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靄を裂く一閃
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友紀の無事を確認した後、天臣はイルを一人で押さえ込んでいる。現在も尚、WoFを遊んでいる蒼空達に比べ、プレイ時間の少ないであろうと考えていた蒼空は、その様子から自分達であれば、あのイルという謎の男を倒せるのではないか。
蒼空は友紀に、彼がどの程度WoFをプレイしていたのかを問う。するとどうやら、覚醒する以前には既にプレイ頻度自体は大きく下がっているとのことだった。
やはりアイドルのマネージャーになってから、現実世界での仕事が忙しくなっていた模様だ。彼女自身も、時間が取れなくなってからはログインすら出来ていない状態だったという。
「それでよくあそこまで・・・。何処かで戦闘の経験を?」
「ごめんなさい、分からないわ。こんな状況になった時期はそれほど変わらなかったっぽいんだけど・・・。彼のことだから、多分私の知らないところで経験を積んでいたのかも」
「お恥ずかしい話、俺には大分時間を余らせてる身でして・・・。こと戦闘においては、恐らく貴方達の力になれるはずですよ。三人でかかれば・・・」
彼がそう言いかけたところで、友紀は少し顔を俯かせながら申し訳なさそうに口を開く。
「あの・・・私は直接戦闘するタイプのクラスではないので、支援に回る形になります。どうか天臣のことを、よろしくお願いします」
「なるほど、分かりました。では天臣さんと二人で畳み掛けます。援護のほど、よろしくお願いします!」
憧れのアイドルの前でいいところを見せようと、颯爽と戦場へと駆けていく蒼空。友紀は周囲の演出を確認し、自分が現実世界の姿に戻らなければならないタイミングを計算する。
演出はあくまで演出。ライブが終われば映像は途絶え、会場から彼女が姿を消すという騒ぎになりかねない。彼女らは身近なスタッフにも、この事は秘密にしていたようだ。
当然だろう。そんな話をして信じてくれるような人間は、まずいない。それは周りの人間が冷たいのではなく、誰でも同じで至極当然のことなのだ。有名人ともなれば、そこから妙なゴシップに発展しないとも限らない。
今をときめく彼女は、それだけライバルである敵も多く、スクープをネタにする記者達から標的にされ易い。叩いて埃が出るようでは困るのだ。
慎重を期して戦う天臣は、イルの本体と一定の距離感を保ちながら戦っていた。すぐに避難できて、攻撃を当てやすい距離。刀の間合いより僅かに数歩、後ろに引いたかのような絶妙な距離感をキープしている。
「どうしたんだ?そんな距離からじゃ、刀の軌道が丸見えだぜぇ?もっと近づいて来いよ・・・」
「まだだ。お前に近づくには“まだ“早い」
彼は何かを狙っているのだろうか。イルの言う通り、このままでは足止めの役割すら、いずれ果たせなくなるだろう。既に男は、天臣の太刀筋に慣れ始めている。
「ふ~ん・・・。まぁ別にアンタと遊んでやってもいいけど、あんまり時間掛けられないんだよねぇ、俺・・・」
イルの視線が、天臣の背後から援軍に駆けつける蒼空の後ろ、支援タイプのクラスと言っていた友紀の方へと向く。目の前の相手から、目を逸らす余裕があるかのような雰囲気を匂わせる。
友紀の元へ行かせることも、攻撃を向かわせることも出来ない。多少のリスクを冒してでも、この男の嫌がることを仕掛けなければならない。
意を決して天臣は、イルの向ける視線の先へ飛び込み刀の間合いに入れると、首を刎ねる勢いでイルの首元を狙う。
誘いに乗った獲物が、まんまと罠にハマったと言わんばかりの笑みを浮かべるイル。素早い踏み込みと共に強烈な一閃を放つ天臣に対し、イルはなんと自ら首を差し出すように突っ込んできたのだ。
「ッ!?」
「そうだよなぁ!?罠だと分かっていても、飛び込んで来るしかないもんなぁ!?」
刀の先が男の首に触れる。しかし、天臣の刀剣が切り裂いたところからは、血ではなく黒い靄が風船から漏れるかのように吹き出す。イルの首は一気に、反対側の首の皮一枚のところまで裂け、頭部は黒い靄を吐き出す手榴弾へと変わる。
「くッ!しまっ・・・!?」
溢れ出た黒い靄は瞬く間に天臣を飲み込み、黒い球体状の空間を作り出す。そしてイルの身体も頭部と同じく靄へと変わり、押し寄せる波のようになってステージ上を流れていく。
その波は、二人の元へ向かっていた蒼空の身体を通り抜け、友紀へ向けて雪崩れ込んでいく。
だが、向かってきた靄に触れた瞬間、蒼空は口角を上げて笑う。
「そっちから来てくれるとはな・・・」
蒼空は少し屈み靄に手を触れると、靄は動きを止めその場で地面に押し付けられるように、飛散し消滅する。
その中にはイルの姿もあり、晴れた靄の中から現れた彼は、地面にうつ伏せで倒れていた。
「あ・・・あらぁ?何これ・・・?」
「知らない相手と戦う時は、出方を伺わないと・・・だろ?」
蒼空は友紀に、彼がどの程度WoFをプレイしていたのかを問う。するとどうやら、覚醒する以前には既にプレイ頻度自体は大きく下がっているとのことだった。
やはりアイドルのマネージャーになってから、現実世界での仕事が忙しくなっていた模様だ。彼女自身も、時間が取れなくなってからはログインすら出来ていない状態だったという。
「それでよくあそこまで・・・。何処かで戦闘の経験を?」
「ごめんなさい、分からないわ。こんな状況になった時期はそれほど変わらなかったっぽいんだけど・・・。彼のことだから、多分私の知らないところで経験を積んでいたのかも」
「お恥ずかしい話、俺には大分時間を余らせてる身でして・・・。こと戦闘においては、恐らく貴方達の力になれるはずですよ。三人でかかれば・・・」
彼がそう言いかけたところで、友紀は少し顔を俯かせながら申し訳なさそうに口を開く。
「あの・・・私は直接戦闘するタイプのクラスではないので、支援に回る形になります。どうか天臣のことを、よろしくお願いします」
「なるほど、分かりました。では天臣さんと二人で畳み掛けます。援護のほど、よろしくお願いします!」
憧れのアイドルの前でいいところを見せようと、颯爽と戦場へと駆けていく蒼空。友紀は周囲の演出を確認し、自分が現実世界の姿に戻らなければならないタイミングを計算する。
演出はあくまで演出。ライブが終われば映像は途絶え、会場から彼女が姿を消すという騒ぎになりかねない。彼女らは身近なスタッフにも、この事は秘密にしていたようだ。
当然だろう。そんな話をして信じてくれるような人間は、まずいない。それは周りの人間が冷たいのではなく、誰でも同じで至極当然のことなのだ。有名人ともなれば、そこから妙なゴシップに発展しないとも限らない。
今をときめく彼女は、それだけライバルである敵も多く、スクープをネタにする記者達から標的にされ易い。叩いて埃が出るようでは困るのだ。
慎重を期して戦う天臣は、イルの本体と一定の距離感を保ちながら戦っていた。すぐに避難できて、攻撃を当てやすい距離。刀の間合いより僅かに数歩、後ろに引いたかのような絶妙な距離感をキープしている。
「どうしたんだ?そんな距離からじゃ、刀の軌道が丸見えだぜぇ?もっと近づいて来いよ・・・」
「まだだ。お前に近づくには“まだ“早い」
彼は何かを狙っているのだろうか。イルの言う通り、このままでは足止めの役割すら、いずれ果たせなくなるだろう。既に男は、天臣の太刀筋に慣れ始めている。
「ふ~ん・・・。まぁ別にアンタと遊んでやってもいいけど、あんまり時間掛けられないんだよねぇ、俺・・・」
イルの視線が、天臣の背後から援軍に駆けつける蒼空の後ろ、支援タイプのクラスと言っていた友紀の方へと向く。目の前の相手から、目を逸らす余裕があるかのような雰囲気を匂わせる。
友紀の元へ行かせることも、攻撃を向かわせることも出来ない。多少のリスクを冒してでも、この男の嫌がることを仕掛けなければならない。
意を決して天臣は、イルの向ける視線の先へ飛び込み刀の間合いに入れると、首を刎ねる勢いでイルの首元を狙う。
誘いに乗った獲物が、まんまと罠にハマったと言わんばかりの笑みを浮かべるイル。素早い踏み込みと共に強烈な一閃を放つ天臣に対し、イルはなんと自ら首を差し出すように突っ込んできたのだ。
「ッ!?」
「そうだよなぁ!?罠だと分かっていても、飛び込んで来るしかないもんなぁ!?」
刀の先が男の首に触れる。しかし、天臣の刀剣が切り裂いたところからは、血ではなく黒い靄が風船から漏れるかのように吹き出す。イルの首は一気に、反対側の首の皮一枚のところまで裂け、頭部は黒い靄を吐き出す手榴弾へと変わる。
「くッ!しまっ・・・!?」
溢れ出た黒い靄は瞬く間に天臣を飲み込み、黒い球体状の空間を作り出す。そしてイルの身体も頭部と同じく靄へと変わり、押し寄せる波のようになってステージ上を流れていく。
その波は、二人の元へ向かっていた蒼空の身体を通り抜け、友紀へ向けて雪崩れ込んでいく。
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「そっちから来てくれるとはな・・・」
蒼空は少し屈み靄に手を触れると、靄は動きを止めその場で地面に押し付けられるように、飛散し消滅する。
その中にはイルの姿もあり、晴れた靄の中から現れた彼は、地面にうつ伏せで倒れていた。
「あ・・・あらぁ?何これ・・・?」
「知らない相手と戦う時は、出方を伺わないと・・・だろ?」
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