879 / 1,646
消えた記憶
しおりを挟む
ツクヨはミアの素っ気ない態度に、大きなため息をつく。彼女も寝起きで頭が回っていなかったのだろう。WoFという世界の中に、ぼんやりとそのような名前の街があることを思い出していた。
「いやいや、そんなことを話そうとしていた訳じゃないんだ。例の現実世界へ繋がるっていうアイテムを、レースのお宝に贈呈した人物のことなんだけど・・・」
「・・・何か分かったのか?」
現実世界へ戻る理由の無い二人でも、現実の世界へ影響を及ぼすというアイテムを無視することは出来ない。そのような物がもし幾つも存在していたら、本体のある現実世界自体が荒らされ、何も知らない内にWoFとの世界を切り離され強制終了させられてしまう事態になり兼ねない。
「それが・・・誰もその話を覚えていないんだ」
「あぁ?誰も?」
誰もというのがどこまでの人物であるのか分からないが、レースを終えて街に残る海賊や観客であれば、あの開会式の時に現れた黒いコートの男。そしてその男が言い放った“異世界へのポータル“というアイテムの存在。
あの演説は機械を用いて全世界へ放送されていた筈。なので、レースのゴール地点となっているこのホープ・コーストの人間が知らないというのは考えづらい。
「アンタ一体誰に聞いたんだ?余所者とか子供じゃ知らないってのも・・・」
「そりゃ色々な人に聞いたさ!私だって信じられなかったからね。昔から街に住んでいる人だとか、直接レースに参加してた海賊にも聞いたよ。・・・それでも誰も知らなかったんだ」
「そうだよ。今街に海賊達は?キングやチン・シーのところの奴らに聞けば間違いないじゃねぇか」
比較的彼らとも交流の多かったキング海賊団とチン・シー海賊団。WoFの世界で“三大海賊“と称される彼らであれば、情報としてはかなり信憑性の高いものとなるだろう。
「チン・シー海賊団は、あの夜宴の途中で港を去ったらしい。街の人に迷惑を掛けないように、早々に出航したようだよ。彼女らしいね・・・。キングのところのシー・ギャングはまだ街に居たよ?何でもまだ街に用事があるとか・・・あっでも、ちゃんと聞いたからね!彼らにも!」
「そうか・・・よし!アタシも運動がてら、街を回ってくるか!」
「どうする?私も一緒に・・・」
「いや、一人でいいよ。迷惑かけちまったからな。今度はアタシが行ってくる。アンタは休んでてくれ」
ミアはベッドから立ち上がり、椅子に掛けられた上着を手にすると扉の方へと歩いていく。早朝から港街を歩き回っていたツクヨは、部屋にあった冊子を手に取ると窓際の椅子に座り、宿の退出時間だけ伝え優雅な朝の時間を満喫し始めていた。
扉を開けたミアの身体に、朝の冷たい潮風が染み渡り、小さくその身体を震わせる。上着の襟を両手でぐっと締め、ポケットに手を突っ込んだ彼女は短い木造の廊下を歩き、下の階へと降りていく。
そしてフロントの人間に外出する旨を伝えると、陽の光が溢れる外の世界へと踏み出していった。
最初に向かったのは、前日に宴が開かれていた会場だった。ツクヨの話では、キングの一味がまだこの港街に留まっているとのことだったので、直接自分で幹部、或いはキング本人に聞いてやろうと考えていたのだ。
実際会場に到着してみると、ゆっくりだが片付けが進んでいる。そこにはキング率いるシー・ギャングや他の海賊の姿はない。だが、会場を片付けているスタッフは、当然あの開会式を見ていた筈。
「なぁおい、アンタ・・・」
「は、はい?何でしょう」
ミアはツクヨの話を踏まえて、開会式での謎の男についてスタッフに尋ねる。しかし帰ってきた反応は、聞いていた通り虚無なものだった。まるで自分がおかしな事を言っているかのような、逆に心配するような視線を向けられ、異世界へ渡るアイテムの存在を否定したのだ。
そして、そんな黒いコートの男のような危い人物が、スポンサーが招待されるような場に立ち入れる訳が無いと、自信ありげに答えていた。
これでレース関係者が知っているという線は消えた。片付けをしている末端のスタッフですら、運営の実力や警備を信頼しており、開会式を見た上で否定してきたのだ。
だがそうなれば、当事者である海賊や、他のスポンサーなどはどうだろう。
「いやいや、そんなことを話そうとしていた訳じゃないんだ。例の現実世界へ繋がるっていうアイテムを、レースのお宝に贈呈した人物のことなんだけど・・・」
「・・・何か分かったのか?」
現実世界へ戻る理由の無い二人でも、現実の世界へ影響を及ぼすというアイテムを無視することは出来ない。そのような物がもし幾つも存在していたら、本体のある現実世界自体が荒らされ、何も知らない内にWoFとの世界を切り離され強制終了させられてしまう事態になり兼ねない。
「それが・・・誰もその話を覚えていないんだ」
「あぁ?誰も?」
誰もというのがどこまでの人物であるのか分からないが、レースを終えて街に残る海賊や観客であれば、あの開会式の時に現れた黒いコートの男。そしてその男が言い放った“異世界へのポータル“というアイテムの存在。
あの演説は機械を用いて全世界へ放送されていた筈。なので、レースのゴール地点となっているこのホープ・コーストの人間が知らないというのは考えづらい。
「アンタ一体誰に聞いたんだ?余所者とか子供じゃ知らないってのも・・・」
「そりゃ色々な人に聞いたさ!私だって信じられなかったからね。昔から街に住んでいる人だとか、直接レースに参加してた海賊にも聞いたよ。・・・それでも誰も知らなかったんだ」
「そうだよ。今街に海賊達は?キングやチン・シーのところの奴らに聞けば間違いないじゃねぇか」
比較的彼らとも交流の多かったキング海賊団とチン・シー海賊団。WoFの世界で“三大海賊“と称される彼らであれば、情報としてはかなり信憑性の高いものとなるだろう。
「チン・シー海賊団は、あの夜宴の途中で港を去ったらしい。街の人に迷惑を掛けないように、早々に出航したようだよ。彼女らしいね・・・。キングのところのシー・ギャングはまだ街に居たよ?何でもまだ街に用事があるとか・・・あっでも、ちゃんと聞いたからね!彼らにも!」
「そうか・・・よし!アタシも運動がてら、街を回ってくるか!」
「どうする?私も一緒に・・・」
「いや、一人でいいよ。迷惑かけちまったからな。今度はアタシが行ってくる。アンタは休んでてくれ」
ミアはベッドから立ち上がり、椅子に掛けられた上着を手にすると扉の方へと歩いていく。早朝から港街を歩き回っていたツクヨは、部屋にあった冊子を手に取ると窓際の椅子に座り、宿の退出時間だけ伝え優雅な朝の時間を満喫し始めていた。
扉を開けたミアの身体に、朝の冷たい潮風が染み渡り、小さくその身体を震わせる。上着の襟を両手でぐっと締め、ポケットに手を突っ込んだ彼女は短い木造の廊下を歩き、下の階へと降りていく。
そしてフロントの人間に外出する旨を伝えると、陽の光が溢れる外の世界へと踏み出していった。
最初に向かったのは、前日に宴が開かれていた会場だった。ツクヨの話では、キングの一味がまだこの港街に留まっているとのことだったので、直接自分で幹部、或いはキング本人に聞いてやろうと考えていたのだ。
実際会場に到着してみると、ゆっくりだが片付けが進んでいる。そこにはキング率いるシー・ギャングや他の海賊の姿はない。だが、会場を片付けているスタッフは、当然あの開会式を見ていた筈。
「なぁおい、アンタ・・・」
「は、はい?何でしょう」
ミアはツクヨの話を踏まえて、開会式での謎の男についてスタッフに尋ねる。しかし帰ってきた反応は、聞いていた通り虚無なものだった。まるで自分がおかしな事を言っているかのような、逆に心配するような視線を向けられ、異世界へ渡るアイテムの存在を否定したのだ。
そして、そんな黒いコートの男のような危い人物が、スポンサーが招待されるような場に立ち入れる訳が無いと、自信ありげに答えていた。
これでレース関係者が知っているという線は消えた。片付けをしている末端のスタッフですら、運営の実力や警備を信頼しており、開会式を見た上で否定してきたのだ。
だがそうなれば、当事者である海賊や、他のスポンサーなどはどうだろう。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します
地球
ファンタジー
「え?何この職業?」
初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。
やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。
そのゲームの名はFree Infinity Online
世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。
そこで出会った職業【ユニークテイマー】
この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!!
しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
幼馴染と一緒に勇者召喚されたのに【弱体術師】となってしまった俺は弱いと言う理由だけで幼馴染と引き裂かれ王国から迫害を受けたのでもう知りません
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
【弱体術師】に選ばれし者、それは最弱の勇者。
それに選ばれてしまった高坂和希は王国から迫害を受けてしまう。
唯一彼の事を心配してくれた小鳥遊優樹も【回復術師】という微妙な勇者となってしまった。
なのに昔和希を虐めていた者達は【勇者】と【賢者】と言う職業につき最高の生活を送っている。
理不尽極まりないこの世界で俺は生き残る事を決める!!
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる