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普通じゃないマネージャー
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歌に集中している彼女は迫る靄に気づいていないのか、そのままライブを続行している。彼女のイベントやライブに何度も参加していた蒼空には、今までの経験上から彼女が覚醒者でないことは分かっていた。
見えていないのなら当然だ。だが、あの靄は何故彼女に迫って来ているのか。異世界からやって来た者の攻撃なら、現実世界の者に干渉することは出来ない筈。
このまま見ていても問題ない筈。しかし、どこか彼の中にある不安要素が、それを否定し続けている様に思えてならなかった。
ステージを守っていた筈のケイルが、僅か前に起きていた巨獣達との戦いを忘れてしまっていること。今なら彼女のステージは無防備な状態にある。
何者かがケイルに術を掛け、ステージ上の友紀へ向けて攻撃を仕掛けている。モンスターを彼女のイベントやライブに差し向け、危険な目に合わせようとしていた黒幕。それがやって来たのだと直感した。
「そんな・・・やっぱりユッキーの命を狙ってる者が・・・?クソッ・・・!何だってこんな時に僕はッ・・・!」
全身を駆け巡る疲労と痛みが、ここにきて身体の動きを鈍くする。呆けてしまったケイルの術を解く術は、今の蒼空にはない。今は彼よりも、彼女に迫る危機を知らせなければと、声をあげる。
誰でもいい。この声が届く者に伝わってくれ。自分ではどうにも出来ぬ思いを叫んだ。
「誰かぁーーーッ!ユッキーを助けてッ!!」
彼の叫んだ言葉に、僅かに友紀の動きが揺らいだように見えた。
その瞬間、彼女に向かって迫る靄を振り払うように一刃の鋭い斬撃が駆け抜ける。斬撃は彼女のすぐ横を掠めるように通り過ぎ、後方の靄を切り刻んで掻き消す。
ライブは中断されることなく続く。思わず目を閉じてしまった蒼空が、硬く閉じていた瞼を開く。するとそこには、ステージ上に立つ友紀の他に、もう一人の姿が彼女の背後に見えた。
そのシルエットは細長い刀剣を手にし、勇ましい姿で彼女の背後を守るように立っていたのだ。
「ッ・・・!?」
「遂に尻尾を出した・・・ということか。・・・後は私がケリをつけよう。君はそのままライブに集中していてくれ」
それは男の声だった。その者は迫る脅威を振り払うと、声を上げた蒼空の方へ視線を向けて頭を下げた。
「感謝します。貴方のおかげで判断を誤らずに済みました」
意外な出来事に、蒼空は返事をすることが出来なかった。口を開けて呆然とする彼は尻目に、男はもやの来た方向へ手にした獲物を向ける。
「さぁ!姿を現したらどうだ?ずっと嫌がらせをしてたのは、お前なんだろ?」
視線の先に人影はなかった。だが、男の挑発に乗せられる様にして黒い靄がステージの一角から湧き出し、人の形を象る。そしてそこから現れたのは、片桐なぎさと共に友紀のライブを襲撃した黒幕である人物の一人、イルだった。
イルは死神を連想させる黒い羽織を身に纏い、笑いを堪える様にして口を覆っていた。
「やぁ、初めまして。俺は“イル“という。嫌がらせとは人聞きが悪いなぁ~」
「あれを嫌がらせと言わずして何という。殺すつもりなら、初めからお前自身が来ればよかっただろう?」
「分かってないなぁ、アンタ。全く分かってない・・・」
歩み寄るイルは、男の持つ獲物の間合いギリギリのところで立ち止まると、それまでのふざけた態度から一変し、真面目な声色に変わり男が何者なのかを問う。
「アンタは何者なんだ?いつもあの子の腰巾着のように、張り付いているよね?目障りでありゃしなかったよ。おかげで大変だったんだから・・・」
「私は“天臣“。それがこの姿の時の名だ。彼女と共にいるのは当然だ。私は彼女の“マネージャー“だからな・・・」
蒼空の呼び声で、友紀を守る様に颯爽と現れた男の名は天臣。この姿の時、と付け加えたのは、それが本名ではなくWoFのユーザーネームだからだろう。イルはその名を聞いて、少しだけ目を見開き違和感を感じていたが、すぐにそれがどういう意図であるかを悟る。
「天臣・・・。あぁそうか、あまり聞かない名だと思ったらそういう訳か・・・。アンタも“普通“じゃないってことね?」
「お前の言う“普通“の定義が分からんが、私も好きでこうなった訳ではない・・・。ただ、この身体になって得したこともある」
アイドル岡垣友紀のマネージャーである天臣。彼もまた、WoFのユーザーであり、異変に巻き込まれた覚醒者の一人だった。
イルの口ぶりから、幾度となく友紀のライブを襲撃し、その度に彼が裏で彼女を守っていたことが窺える。親衛隊の他にも、こんなに身近なところに覚醒者が居たとは、ファンの者達も気づかなかっただろう。
「得したこと?そりゃぁいっぱいあるだろうねぇ!誰の目にも止まらないんだから、いろんな悪戯が出来ただろう?」
「お前みたいな奴らから、彼女を守れると言うことだ」
天臣は細長い刀剣を鞘に収め、抜刀術のような体勢に入る。そして、いつ抜いたかも分からぬほど早い一閃を、イルに向けて放つ。自ら踏み込んでいったことにより、強引に自身の間合いの中にイルを捉えた天臣の一撃。
斬撃は確実に命中した筈だった。しかし、イルは平然としており、その身体からは斬撃が通り抜けたかのように黒い靄が漂うだけだった。
異様な雰囲気を察した天臣はすぐに飛び退き、イルとの距離を取る。
「アンタも分かってるだろうけど、生憎俺も“普通“じゃなくてねぇ・・・。そんな見え透いた攻撃じゃぁ、俺は斬れないよ」
その言葉を合図に、イルの身体から出る黒い靄と同じものが、ステージで歌う友紀の足元からゆっくりと湧き始めた。
見えていないのなら当然だ。だが、あの靄は何故彼女に迫って来ているのか。異世界からやって来た者の攻撃なら、現実世界の者に干渉することは出来ない筈。
このまま見ていても問題ない筈。しかし、どこか彼の中にある不安要素が、それを否定し続けている様に思えてならなかった。
ステージを守っていた筈のケイルが、僅か前に起きていた巨獣達との戦いを忘れてしまっていること。今なら彼女のステージは無防備な状態にある。
何者かがケイルに術を掛け、ステージ上の友紀へ向けて攻撃を仕掛けている。モンスターを彼女のイベントやライブに差し向け、危険な目に合わせようとしていた黒幕。それがやって来たのだと直感した。
「そんな・・・やっぱりユッキーの命を狙ってる者が・・・?クソッ・・・!何だってこんな時に僕はッ・・・!」
全身を駆け巡る疲労と痛みが、ここにきて身体の動きを鈍くする。呆けてしまったケイルの術を解く術は、今の蒼空にはない。今は彼よりも、彼女に迫る危機を知らせなければと、声をあげる。
誰でもいい。この声が届く者に伝わってくれ。自分ではどうにも出来ぬ思いを叫んだ。
「誰かぁーーーッ!ユッキーを助けてッ!!」
彼の叫んだ言葉に、僅かに友紀の動きが揺らいだように見えた。
その瞬間、彼女に向かって迫る靄を振り払うように一刃の鋭い斬撃が駆け抜ける。斬撃は彼女のすぐ横を掠めるように通り過ぎ、後方の靄を切り刻んで掻き消す。
ライブは中断されることなく続く。思わず目を閉じてしまった蒼空が、硬く閉じていた瞼を開く。するとそこには、ステージ上に立つ友紀の他に、もう一人の姿が彼女の背後に見えた。
そのシルエットは細長い刀剣を手にし、勇ましい姿で彼女の背後を守るように立っていたのだ。
「ッ・・・!?」
「遂に尻尾を出した・・・ということか。・・・後は私がケリをつけよう。君はそのままライブに集中していてくれ」
それは男の声だった。その者は迫る脅威を振り払うと、声を上げた蒼空の方へ視線を向けて頭を下げた。
「感謝します。貴方のおかげで判断を誤らずに済みました」
意外な出来事に、蒼空は返事をすることが出来なかった。口を開けて呆然とする彼は尻目に、男はもやの来た方向へ手にした獲物を向ける。
「さぁ!姿を現したらどうだ?ずっと嫌がらせをしてたのは、お前なんだろ?」
視線の先に人影はなかった。だが、男の挑発に乗せられる様にして黒い靄がステージの一角から湧き出し、人の形を象る。そしてそこから現れたのは、片桐なぎさと共に友紀のライブを襲撃した黒幕である人物の一人、イルだった。
イルは死神を連想させる黒い羽織を身に纏い、笑いを堪える様にして口を覆っていた。
「やぁ、初めまして。俺は“イル“という。嫌がらせとは人聞きが悪いなぁ~」
「あれを嫌がらせと言わずして何という。殺すつもりなら、初めからお前自身が来ればよかっただろう?」
「分かってないなぁ、アンタ。全く分かってない・・・」
歩み寄るイルは、男の持つ獲物の間合いギリギリのところで立ち止まると、それまでのふざけた態度から一変し、真面目な声色に変わり男が何者なのかを問う。
「アンタは何者なんだ?いつもあの子の腰巾着のように、張り付いているよね?目障りでありゃしなかったよ。おかげで大変だったんだから・・・」
「私は“天臣“。それがこの姿の時の名だ。彼女と共にいるのは当然だ。私は彼女の“マネージャー“だからな・・・」
蒼空の呼び声で、友紀を守る様に颯爽と現れた男の名は天臣。この姿の時、と付け加えたのは、それが本名ではなくWoFのユーザーネームだからだろう。イルはその名を聞いて、少しだけ目を見開き違和感を感じていたが、すぐにそれがどういう意図であるかを悟る。
「天臣・・・。あぁそうか、あまり聞かない名だと思ったらそういう訳か・・・。アンタも“普通“じゃないってことね?」
「お前の言う“普通“の定義が分からんが、私も好きでこうなった訳ではない・・・。ただ、この身体になって得したこともある」
アイドル岡垣友紀のマネージャーである天臣。彼もまた、WoFのユーザーであり、異変に巻き込まれた覚醒者の一人だった。
イルの口ぶりから、幾度となく友紀のライブを襲撃し、その度に彼が裏で彼女を守っていたことが窺える。親衛隊の他にも、こんなに身近なところに覚醒者が居たとは、ファンの者達も気づかなかっただろう。
「得したこと?そりゃぁいっぱいあるだろうねぇ!誰の目にも止まらないんだから、いろんな悪戯が出来ただろう?」
「お前みたいな奴らから、彼女を守れると言うことだ」
天臣は細長い刀剣を鞘に収め、抜刀術のような体勢に入る。そして、いつ抜いたかも分からぬほど早い一閃を、イルに向けて放つ。自ら踏み込んでいったことにより、強引に自身の間合いの中にイルを捉えた天臣の一撃。
斬撃は確実に命中した筈だった。しかし、イルは平然としており、その身体からは斬撃が通り抜けたかのように黒い靄が漂うだけだった。
異様な雰囲気を察した天臣はすぐに飛び退き、イルとの距離を取る。
「アンタも分かってるだろうけど、生憎俺も“普通“じゃなくてねぇ・・・。そんな見え透いた攻撃じゃぁ、俺は斬れないよ」
その言葉を合図に、イルの身体から出る黒い靄と同じものが、ステージで歌う友紀の足元からゆっくりと湧き始めた。
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