World of Fantasia

神代 コウ

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知恵の実

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 その途中、蒼空は目を疑う光景を目にする。それが彼の気のせいだったのか、それとも危惧している通りなのかは分からない。偶然視界の端に入っていた会場のステージ。

 そこで歌っていたアイドル、ユッキーの愛称で親しまれる岡垣友紀が、微かに蒼空達の方へ視線を向けた気がしたのだ。

 現実世界でWoFに目覚めた者達や、異世界からの異物を認識できない者達にとって、会場の屋上を見上げるなどというのは、演出を見る為の一環でしかあり得ない。

 観客席に来ているファン達は、そもそも彼女本人を生で見に来ているのだから、よそ見をすること自体少ない。ましてや、演出のタイミングや内容を把握している筈のスタッフや友紀が、会場の天井を見上げる機会など更に少なくなるのではないだろうか。

 「・・・?なぁ、今ユッキーがこっちを見てなかったか・・・?」

 「え?そんなこと気にしてる場合じゃないですよ、蒼空さん!サイクロプスが棍棒を引き抜きました。次の攻撃が来ます!!」

 MAROの言う通り、今は曖昧なことに意識を回すよりも、自分達の身の安全を気にするべきだ。

 蒼空は少しその事を引き摺りながらも、巨人のモンスターであるサイクロプスの行動を伺う。

 棍棒を引き抜いたサイクロプスは、蒼空達の乗る鳥の式神を視界に捉えながら、ゆっくりと深呼吸をするように僅かに口を開く。

 そして、胸いっぱいに空気を取り込んだ後、刹那の静寂を経て、突然巨大な咆哮を放ったのだ。

 咄嗟に両耳を塞ぐ一同。視界がビリビリと歪み、肌がピリピリとする程に強烈な咆哮に、会場の瓦礫ですら突風にやられたかのように吹き飛んでいく。

 「何だってんだ、突然ッ!?」

 「あっ頭が割れそうだッ・・・!!」

 脳を振るわせ頭が割れるような痛みに、思わず目を細める中、狭まる視界の中が一瞬だけ真っ白に光る。光源は恐らく上空。何が光ったのかと顔を上げた蒼空だったが、彼の目に飛び込んできたのは、炎に包まれるMAROの式神の背の上で、共に焼かれる峰闇の姿だった。

 「ッ・・・!?何がッ・・・!」

 一体、彼の身に何があったのか。それは峰闇の更に上空。天を泳ぐように空を飛んでいる龍の姿を見て、察しがついた。

 その鎧のような鱗に覆われた身体に、仕切りに稲妻が走り回っていたのだ。

 この時、蒼空の脳裏に過ったのは、この二体の巨獣が連携したのではないかということだった。

 聴覚を潰し、視界すら歪める巨人の咆哮で注意を自身に向けることで、龍への意識を薄れさせる。そしてその咆哮は同時に、龍に対する合図にもなっていたのではないだろうか。

 準備を整え、獲物の動きを封じその位置を知らせる。エフェクトの派手な大技を確実に当てる為の連携。それは見事に彼らを撃ち抜く。

 このままで次に雷撃を受けるのは、上空へと飛び上がった蒼空達だ。そこで彼は、非情な選択ではあったが共にいるMAROと、少しでも離れた地上へ避難する選択をとる。

 頭を押さえながら片手でMAROの腕を掴むと、なんと彼らは地上へ向けて、まるで何かに上から叩かれたかのように急速落下していったのだ。

 「なッ何が起きてんだッ!?蒼空さん!?」

 二人の落下に式神はついて来れなかった。僅かに視界に映った上空の景色の中で、無人の状態で飛ぶ火の鳥が見えた。

 地上に激突する寸前に、蒼空が何かをしようとしていたが、その姿を何処からか見ていたのか、彼らの落下地点に彼らの影とは異なる、穴のように空いた濃い影が現れ二人を飲み込んだ。

 直後に、赤レンガ倉庫の陰に放り出された蒼空とMAROは、すでに移動していたシン達と合流する。

 「助かったッ!」

 巨人による咆哮は弱まり、漸く近場の声や音が聞こえるくらいの環境へと戻っていた。

 「上で何があった!?この声は・・・?」

 「サイクロプスのものだ。アイツら連携が取れるのかもしれないッ!」

 「なッ・・・何だって!?じゃぁあれは・・・」

 シンとにぃなの脳裏に浮かんだのは、変異種の存在だった。モンスターも近しい種族や何らかの関連性がある者達であれば、簡単な連携は行う。

 しかし、それは群れの中での話であったり、ゲームでいうところのボス戦に当たる特別な戦闘の時が殆ど。種族も違えば関連性など見当たらない、龍と巨人では全く検討がつかなかった。

 あるとするならば、それこそ未知の進化である、“モンスターが覚醒したWoFユーザーを食らう“という事だけ。

 そしてあれ程強力なモンスターであれば、その辺にいた小型のモンスターなんぞより容易に行えるであろう。

 「変異種・・・」

 「変異種?何だいそれは・・・」

 蒼空は変異種の存在について知らなかった。いや、そう呼んでいるのはシン達だけなのか。二人はプレジャーフォレストで起きた出来事を踏まえ、変異種の生態について簡潔に蒼空とMAROに説明した。

 「それなら俺達も戦ったことあるぞ!人間の言葉を口にする奴!ただ、意味までは理解してなかったようだけど・・・」

 「俺は知らないな・・・。まさかモンスターそんな風に進化するなんて・・・」

 MARO達親衛隊は、ユッキーのライブ会場周辺に存在するモンスターを事前に退治していたことから、多くの種類のモンスターと戦ってきたのだと言う。その中には、シン達がプレジャーフォレストで戦ったような、変異種のリザードと同じ学習能力の備わったモンスターがいたそうだ。

 だが、その変異種も多くのパターンを記憶しておくことが出来ないようで、連携を得意とする親衛隊の攻撃で退治することができたようだ。

 シンが戦ったリザードのボスも、シンの動きやスキルは学習出来たものの、もう一人の覚醒者RIZAの攻撃やスキルまでは、把握しきれなかった。

 「だが俺達が倒したのは、小さいモンスターだ。あんなでかい奴が知恵なんて付けたら、一体どうなっちまうんだぁ!?」

 MAROの言葉に、誰も返すことが出来なかった。考えることすら恐ろしい。もしそれが、既にあの龍と巨人の身に起きているとしたら・・・。そんな想像が当たってしまうのではないかと、嫌な予感が彼らの脳裏に過ぎる。

 彼らが巨獣達のことについて話していると、三階のホールの方から雷が落ちたかのような轟音が響き渡る。

 何かを思い出したかのようにハッとする蒼空とMARO。そう、会場の屋上には、救う時間がなく置き去りにしてきてしまった峰闇がいる筈。そして今の雷が鳴り響いた場所こそ、正に峰闇がいるであろう位置だったのだ。

 「峰闇ッ!!」

 「マズイッ!早く彼を助けなければッ・・・!」

 急ぎ外壁を登り、赤レンガ倉庫一号館の屋上へと登った二人は、そこで衝撃の光景を目の当たりにする。

 落雷の衝撃で引火したボロボロの鎧が燃え上がり、既に人の形をしていなかった。二人の顔が一瞬にして蒼白となる。峰闇が死んだ。そう思わせる光景だった。
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