World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
754 / 1,646

リゾート地のアクティビティ

しおりを挟む
 二人を乗せた車両は、問題なく予定通り相模湖近くにあるリゾート地、プレジャーフォレストへと到着する。すっかり陽は上り多くの客が集っていた。

 目立たぬ様近づくために、少し離れたところで車両を降りると、二人はそこから徒歩で向かう事にした。キャラクターデータを投影した脚力であれば、それ程疲労を感じることなく辿り着くことのできる距離だ。

 「これだけ人が居ても、俺達の姿は・・・」

 「不思議だよね。こんなに近くに居るのに、私達のことは見えてないし声も聞こえないんだもん。まるで幽霊みたいだね」

 屈託のない笑顔を向けるも、そんなに明るく話せることでもないだろう。だがきっと彼女も、その不確かな自身の存在をなるべく意識しないようにしているのかもしれない。

 「あ、でも気をつけてね!ホログラムを使ったアクティビティ施設の中だと、私達の姿が別のキャラクターデータとして反映されちゃうことがあるから」

 にぃなの口から、突然衝撃の事実が告げられる。もし彼らの今の姿が一般の人達の目に触れられるのなら、この異常事態を誰かに伝えられるかもしれない。

 「それ本当か!?なら、この非現実的な事態を調べてもらえるかも・・・」

 「あぁ・・・期待持たせちゃったみたいで申し訳ないんだけど・・・。例え反映されたところで、どんなに頑張ってアピールしても私達のこの姿や声、存在は誰にも認識してもらえないの」

 「どういう事・・・?反映されれば他の人にもこの姿が・・・」

 「言ったでしょ?別のデータとして反映されるって。だから希望は持たないでね、ちょっとだけ現実に干渉できるっていう、ただそれだけなの」

 彼女が言っているのは、要するにシンが朱影達と高速道路で行っていた戦闘が現実の光景に反映されるのと同じこと。

 高速道路では、朱影によってバイクを降ろされた弥上は、現実ではハンドル操作の誤りにより振り落とされた事になっている。

 逆に瑜那と宵命が東京の街中で襲われる複数人の男達を助けようとした時は、モンスターによって対象の人間以外には結果が反映されない様にする結界の様なものが発生していた。

 どうやってモンスターがその様なものを発生させているのかは分からないが、単純に考えればモンスター相手であれば現実の物や人に影響することなく、派手に暴れても壊れたり死者を出したりしないで済むということだ。

 一部、フィアーズの中にも同じ様なものを扱える者がいるが、それはまた後々知ることになる。

 「あまり干渉するなってその時言われたけど、他の人達の反応が面白いんだよね!悪戯心ってやつ?」

 「大丈夫なのか?そんな事して・・・」

 「大丈夫大丈夫。それに変化に対して敏感になってる人を見つけやすいでしょ?」

 彼女の言うことも一理ある。一般の人達にはそれがアトラクションの一部のように見え、シン達のように異変に巻き込まれた者や、フィアーズやアサシンギルドの者達の様に異世界の存在には、その変化が“同類“によるものだと分かる。

 観光気分で楽しもうとしているように見えたが、彼女は彼女なりに考えていたようだ。

 「さぁて!何して驚かせてみようかな。今回は“頼れる仲間“も一緒だし、ね?」

 彼女への考えを改めたことを少し後悔したシン。前回が誰と来たのかは知らないが、やはり彼女は楽しみたいだけなのかもしれない。

 しかし、それによって誘われてくるのは、敵かもしれないしモンスターかもしれない。無闇に目立つような行動をとっては後手に回る可能性も十分にある。

 何かあった時には、年上である自分が何とかしなくては。ただ前衛クラスである戦士やモンクなどと違い、彼女の身代わりになってやることも相手のヘイトを集めることも出来ない。

 行き当たりばったりでは、にぃなを危険な目に合わせてしまいかねないと肝に銘じ、いつでも動けるような準備だけは整えておくシン。

 そして、お目当てのエリアが見えたのか、にぃなは目を輝かせながら足早にプレジャーフォレストへと向かう。

 WoFのキャラクターを投影している分、一般女性の駆け足よりも数段早い。一気に距離を広げられたシンは、急ぎ彼女の後を追う。

 見えてきたのは、巨大なドーム状の建造物。中からは楽しそうな人の声と、外には大勢の人が立ち並ぶ大行列がなされていた。意気揚々と駆け寄るにぃなは、その大行列の中へ突っ込んでいった。

 「私達はこの人達に見えてないしぶつからないから、並ぶ必要な~しッ!お先に失礼ぃ~」

 人や整備用の柵を透過して直進する彼女の姿を見ると、如何に自分達が異常な体験をしているのかが身に染みて分かる様だった。

 シンも彼女に習い、少しぶつかるのではないかと警戒しつつも、思い切って直進するとにぃなが楽しそうに駆け抜けていく気持ちが、少しだけ分かった様な気がした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

虐げられた武闘派伯爵令嬢は辺境伯と憧れのスローライフ目指して魔獣狩りに勤しみます!~実家から追放されましたが、今最高に幸せです!~

雲井咲穂(くもいさほ)
ファンタジー
「戦う」伯爵令嬢はお好きですか――? 私は、継母が作った借金のせいで、売られる形でこれから辺境伯に嫁ぐことになったそうです。 「お前の居場所なんてない」と継母に実家を追放された伯爵令嬢コーデリア。 多額の借金の肩代わりをしてくれた「魔獣」と怖れられている辺境伯カイルに身売り同然で嫁ぐことに。実母の死、実父の病によって継母と義妹に虐げられて育った彼女には、とある秘密があった。 そんなコーデリアに待ち受けていたのは、聖女に見捨てられた荒廃した領地と魔獣の脅威、そして最凶と恐れられる夫との悲惨な生活――、ではなく。 「今日もひと狩り行こうぜ」的なノリで親しく話しかけてくる朗らかな領民と、彼らに慕われるたくましくも心優しい「旦那様」で?? ――義母が放置してくれたおかげで伸び伸びこっそりひっそり、自分で剣と魔法の腕を磨いていてよかったです。 騎士団も唸る腕前を見せる「武闘派」伯爵元令嬢は、辺境伯夫人として、夫婦二人で仲良く楽しく魔獣を狩りながら領地開拓!今日も楽しく脅威を退けながら、スローライフをまったり楽しみま…す? ーーーーーーーーーーーー 1/13 HOT 42位 ありがとうございました!

「やり直しなんていらねえ!」と追放されたけど、セーブ&ロードなしで大丈夫?~崩壊してももう遅い。俺を拾ってくれた美少女パーティと宿屋にいく~

風白春音
ファンタジー
セーブ&ロードという唯一無二な魔法が使える冒険者の少年ラーク。 そんなラークは【デビルメイデン】というパーティーに所属していた。 ラークのお陰で【デビルメイデン】は僅か1年でSランクまで上り詰める。 パーティーメンバーの為日夜セーブ&ロードという唯一無二の魔法でサポートしていた。 だがある日パーティーリーダーのバレッドから追放宣言を受ける。 「いくらやり直しても無駄なんだよ。お前よりもっと戦力になる魔導士見つけたから」 「え!? いやでも俺がいないと一回しか挑戦できないよ」 「同じ結果になるなら変わらねえんだよ。出ていけ無能が」  他のパーティーメンバーも全員納得してラークを追放する。 「俺のスキルなしでSランクは難しかったはずなのに」  そう呟きながらラークはパーティーから追放される。  そしてラークは同時に個性豊かな美少女達に勧誘を受け【ホワイトアリス】というパーティーに所属する。  そのパーティーは美少女しかいなく毎日冒険者としても男としても充実した生活だった。  一方バレッド率いる【デビルメイデン】はラークを失ったことで徐々に窮地に追い込まれていく。  そしてやがて最低Cランクへと落ちぶれていく。  慌てたバレッド達はラークに泣きながら土下座をして戻ってくるように嘆願するがもう時すでに遅し。  「いや俺今更戻る気ないから。知らん。頑張ってくれ」  ラークは【デビルメイデン】の懇願を無視して美少女達と楽しく冒険者ライフを送る。  これはラークが追放され【デビルメイデン】が落ちぶれていくのと同時にラークが無双し成り上がる冒険譚である。

なろう370000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜 魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。 大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。 それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・ ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。 < 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...