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心残りを取り除き・・・
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「私、実家に帰ろうと思うの・・・」
「え?どうしたんだ、突然」
フィアーズの研究施設へ戻って来たシンとにぃなは、突然与えられた休暇に戸惑いながら、彼らが入る事を許されている一室で待機していた。
与えられた休暇は数時間単位ではなく、少なくとも二三日くらいの猶予があるとスペクターから伝えられた。その限られた時間内で一体どれほどの事が出来るのか、シンにとっては初めてのことで、突然現実世界に残ることになってしまったことで暫く戻れなかったWoFの世界へどれだけの間、戻っていていいのか分からなかった。
一応、何かあればスペクターの方からも連絡が入ると言われたが、どんな方法で連絡が入るのか分からなかったシンは、WoFに戻ってもその一報を受け取ることが出来るのかをにぃなに尋ねる。
どうやら彼女も、最近はあちらの世界へ行く機会がなかったようで、もしシンがWoFへ行くのであれば、彼らWoFユーザーに備わっている機能であるメッセージを送ると言ってくれた。
なのでそれまでの間、シンはミア達の待つWoFの世界へ戻ることにした。目的の決まったシンに対し、これまで現実の世界でなんだかんだ行動を長く共にしていたにぃなはどうするのか気になったシンは、彼女にこの休暇をどうやって過ごそうと考えているのか尋ねた。
それが実家に帰るという返答だった。
フィアーズに入り、まとまった休暇など与えられてこなかった彼女は、調査や任務の中で境遇を共にする仲間達を失っていき、いつ自分が逆の立場になるか分からないと強く思うようになったのだという。
その中でも蒼空のようなケースは稀で、殆どの場合はイルのように消滅していくのだという。現実世界で生身の状態で死ぬのとは違った現象。WoFのキャラクターになっているとはいえ、それを反映させているのは実物の肉体の筈。
しかし、キャラクターを反映させた状態で死んでしまうと、その肉体すら残らないのだ。自分の肉体を持たないイルは、それを“帰る“と表現していたが、彼らが元いた世界に戻ると言うのなら、元々現実世界に生きているシン達は、どこへ帰ると言うのだろうか。
死という概念に、少しずつ恐怖を蓄積させていたにぃなは、嫌な思い出しかない地元でも、心の整理がつけられるうちにつけておこうと思ったらしい。
「嫌になって東京にやって来たけどさ・・・。でも、いつまでも嫌なことから逃げてていいのかなって思って。嫌に思えるのも、“生きてる“からなんだよね?・・・だから、生きてる間に気持ちの整理をつけておきたいなぁって・・・」
「嫌なことからは、逃げてもいいんじゃないか?辛かったり苦しかったから、自分を守る為に仕方がなかった。だから俺も・・・」
シンも彼女の話を聞いて、過去の嫌な思い出を振り返る。辛さや苦しさは、誰かと比べるものではない。人にはそれぞれ我慢できる限度というものがあり、それは人によって違う。
この女にとってそれは、再度向き合うべきものであり、折り合いのつけられるものなのかもしれない。
「まぁ~私のは私が悪いからねぇ・・・。このままにしてちゃ、私が私を許せないっていうかぁ~・・・なんて。本当はただ気になってるだけなんだよね・・・」
その気持ちはシンにもよくわかった。嫌な思い出を植え付けられた者は、どんなに歳月が経とうと、どんなに嬉しいことや楽しいことで上書きしようと、完全に消し去ることは出来ない。
それ故、色々と考えてしまう事がある。あの時自分を貶めた人間はどうしているのか。幸せにしているのなら許せない。楽しくしてるのなら苦しんで欲しい。自分の罪を覚えているだろうか。戒めているだろうか。
勿論、負の感情ばかりではないだろうが、少なくとも自身に良い影響は及ぼさない。いざと言う時にそれは弱点となり、最期の間際に後悔を齎らす要因となり得る。
これからの戦いや任務の前に、にぃなはそれらに決着をつけておこうと思ったのだ。
「そっか。それは少しわかる気がする・・・。でも一辺に片付けようとしない方がいい。少しずつでもいいと思うから・・・無理しないで」
「・・・へぇ~意外!シンさんからそんな言葉が飛び出すなんて」
「なッ・・・!揶揄うなよ、本当に心配してッ・・・!」
「うん・・・分かってる。ありがとう」
シンの意外な言葉に動揺しつつも、彼の優しさに照れ隠しをしながら感謝するにぃな。短い間だったとはいえ、彼女とのフィアーズでの任務は、シンの心を保つ為には欠かせないものとなっていた。
彼らのパーティは一時解散となるが、フィアーズにいる以上イヅツやにぃな、叛逆を企てる者達との連携は重要になってくる。今後とも互いの為に、それぞれの心残りを少しずつ取り払っていかなければならない。
シンに実家へ戻ることを告げた彼女は、その後施設を後にした。私的な理由でフィアーズのポータルを利用することは許されておらず、自らの足や乗り物で目的地を目指すことになるが、彼女ならその道中も楽しんで行くことができるだろう。
にぃなと別れ、一人施設の一室に残されたシンは、WoFの世界に戻る前にアサシンギルドの白獅に依頼していたイルの情報の解析について、彼にメッセージを送る。
あの男が身につけていたデータ化の技術。その覚醒の方法や応用について何か分かれば、新たに出来ることも増えてくるだろう。
しかし、白獅へ向けたメッセージの返事には、シンの想定していない文言が綴られていた。
「え?どうしたんだ、突然」
フィアーズの研究施設へ戻って来たシンとにぃなは、突然与えられた休暇に戸惑いながら、彼らが入る事を許されている一室で待機していた。
与えられた休暇は数時間単位ではなく、少なくとも二三日くらいの猶予があるとスペクターから伝えられた。その限られた時間内で一体どれほどの事が出来るのか、シンにとっては初めてのことで、突然現実世界に残ることになってしまったことで暫く戻れなかったWoFの世界へどれだけの間、戻っていていいのか分からなかった。
一応、何かあればスペクターの方からも連絡が入ると言われたが、どんな方法で連絡が入るのか分からなかったシンは、WoFに戻ってもその一報を受け取ることが出来るのかをにぃなに尋ねる。
どうやら彼女も、最近はあちらの世界へ行く機会がなかったようで、もしシンがWoFへ行くのであれば、彼らWoFユーザーに備わっている機能であるメッセージを送ると言ってくれた。
なのでそれまでの間、シンはミア達の待つWoFの世界へ戻ることにした。目的の決まったシンに対し、これまで現実の世界でなんだかんだ行動を長く共にしていたにぃなはどうするのか気になったシンは、彼女にこの休暇をどうやって過ごそうと考えているのか尋ねた。
それが実家に帰るという返答だった。
フィアーズに入り、まとまった休暇など与えられてこなかった彼女は、調査や任務の中で境遇を共にする仲間達を失っていき、いつ自分が逆の立場になるか分からないと強く思うようになったのだという。
その中でも蒼空のようなケースは稀で、殆どの場合はイルのように消滅していくのだという。現実世界で生身の状態で死ぬのとは違った現象。WoFのキャラクターになっているとはいえ、それを反映させているのは実物の肉体の筈。
しかし、キャラクターを反映させた状態で死んでしまうと、その肉体すら残らないのだ。自分の肉体を持たないイルは、それを“帰る“と表現していたが、彼らが元いた世界に戻ると言うのなら、元々現実世界に生きているシン達は、どこへ帰ると言うのだろうか。
死という概念に、少しずつ恐怖を蓄積させていたにぃなは、嫌な思い出しかない地元でも、心の整理がつけられるうちにつけておこうと思ったらしい。
「嫌になって東京にやって来たけどさ・・・。でも、いつまでも嫌なことから逃げてていいのかなって思って。嫌に思えるのも、“生きてる“からなんだよね?・・・だから、生きてる間に気持ちの整理をつけておきたいなぁって・・・」
「嫌なことからは、逃げてもいいんじゃないか?辛かったり苦しかったから、自分を守る為に仕方がなかった。だから俺も・・・」
シンも彼女の話を聞いて、過去の嫌な思い出を振り返る。辛さや苦しさは、誰かと比べるものではない。人にはそれぞれ我慢できる限度というものがあり、それは人によって違う。
この女にとってそれは、再度向き合うべきものであり、折り合いのつけられるものなのかもしれない。
「まぁ~私のは私が悪いからねぇ・・・。このままにしてちゃ、私が私を許せないっていうかぁ~・・・なんて。本当はただ気になってるだけなんだよね・・・」
その気持ちはシンにもよくわかった。嫌な思い出を植え付けられた者は、どんなに歳月が経とうと、どんなに嬉しいことや楽しいことで上書きしようと、完全に消し去ることは出来ない。
それ故、色々と考えてしまう事がある。あの時自分を貶めた人間はどうしているのか。幸せにしているのなら許せない。楽しくしてるのなら苦しんで欲しい。自分の罪を覚えているだろうか。戒めているだろうか。
勿論、負の感情ばかりではないだろうが、少なくとも自身に良い影響は及ぼさない。いざと言う時にそれは弱点となり、最期の間際に後悔を齎らす要因となり得る。
これからの戦いや任務の前に、にぃなはそれらに決着をつけておこうと思ったのだ。
「そっか。それは少しわかる気がする・・・。でも一辺に片付けようとしない方がいい。少しずつでもいいと思うから・・・無理しないで」
「・・・へぇ~意外!シンさんからそんな言葉が飛び出すなんて」
「なッ・・・!揶揄うなよ、本当に心配してッ・・・!」
「うん・・・分かってる。ありがとう」
シンの意外な言葉に動揺しつつも、彼の優しさに照れ隠しをしながら感謝するにぃな。短い間だったとはいえ、彼女とのフィアーズでの任務は、シンの心を保つ為には欠かせないものとなっていた。
彼らのパーティは一時解散となるが、フィアーズにいる以上イヅツやにぃな、叛逆を企てる者達との連携は重要になってくる。今後とも互いの為に、それぞれの心残りを少しずつ取り払っていかなければならない。
シンに実家へ戻ることを告げた彼女は、その後施設を後にした。私的な理由でフィアーズのポータルを利用することは許されておらず、自らの足や乗り物で目的地を目指すことになるが、彼女ならその道中も楽しんで行くことができるだろう。
にぃなと別れ、一人施設の一室に残されたシンは、WoFの世界に戻る前にアサシンギルドの白獅に依頼していたイルの情報の解析について、彼にメッセージを送る。
あの男が身につけていたデータ化の技術。その覚醒の方法や応用について何か分かれば、新たに出来ることも増えてくるだろう。
しかし、白獅へ向けたメッセージの返事には、シンの想定していない文言が綴られていた。
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