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未来への分岐点
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再開した男の姿は、さっきまでのものとは全く別物となっており、どこでそこまで追い詰められたのかという程、瀕死の状態で現れその場に倒れた。
「ッ・・・!?」
「イル・・・!?アンタ・・・!」
なぎさの声に顔を上げると、鮮血を浴びた表情で必死に口を動かし、何かを彼女に伝えようとしている。一体戦場となっていたステージの上で何が起きたのか。
「・・・なぎさ・・・撤退だ。あと一度くらいなら、ここから逃すことが出来る・・・。早く俺の方へ・・・!」
しかし、友紀の説得もあり心が僅かに揺らぎ始めていたなぎさは、すぐに彼の元へ行くことはなかった。足がイルの方へ動かない。そして何より、親友のなぎさを悪の道へ引き摺り込んだ張本人であるイルの元に、改心しかけている彼女を渡すまいと、二人の間に割って入る。
「ダメッ!なぎさ、もう貴方に過ちを犯させないッ!」
「・・・友紀・・・」
今までの彼女とは明らかに様子のおかしいところを見たイルは、なぎさに過去の出来事を思い出させ、嘗ての復讐心を思い出させようと語りかける。
「どうしたんだ・・・?思い出せよ、なぎさぁ・・・。忘れちまったのかぁ?今までお前が受けてきた仕打ちをよぉ・・・。許されるモンじゃねぇだろ?」
イルの言葉は、想像以上になぎさの心に響いていた。それは彼女が周りの人間から受けて来た仕打ちが大きければ大きいほど、友紀の言葉で押し込めていた憎しみの芽が、燦々と輝く憎悪の陽射しで蘇ってくる。
「なぎさ、聞いちゃダメ!こんな奴の言葉なんかッ!」
「そこの嬢ちゃんには分からねぇさ。所詮成功者には、本当のお前の気持ちなんて分かりっこねぇよ・・・。上っ面だけの言葉と演技に騙されるな。アイドルを目指してたんなら、お前にも分かるよなぁ?アイドルは周りからの目も重要な演技派だって事を・・・」
なぎさが一瞬、友紀の方を見る。彼女は今までの行動や言葉は、嘘や演技ではないと首を横に振る。
実際、なぎさの命を今の今まで引き止めていたものは、イルの手助けや彼女の中で育て上げた憎しみという名の大樹のおかげであるところが大きい。
それが無ければなぎさは、とっくの昔に命を絶っていた事だろう。人生の大半を共に過ごしてきた憎悪を、そう簡単に手放せるものだろうか。
いくら親友の言葉だからとはいえ、それを鵜呑みにして、今更陽の光の元に出ていけるとでも言うのだろうか。すっかり染み付いてしまった闇の世界での生活が、きっと何かの拍子に甦り影響を与える。
イルと共にこの場を去り、再び陽の光の届かぬところで生きていくのが、一度堕ちた人間の宿命なのではないだろうか。
ここで友紀の優しさに甘え、表に出たところで心からの笑顔を、なぎさは出来る自信がなかった。
「私・・・アタシは・・・」
どっち付かずのハッキリしない様子のなぎさに、発破をかけるようにイルは言葉を畳み掛ける。
「一度堕ちた人間は、もう二度と上へは上がれない!お前を受け入れてくれる世界など、何処にある!?お前を再び奮い立たせたのは何だったッ!?」
「過ちは誰もが犯すものでしょ!?どんな罪だって、償えないことはない!世界が受け入れてくれなくても、私が貴方を守る!決して一人にはしない!だからッ・・・!!」
二人の強い意志の込められた視線が、なぎさに向けられる。彼女にとって運命の分かれ道。ここでの選択が、これからの彼女の未来に大きな変化を与えることは明白だった。
運命の分かれ道とは、必ずしも本人にとって分かる形で訪れるとは限らない。それ故に人間は後悔をする。自分が選ばなかった未来の形を想像し、嘆く事もあれば今の選択をして安堵する事もあるだろう。
今の彼女の前には、ハッキリと二本の道が見えていた。
一方は、自分が生きていく事を諦めた光の当たる、友紀と歩む眩しい世界への道のり。それは一度堕ちた彼女には、きっと辛い道のりになるだろう。しかし、大凡その世界は人間としての真っ当な世界と呼べるものだろう。
もう一方の道は彼女を生かし、目的を与え成長させた母なる闇の世界。そこには彼女を迎え入れ、守ってくれる大きな存在となったイルがおり、裏の世界で生きていく為の力と権力、そして二度と彼女を蔑む者が現れない、約束された堕落の世界への道のり。
今か今かと返事を待つ二人の鬼気迫る視線に、苦悶の表情を浮かべるなぎさ。
そこへ、時を急いでいたと思われるイルのタイムリミットを告げるように、二人の男達が彼女らのいる建物の屋上へと辿り着く。
「ッ・・・!?」
「イル・・・!?アンタ・・・!」
なぎさの声に顔を上げると、鮮血を浴びた表情で必死に口を動かし、何かを彼女に伝えようとしている。一体戦場となっていたステージの上で何が起きたのか。
「・・・なぎさ・・・撤退だ。あと一度くらいなら、ここから逃すことが出来る・・・。早く俺の方へ・・・!」
しかし、友紀の説得もあり心が僅かに揺らぎ始めていたなぎさは、すぐに彼の元へ行くことはなかった。足がイルの方へ動かない。そして何より、親友のなぎさを悪の道へ引き摺り込んだ張本人であるイルの元に、改心しかけている彼女を渡すまいと、二人の間に割って入る。
「ダメッ!なぎさ、もう貴方に過ちを犯させないッ!」
「・・・友紀・・・」
今までの彼女とは明らかに様子のおかしいところを見たイルは、なぎさに過去の出来事を思い出させ、嘗ての復讐心を思い出させようと語りかける。
「どうしたんだ・・・?思い出せよ、なぎさぁ・・・。忘れちまったのかぁ?今までお前が受けてきた仕打ちをよぉ・・・。許されるモンじゃねぇだろ?」
イルの言葉は、想像以上になぎさの心に響いていた。それは彼女が周りの人間から受けて来た仕打ちが大きければ大きいほど、友紀の言葉で押し込めていた憎しみの芽が、燦々と輝く憎悪の陽射しで蘇ってくる。
「なぎさ、聞いちゃダメ!こんな奴の言葉なんかッ!」
「そこの嬢ちゃんには分からねぇさ。所詮成功者には、本当のお前の気持ちなんて分かりっこねぇよ・・・。上っ面だけの言葉と演技に騙されるな。アイドルを目指してたんなら、お前にも分かるよなぁ?アイドルは周りからの目も重要な演技派だって事を・・・」
なぎさが一瞬、友紀の方を見る。彼女は今までの行動や言葉は、嘘や演技ではないと首を横に振る。
実際、なぎさの命を今の今まで引き止めていたものは、イルの手助けや彼女の中で育て上げた憎しみという名の大樹のおかげであるところが大きい。
それが無ければなぎさは、とっくの昔に命を絶っていた事だろう。人生の大半を共に過ごしてきた憎悪を、そう簡単に手放せるものだろうか。
いくら親友の言葉だからとはいえ、それを鵜呑みにして、今更陽の光の元に出ていけるとでも言うのだろうか。すっかり染み付いてしまった闇の世界での生活が、きっと何かの拍子に甦り影響を与える。
イルと共にこの場を去り、再び陽の光の届かぬところで生きていくのが、一度堕ちた人間の宿命なのではないだろうか。
ここで友紀の優しさに甘え、表に出たところで心からの笑顔を、なぎさは出来る自信がなかった。
「私・・・アタシは・・・」
どっち付かずのハッキリしない様子のなぎさに、発破をかけるようにイルは言葉を畳み掛ける。
「一度堕ちた人間は、もう二度と上へは上がれない!お前を受け入れてくれる世界など、何処にある!?お前を再び奮い立たせたのは何だったッ!?」
「過ちは誰もが犯すものでしょ!?どんな罪だって、償えないことはない!世界が受け入れてくれなくても、私が貴方を守る!決して一人にはしない!だからッ・・・!!」
二人の強い意志の込められた視線が、なぎさに向けられる。彼女にとって運命の分かれ道。ここでの選択が、これからの彼女の未来に大きな変化を与えることは明白だった。
運命の分かれ道とは、必ずしも本人にとって分かる形で訪れるとは限らない。それ故に人間は後悔をする。自分が選ばなかった未来の形を想像し、嘆く事もあれば今の選択をして安堵する事もあるだろう。
今の彼女の前には、ハッキリと二本の道が見えていた。
一方は、自分が生きていく事を諦めた光の当たる、友紀と歩む眩しい世界への道のり。それは一度堕ちた彼女には、きっと辛い道のりになるだろう。しかし、大凡その世界は人間としての真っ当な世界と呼べるものだろう。
もう一方の道は彼女を生かし、目的を与え成長させた母なる闇の世界。そこには彼女を迎え入れ、守ってくれる大きな存在となったイルがおり、裏の世界で生きていく為の力と権力、そして二度と彼女を蔑む者が現れない、約束された堕落の世界への道のり。
今か今かと返事を待つ二人の鬼気迫る視線に、苦悶の表情を浮かべるなぎさ。
そこへ、時を急いでいたと思われるイルのタイムリミットを告げるように、二人の男達が彼女らのいる建物の屋上へと辿り着く。
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