World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
743 / 1,646

同志のその後

しおりを挟む
 時は遡り、シンと朱影が下水道で分かれた頃のこと。

 シンの囮のおかげで、大型のモンスターと一対一で戦うことのできた朱影は、見事にこれを撃破。シンとの合流は、当初の目的地であった電力施設で果たそうと、一足先に向かった。

 しかし、施設への入り口付近で暫く待った朱影の元に、白獅から連絡が入る。彼は下水道内にて、窮地を敵対組織の者に救われ、スパイとしてそのまま相手側の組織へ潜り込む経緯となったことを知る。

 その際に得た敵対組織の計画と戦力を考慮し、電力の復旧への関与から手を引くことを決断する。

 白獅は朱影に、瑜那と宵命の両名を連れ、東京から撤退するように命じる。初め朱影はその命令に抵抗していたが、アサシンギルドの情報漏洩や仲間の命の事を話に出されると、反撃の機会を惜しみながらもそれを承諾。

 電力施設から離れ、瑜那と宵命の元へ戻ろうとした時、施設周辺を担当していたフィアーズの幹部の一人に見つかってしまう。

 朱影の前に現れたのは、スーツ姿をしたサラリーマン風の容姿をした、ごく一般的な風貌をした何の変哲もない一人の男だった。

 この世界に慣れている朱影ですら、その男を見た時、現実世界の住人かと見間違うほど世界に溶け込んでいた。

 路地を駆け、周囲を警戒しながら仲間の元を目指していた朱影は、この停電の最中、動揺することもなく堂々と歩道を歩いているその男に、少しばかりの違和感を感じながらも、万が一にも気配を悟られぬよう速度を落とし、気づかれぬようゆっくり歩いた。

 しかし、歩いてくる男とすれ違ったその後、男は朱影に声をかけた。

 こちらの姿が見えているとは思わなかった朱影は、男の声に驚きすぐさま飛び退き武器を構える。

 「変わった風貌だな。この世界の者ではないな?」

 「・・・・・」

 適当に声を発しているだけかもしれない。朱影は警戒しながらも、一度男の言葉を無視し様子を見る。

 「見えているよ、お前に言っているんだ。知っているんだろ?お前も私も、この世界の者ではないこと。異世界の異物であることを・・・」

 「あぁ?・・・しらねぇなぁ、誰だテメェ?」

 白を切る朱影の態度に、男は何を思ってか鼻で笑い顔を一度下へ向けると、次に朱影へ向けた男の顔は鋭い眼光を放ち、彼の心臓の鼓動を乱した。

 「白を切っても無駄だ。お前は何者だ?何をしにここまで来た?」

 「質問ばかりだな。一つ良いことを教えてやるぜ。相手に何者か尋ねる時は、先に自ら名乗るのがこの世界の礼節らしいぜ?」

 男が答えるとは思わなかったが、このまま大人しく見逃してくれるとも思えなかった為、出来るだけの情報を引き出してやろうと、探りを入れる朱影。

 しかし、男の見せる余裕の態度から口を滑らせるかと思われていたが、容易く素性を明かすほど簡単ではなかった。

 「そうか、自ら喋る気はないようだな・・・」

 敵意を向けて一歩踏み出してきた男に対し、朱影は手にした槍を逆手に持ち、矛先を地面に向けそのまま突き刺すと、お得意のスキルを発動させようとした。

 だがその直後、男は妙な言葉を口にする。それは自信の現れなのか、何かのスキルによるものなのか。その直後に発動した朱影のスキル、地面から無数の槍が男目がけて飛び出す攻撃は、期待していた結果を得るには至らなかった。

 「“お前の槍は、私には当たらないよ“」

 アスファルトを突き破り、様々な種類の槍が男の方へ向かって突き出していく。しかし、圧倒的な数を誇って男を取り囲んだ朱影の槍は、一本も男に命中することなく、まるで槍自身が男を避けたとでも言わんばかりに的を外した。

 「ッ・・・!?」

 攻撃するという目的を終えた槍は、次々に光の粒子となって消えていった。足元にあった一本の槍を引き抜いて、何かを探るように眺める男は、その槍から朱影のいた世界の素性を探ろうとした。

 「何本か近しい世代の代物があるようだが、これで特定することは出来ないか・・・。武器から推測されることを警戒しているのか?なかなか用心深いじゃないか」

 確実に男を狙ったはずが、全て外れてしまうという衝撃的な光景を目にして、内心朱影は動揺していたが、男に隙を見せぬよう上手くそれを隠したまま、次なる攻撃のために新たな槍をその手に生み出す。

 「ごちゃごちゃうるせぇんだよ。まぐれでイキってんなよ、スカし野朗ッ!」

 朱影は手にした槍を、下水道の戦いで大型モンスターに見せた時のような、強烈な投擲で男を仕留めんと撃ち放つ。強靭な放出に槍は雷を纏うほど、勢いよく放たれた槍は確実に男の身体を狙っている。

 軌道は確実に命中する進路を辿っている。しかし、命中するかと思われた途端、槍の軌道が僅かにズレ、男の身体の横を通り過ぎていった。あまりにも不自然な移動に、朱影の疑問はその表情に表れていた。

 「不思議そうな顔だな。言っただろ?“お前の槍は当たらない“と」

 「どうなってやがる!?狙いは正確だった筈・・・」

 「“狙い“はな。だが、何事も結果は確実ではないだろ?」

 朱影に異常はない。命中率を下げられたり、状態異常をかけられた形跡は一切なかった。彼が攻撃を外す要因は、彼自身ではなく相手の男にあるとしか思えなかった。

 近づいてくる男に対し、朱影はその後もいくつもの攻撃を試みるが、男に傷一つつけることができなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~

華音 楓
ファンタジー
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられtた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一
ファンタジー
『いーわよ、そこまで言うならもう、親子の縁なんて切ってやる!! 絶対に成功するから、今に見てなさいよ!!』 如月風歌は、考えるより先に行動する脳筋少女。中学の卒業式の日に、親と大喧嘩し、その勢いで家出する。時空航行船のチケットを握りしめ、着の身着のまま&ほぼ無一文で、異世界に向かっていった。 同じ地球でありながら、魔法で発展した平行世界エレクトラ。この世界に来たのは『シルフィード』と呼ばれる、女性だけがなれる『超人気職業』に就くためだ。 上位階級のシルフィードは、トップアイドルのような存在。また、絶大な人気・知名度・影響力を持ち、誰からも尊敬される、人生の成功者。巨万の富を築いた者も、少なくはない。 だが、お金もない・人脈もない・知識もない。加えて、女子力ゼロで、女らしさの欠片もない。全てがゼロからの、あまりにも無謀すぎる挑戦。しかも、親から勘当を言い渡され、帰る場所すらない状態。 夢に燃えて、意気揚々と異世界に乗り込んだものの、待ち受けていのは、恐ろしく厳しい現実と、パンと水だけの極貧生活だった。 『夢さえ持っていれば、気合さえあれば、絶対に上手くいく!!』と信じて疑わない、脳筋でちょっとお馬鹿な少女。だが、チート並みのコミュ力(無自覚)で、人脈をどんどん広げて行く。 ほのぼの日常系。でも、脳筋主人公のため、トラブルが発生したり、たまにシリアスだったり、スポ根っぽい熱い展開も……。 裸一貫から成り上がる、異世界シンデレラストーリー。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

処理中です...