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移動の痕跡
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情報を掴んだシンを逃したくないイルは、立ちはだかる蒼空達の前で再び自身の身体に渦巻くように黒い靄を立ち上らせる。
そして男が右腕を渦の中へ伸ばすと、中からまるで真っ黒な墨で塗り潰されたかのような、全く光を反射しない刀と思わしきものを引っ張り出した。
「それは・・・黒刀か・・・?」
「黒刀・・・?天臣さん、知ってるの?」
ゲームや物語の中には、所謂“いわくつき“の代物というのは付き物である。分かりやすく例えるのなら、伝説の剣や神話上に登場する武具がそれに該当する。
それらの武具は、他の武器や防具と違い破格の性能をしている場合が殆どである。
中でも、ある条件下や時間帯、特定の武具とセットで身につけることで効果を発揮する能力があるものもある。イルの手に握られている物も、そんな業物の内の一つだった。
しかし、何も世界に一本しかない物という訳でもない。
黒刀は、刀を装備できるクラスの者で、尚且つ闇属性や呪術、影などの黒いものを連想とさせる能力を持つ者にのみ、所有者特有の追加効果を与える特別な代物だった。
同じ刀を使うクラスとして、天臣が知っていてもおかしくはなかった。それほどの業物とあれば、これまでの戦いとは些か雲行きが変わって来るだろうと、天臣は予感していた。
イルは今まで、攻撃らしい攻撃を自分から仕掛けてきてはいなかった。使っていた技といえば、その特異な靄だけだった。男の言う通り、どうやら本当に本腰を入れて戦う気になったようだ。
「どうやら奴のセリフも、あながち嘘ではなさそうだ・・・。心して掛かってくれ、二人共」
「天臣さんがそう言うなら・・・了解です!」
「俺も、遅れた分を取り戻して見せますよ!」
イルを中心に、黒い靄を周囲に撒き散らすように風が吹き荒ぶ。如何にも見せ場といった演出に、三人の意気も上がる。
三人を残し、イルから得た情報を仲間達の元へと運ぶシン。彼らが体制を立て直している場所までは、それほど遠くはなかった。
ましてや、実在の建物や壁を通り抜けられる覚醒者達にとって、これだけの距離など全くものともしない。
「MARO・・・。確かあの、和服の男だったな。彼ならそれほど大きなダメージは負っていなかった。問題はデバイスか?流石にスマホくらいは持ってるだろう」
ハッキングをするには、パソコンやスマホといったデバイスが必要。電力に関しては、ライブが行われている以上、何にも心配することはないだろう。
最悪、もしMAROがスマホを持っていなかった場合、自分のものを貸せばとも考えたが、今となっては他人に自分のデバイスを渡すということが、どれほど危険なことであるかよく分かる。
例え渡す相手が、そんなことをする人間でなくても、人に自分の命を明け渡すようなものだ。シン達覚醒者にとっても、デバイスを失うのはキャラクターのデータを反映出来なくなるのと同義なのだから。
シンが再び、共に巨獣と戦った仲間達の元へ戻ってくる。一見、皆大丈夫そうな様子。特にダメージと魔力の消耗が激しかった峰闇も、すっかり回復し万全とまでは行かないものの、十分戦えるくらいの状態にまで回復していた。
ただ、やはりと言うべきか、彼ら全体の回復に引き換え、その回復や治療を行なっていたにぃなには疲労の色が伺える。
「あれ?もう戻ってきたの?あっちの様子はどうだった・・・?」
「それが少し厄介なことになってて・・・。説明は後で。MARO、ケイルからアンタがハッキングが出来ると聞いたが、本当か?」
到着早々、ろくにまだ会話すらしていなかったシンから名指しで話しかけられたことに、少し驚くMARO。だが、そのシンから漂うただならぬ雰囲気が、会場で何かあったのだということを知らせているようだった。
「あ、あぁ・・・。けどそんな詳しい訳じゃない。何をしようとしているのかは分からないけど、そんなに期待しないでくれよ?」
「多分、大丈夫だろう。そこまで技術力の必要なことじゃないとは思うんだが・・・。急いで調べてみて欲しいことがある!」
そう言ってシンは、他の説明は後回しにし、早速MAROに会場でアクセス可能な無線LANについて調べてもらう。
慌てて飛び出してきたはいいものの、イルのデータ化がどのような形式のデータとなっているのかまでは考えていなかった。それは本人の記憶の中でも、詳細は明かされていない。
「アクセス可能な無線LANだって言ってたよな・・・。そんなの腐るほどあるぞ。一体に何を探すんだ?」
やはりというべきか。家庭用から企業の物、はたまた個人の物まで、人が多く集まる場所ではそれらは数え切れないほど存在する。それならば、場所をここ赤レンガ倉庫周辺に絞り込み、何か不自然なデータ通信が行われていないか調べれば、イルの移動の痕跡を辿れるかも知れない。
そして男が右腕を渦の中へ伸ばすと、中からまるで真っ黒な墨で塗り潰されたかのような、全く光を反射しない刀と思わしきものを引っ張り出した。
「それは・・・黒刀か・・・?」
「黒刀・・・?天臣さん、知ってるの?」
ゲームや物語の中には、所謂“いわくつき“の代物というのは付き物である。分かりやすく例えるのなら、伝説の剣や神話上に登場する武具がそれに該当する。
それらの武具は、他の武器や防具と違い破格の性能をしている場合が殆どである。
中でも、ある条件下や時間帯、特定の武具とセットで身につけることで効果を発揮する能力があるものもある。イルの手に握られている物も、そんな業物の内の一つだった。
しかし、何も世界に一本しかない物という訳でもない。
黒刀は、刀を装備できるクラスの者で、尚且つ闇属性や呪術、影などの黒いものを連想とさせる能力を持つ者にのみ、所有者特有の追加効果を与える特別な代物だった。
同じ刀を使うクラスとして、天臣が知っていてもおかしくはなかった。それほどの業物とあれば、これまでの戦いとは些か雲行きが変わって来るだろうと、天臣は予感していた。
イルは今まで、攻撃らしい攻撃を自分から仕掛けてきてはいなかった。使っていた技といえば、その特異な靄だけだった。男の言う通り、どうやら本当に本腰を入れて戦う気になったようだ。
「どうやら奴のセリフも、あながち嘘ではなさそうだ・・・。心して掛かってくれ、二人共」
「天臣さんがそう言うなら・・・了解です!」
「俺も、遅れた分を取り戻して見せますよ!」
イルを中心に、黒い靄を周囲に撒き散らすように風が吹き荒ぶ。如何にも見せ場といった演出に、三人の意気も上がる。
三人を残し、イルから得た情報を仲間達の元へと運ぶシン。彼らが体制を立て直している場所までは、それほど遠くはなかった。
ましてや、実在の建物や壁を通り抜けられる覚醒者達にとって、これだけの距離など全くものともしない。
「MARO・・・。確かあの、和服の男だったな。彼ならそれほど大きなダメージは負っていなかった。問題はデバイスか?流石にスマホくらいは持ってるだろう」
ハッキングをするには、パソコンやスマホといったデバイスが必要。電力に関しては、ライブが行われている以上、何にも心配することはないだろう。
最悪、もしMAROがスマホを持っていなかった場合、自分のものを貸せばとも考えたが、今となっては他人に自分のデバイスを渡すということが、どれほど危険なことであるかよく分かる。
例え渡す相手が、そんなことをする人間でなくても、人に自分の命を明け渡すようなものだ。シン達覚醒者にとっても、デバイスを失うのはキャラクターのデータを反映出来なくなるのと同義なのだから。
シンが再び、共に巨獣と戦った仲間達の元へ戻ってくる。一見、皆大丈夫そうな様子。特にダメージと魔力の消耗が激しかった峰闇も、すっかり回復し万全とまでは行かないものの、十分戦えるくらいの状態にまで回復していた。
ただ、やはりと言うべきか、彼ら全体の回復に引き換え、その回復や治療を行なっていたにぃなには疲労の色が伺える。
「あれ?もう戻ってきたの?あっちの様子はどうだった・・・?」
「それが少し厄介なことになってて・・・。説明は後で。MARO、ケイルからアンタがハッキングが出来ると聞いたが、本当か?」
到着早々、ろくにまだ会話すらしていなかったシンから名指しで話しかけられたことに、少し驚くMARO。だが、そのシンから漂うただならぬ雰囲気が、会場で何かあったのだということを知らせているようだった。
「あ、あぁ・・・。けどそんな詳しい訳じゃない。何をしようとしているのかは分からないけど、そんなに期待しないでくれよ?」
「多分、大丈夫だろう。そこまで技術力の必要なことじゃないとは思うんだが・・・。急いで調べてみて欲しいことがある!」
そう言ってシンは、他の説明は後回しにし、早速MAROに会場でアクセス可能な無線LANについて調べてもらう。
慌てて飛び出してきたはいいものの、イルのデータ化がどのような形式のデータとなっているのかまでは考えていなかった。それは本人の記憶の中でも、詳細は明かされていない。
「アクセス可能な無線LANだって言ってたよな・・・。そんなの腐るほどあるぞ。一体に何を探すんだ?」
やはりというべきか。家庭用から企業の物、はたまた個人の物まで、人が多く集まる場所ではそれらは数え切れないほど存在する。それならば、場所をここ赤レンガ倉庫周辺に絞り込み、何か不自然なデータ通信が行われていないか調べれば、イルの移動の痕跡を辿れるかも知れない。
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