World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
764 / 1,646

特別な個体

しおりを挟む
 そこにいたのはリザード兵達のボスだった。なんと、後方で相手を待ち構え迎え撃つだけではなく、こちらの人員を一人でも減らせるチャンスがあれば、進んで自ら前線へと飛び出して来ていたのだ。

 「なッ!?コイツ、自分からッ・・・!」

 「マズハ・・・ヒトリ・・・」

 リザードのボスは、シンのことなどまるで眼中に無いかのように、手にした戟を振りかぶり倒れこむにぃなへと振り下ろした。

 シンはすぐに自身の影と周囲の影をを利用し、リザードのボスの動きを止めようとする。しかし、それだけではこの魔物の勢いは止まらず、僅かに動きが鈍った隙ににぃなとの間に割って入り、振り下ろされた戟を短剣で受け止める。

 大分攻撃の速度と威力を抑えた筈だが、火花が散るほどの勢いで打ちつけ合う刃。強い衝撃が周囲へと広がり、シンの膝を折り地面へと押し付ける。

 「何で・・・こんなに・・・。スキルで抑えてる筈なのにッ・・・!」

 何とか直撃は免れたものの、このままではシン諸共倒れ込んだにぃなもボスの攻撃に押し潰されてしまう。怪我を負ったにぃなを心配し、シンが攻撃に耐えながら視線を彼女の方へと向ける。

 「無事かッ・・・!?」

 「大丈夫、この程度・・・。今、補助魔法かけてあげるからッ・・・!」

 にぃなは既に、足を貫通していた槍を排除し、傷の手当を行っていた。身体の部位の損壊や消失を元通りに戻すには、傷を癒すのとは比べ物にならない時間が必要となるようで、足に空いた穴は表面上痛々しくも塞がってはいるが、まだ細胞や組織までは完治していないようだった。

 だが、必要最低限の治癒を終わらせたにぃなは、額に汗を滲ませながらもシンに攻撃力上昇の補助魔法をかけようと、詠唱を開始した。

 間も無く、シンの腕力が上がりリザード兵のボスにも劣らぬ力を得る。押し付けられた戟を凌ぐので精一杯だったシンだが、徐々に押し返し始める。

 元々アサシンのクラスは、攻撃力に直結する腕力などのステータスが低く、相手の攻撃を受け止めるには力不足だった。

 それも相まってか、力任せの攻撃をするパワータイプの種族ではないリザードにも押し負けてしまっていた。とりわけ力の強いこの個体は、シンの元のステータスで攻撃を受け止められるほどの攻撃ではなかったのだ。

 にぃなの支援により辛うじて攻撃を弾くことに成功したシンは、すぐにその場を離れようとにぃなの影を別の場所と繋げ、彼女ごと影の中へと飛び込んでいった。

 逃すまいと、体勢を整えたリザードのボスは再び戟を振り下ろし、シン達が消えていった影へその刃を振り下ろした。

 しかし、僅かに刃先が影の中へめり込んだだけで、その攻撃が彼らを捉えることはなかった。

 「カゲ・・・ケシサル。スキル・・・ヒツヨウ・・・」

 急に冷静さを取り戻したかのように大人しくなったリザードのボスは、何を思ってか遅れてやって来た取り巻きの術師であろうリザード兵を戟で八つ裂きにして、次々にその肉を口の中へ放り込んでいった。

 「マダ・・・タリナイ・・・モット・・・モット・・・」

 突然仲間が殺されたことに、動揺する他のリザード兵達。明らかに様子のおかしくなったボスを恐れ、何体かのリザード兵がその場を退場するように逃げていく。

 にぃなを避難させることに成功したシンは、物陰で彼女に自身の回復に専念させると、再び彼女の影に自分の影を忍ばせ、咄嗟の時にすぐに駆けつけられるよう罠を仕掛けておく。

 「あのリザード・・・何か異常だ。WoF内のリザードとも行動パターンが違うし、他の個体とも何か様子が変だ・・・」

 「・・・どういう事?何となく変なのは、遠くで見てて分かったけど・・・。直接対峙してどうだったの?」

 「動きや思考が、まるでPvPのようだった・・・」

 シンはリザード兵のボスに不意打ちを仕掛けて感じた事や、その後の戦闘で取り巻きを庇ったり利用したりしていた様子を、彼女に簡潔に説明した。

 現実世界での戦闘においては、にぃなの方がシンよりも先輩であり、フィアーズの指令で任務をこなすことにより、普通の人間よりも多くの経験をしていることだろう。

 その中で同じような経験はないか、以上の原因は何なのか、情報を少しでも得ようとしたのだが、彼女もシンの語るモンスターの特徴を備えた相手との面識は無いようで、困惑した様子を見せた。

 「ごめん、分からない・・・。つまり、戦闘慣れしてるモンスターってこと?それもプレイヤーの傾向を身につけた・・・」

 「あぁ・・・。WoFの世界では見られなかった個体、亜種や異常種って感じのものかもしれない。スペクターかフィアーズの者に報告を入れた方がいいかな?」

 シンが懸念していたのは、フィアーズがこのリザードの亜種を利用して更なる力を付けないかということだった。無論、何かを得る保証は何処にもないが、もし組織としての力が増せば、謀反を起こすことも組織から抜け出すことも容易ではなくなってしまう。

 「信用を得るという意味では報告した方がいいけど・・・。でもそれだと、ここの人達やあの子も組織に巻き込んじゃうよ・・・」

 フィアーズは末端の兵である彼らに、有力な情報を掴んでくることなど期待していない。各地へ派遣した後に、そこで新たな情報を入手してくれば吉、その場で生き絶えるようなことがあれば、新たに補充するだけくらいにしか思っていない。

 だが、逆にそれがイヅツやにぃな等にとっては好都合だった。そこで各地に潜むWoFユーザーや、シン達の出会した少女のように新たに異変に巻き込まれたユーザーを仲間に引き入れるチャンスなのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

虐げられた武闘派伯爵令嬢は辺境伯と憧れのスローライフ目指して魔獣狩りに勤しみます!~実家から追放されましたが、今最高に幸せです!~

雲井咲穂(くもいさほ)
ファンタジー
「戦う」伯爵令嬢はお好きですか――? 私は、継母が作った借金のせいで、売られる形でこれから辺境伯に嫁ぐことになったそうです。 「お前の居場所なんてない」と継母に実家を追放された伯爵令嬢コーデリア。 多額の借金の肩代わりをしてくれた「魔獣」と怖れられている辺境伯カイルに身売り同然で嫁ぐことに。実母の死、実父の病によって継母と義妹に虐げられて育った彼女には、とある秘密があった。 そんなコーデリアに待ち受けていたのは、聖女に見捨てられた荒廃した領地と魔獣の脅威、そして最凶と恐れられる夫との悲惨な生活――、ではなく。 「今日もひと狩り行こうぜ」的なノリで親しく話しかけてくる朗らかな領民と、彼らに慕われるたくましくも心優しい「旦那様」で?? ――義母が放置してくれたおかげで伸び伸びこっそりひっそり、自分で剣と魔法の腕を磨いていてよかったです。 騎士団も唸る腕前を見せる「武闘派」伯爵元令嬢は、辺境伯夫人として、夫婦二人で仲良く楽しく魔獣を狩りながら領地開拓!今日も楽しく脅威を退けながら、スローライフをまったり楽しみま…す? ーーーーーーーーーーーー 1/13 HOT 42位 ありがとうございました!

「やり直しなんていらねえ!」と追放されたけど、セーブ&ロードなしで大丈夫?~崩壊してももう遅い。俺を拾ってくれた美少女パーティと宿屋にいく~

風白春音
ファンタジー
セーブ&ロードという唯一無二な魔法が使える冒険者の少年ラーク。 そんなラークは【デビルメイデン】というパーティーに所属していた。 ラークのお陰で【デビルメイデン】は僅か1年でSランクまで上り詰める。 パーティーメンバーの為日夜セーブ&ロードという唯一無二の魔法でサポートしていた。 だがある日パーティーリーダーのバレッドから追放宣言を受ける。 「いくらやり直しても無駄なんだよ。お前よりもっと戦力になる魔導士見つけたから」 「え!? いやでも俺がいないと一回しか挑戦できないよ」 「同じ結果になるなら変わらねえんだよ。出ていけ無能が」  他のパーティーメンバーも全員納得してラークを追放する。 「俺のスキルなしでSランクは難しかったはずなのに」  そう呟きながらラークはパーティーから追放される。  そしてラークは同時に個性豊かな美少女達に勧誘を受け【ホワイトアリス】というパーティーに所属する。  そのパーティーは美少女しかいなく毎日冒険者としても男としても充実した生活だった。  一方バレッド率いる【デビルメイデン】はラークを失ったことで徐々に窮地に追い込まれていく。  そしてやがて最低Cランクへと落ちぶれていく。  慌てたバレッド達はラークに泣きながら土下座をして戻ってくるように嘆願するがもう時すでに遅し。  「いや俺今更戻る気ないから。知らん。頑張ってくれ」  ラークは【デビルメイデン】の懇願を無視して美少女達と楽しく冒険者ライフを送る。  これはラークが追放され【デビルメイデン】が落ちぶれていくのと同時にラークが無双し成り上がる冒険譚である。

なろう370000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜 魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。 大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。 それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・ ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。 < 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

どたぬき
ファンタジー
 ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。  なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。

処理中です...