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神代 コウ

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双子と少女

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 何か手がかりになるものは残っていないかと、注意深く探す宵命だったが、地面に残された僅かな血痕以外に、どこかへ向かったような痕跡は見当たらなかった。

 すぐにあることに気がついた少年は、両腕を横に大きく広げ、袖から複数のワイヤーを伸ばして建物の壁の中へ潜り込ませる。そしてサルベージをするかのようにワイヤーを揺らし、何かを探すようにゆっくりと建物の中を捜索する。

 僅かな反応も見逃さないよう、瞳を閉じて神経を腕に集中させる宵命。

 自力で歩き回れない程の怪我を負った瑜那が、現実世界を移動したとは思えない。そこで宵命が考えたのは、彼らの能力による物体の透過能力により身を隠しているのか。

 或いは、アサシンギルドのように建物の中に隠れた通路や空間があるのではと、ワイヤーの触れ具合によって探ろうとしていたのだ。

 そして少年の勘は見事に的中した。片方の腕から伸ばしたワイヤーが、何かにぶつかって僅かに揺れる。その反応を見逃さなかった宵命は、すぐに逆の腕の捜索を打ち切り、ワイヤーを切り離す。

 そして反応のあった方の腕に意識を集中させ、もう一度正確な位置を確かめる為、ワイヤーをゆっくり戻し触れる位置を探す。

 再びワイヤーが僅かに揺れる。そこでワイヤーの位置を固定し、まずは自身の影をワイヤーに乗せ、反応のあった位置にまで飛ばす。すると、影がワイヤーを歪ませた物に触れると、その者の魔力を彼の元へ伝える。

 「瑜那の魔力だッ・・・!力が少し戻ってる・・・どういう事だ!?」

 身動きの取れない瑜那が、どうやって体力を回復したのか。今の彼と同じようにワイヤーにより、獲物となるモンスターを捕らえ倒したとでもいうのだろうか。

 宵命はそのままワイヤーを手繰り、壁の中へと駆け出していく。瑜那を見つけ出すのに、それ程距離も時間も掛からなかった。

 反応のあった場所へ出ると、そこには顔色の良くなった瑜那の姿と、謎の少女の姿があった。

 敵か味方か。この世界の人間か、異世界の遺物か分からなかった宵命は、鉄線のように強固にした鋭利なワイヤーを袖から伸ばし、少女の息の根を一撃で止めんと突きつける。

 「待てッ・・・!大丈夫だよ、宵命。敵じゃない・・・」

 「ッ・・・・・!」

 驚きのあまり、その場に座り込んでしまった少女は、殺意を向ける宵命の鋭い目つきと凶器を向けられた恐怖で、小刻みに震えていた。

 瑜那の側で立ち止まり、依然として少女に武器を向ける宵命は、殺意こそ収めながらも、少しでも少女が妙な真似をすれば殺せる態勢と覚悟だけは緩めなかった。

 「何だ、なんでこいつがお前と一緒にいる?」

 「命の恩人なんだ。彼女がいなければ、今頃僕は死んでいたかもしれない・・・。だから武器を納めてくれ。この子への手荒な真似は、僕が許さない!」

 瑜那の表情を確認すると、その表情は冗談など言っているようには見えなかった。少女に傷を負わせれば、宵命であっても容赦はしないという意思を感じた。

 彼の強い意志を感じ取り、宵命はゆっくり腕を下ろしてワイヤーを消した。

 震える少女の元へゆっくりと歩き出した瑜那は、彼女の方にそっと手を乗せ、宵命が味方であることを説明した。

 「大丈夫、彼は僕の双子の兄弟なんだ。だから君を傷つけたりしないよ」

 「なぁ、こいつは何者なんだ?何故お前を助けた?」

 彼の疑問ももっともなことだが、少女が瑜那を助けようとしたことに、これといって深い理由はなかったのだという。ただ純粋に、血を垂らしながら苦しむ、同い年くらいの少年を放っておけなかったのだそうだ。

 しかし、彼らの姿が見えている以上、少女もただの人間という訳でもないのは事実。彼女が何者で、どうしてこんな危険なところにいるのか、それについては瑜那も聞いてはいなかった。

 少女を落ち着かせてからゆっくり聞こうと、瑜那は彼女の背中をさすりながら、大丈夫大丈夫と優しい声で語りかけている。

 お前が驚かせるからだぞと、宵命に冗談を吐きながら何とかその場の雰囲気を何とかしようと、兄弟の他愛のない口喧嘩を繰り広げていた。

 暫くして落ち着いた少女は、瑜那の腕を掴みもう大丈夫だと口にする。そして二人が気になっていた少女の素性について、自ら話し始める。

 「私の名前は“アリス“。貴方達が知っているのか分からないけど、WoFっていうゲームを遊んでたら、その世界のものが見えるようになったの・・・」

 二人は彼女の言葉に思わず目を見開き、顔を見合わせる。驚いたことに、この少女もシンと同じ“異変“に巻き込まれたWoFのユーザーの一人だったのだ。
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