World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
817 / 1,646

儚き夢と堕落の誘い

しおりを挟む
 同じように、アイドルに憧れアイドルになることを目指し、歩み始めた少女がいた。初めはみんな無理だ無理だと彼女を罵った。悔しかった彼女はムキになり、絶対にアイドルになって見返してやると、様々な方法を調べその為の努力をしてきた。

 時は流れ、彼女が十代の半ばを過ぎようとしていた頃、同じ夢を追うライバルであり、唯一無二の友人と出会う事になる。

 二人は共に切磋琢磨し、数多くのオーディションや教室に通いながら、時には辛い日々もあったが充実した人生を過ごしていた。一人ではきっと心が折れていただろう。

 自分だけが夢という幻に囚われているのではないかと錯覚しそうにもなった。だが一人ではないということは、彼女に自信と勇気を与える。

 そして二人に転機が訪れる。しかしそれは、二人の間を割く出来事だった。一人は新たな世界へ、もう一人は共に歩んできた仲間を失い、不安と孤独の中で道を目指すという選択を迫られる事となった。

 新たな世界への扉が開いたのは、彼女の友人の方だった。

 オーデションに訪れていたスカウトに声をかけられた二人は、その人物と連絡先を交換する。しかし、彼女の元に連絡はこなかった。

 そして次に友人と会った時に、彼女は友人から驚くべきことを聞かされることとなる。先日声を掛けてくれた人物から後日連絡があり、友人は事務所に所属する運びとなったのだ。

 それを聞いた瞬間、彼女は一瞬頭の中が真っ白になる。友人のことは好きだし、いい関係を築けていると思っている。

 だがそれよりも、彼女の頭の中に浮かんだのは、“何故私じゃないのか“だった。

 胸に強い衝撃を受けたかのように、急に呼吸が乱れ動揺する。それを友人に悟られぬよう、彼女は友人の新たな船出を喜んでみせた。

 これまでの努力が身を結んだね。

 一緒に頑張った甲斐があったね。

 私も負けてられないね。

 友人に彼女の動揺が伝わったのかは分からない。ただ友人は、ありがとうと何度か伝えた後、“ごめんね“と最後に口にした。

 謝ることではない。それは彼女にも友人にもきっと分かっていた。それでも、自分だけ一歩先を歩み出したことに、申し訳なさを感じていたのだろう。

 同じ道を歩むのだから、いずれどちらかが先に行くことは分かっていた。でも心の何処かで、それは私の方だと二人とも思っていたはず。

 現に彼女もそうだった。それ故に、真っ先に思い浮かんだ言葉が“何故私じゃないのか“だった。

 本当は辛かった。二人は喜びで涙を流したが、互いのその涙の意味は、全く別の意味を持っていた。

 友人の涙はその後、泣いている暇もないくらいの忙しさですぐに引いていったが、彼女の涙は、ふと一人になった時や、アイドルや未来について考えた時に溢れ出るものとなったのだ。

 彼女の足は、友人の成功と共に止まってしまった。明るく照らされていた道を、手を繋いで一緒に歩いていた彼女と友人。その支えが消えてしまった途端、歩いていた道が真っ暗な暗闇に覆われ、足がすくみ前に踏み出せな苦なってしまった。

 努力に対する彼女の価値観が変わってしまったのだ。

 それまで彼女の中にあった努力とは、“夢を実現させる為に積み重ねるもの“だった。

 それが、“努力は必ずしも報われるものではない“という、現実を突きつけられてしまった事により、信じていたものに影が掛かり始めた。

 このまま努力していれば、私もいつか報われるのだろうか・・・。

 すぐに彼女が変わることはなかった。これまで通り、一人になっても歌やダンスの教室に通い、苦手な部分の自主トレーニングや復習は欠かさなかった。既にそういった生活が、彼女の習慣になり身体に染み付いていたからだった。

 ただ、オーディションへ応募する時の気持ちは、これまでとは全く違ったものになる。考えないようにしていても、どうしても友人とオーディションを受けていた頃の光景が、脳裏に蘇ってしまうようになる。

 その度に手が震え、胸が苦しくなる。これまで以上の緊張感が彼女を襲うようになり、今まで積み重ねてきたものの何割かの実力すら、発揮できなくなってしまった。

 本番で頭が真っ白になり歌詞を忘れたり、踊っている途中で頭が真っ白になってしまい転んでしまう。

 それを見ている審査員の視線や溜め息が、彼女がこれまで経験したことのない程の恐怖を与え、彼女から自信や心を奪っていく。

 同じ会場にいたアイドル候補生の者達の視線も、彼女の心を貫くように突き刺さる。中には、わざと声に出してくる者もいた。

 何でこんな子がいるの?

 空気悪くしないでくれる?

 向いてないのが分からないの?

 彼女はオーディションを受けるのが怖くなってしまった。それどころか、人前に立つことさえ出来なくなり、会話すらまともに出来なくなってしまうほど、心を病んでしまった。

 彼女は友人とは別の理由で学校を辞めてしまう。それから彼女は、部屋に引き篭もるようになってしまい、全ての物事に意欲を失っていってしまう。

 それは“生きる“ことについても例外ではなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します

地球
ファンタジー
「え?何この職業?」 初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。 やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。 そのゲームの名はFree Infinity Online 世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。 そこで出会った職業【ユニークテイマー】 この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!! しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

処理中です...