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サイバー犯罪対策課
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東京の電力施設が落とされ、街中から電気が失われた。時間帯的には深夜ということもあり、通常の生活をする者達にとってはそれ程大きな影響はなかったが、主に夜中心の仕事をする者や機械にとっては大事件になっていた。
警察のサイバー犯罪対策課も動き出し調査にあたる中、アサシンギルドのアジトを後一歩のところまで探っていた、出雲明庵が所属する民間組織、NGOsであるサイバーエージェントも動き出していた。
「見ろ、サイバーエージェントだ」
「かっこいいなぁ・・・」
「民間組織を謳っているけど、政府の依頼が最優先なんだろ?どこが民間人の味方なのかしら」
「私の友達も、部屋を覗き見られて依頼を出したのに、後回しにされたそうよ?結局お金なのよ」
政府の組織とは別に作られた組織であるものの、より多くのサイバー犯罪を捌くためには、より大規模で危険性のあるものが優先される。
そのことによって、まだそれ程大きな組織ではないサイバーエージェントは政府寄りの仕事を多く請け負うことになり、中々民間の依頼にまで手を伸ばせずにいた。
救いたい気持ちは勿論持っているが、そういった思いは中々世の中の人々には伝わらないものだ。どうしても悪い面ばかりが世間に広がり、良くない噂というものも絶えることはない。
それでも、ハッカー集団が多く蔓延るようになってしまった現代において、彼らのような専門家の組織は必要不可欠なのだ。
警視庁サイバー犯罪対策課本部。街から電力が落ちた中でも、予備電源により明かりが灯る高層ビルに、一人のスーツ姿の女性が現れた。
「“雫“さんだ!今回の担当なのかな?」
「見た目は美人なのにもったいないよなぁ。何で“あんな人“のこと追いかけてんだろうな?」
ロビーにいた者達が、その姿を見て騒つくほどの視線を集める女性がカウンターに表示されているモニターに話しかける。
「サイバーエージェントから来ました。“天羽あもう 雫しずく“です」
「天羽様のデータを認識しました。お待ちしておりました、どうぞお入り下さい」
音声ガイドに従い開かれた通路を進む雫。都心部の電源が落とされたと同時に、警視庁サイバー犯罪対策本部より、サイバーエージェントへ連絡が入っていた。
政府直々の呼びかけに応じるのは、エージェントの中でも特に優秀な人材であった。その筆頭と呼べるほど優秀な人材が、天羽雫という人物だった。
成績優秀で大学を卒業し、様々な必要資格を保有した上で、政府の組織ではなくサイバーエージェントに所属することとなる。
華やかな成績を収めた彼女が、何故エリート街道を外れ、わざわざサイバーエージェントになったのか。それには大きな理由があった。
彼女は幼い頃、サイバー犯罪に巻き込まれ命を落とすところだった。それを救ったのが、今の彼女が所属するサイバーエージェントだったのだ。
当時その事件を担当していたのは、出雲明庵という無愛想な男だった。事件に巻き込まれた雫の両親は他界し、独り身になった彼女は叔父夫婦に引き取られることとなる。
それでも、家族と暮らした家を忘れることなど出来ず、雫は度々事件によって崩壊した家へと足を運んだ。そこへ、調査のため幾度となく現場を訪れていた明庵の姿に、見た目以上にこの人は両親の死に関する真相を明かそうとしてくれているのだと、子供ながらに思ったのだ。
彼は雫に気づくと、危ないから家に帰れと何度も言った。しかし少女は、“私の家はここにある“と言って、夕暮れになるまで帰ろうとしなかった。
夜になっても帰ろうとしない少女を放っておくわけにもいかず、明庵は叔父夫婦の自宅まで送り届けることにした。
それからだ。少女と明庵は毎日のように事件現場で同じ日々を何度も繰り返した。痛々しく憔悴していく少女を見て、かつての自分と重ねたのか。明庵は叔父夫婦の了承を得て、食事を共にするようになった。
サイバーエージェントに所属しているものの、何かに取り憑かれたかのように事件へ没頭する姿から不気味がられ、爪弾きにされていた明庵には、政府からの依頼は任せられなかった。だが、彼は過去の真相を探るために独自で調査を開始したりと、何かとトラブルを巻き起こす存在だった。
少女の巻き込まれた事件は、大きな事件のほんの一部として、本部の人間達から軽く流されていた案件だったのだ。しかし明庵だけは、誰もいなくなっても一人で少女の事件を隈なく調査し続けた。
犯人を追うというのも勿論のことだが、それ以上に明庵にとってサイバー犯罪は、全て過去に刻まれた心の違和感に触れるものだったからだ。これを追い続ければ、いつか真相にたどり着けると、今も尚信じている。
「サイバーエージェントの方がいらしゃいました」
「おう、通してくれ」
捜査本部が組まれた会議室に、雫が到着した。政府からの最優先事項により依頼された本事件において、サイバーエージェント側もそれに相応しい人材を派遣した。
「お久しぶりです。“月島課長“」
「おぉ、天羽君が来てくれたのか!これは心強いな」
何度かサイバー犯罪対策課と交流のある雫は、本部の課長である月島という男とも面識があり、幾度となく事件解決に努めた。その功績が讃えられ、サイバーエージェントとの、今後長きにわたる契約がなされている。
「早速で申し訳ないが・・・」
「えぇ。粗方の事情や現状は把握しております。今回も所々に不可解な事が散りばめられているように感じます。我々はそちらを中心に調査いたします」
持ち物から取り出したカード型の小さなデバイスを指でなぞると、コンパクトになった都心部を映し出したホログラムが、デバイスの上に表示される。
ホログラムはゆっくり回転し、彼女が目星をつけていると思われる地点が赤い線で表示されているようだった。
この時間帯に起きている者であれば、電力が落ちたことには気づいていることだろう。問題は、それに乗じて犯罪を行う者がいるということだ。現に彼女のデバイスが映し出す都心部のモデルには、現在進行形でハッカーのものと思われる攻撃を検知している。
警察のサイバー犯罪対策課も動き出し調査にあたる中、アサシンギルドのアジトを後一歩のところまで探っていた、出雲明庵が所属する民間組織、NGOsであるサイバーエージェントも動き出していた。
「見ろ、サイバーエージェントだ」
「かっこいいなぁ・・・」
「民間組織を謳っているけど、政府の依頼が最優先なんだろ?どこが民間人の味方なのかしら」
「私の友達も、部屋を覗き見られて依頼を出したのに、後回しにされたそうよ?結局お金なのよ」
政府の組織とは別に作られた組織であるものの、より多くのサイバー犯罪を捌くためには、より大規模で危険性のあるものが優先される。
そのことによって、まだそれ程大きな組織ではないサイバーエージェントは政府寄りの仕事を多く請け負うことになり、中々民間の依頼にまで手を伸ばせずにいた。
救いたい気持ちは勿論持っているが、そういった思いは中々世の中の人々には伝わらないものだ。どうしても悪い面ばかりが世間に広がり、良くない噂というものも絶えることはない。
それでも、ハッカー集団が多く蔓延るようになってしまった現代において、彼らのような専門家の組織は必要不可欠なのだ。
警視庁サイバー犯罪対策課本部。街から電力が落ちた中でも、予備電源により明かりが灯る高層ビルに、一人のスーツ姿の女性が現れた。
「“雫“さんだ!今回の担当なのかな?」
「見た目は美人なのにもったいないよなぁ。何で“あんな人“のこと追いかけてんだろうな?」
ロビーにいた者達が、その姿を見て騒つくほどの視線を集める女性がカウンターに表示されているモニターに話しかける。
「サイバーエージェントから来ました。“天羽あもう 雫しずく“です」
「天羽様のデータを認識しました。お待ちしておりました、どうぞお入り下さい」
音声ガイドに従い開かれた通路を進む雫。都心部の電源が落とされたと同時に、警視庁サイバー犯罪対策本部より、サイバーエージェントへ連絡が入っていた。
政府直々の呼びかけに応じるのは、エージェントの中でも特に優秀な人材であった。その筆頭と呼べるほど優秀な人材が、天羽雫という人物だった。
成績優秀で大学を卒業し、様々な必要資格を保有した上で、政府の組織ではなくサイバーエージェントに所属することとなる。
華やかな成績を収めた彼女が、何故エリート街道を外れ、わざわざサイバーエージェントになったのか。それには大きな理由があった。
彼女は幼い頃、サイバー犯罪に巻き込まれ命を落とすところだった。それを救ったのが、今の彼女が所属するサイバーエージェントだったのだ。
当時その事件を担当していたのは、出雲明庵という無愛想な男だった。事件に巻き込まれた雫の両親は他界し、独り身になった彼女は叔父夫婦に引き取られることとなる。
それでも、家族と暮らした家を忘れることなど出来ず、雫は度々事件によって崩壊した家へと足を運んだ。そこへ、調査のため幾度となく現場を訪れていた明庵の姿に、見た目以上にこの人は両親の死に関する真相を明かそうとしてくれているのだと、子供ながらに思ったのだ。
彼は雫に気づくと、危ないから家に帰れと何度も言った。しかし少女は、“私の家はここにある“と言って、夕暮れになるまで帰ろうとしなかった。
夜になっても帰ろうとしない少女を放っておくわけにもいかず、明庵は叔父夫婦の自宅まで送り届けることにした。
それからだ。少女と明庵は毎日のように事件現場で同じ日々を何度も繰り返した。痛々しく憔悴していく少女を見て、かつての自分と重ねたのか。明庵は叔父夫婦の了承を得て、食事を共にするようになった。
サイバーエージェントに所属しているものの、何かに取り憑かれたかのように事件へ没頭する姿から不気味がられ、爪弾きにされていた明庵には、政府からの依頼は任せられなかった。だが、彼は過去の真相を探るために独自で調査を開始したりと、何かとトラブルを巻き起こす存在だった。
少女の巻き込まれた事件は、大きな事件のほんの一部として、本部の人間達から軽く流されていた案件だったのだ。しかし明庵だけは、誰もいなくなっても一人で少女の事件を隈なく調査し続けた。
犯人を追うというのも勿論のことだが、それ以上に明庵にとってサイバー犯罪は、全て過去に刻まれた心の違和感に触れるものだったからだ。これを追い続ければ、いつか真相にたどり着けると、今も尚信じている。
「サイバーエージェントの方がいらしゃいました」
「おう、通してくれ」
捜査本部が組まれた会議室に、雫が到着した。政府からの最優先事項により依頼された本事件において、サイバーエージェント側もそれに相応しい人材を派遣した。
「お久しぶりです。“月島課長“」
「おぉ、天羽君が来てくれたのか!これは心強いな」
何度かサイバー犯罪対策課と交流のある雫は、本部の課長である月島という男とも面識があり、幾度となく事件解決に努めた。その功績が讃えられ、サイバーエージェントとの、今後長きにわたる契約がなされている。
「早速で申し訳ないが・・・」
「えぇ。粗方の事情や現状は把握しております。今回も所々に不可解な事が散りばめられているように感じます。我々はそちらを中心に調査いたします」
持ち物から取り出したカード型の小さなデバイスを指でなぞると、コンパクトになった都心部を映し出したホログラムが、デバイスの上に表示される。
ホログラムはゆっくり回転し、彼女が目星をつけていると思われる地点が赤い線で表示されているようだった。
この時間帯に起きている者であれば、電力が落ちたことには気づいていることだろう。問題は、それに乗じて犯罪を行う者がいるということだ。現に彼女のデバイスが映し出す都心部のモデルには、現在進行形でハッカーのものと思われる攻撃を検知している。
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