World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
911 / 1,646

斬れぬ宝剣

しおりを挟む
 ツクヨが迫る危機に気付いたと同時に、彼の身体が強い力で後ろに引っ張られる。その背後にはルーカスが駆けつけていた。靡く髪の先が、モンスターの振るった剣が巻き起こす風圧で激しく動く。

 命を失いかける一瞬の出来事に、全身の力が抜け恐怖に身体が蝕まれるような感覚に陥ったが、それは一瞬の出来事でツクヨは直ぐに我に帰る。

 彼が絶対の信頼を寄せていた布都御魂剣。だが、能力を活かしたその一撃は、首無しのモンスターの強靭な身体に、傷をつけることは叶わなかった。

 物理的な強度だけでなく、布都御魂剣のような特殊な攻撃に対しての防御も強靭だったというのだろうか。しかし、そうなるといよいよ攻撃を通す手段が無いとしか思えなくなってしまう。

 実際のところ、ツクヨもこの剣で駄目なら最早自分達に、このモンスターを倒す手段がなくなる事を理解していた。そして今、その結果が彼らの前に突きつけられる。

 「そんな・・・。神話上の剣でも通用しないのか?それともあの時の力は、私自身の実力ではなかったと・・・?」

 呆気に取られるような表情で、手にしていた布都御魂剣を見つめるツクヨ。そんな彼の背中を叩き、目の前の結果を受け入れさせ、その上で尚闘志を失わせまいと気合を入れるルーカス。

 「しっかりしろ!その剣にどんな力が込められているのか俺には分からないが、今は目の前の事に集中しろ。幸い、奴の攻撃を凌ぐことなら出来る状況だ。お前が呼んだ修復士が到着するまで、被害を出さずに持ち堪えるのが俺達に今できる事じゃないのか?」

 彼の言う通り、今はショックを受けている場合ではない。レースの一件で、少しは強くなったと自覚していたつもりのツクヨだったが、あの時の活躍はまやかしだったのかと思えるほど、呆気なく弾かれてしまった。

 だが、ルーカスの張り手で頭の中をリセットすることのできたツクヨは、彼のアシストをしながら別の手段はないかと模索する事にした。

 「あぁ、すみません・・・。少し自信があったのですが、如何やら通用しなかったみたいです。でも、大丈夫!それならそれで、今度は私が囮になります!ルーカスさんはその隙に・・・」

 「・・・如何だろうな・・・。実際、俺も人に言えた義理じゃぁないんだ。本気の一撃は何度も打ち込んだつもりだったんだがな・・・。如何やらそれも通用しないらしい。それどころか、俺の方が腕にダメージを抱えちまう・・・」

 「それならやっぱり、時間を稼ぐ他ないんですかね・・・?」

 持ち得る可能性と力は出し尽くした。だが、それでも彼らにあの首無しのモンスターを斬りつけることは叶わなかった。

 最後の望みは、修復士が行なっていた作業工程の中にある。護衛の者の話を聞く限り、モンスターが現れる可能性があった事は、彼らも承知していた筈。ならば、その時の対処法についても、何か分かるかもしれない。

 確実ではない期待に身を寄せながら、ツクヨとルーカスは再びモンスターへの攻撃を開始した。

 今度は周りの護衛からの援護や支援を受け、二人がモンスターと張り合う事で少しでも時間を稼ぐことに全力を注ぐ一行。

 動きが軽やかになる支援魔法や、モンスターの攻撃を受け止めた際の衝撃を和らげる魔法。そして銃火器や攻撃魔法による遠距離攻撃を得ながら、ツクヨは再び布都御魂剣でモンスターを攻撃する。

 すると、それまでは気がつかなかったが、モンスターにある変化が起きていた。ツクヨが攻撃を躱しながら、衝撃の反射を受けないように刀身を滑らせるように打ち込んだモンスターの身体に、まるで痣のような痕が見られたのだ。

 「ッ・・・!?」

 違和感を覚えたツクヨは、モンスターの身体に刻まれた痣目掛けて、同じ箇所に攻撃を集中させる。すると、僅かにだが剣が当たった時にモンスターが反応するようになってきていたのだ。

 「・・・攻撃が、通じてる・・・?」

 「どうした?」

 「攻撃が通じてるみたいなんです!気のせいかもしれないですけど、これまでにない反応を示してるんです!」

 俄かに信じ難い彼の発言。しかし、こんな状況でわざわざそのような事を口にするということは、彼なりに手応えがあったに違いない。ルーカス以上の腕力はないが、彼の持つ見るからに特殊な刀剣に賭け、ルーカスは彼の攻撃をモンスターに通す為の道を作ってみせると約束をした。

 息を合わせるように走り出した二人は、モンスターを挟むように二手に分かれ、それぞれ二本ずつの腕を相手にする。

 素早い身のこなしで斬撃を躱すツクヨに対し、自慢の力とその大剣で攻撃を受け流していたルーカスは、ツクヨの方も視野に入れながら様子を伺い、隙を見て飛び上がると、彼の方へ目掛けその大剣を勢いよく投げつけた。

 「そいつを盾に使えッ!」

 上空から聞こえてきたルーカスの声に反応したツクヨは、速度を上げて振ってくる大剣を目にすると、その落下地点をある程度予測した動きで、モンスターを誘い出す。

 そしてルーカスが投げつけた大剣が地面に突き刺さると、ツクヨはモンスターの振るう剣を避けるようにして、その大剣の陰に隠れる。

 モンスターの斬撃は、地面に突き刺さる大剣にぶつかり動きを止めた。その一瞬の隙に、陰から飛び出したツクヨが、再び目を瞑り布都御魂剣の能力による創造の光景の中で、モンスターの脇に全力の一撃を入れる。

 手に返ってくる衝撃のことなど忘れ、今一度信じた宝剣の一撃は、それまでの斬撃では鳴らなかった、僅かに鈍い音を周囲に響かせた。

 音の変化に気付いたのはルーカスだけではない。その場にいた誰もが、絶望の金属音ではない音に一瞬手を止める。

 「・・・ォォッ・・・」

 ツクヨの攻撃を受けた部位の近くにある口が、呻き声のようなものを漏らす。すると、その剛腕に握られていた剣を落とし、一歩後ろへと退いたのだ。

 瞼の裏に映る、布都御魂剣が見せる創造の光景にあったモンスターの腕のオーラが弱まっていくのを感じたツクヨは、その手応えに勢いづき、更にもう一撃入れようと刀を返し、宙を泳ぐ剣を手放した腕に、布都御魂剣の刀身を滑らせる。

 ツクヨの見ている光景のモンスターのオーラが、僅かに光を失っているのを感じたツクヨは、そこで初めて布都御魂剣が通用していなかったのではなく、モンスターの身体に宿る能力を祓っていた事を理解したのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...