World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
894 / 1,646

先生と取引

しおりを挟む
 人形に記録されていた映像を見て、それが嘗ての研究施設にあった出来事に関連するものだと悟った二人は、他にも映像は残されていないかと、メモリーカードを調べる。

 挿入口に合う一本目のメモリーカードのおかげで、同じサイズの物を探すのにそれ程時間は掛からなかった。

 イクセンが持って来た数々のメモリーカードの中に見つかった同じサイズのものは、これ以外にあと二つだけ見つかった。

 しかし、一体誰が何の目的でこんなものを人形に仕込み、録画していたのだろうか。それも、その人形を持っていたのは、カメラの視点と人形を持っていた人物の声から、小さな女の子であることが推測できる。

 そして見つかったメモリーカードの内、一つを先程の人形に差し込み、再び映像を確認する。明らかに裏がありそうな記録に、二人の興味は一気に惹かれていった。それこそ、初めは別の作業をしていたイクセンが、すっかり自分の作業を忘れて夢中になる程だ。

 彼もまた、自分が拠点としている廃墟の過去に興味があったのだろう。

 数秒ほどの砂嵐がモニターに映し出された後、今度は何処かに人形が置かれているかのように視点が固定されている映像が映し出された。

 一見そこには誰も映っておらず、一本目の映像にあった少女に“先生“と呼ばれていた人物とよく似た声と、それとはまた別の男の声が聞こえてきた。

 「・・・約束の・・・は、渡しただろ。もう私に構わないでくれ!」

 「そんなこと言うなよ、先生。それに今日は仕事で来たんじゃねぇ。俺としても、今後先生とは“取引“をしていきてぇと思ってるんだ」

 「何をのうのうとッ・・・!こんな事になるなら、私は協力などしなかったッ・・・!」

 何やら込み入った話をする、先生と呼ばれる男と謎の人物。この段階ではどんな話か想像もつかないが、謎の人物が言う“取引“とは、先生と呼ばれる人物にとって、想定していなかった結果をもたらした様だ。

 すると、それまで視点が固定されていた映像が突然動き出し、何者かにカメラが内蔵された人形が持ち上げられたように、激しく視点が移動する。

 その一瞬、人形を手にした人物と思われる男の顔が僅かに映り込んだ。黒装束に身を包んだその男の目の周りには、不気味なほどに濃く浮き出る隈が印象的だった。

 長い前髪で片方の目を覆っていたその男は、人形にカメラが組み込まれているのを知ってか知らずか、話の合間に人形を調べているかのような素振りを見せる。

 「これ・・・子供達のかい?」

 「さっ触るな!」

 「おいおい、そんなに怒るなよ。安心しな。俺が先生と取引してぇって事に、ガキは関係ねぇからよ」

 そう言うと、男は人形を先生と呼ばれる人物の方へ投げたのか、宙を舞う視点を経た後に、カメラは大人の胸のあたりの高さで止まった。

 「・・・それで私が協力するとでも・・・?」

 暫くの沈黙の後、怪しげな男は突然落ち着いた真面目な声色で、先生t呼ばれる人物の問いに答える。

 「・・・するさ。きっとな」

 二つ目の映像と音声はそこで途絶えた。一本目の映像とは打って変わり、何やら穏やかではない会話を繰り広げる二人の人物が中心となっていた。

 先生と呼ばれる人物は、会話の内容からも子供達を心配するような優しさのある人物のように思える。それは最初の映像にあった少女との会話からも伺える。

 「この先生ってのは、何者なんだ?アンタは心当たりとかないのか?」

 ミアは黙って映像の内容について考えている様子のイクセンに問いかける。

 「いや・・・。聞いたこともない。俺がこの街に来てこの廃墟を利用させてもらい始めた頃から、この施設についての記録や書類は勿論、話すら誰も詳しくは知らないんだ・・・」

 イクセンも元々は、別の街の移住者であり、ミア達と同様に快く受け入れてくれたオルレラの街の人々。自分から空き地や住めるスペースはないかと尋ねたところ、姥捨山だが誰も住んでいないというこの施設の跡地を紹介されたのだという。

 初めは特に気になることもなかったが、ある日ここが何の目的で使われていた施設なのか、街の人々に聞いてみたことがあるのだそうだ。

 しかし、街の人々も詳しくは知らないようで、ただ街の近代化を目的に作られた研究施設という情報しか入ってこなかった。何故研究は中断されたのか、何故施設がこんなにもボロボロなのか。

 それについて知る人物は誰もいない。それ程昔に行われていた研究なのか、それなら何故、その研究資料が全くと言っていいほど残されていないのかも疑問になる。

 残された最後のメモリーを調べようとしたところで、何者かがイクセンのジャンク屋を訪れる。

 「イクセン!いるのか?ちょっと見てもらいたい物があるんだ」

 二人は咄嗟に、人形とモニターを隠した。街の人々が本当に何も知らないのか、それとも知っていて隠しているのか分からない以上、あまりこの事を口外するのは良くないと思ってのことだった。

 「なぁ、アンタ。これはここだけの秘密にしてくれないか?もう少し詳しい事が分かるまで調べてみたいんだ・・・」

 「“ミア“だ・・・」

 「え?」

 「アタシの名前。どうやら客が来たみたいだから、修理はまた今度にするよ」

 施設に起きた出来事について、二人はそこで知り得た情報を心の内に秘め、共に調べる事を約束する。どちらかが解明を進めてしまうよりも、足並みを揃え得た方がいいだろう。

 それに、ミアには現状それ程重要視する様な内容とも思えなかった。だが、この街に来てから頭のどこかで引っかかる違和感を感じていたのも事実であり、より何かを知ることで解決の糸口になるのではないかと考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~

華音 楓
ファンタジー
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられtた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一
ファンタジー
『いーわよ、そこまで言うならもう、親子の縁なんて切ってやる!! 絶対に成功するから、今に見てなさいよ!!』 如月風歌は、考えるより先に行動する脳筋少女。中学の卒業式の日に、親と大喧嘩し、その勢いで家出する。時空航行船のチケットを握りしめ、着の身着のまま&ほぼ無一文で、異世界に向かっていった。 同じ地球でありながら、魔法で発展した平行世界エレクトラ。この世界に来たのは『シルフィード』と呼ばれる、女性だけがなれる『超人気職業』に就くためだ。 上位階級のシルフィードは、トップアイドルのような存在。また、絶大な人気・知名度・影響力を持ち、誰からも尊敬される、人生の成功者。巨万の富を築いた者も、少なくはない。 だが、お金もない・人脈もない・知識もない。加えて、女子力ゼロで、女らしさの欠片もない。全てがゼロからの、あまりにも無謀すぎる挑戦。しかも、親から勘当を言い渡され、帰る場所すらない状態。 夢に燃えて、意気揚々と異世界に乗り込んだものの、待ち受けていのは、恐ろしく厳しい現実と、パンと水だけの極貧生活だった。 『夢さえ持っていれば、気合さえあれば、絶対に上手くいく!!』と信じて疑わない、脳筋でちょっとお馬鹿な少女。だが、チート並みのコミュ力(無自覚)で、人脈をどんどん広げて行く。 ほのぼの日常系。でも、脳筋主人公のため、トラブルが発生したり、たまにシリアスだったり、スポ根っぽい熱い展開も……。 裸一貫から成り上がる、異世界シンデレラストーリー。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

処理中です...