World of Fantasia

神代 コウ

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与えられた名前

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 宇宙計画発案前。

 近未来的な石材で作られたのかのような建物内の一室。中にはいくつかの大きな機械と、同じ格好をした人間が数人、物質ではない光モニターのようなものがついた板の上で指を滑らせながら、仕切りに機械の中をと画面を確認している。

 オルレラにあった研究施設とは、遥かにレベルの違う高性能な機材が取り揃えられているような、何処か別の研究施設。並んでいる機械の中に入っているのは、これもまた同じような服を着せられた人間だった。

 研究員らしき人物と、機械の中に入れられている人間の見た目には違いはないが、着ているものに関しては区別をつける為だろうか、違うものが着せられている。

 そしてその誰もが、まるで眠りについているかのように、目を閉じて動かない。中身の何人かには、口元や身体に機材が取り付けられているなどの違いがある。

 まさに、人体実験を彷彿とさせるような場所だった。

 そこへ、機材の中に入れられている人間と同じ格好をした人間を連れた、研究員が入って来た。

 「調整が実装段階に進んだ被検体が出来た。次の実験の場のスケージュールはどうなっている?」

 空な目をした男を連れた研究員が、室内にいた別の研究員へ話しかける。中にいた研究員は、空な目の男の様子を伺うと、手にしている透明な光の板を翳して、データのようなものを読み込んでいる。

 「珍しいな・・・。そっちの実験で成功者など。一体いつ以来か・・・」

 「あぁ、そうだな。後は実践でどんな結果を残すか、だろうな・・・。失敗すればまた逆戻りさ」

 「それだけならいいがな」

 研究の日々にうんざりしているのか、研究員達は何やら小言のようなことを口にすると、別のところからやって来た研究員に、次の実験が行われるであろう場所や時期が記されたスケジュールのデータを送る。

 それを見た研究員は、スケジュールとその内容に少し驚いたような反応を示した。

 「ほぅ・・・これはまた大層な・・・」

 「だが、以前に同じ実験を実施した被検体は、今も尚順調に稼働しているという報告が入ってる。ただ・・・・・」

 「ただ・・・?」

 「今回は対象の扱いが難しいようだがな。それだけ期待されているという事でもあるんだろうが・・・」

 「まぁ結果がどうなろうと、私達は私達のやるべき事をやるだけだ」

 それだけ言い残すと、虚な目の男を連れて来た研究員はその部屋を後に、来た方向とは逆の方へと向かって行った。



 宇宙計画発表、並びに仮設研究所設立。

 アークシティ主導の元、様々な場所で宇宙へ進出する為の研究や調査を行う研究所が設立された。初めは突拍子もない発表に、世間は冷ややかな目を向けたり、資材や資金の無駄遣いと訴える反対派の猛バッシングを受けていたが、研究の調査結果や未知なる世界の謎が解き明かされていく事に、人々は魅了されていった。

 そんな中、新たな資源と研究への参加の話を持ち掛けられたのが、オルレラだった。街の発展と知名度の拡大の為、これを承諾したオルレラの近郊に、ロケット発射予定地となる施設の設立と、オルレラの街に別途で研究を行う施設が設けられる。

 そこへやって来たのは、宇宙計画が発案される前に独自の研究を進めていた研究員と、そこで実験を受けていた被検体と呼ばれる、虚な目をした人間だった。

 「彼が“例“の・・・?」

 「えぇ、そうです」

 今度はオルレラの研究施設に連れて来られた、目の虚な男。それを見た現地の研究員は、興味津々といった様子で彼のことを見にやって来ていた。

 「彼はその・・・大丈夫なんですか?あまり生気があるようには見えませんが・・・」

 数人の研究員に取り囲まれ、覗き込むようにじっくりと観察される男は、そんな中でもピクリとも動かず、どこか遠くの方を見ているような目をしていた。

 「ご安心ください。現在、他の場所で活躍している実例もありますし、体調管理や必要な薬品投与は行なっております。時期に精神も構築され、新たな存在として記憶も生成されていきますよ」

 何やら不穏な会話を繰り広げる研究員達の中で、彼は何を思うのか、その虚を映す瞳の中には、僅かに光が宿り始めていた。



 男がオルレラの研究施設へ連れて来られてから数ヶ月後。

 オルレラの研究施設へ連れて来られた目の虚な男に、徐々に変化が現れ始めた。日に日に自我を持ち始め、一人でに動いてみたり言葉を発してみたりと、まるで赤子のように様々なことを身につけていった。

 そしてある日、言葉を覚え始めた彼は、彼をオルレラの研究施設へ連れて来た研究員に、とある質問をした。

 「私・・・私は、何故ここへ・・・?」

 「すっかり言葉が分かるようになってきたんだねぇ。うむ、いい傾向だ。。・・・あぁすまない、君がここへ来た理由だったね?君にはここで、研究の第一人者として、我々と彼らの間の橋渡しの役目と、新たな研究を引率してもらいたい」

 「私に・・・出来るでしょうか・・・?」

 「なぁに、そんな事を心配する必要はないよ。君を構築するデータは、その環境に合わせて生成されていき、すぐに君自身を見つけることが出来る」

 自信ありげに彼を心配させまいと話す研究員。しかし、男には彼の言っていることが何一つ理解できていなかった。自分自身を見つけるとはどういうことなのか。そして男を構築するデータとは何のことなのか。

 「私・・・名称がありません。なんと名乗れば、いいですか・・・?」

 男の質問に、意表を突かれたかのような表情を浮かべる研究員。

 「そうだったな、いつまでもナンバーではなぁ・・・。名前くらいあってもいいか。それなら・・・。そうだな、君は今日から“オスカー“と名乗りなさい。まぁ、別に重要事項ではな。いずれ君も、“先生“と呼ばれるようになる」

 男は研究員から、オスカーという名前を授かる。だが、それは今後、あまり呼ばれることのない名前となる。

 月日が経つに連れ、オスカーの人格や精神、記憶などが生成されていくと、彼は周りから“先生“と呼ばれるようになる。

 そして、研究員達の言っていた通り、彼はオルレラの研究施設にて、順調に成果を上げていき、彼らの想定外の成長を遂げていく。自分の行っていることへの疑問を抱くようになり、時折訪れる研究員への不信感を募らせる。
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