722 / 1,646
事件の当事者
しおりを挟む
東京都セントラルシティの聳える、広大な医療施設。そこには都心にはあまり見ない自然豊かな緑の景色がある。しかしこれも、現代の技術によって生成された植物達であり、嘗て地に生えていたというものとは別のものである。
建物は綺麗な状態で保たれている。技術の進歩は、こういった面では生活や歴史的財産を残すといった点において、大きな貢献に繋がっている。
建築当時の様子を記録することによって、それを維持する為の清掃や修復が毎日のように機械によって行われている。
白く美しい状態で保たれた施設に、明庵を乗せた車が到着する。車を降り、正面玄関から中へ入ると、広大なロビーへと出る。多くの人々が行き交い、病院という割には些か賑わっていた。
「サイバーエージェントの出雲明庵だ。今日の高速道路で起きた事件で搬送されてきた患者と面会したい」
受付のカウンターに設けられたモニターに映し出される、何処か機械的な表情を浮かべる女性AIに事情を話す明庵。サイバーエージェントは医療関係とも提携しており、彼らの個人データも共有されている為、認証が済めば簡単に中へ入ることが出来る。
「認証を確認。サイバーエージェントの出雲明庵様、ようこそいらっしゃいました。中へお入りください」
奥へと繋がる扉がスライドし開く。向こう側が綺麗に見えるほど薄いガラスの扉に見えるが、最新鋭の技術で強化されたガラスであり、銃弾程度であれば割れることのない素材が用いられている。
通路の壁に設置された端末に、自身のスマートフォンをかざす明庵。病院内のデータを移し、高速道路で消えたバイクの持ち主である患者の病室が表示される。
院内図のナビに従い、長い廊下とエレベーターに乗り、目的の病室へと辿り着く。扉の横に複数の名前が表示されている。その中にバイクの所有者と思われる人物の名を見つけ、ボタンを押す。
インターフォンのようなシステムが設けられており、特定の人物のベッドに、来客が来たという知らせが届く。それは同室の者であれ聞こえることはない。それぞれの患者への配慮が、より充実した環境となっている。
ベッドに備えられた端末から、来客の映像と開示可能な個人データも見ることが出来るため、患者側にも相手を選べるということになる。
サイバーエージェントは、民間人にも身近な機関であり、それなりの信用もあるため、警察が面会に来るというよりも警戒どは低くなる。患者への余計な負担も少なくなる。
患者による了承が得られたようで、病室への扉が開く。部屋自体は複数の患者と共有だが、中ではそれぞれのスペースが区切られており、曇りガラスによって中の様子は見えないようになっている。
ガラスの仕切りに患者のデータが表示されている。弥上奨志やがみ しょうじ。大きな外傷はないものの、事故の衝撃で気を失っており、体内への影響はないか精密検査及び、メンタル面での治療が行われているようだ。
仕切りに設けられたモニターにアクセスし、弥上へのコンタクトを図る。扉のロックが外れ中に入ると、ベッドに横になる弥上の姿があった。
「サイバーエージェントの人?警察の次はアンタ達か・・・」
「出雲明庵という。警察もここへ?」
どうやら明庵が来る前に、警察の関係者が彼の元を訪ねていたようだった。彼も聞こうとしていた、事件の様子を聴取され、弥上はその時体験したすべてのことを話したのだという。
それを聞いた明庵は、スマートフォンで警察の捜査ファイルへアクセスし、弥上奨志に行った事情聴取のデータを調べる。
「何?また事故のこと聞きに来たの?もう散々話したよ。これ以上ないってくらいにね」
「そうか、事故の概要についてはよく分かった。しかし私が聞きたいのは、事故のこととは少し違う。君がバイクから転落した時の話だ」
彼は、自身のバイクが現場から無くなっていることは既に警察側から聞かされ知っていた。ショックを受けていたものの、高速道路から下へ落下してしまったものとして捜索していることを告げられたそうだ。
「何か・・・自分の力とは別のものを感じなかったか?」
「別のもの・・・?」
聴取に訪れた警察達とは、明らかに様子の違う明庵に動揺し始める弥上。しかし、淡々と事故のことを聞いてくる警察の聴取の時とは違い、少しだけ警戒心を解いたのか、当時の記憶を呼び起こそうと必死に考える。
「弥上さんの運転には問題がなかった。バイクに組み込まれたアシスト機能やシステムデータにも異常は見受けられなかった。要するに、ハッキングによる第三者の手は入っていなかった。目の前で大きな事故が発生したとはいえ、貴方の運転には問題は見当たらない。だから妙なんだ・・・」
「妙・・・?一体どういうことだ?」
「もし良ければ、事故当時の弥上さんの記憶をスキャンさせてもらいたい。勿論、スキャンしたデータは貴方にも開示する」
「スキャンって・・・どうやって?」
「これだ・・・」
そういって明庵が取り出したのは、一見普通に見える小型のドローンだった。
「直接貴方に何かする訳じゃない。ちょっとだけあなたの側でこれを飛ばさせてもらう。それだけだ」
「それだけで俺の記憶がスキャン出来るって?ホントかよ。まぁ、飛ばすくらい構わねぇよ。確認もさせてくれんだろ?」
了承が得られて、僅かに口角を上げた明庵が黙って頷く。そして改造ドローンを病室内の彼のスペースで飛ばし、彼の脳波から得られた情報と高速道路にあるカメラとの映像を照らし合わせる。
「貴方がバイクから投げ出される時、僅かに動揺とは別の感情が読み取れる。何か・・・不思議な様子といった疑問を抱いた時に出る反応だ」
「わっわかんねぇよ!事故ってビックリしてさ、それどころじゃなかったんだ。何かに驚いたなんて覚えはないと思うけど・・・」
「ならば単刀直入に聞く。何かに身体を引っ張られたりしなかったか?」
弥上は寧ろ、明庵の発言に驚いた。明庵の見せた高速道路の映像には、弥上が点灯するところが映し出されていたが、その周りに彼に触れられる者など何処にも見当たらない。
こんな状況下で誰かを掴もうと接近すること自体、考えられないことだ。現に誰もいないことは、明庵自身が見せた映像が証明してしまっている。
「はぁ!?何いってんだ、誰もいないだろ?ほら!あり得ない!誰かが俺を掴むなんて」
彼の反応は至極真っ当なものだ。何もおかしなことは言っていない。二人の会話を聞いたら、きっと誰もが明庵の方がおかしなことを言っていると思うだろう。
だがこれが彼の追うものの存在であり、この世界に起きている“異変“なのだ。まだそれは、多くの人間にとって認知できないものではあるが、慎のように何か知っている者はある一定数存在している。
建物は綺麗な状態で保たれている。技術の進歩は、こういった面では生活や歴史的財産を残すといった点において、大きな貢献に繋がっている。
建築当時の様子を記録することによって、それを維持する為の清掃や修復が毎日のように機械によって行われている。
白く美しい状態で保たれた施設に、明庵を乗せた車が到着する。車を降り、正面玄関から中へ入ると、広大なロビーへと出る。多くの人々が行き交い、病院という割には些か賑わっていた。
「サイバーエージェントの出雲明庵だ。今日の高速道路で起きた事件で搬送されてきた患者と面会したい」
受付のカウンターに設けられたモニターに映し出される、何処か機械的な表情を浮かべる女性AIに事情を話す明庵。サイバーエージェントは医療関係とも提携しており、彼らの個人データも共有されている為、認証が済めば簡単に中へ入ることが出来る。
「認証を確認。サイバーエージェントの出雲明庵様、ようこそいらっしゃいました。中へお入りください」
奥へと繋がる扉がスライドし開く。向こう側が綺麗に見えるほど薄いガラスの扉に見えるが、最新鋭の技術で強化されたガラスであり、銃弾程度であれば割れることのない素材が用いられている。
通路の壁に設置された端末に、自身のスマートフォンをかざす明庵。病院内のデータを移し、高速道路で消えたバイクの持ち主である患者の病室が表示される。
院内図のナビに従い、長い廊下とエレベーターに乗り、目的の病室へと辿り着く。扉の横に複数の名前が表示されている。その中にバイクの所有者と思われる人物の名を見つけ、ボタンを押す。
インターフォンのようなシステムが設けられており、特定の人物のベッドに、来客が来たという知らせが届く。それは同室の者であれ聞こえることはない。それぞれの患者への配慮が、より充実した環境となっている。
ベッドに備えられた端末から、来客の映像と開示可能な個人データも見ることが出来るため、患者側にも相手を選べるということになる。
サイバーエージェントは、民間人にも身近な機関であり、それなりの信用もあるため、警察が面会に来るというよりも警戒どは低くなる。患者への余計な負担も少なくなる。
患者による了承が得られたようで、病室への扉が開く。部屋自体は複数の患者と共有だが、中ではそれぞれのスペースが区切られており、曇りガラスによって中の様子は見えないようになっている。
ガラスの仕切りに患者のデータが表示されている。弥上奨志やがみ しょうじ。大きな外傷はないものの、事故の衝撃で気を失っており、体内への影響はないか精密検査及び、メンタル面での治療が行われているようだ。
仕切りに設けられたモニターにアクセスし、弥上へのコンタクトを図る。扉のロックが外れ中に入ると、ベッドに横になる弥上の姿があった。
「サイバーエージェントの人?警察の次はアンタ達か・・・」
「出雲明庵という。警察もここへ?」
どうやら明庵が来る前に、警察の関係者が彼の元を訪ねていたようだった。彼も聞こうとしていた、事件の様子を聴取され、弥上はその時体験したすべてのことを話したのだという。
それを聞いた明庵は、スマートフォンで警察の捜査ファイルへアクセスし、弥上奨志に行った事情聴取のデータを調べる。
「何?また事故のこと聞きに来たの?もう散々話したよ。これ以上ないってくらいにね」
「そうか、事故の概要についてはよく分かった。しかし私が聞きたいのは、事故のこととは少し違う。君がバイクから転落した時の話だ」
彼は、自身のバイクが現場から無くなっていることは既に警察側から聞かされ知っていた。ショックを受けていたものの、高速道路から下へ落下してしまったものとして捜索していることを告げられたそうだ。
「何か・・・自分の力とは別のものを感じなかったか?」
「別のもの・・・?」
聴取に訪れた警察達とは、明らかに様子の違う明庵に動揺し始める弥上。しかし、淡々と事故のことを聞いてくる警察の聴取の時とは違い、少しだけ警戒心を解いたのか、当時の記憶を呼び起こそうと必死に考える。
「弥上さんの運転には問題がなかった。バイクに組み込まれたアシスト機能やシステムデータにも異常は見受けられなかった。要するに、ハッキングによる第三者の手は入っていなかった。目の前で大きな事故が発生したとはいえ、貴方の運転には問題は見当たらない。だから妙なんだ・・・」
「妙・・・?一体どういうことだ?」
「もし良ければ、事故当時の弥上さんの記憶をスキャンさせてもらいたい。勿論、スキャンしたデータは貴方にも開示する」
「スキャンって・・・どうやって?」
「これだ・・・」
そういって明庵が取り出したのは、一見普通に見える小型のドローンだった。
「直接貴方に何かする訳じゃない。ちょっとだけあなたの側でこれを飛ばさせてもらう。それだけだ」
「それだけで俺の記憶がスキャン出来るって?ホントかよ。まぁ、飛ばすくらい構わねぇよ。確認もさせてくれんだろ?」
了承が得られて、僅かに口角を上げた明庵が黙って頷く。そして改造ドローンを病室内の彼のスペースで飛ばし、彼の脳波から得られた情報と高速道路にあるカメラとの映像を照らし合わせる。
「貴方がバイクから投げ出される時、僅かに動揺とは別の感情が読み取れる。何か・・・不思議な様子といった疑問を抱いた時に出る反応だ」
「わっわかんねぇよ!事故ってビックリしてさ、それどころじゃなかったんだ。何かに驚いたなんて覚えはないと思うけど・・・」
「ならば単刀直入に聞く。何かに身体を引っ張られたりしなかったか?」
弥上は寧ろ、明庵の発言に驚いた。明庵の見せた高速道路の映像には、弥上が点灯するところが映し出されていたが、その周りに彼に触れられる者など何処にも見当たらない。
こんな状況下で誰かを掴もうと接近すること自体、考えられないことだ。現に誰もいないことは、明庵自身が見せた映像が証明してしまっている。
「はぁ!?何いってんだ、誰もいないだろ?ほら!あり得ない!誰かが俺を掴むなんて」
彼の反応は至極真っ当なものだ。何もおかしなことは言っていない。二人の会話を聞いたら、きっと誰もが明庵の方がおかしなことを言っていると思うだろう。
だがこれが彼の追うものの存在であり、この世界に起きている“異変“なのだ。まだそれは、多くの人間にとって認知できないものではあるが、慎のように何か知っている者はある一定数存在している。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?
サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに――
※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる