成功した。

 「私が本家の研究員達から手に入れた情報では、奴らが“ストレンジャーズ・サンクチュアリ“と呼んでいる場所に、子供達を送っているらしい」

 「ストレンジャーズ・サンクチュアリ・・・?」

 「だが、そのような地名は私の知る限りでは存在しないんだ。恐らく奴らの内で使っている隠語だろう。配送を行っていた者達の行方を辿ると、“グリム・クランプ“という地名に向かっている事がわかった。そこに別の施設があるんじゃないかと、私は考えている・・・」

 グリム・クランプとはその名の通り、その地域一帯では入った人間が帰ってこなかったり、死んだはずの者を見たなどといった不気味な噂がいくつもある曰く付きの場所。

 シン達の暮らす現代のGPSのように、子供達をオルレラから配送する者達が、どういったルートでそこを通っていたのかは分からないが、わざわざそこを通ると言うことは拠点や何らかの施設があるとみて間違いないだろう。

 深い詮索については、本家の研究員らの目もあった為行えなかったが、オスカーはそこに子供達が運ばれているのではないかと決め内している。

 「そこにあの子らの本体がいる・・・と?」

 「確証はない。ただ、流れから見てもそこに何かがあるのは確かだ・・・。危険も伴うだろう。君に直接調べに行ってもらいたい訳じゃない。誰かに伝えてくれるだけでも構わない。もし、あの子達が今も尚苦しんでいるのだとしたら、一刻も早く解放してあげて欲しいんだ・・・。それだけが私の、“最期“の願いだ・・・」

 元より子供達と約束をしていたツバキは、何とかして彼らの本体を見つけ出そうと思っていたが、思わぬところでそのヒントを得ることが出来た。宛もなく探すより遥かに足取りを掴みやすい。

 「あの子らにも同じようなことを言われたよ。・・・わかった、約束するよ。俺だけじゃどうしようもないかもしれないけど、必ず何とかしてみせる・・・」

 その時、彼の脳裏に浮かんだのはミアやツクヨ、そして今はパーティを離脱しているシン達の姿だった。彼らにも目的地は決まっているとはいえ、先を急ぐ旅でもない。もしかしたら彼らなら協力してくれるかもしれない。

 もし彼らの協力を仰げなくとも、ツバキには一人で向かう覚悟が既に出来ていた。今まで色んな人間の覚悟を目にしてきたが、自分と歳の変わらぬ彼らの覚悟を目の当たりにした時、ツバキの中でも何かが芽生えていた。

 「ありがとう・・・すまない。・・・ははっ、ダメだな・・・私は。見た目ばかり大人のような装いで、中身が全く伴っていない。子供達に頼らなければ、私は一人で何もできないまるで赤子のようだ・・・」

 オスカーはこの空間を消滅させる準備を始めたのか、彼の姿は消えていった子供達のように薄くなり始めていたのだ。

 まだ心の準備が出来ていなかったツバキは、どうやってこの空間から解放されるのか。何かしておくべきことはないかと彼に尋ねる。

 すると彼は、ただ時の流れに身を任せていればいいとだけツバキに伝える。空間の崩壊と共に眠りにつき、目が覚める頃には現実のオルレラへ戻っているから安心して欲しいと。

 「そうだ、最期に一つだけ伝えておく」

 「・・・ん?」

 「本家の研究員達は、“アークシティ“からやって来ている。つまり、この一件にはアークシティの中枢に関わる人物が絡んでいる可能性が高い。もし彼らを敵に回すような事態になれば、すぐに手を引くんだ。その時は私や子供達のことは忘れてくれ。君の命が危ない」

 アークシティはWoFの世界でもとても大きな都市として、他国に渡るNPCや人物にも有名で、ツバキもそれについては知っていた。

 しかし、裏の部分を知られれば命が危ないなどという話は、これっぽっちも聞いた事がなかったのだ。それは彼らが、情報の漏洩を徹底的に排除していると言う事なのだろう。

 そして、見放されたオルレラの研究所に、隠れるように存在していたオスカーは、もしかしたらその例外だったのかもしれない。そうでなければ、彼がこうして魂だけでも残っていられる道理はない。

 「奴らは秘密を知った者を決して逃さない。行動や発言には、くれぐれも気をつけてくれ」

 「最期にそんな言葉を残して、脅してくる奴があるかよッ・・・」

 「すまない。だがら念を押して言っておく。君の命が危険に晒されるのなら、私達のことは忘れてくれ。君の死を、私も子供達も望んじゃいない」

 「わかったよ、無茶はしない。だから安心しな・・・」

 ツバキの言葉に、理解を得られたとホッとした様子で安堵するオスカー。彼を見ていたツバキの視界が、徐々に霞んでいく。彼の言っていた眠気がやってきたのだ。

 フラフラするツバキの身体を支え、オスカーが寝かされていたソファーへ寝かせる。薄れゆく意識の中で、オスカーのツバキを見送る優しい表情が、まるで父親のように彼を安心させ眠りにつかせる。

 ツバキの体験した不思議な出来事は、そこで幕を閉じた。

 そして、彼が次に目を覚ました時、そこは見覚えのある部屋で、暖かいベッドの上にいた。
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