749 / 1,646
双子と少女
しおりを挟む
何か手がかりになるものは残っていないかと、注意深く探す宵命だったが、地面に残された僅かな血痕以外に、どこかへ向かったような痕跡は見当たらなかった。
すぐにあることに気がついた少年は、両腕を横に大きく広げ、袖から複数のワイヤーを伸ばして建物の壁の中へ潜り込ませる。そしてサルベージをするかのようにワイヤーを揺らし、何かを探すようにゆっくりと建物の中を捜索する。
僅かな反応も見逃さないよう、瞳を閉じて神経を腕に集中させる宵命。
自力で歩き回れない程の怪我を負った瑜那が、現実世界を移動したとは思えない。そこで宵命が考えたのは、彼らの能力による物体の透過能力により身を隠しているのか。
或いは、アサシンギルドのように建物の中に隠れた通路や空間があるのではと、ワイヤーの触れ具合によって探ろうとしていたのだ。
そして少年の勘は見事に的中した。片方の腕から伸ばしたワイヤーが、何かにぶつかって僅かに揺れる。その反応を見逃さなかった宵命は、すぐに逆の腕の捜索を打ち切り、ワイヤーを切り離す。
そして反応のあった方の腕に意識を集中させ、もう一度正確な位置を確かめる為、ワイヤーをゆっくり戻し触れる位置を探す。
再びワイヤーが僅かに揺れる。そこでワイヤーの位置を固定し、まずは自身の影をワイヤーに乗せ、反応のあった位置にまで飛ばす。すると、影がワイヤーを歪ませた物に触れると、その者の魔力を彼の元へ伝える。
「瑜那の魔力だッ・・・!力が少し戻ってる・・・どういう事だ!?」
身動きの取れない瑜那が、どうやって体力を回復したのか。今の彼と同じようにワイヤーにより、獲物となるモンスターを捕らえ倒したとでもいうのだろうか。
宵命はそのままワイヤーを手繰り、壁の中へと駆け出していく。瑜那を見つけ出すのに、それ程距離も時間も掛からなかった。
反応のあった場所へ出ると、そこには顔色の良くなった瑜那の姿と、謎の少女の姿があった。
敵か味方か。この世界の人間か、異世界の遺物か分からなかった宵命は、鉄線のように強固にした鋭利なワイヤーを袖から伸ばし、少女の息の根を一撃で止めんと突きつける。
「待てッ・・・!大丈夫だよ、宵命。敵じゃない・・・」
「ッ・・・・・!」
驚きのあまり、その場に座り込んでしまった少女は、殺意を向ける宵命の鋭い目つきと凶器を向けられた恐怖で、小刻みに震えていた。
瑜那の側で立ち止まり、依然として少女に武器を向ける宵命は、殺意こそ収めながらも、少しでも少女が妙な真似をすれば殺せる態勢と覚悟だけは緩めなかった。
「何だ、なんでこいつがお前と一緒にいる?」
「命の恩人なんだ。彼女がいなければ、今頃僕は死んでいたかもしれない・・・。だから武器を納めてくれ。この子への手荒な真似は、僕が許さない!」
瑜那の表情を確認すると、その表情は冗談など言っているようには見えなかった。少女に傷を負わせれば、宵命であっても容赦はしないという意思を感じた。
彼の強い意志を感じ取り、宵命はゆっくり腕を下ろしてワイヤーを消した。
震える少女の元へゆっくりと歩き出した瑜那は、彼女の方にそっと手を乗せ、宵命が味方であることを説明した。
「大丈夫、彼は僕の双子の兄弟なんだ。だから君を傷つけたりしないよ」
「なぁ、こいつは何者なんだ?何故お前を助けた?」
彼の疑問ももっともなことだが、少女が瑜那を助けようとしたことに、これといって深い理由はなかったのだという。ただ純粋に、血を垂らしながら苦しむ、同い年くらいの少年を放っておけなかったのだそうだ。
しかし、彼らの姿が見えている以上、少女もただの人間という訳でもないのは事実。彼女が何者で、どうしてこんな危険なところにいるのか、それについては瑜那も聞いてはいなかった。
少女を落ち着かせてからゆっくり聞こうと、瑜那は彼女の背中をさすりながら、大丈夫大丈夫と優しい声で語りかけている。
お前が驚かせるからだぞと、宵命に冗談を吐きながら何とかその場の雰囲気を何とかしようと、兄弟の他愛のない口喧嘩を繰り広げていた。
暫くして落ち着いた少女は、瑜那の腕を掴みもう大丈夫だと口にする。そして二人が気になっていた少女の素性について、自ら話し始める。
「私の名前は“アリス“。貴方達が知っているのか分からないけど、WoFっていうゲームを遊んでたら、その世界のものが見えるようになったの・・・」
二人は彼女の言葉に思わず目を見開き、顔を見合わせる。驚いたことに、この少女もシンと同じ“異変“に巻き込まれたWoFのユーザーの一人だったのだ。
すぐにあることに気がついた少年は、両腕を横に大きく広げ、袖から複数のワイヤーを伸ばして建物の壁の中へ潜り込ませる。そしてサルベージをするかのようにワイヤーを揺らし、何かを探すようにゆっくりと建物の中を捜索する。
僅かな反応も見逃さないよう、瞳を閉じて神経を腕に集中させる宵命。
自力で歩き回れない程の怪我を負った瑜那が、現実世界を移動したとは思えない。そこで宵命が考えたのは、彼らの能力による物体の透過能力により身を隠しているのか。
或いは、アサシンギルドのように建物の中に隠れた通路や空間があるのではと、ワイヤーの触れ具合によって探ろうとしていたのだ。
そして少年の勘は見事に的中した。片方の腕から伸ばしたワイヤーが、何かにぶつかって僅かに揺れる。その反応を見逃さなかった宵命は、すぐに逆の腕の捜索を打ち切り、ワイヤーを切り離す。
そして反応のあった方の腕に意識を集中させ、もう一度正確な位置を確かめる為、ワイヤーをゆっくり戻し触れる位置を探す。
再びワイヤーが僅かに揺れる。そこでワイヤーの位置を固定し、まずは自身の影をワイヤーに乗せ、反応のあった位置にまで飛ばす。すると、影がワイヤーを歪ませた物に触れると、その者の魔力を彼の元へ伝える。
「瑜那の魔力だッ・・・!力が少し戻ってる・・・どういう事だ!?」
身動きの取れない瑜那が、どうやって体力を回復したのか。今の彼と同じようにワイヤーにより、獲物となるモンスターを捕らえ倒したとでもいうのだろうか。
宵命はそのままワイヤーを手繰り、壁の中へと駆け出していく。瑜那を見つけ出すのに、それ程距離も時間も掛からなかった。
反応のあった場所へ出ると、そこには顔色の良くなった瑜那の姿と、謎の少女の姿があった。
敵か味方か。この世界の人間か、異世界の遺物か分からなかった宵命は、鉄線のように強固にした鋭利なワイヤーを袖から伸ばし、少女の息の根を一撃で止めんと突きつける。
「待てッ・・・!大丈夫だよ、宵命。敵じゃない・・・」
「ッ・・・・・!」
驚きのあまり、その場に座り込んでしまった少女は、殺意を向ける宵命の鋭い目つきと凶器を向けられた恐怖で、小刻みに震えていた。
瑜那の側で立ち止まり、依然として少女に武器を向ける宵命は、殺意こそ収めながらも、少しでも少女が妙な真似をすれば殺せる態勢と覚悟だけは緩めなかった。
「何だ、なんでこいつがお前と一緒にいる?」
「命の恩人なんだ。彼女がいなければ、今頃僕は死んでいたかもしれない・・・。だから武器を納めてくれ。この子への手荒な真似は、僕が許さない!」
瑜那の表情を確認すると、その表情は冗談など言っているようには見えなかった。少女に傷を負わせれば、宵命であっても容赦はしないという意思を感じた。
彼の強い意志を感じ取り、宵命はゆっくり腕を下ろしてワイヤーを消した。
震える少女の元へゆっくりと歩き出した瑜那は、彼女の方にそっと手を乗せ、宵命が味方であることを説明した。
「大丈夫、彼は僕の双子の兄弟なんだ。だから君を傷つけたりしないよ」
「なぁ、こいつは何者なんだ?何故お前を助けた?」
彼の疑問ももっともなことだが、少女が瑜那を助けようとしたことに、これといって深い理由はなかったのだという。ただ純粋に、血を垂らしながら苦しむ、同い年くらいの少年を放っておけなかったのだそうだ。
しかし、彼らの姿が見えている以上、少女もただの人間という訳でもないのは事実。彼女が何者で、どうしてこんな危険なところにいるのか、それについては瑜那も聞いてはいなかった。
少女を落ち着かせてからゆっくり聞こうと、瑜那は彼女の背中をさすりながら、大丈夫大丈夫と優しい声で語りかけている。
お前が驚かせるからだぞと、宵命に冗談を吐きながら何とかその場の雰囲気を何とかしようと、兄弟の他愛のない口喧嘩を繰り広げていた。
暫くして落ち着いた少女は、瑜那の腕を掴みもう大丈夫だと口にする。そして二人が気になっていた少女の素性について、自ら話し始める。
「私の名前は“アリス“。貴方達が知っているのか分からないけど、WoFっていうゲームを遊んでたら、その世界のものが見えるようになったの・・・」
二人は彼女の言葉に思わず目を見開き、顔を見合わせる。驚いたことに、この少女もシンと同じ“異変“に巻き込まれたWoFのユーザーの一人だったのだ。
0
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
【修正中】ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜
水先 冬菜
ファンタジー
「こんなハズレ勇者など、即刻摘み出せ!!!」
某大学に通う俺、如月湊(きさらぎみなと)は漫画や小説とかで言う【勇者召喚】とやらで、異世界に召喚されたらしい。
お約束な感じに【勇者様】とか、【魔王を倒して欲しい】だとか、言われたが--------
ステータスを開いた瞬間、この国の王様っぽい奴がいきなり叫び出したかと思えば、いきなり王宮を摘み出され-------------魔物が多く生息する危険な森の中へと捨てられてしまった。
後で分かった事だが、どうやら俺は【生産系のスキル】を持った勇者らしく。
この世界では、最下級で役に立たないスキルらしい。
えっ? でも、このスキルって普通に最強じゃね?
試しに使ってみると、あまりにも規格外過ぎて、目立ってしまい-------------
いつしか、女神やら、王女やらに求婚されるようになっていき…………。
※前の作品の修正中のものです。
※下記リンクでも投稿中
アルファで見れない方など、宜しければ、そちらでご覧下さい。
https://ncode.syosetu.com/n1040gl/
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
生産職から始まる初めてのVRMMO
結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。
そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。
そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。
そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。
最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。
最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。
そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
クズな恩恵を賜った少年は男爵家を追放されました、 恩恵の名は【廃品回収】ごみ集めか?呪いだろうこれ、そう思った時期がありました、
shimashima
ファンタジー
成人に達した少年とその家族、許嫁のジルとその両親とともに参加した恩恵授与式、そこで教会からたまわった恩恵は前代未聞の恩恵、誰が見たって屑 文字通りの屑な恩恵 その恩恵は【廃品回収】 ごみ集めですよね これ・・ それを知った両親は少年を教会に置いてけぼりする、やむを得ず半日以上かけて徒歩で男爵家にたどり着くが、門は固く閉ざされたまま、途方に暮れる少年だったがやがて父が現れ
「勘当だ!出て失せろ」と言われ、わずかな手荷物と粗末な衣装を渡され監視付きで国を追放される、
やがて隣国へと流れついた少年を待ち受けるのは苦難の道とおもいますよね、だがしかし
神様恨んでごめんなさいでした、
※内容は随時修正、加筆、添削しています、誤字、脱字、日本語おかしい等、ご教示いただけると嬉しいです、
健康を害して二年ほど中断していましたが再開しました、少しずつ書き足して行きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる