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新たな目的と道標
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道標を失うと、別のものを道標に見立て行動する。それが生き物の本能だ。対して人は、目標にしていたものや信じていたものが突然失われると、不安に駆られ盲目的になり、他者からは予期せぬ行動や思想に至るケースがある。
そんな心理状態に陥った時、人はどんなに怪しい話や嘘のような話にでも縋りたくなる。道を失った者が、新たな道を提示されれば現状から抜け出そうと、それを新たな道とし歩んでしまう。
シンに記された道標は、どこの誰かもまだ判明していない者についていき、敵の内情視察をするという危険な者だった。しかし、それ以外に生きる道がないのなら、誰でもそうする他ないだろう。
ましてや自分と同じ境遇にある者の勧めであれば尚のこと。唯一共感できるものがあれば、それだけで安心感を抱いてしまうものだ。
現に、その者はシンを騙そうと近づいた訳ではなく、来る時に備え戦力となり得る者を味方につけようとしていた。彼自身にとっても、シンは見ず知らずの者ではあるが、同じ境遇であるが故に話を持ちかけたところが大きい。
「返事が来た。アンタについていくことにする。俺の力でどこまで協力できるか分からないけど・・・」
「何を言ってるんだ。一緒に来てくれるだけで感謝してるよ。戦闘に関してはさっき見せてもらった限りだと十分過ぎるほどだ。何せ本当に人手が足りなかったから、戦えるだけでも即戦力だ」
モンスターから逃げるのに必死で、方角なんてものはとっくに分からなくなっていた。だが、彼が向かっている先が敵部隊のところであるのなら、恐らく施設とは反対方向なのだろう。
施設は敵の部隊により包囲され、邪魔する者を迎え撃つため厳戒態勢に入っているとのこと。そこへ新入りを連れていくなど考えづらい。
既に電力の復旧へ向かってしまっている朱影には、白獅の方から連絡を取るという話になっている。間に合っていれば、彼も戦闘に突入する前に撤退という方向に転換していることだろう。
下水道の壁に隠された通路を進む二人、いくつかの階段を登り、出口へと近づいていることを予感させる。
「そういえば名前を聞いてなかった。俺は“イヅツ“だ。勿論ゲーム内での名前だけど、本名は隠しておいた方がいいだろ?」
彼は意外にも冷静であった。本名を語るのは非常に危険である。ハッキングが横行する現代において、実名を明かすのはそれだけで個人情報を特定するヒントになってしまう。
イヅツのおかげで、シンも冷静になることが出来た。見えている風景と自身の格好から、ここが現実の世界であること忘れてしまいそうになる。イヅツがユーザーネームを言ってくれたおかげで、無意識にシンも本名ではなくユーザーネームを答えていた。
「俺はシン」
「そうか、シンって言うのか。よろしくな」
階段の先で行き止まりに着くと、イヅツは壁の窪みに指を入れて引いた。すると、行き止まりだと思っていた正面の壁が動き出し、外の光が中へと入ってきた。
「さぁ外だ。言っておくがキャラクターの投影は解くなよ?このまま街の外れにある待機場所へ向かう」
「そこにアンタらのリーダーがいる・・・?」
「まぁそんなところだ。監視役に上層部の奴がいる。そこにいるのは比較的真っ当な奴だが、中には狂ってる奴もいる。入って火の浅い奴がそいつと一緒になると、それっきり姿を見なくなるってこともザラにある・・・」
やはり彼らのいる組織は、仲間という感覚で人を集めている訳ではなさそうだ。これでは謀反を起こしても仕方がない。シンももし、アサシンギルドに見つけられるよりも先に、その組織に入っていたのならイヅツと同じことを考えていただろう。
上の者の扱いが酷ければ酷いほど、下の者達の不平や不満は加速する。それは組織の崩壊や、統率力に大きく関わってくる。
彼らが慎重に戦力を集めているところから察するに、以前にも謀反を起こした者達がいたのだろう。そしてそれは、恐らく失敗に終わった。少数であったのか大所帯であったのかは定かではないが、単純に逃走するだけではきっと上手くいかなかったのだろう。
街にはサイレンの音が鳴り響き、現実に生きる警察や関係者による警備と誘導が行われていた。恐らく施設の方にも向かっており、電力の復旧に努めているに違いない。
「思ったより静かだな・・・。アンタらの組織の目的は何なんだ?」
シンは東京を包囲した組織が、電力を奪った後に暴れ回り襲撃を行う者とばかり思っていたが、街並みは至って落ち着いており、騒ぎになっている様子は見当たらなかった。
「さぁな・・・。俺達みたいな兵隊には目的なんて説明されないさ。それに、きっと騒ぎにはならない。今の俺達と同様、普通の人には何が起きているのかなんて分かりっこないんだから・・・」
言われてみればその通りだった。だが、こちらの見ている景色で建物の崩壊や爆発が起きれば、それに相応しい事故が起きている筈なのだ。
それは東京へ向かう途中の高速道路で、朱影達によって説明され確かに視認している。
これだけ多くの警察が出動していれば、妙庵のようなサイバーエージェントもどこかにいるのではないかと、シンはまるで未知の世界に迷い込んだように仕切りに周囲を見渡しながら、イヅツの後をついていった。
そんな心理状態に陥った時、人はどんなに怪しい話や嘘のような話にでも縋りたくなる。道を失った者が、新たな道を提示されれば現状から抜け出そうと、それを新たな道とし歩んでしまう。
シンに記された道標は、どこの誰かもまだ判明していない者についていき、敵の内情視察をするという危険な者だった。しかし、それ以外に生きる道がないのなら、誰でもそうする他ないだろう。
ましてや自分と同じ境遇にある者の勧めであれば尚のこと。唯一共感できるものがあれば、それだけで安心感を抱いてしまうものだ。
現に、その者はシンを騙そうと近づいた訳ではなく、来る時に備え戦力となり得る者を味方につけようとしていた。彼自身にとっても、シンは見ず知らずの者ではあるが、同じ境遇であるが故に話を持ちかけたところが大きい。
「返事が来た。アンタについていくことにする。俺の力でどこまで協力できるか分からないけど・・・」
「何を言ってるんだ。一緒に来てくれるだけで感謝してるよ。戦闘に関してはさっき見せてもらった限りだと十分過ぎるほどだ。何せ本当に人手が足りなかったから、戦えるだけでも即戦力だ」
モンスターから逃げるのに必死で、方角なんてものはとっくに分からなくなっていた。だが、彼が向かっている先が敵部隊のところであるのなら、恐らく施設とは反対方向なのだろう。
施設は敵の部隊により包囲され、邪魔する者を迎え撃つため厳戒態勢に入っているとのこと。そこへ新入りを連れていくなど考えづらい。
既に電力の復旧へ向かってしまっている朱影には、白獅の方から連絡を取るという話になっている。間に合っていれば、彼も戦闘に突入する前に撤退という方向に転換していることだろう。
下水道の壁に隠された通路を進む二人、いくつかの階段を登り、出口へと近づいていることを予感させる。
「そういえば名前を聞いてなかった。俺は“イヅツ“だ。勿論ゲーム内での名前だけど、本名は隠しておいた方がいいだろ?」
彼は意外にも冷静であった。本名を語るのは非常に危険である。ハッキングが横行する現代において、実名を明かすのはそれだけで個人情報を特定するヒントになってしまう。
イヅツのおかげで、シンも冷静になることが出来た。見えている風景と自身の格好から、ここが現実の世界であること忘れてしまいそうになる。イヅツがユーザーネームを言ってくれたおかげで、無意識にシンも本名ではなくユーザーネームを答えていた。
「俺はシン」
「そうか、シンって言うのか。よろしくな」
階段の先で行き止まりに着くと、イヅツは壁の窪みに指を入れて引いた。すると、行き止まりだと思っていた正面の壁が動き出し、外の光が中へと入ってきた。
「さぁ外だ。言っておくがキャラクターの投影は解くなよ?このまま街の外れにある待機場所へ向かう」
「そこにアンタらのリーダーがいる・・・?」
「まぁそんなところだ。監視役に上層部の奴がいる。そこにいるのは比較的真っ当な奴だが、中には狂ってる奴もいる。入って火の浅い奴がそいつと一緒になると、それっきり姿を見なくなるってこともザラにある・・・」
やはり彼らのいる組織は、仲間という感覚で人を集めている訳ではなさそうだ。これでは謀反を起こしても仕方がない。シンももし、アサシンギルドに見つけられるよりも先に、その組織に入っていたのならイヅツと同じことを考えていただろう。
上の者の扱いが酷ければ酷いほど、下の者達の不平や不満は加速する。それは組織の崩壊や、統率力に大きく関わってくる。
彼らが慎重に戦力を集めているところから察するに、以前にも謀反を起こした者達がいたのだろう。そしてそれは、恐らく失敗に終わった。少数であったのか大所帯であったのかは定かではないが、単純に逃走するだけではきっと上手くいかなかったのだろう。
街にはサイレンの音が鳴り響き、現実に生きる警察や関係者による警備と誘導が行われていた。恐らく施設の方にも向かっており、電力の復旧に努めているに違いない。
「思ったより静かだな・・・。アンタらの組織の目的は何なんだ?」
シンは東京を包囲した組織が、電力を奪った後に暴れ回り襲撃を行う者とばかり思っていたが、街並みは至って落ち着いており、騒ぎになっている様子は見当たらなかった。
「さぁな・・・。俺達みたいな兵隊には目的なんて説明されないさ。それに、きっと騒ぎにはならない。今の俺達と同様、普通の人には何が起きているのかなんて分かりっこないんだから・・・」
言われてみればその通りだった。だが、こちらの見ている景色で建物の崩壊や爆発が起きれば、それに相応しい事故が起きている筈なのだ。
それは東京へ向かう途中の高速道路で、朱影達によって説明され確かに視認している。
これだけ多くの警察が出動していれば、妙庵のようなサイバーエージェントもどこかにいるのではないかと、シンはまるで未知の世界に迷い込んだように仕切りに周囲を見渡しながら、イヅツの後をついていった。
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