712 / 1,646
包囲網
しおりを挟む
彼の話では、その者達は白獅らとは違い友好的ではないようで、WoFのユーザーを捕まえては、モンスターや邪魔をする者達と戦うのを強要するのだという。
自分の置かれている状況と、WoFのキャラクターを自分の身体に反映させることに慣れていないユーザー達は、軒並み彼らに制圧され、協力するか死ぬかの選択を迫られる。
彼らはまるでWoFの上位ユーザーのように強く、手も足も出ないまま彼らの私兵になるしかなかった。
彼らの支配下に加わることで、キャラクターの反映の仕方自体は教授してもらえるものの、実際の戦闘は現地で行うか、余り物の“実験体“と呼ばれるモンスターを使っての、実戦さながらの訓練しかさせてもらえない。
中には、実際の攻撃を受けた痛みと恐怖に耐え切れない者もいたが、彼らは助けようとはしない。ユーザーが死ぬことに何も思っていないようで、死体だけが回収されるのだという。
回収された者達がどうなるのかは、彼らのような末端の兵には知る由もない。ただ、安らかな埋葬や処分をされていないであろうことだけは、何となく皆分かっているのだという。
「何だよそれ・・・。俺はそんな所へは行かないぞ!?」
「お仲間のところへ帰ろうってんだろ?やめておけ、奴らの組織は想像以上に大きく残虐だ。さっきのモンスターだって、WoFにはいなかっただろ?あれだって奴らが何かしたに違いない!その証拠に、奴らがこの下水を通る時は、あんなモンスターは出てこないんだ」
しかし、だからといって白獅らと勝手に別れることも出来ないし、この協力関係は断ち切りたくはない。もし利用されているだけだとしても、少なくとも彼らはシン達WoFのユーザーに危害を加えることはないのだから。
「なら、アンタが俺達と来ないか?彼らに説明すればきっと受け入れて・・・」
シンの申し出の言葉を遮るように、その男は悲しい表情を浮かべて断った。
「無理だよ・・・。私兵になった時点で、俺達の居場所は把握されてる。もし俺がついていけば、アンタとその仲間達の居場所が知られて、ただでは済まないだろう・・・」
「・・・なら、尚更一緒にはいけない」
そういうと、男はシンの腕を掴み命乞いをするかのように訴えかける。
「頼む・・・。アンタは戦えるんだろ?少しでも仲間が必要なんだ。それに・・・」
彼が執拗に勧誘してくるのには、ある理由があった。初めに言った通り、少しでも戦力が必要なのは確かだが、シンのように現実の世界での戦闘を行える者は、そう多くはないのだそうだ。
そもそもキャラクターの反映方法すら知らない者達がほとんどで、何も知らないまま戦地に放り出されても、現代で平和に暮らしてきた彼らに、すぐに対応できるものではない。
それでも徐々に力をつけ、少しづつ同じ境遇にある仲間達を集めていた彼らは、十分な戦力と人数、そして組織の信頼を得たところで脱走を試みようとしているのだと話す。
「今、この東京のセントラルには多くの組織の幹部クラスが集まってる。そいつらに見つかれば、ただでは済まない。アンタが一緒にいた奴・・・。WoFのユーザーなのか?」
「そうじゃないが・・・事情を話せば何か力になれるかも知れない」
「なら今すぐ彼を止めた方がいい。電力の供給を遮断したのは奴らだ。警察や現実に生きる者達の手で復旧させるには、時間がかかる筈だ。それを餌に敵対組織や、邪魔者を炙り出そうとしている・・・。勿論、施設にも幹部の連中がいる。いくらアンタの仲間が強くても、奴らを複数相手にして勝てるほど甘くはないぞ」
罠かも知れないということは、初めから想定されていたことだった。だからこそ隠密で事を成そうとしていた。用心していることには変わりないが、何の因果か相手側の兵から情報を受け取ったシンは、すぐに施設へ向かった朱影へメッセージを送る。
シンの視線がWoFのメニューを開く動きだと察した男は、なるべく面倒ごとが起きる前に引かせたいと焦らせる。
だが、彼らの杞憂も虚しく、既に外では何かしらの動きがあったようだった。
突如聞こえてくる大きな物音。それは地上からのものであるとみて間違いないが、下水道にもハッキリと聞こえてきたということは、朱影が表に出るところを狙われたのではないかと、二人に想像させる。
「今のはッ・・・!?」
「・・・遅かった。いいか?もう一度言う。この下水道も外も、完全に包囲されている。逃げ場なんてない。奴らは電力を復旧させに来た者を、敵対者として始末すると言っていた。もしアンタの仲間を助けにいけば、俺達の身も危ない。だが、俺についてくれば、アンタだけなら救える」
そんな事を言われても、シンにはどうするべきか即断するほどの余裕はなかった。朱影からの返事は返ってこない。そこで考えたのは、一度白獅に現状の報告と、今後の動きについて指示を仰ぐと言うものだった。
実際、この男の話がどこまで信用できるものなのかも分からない。だが、必死に訴えかけてくる様子からは、とても嘘をついているようには思えなかった。
しかし、シンは現実の世界で過去に、信じていた友人から裏切られ孤立し、自堕落の毎日を過ごすようになってしまった。人を信用するということに、臆病になっていた。
「もう一人、連絡を取りたい人物がいる。遠距離になるが、メッセージを送っても?」
「WoFのメッセージ機能なら、奴らに検知されることはないから大丈夫だ。俺達もそれで連絡を取り合っているからな」
WoFのメッセージ機能は、彼らにのみ使える通信機能だが、アサシンギルドはシン達らWoFのユーザーの協力を得て、同じようなシステムを仲間内のみで構築し使用している。
無論、外部からのハッキング対策もされており、暗号を知らなければその一切を盗み見ることは不可能。そのやり取りは、当事者同士にしか権限が与えられず、他者が抜き取ることも難しいのだという。
そしてシンは、それを使い今後どうするべきか。自分と仲間の命運を白獅に委ねる選択を取ったのだ。
自分の置かれている状況と、WoFのキャラクターを自分の身体に反映させることに慣れていないユーザー達は、軒並み彼らに制圧され、協力するか死ぬかの選択を迫られる。
彼らはまるでWoFの上位ユーザーのように強く、手も足も出ないまま彼らの私兵になるしかなかった。
彼らの支配下に加わることで、キャラクターの反映の仕方自体は教授してもらえるものの、実際の戦闘は現地で行うか、余り物の“実験体“と呼ばれるモンスターを使っての、実戦さながらの訓練しかさせてもらえない。
中には、実際の攻撃を受けた痛みと恐怖に耐え切れない者もいたが、彼らは助けようとはしない。ユーザーが死ぬことに何も思っていないようで、死体だけが回収されるのだという。
回収された者達がどうなるのかは、彼らのような末端の兵には知る由もない。ただ、安らかな埋葬や処分をされていないであろうことだけは、何となく皆分かっているのだという。
「何だよそれ・・・。俺はそんな所へは行かないぞ!?」
「お仲間のところへ帰ろうってんだろ?やめておけ、奴らの組織は想像以上に大きく残虐だ。さっきのモンスターだって、WoFにはいなかっただろ?あれだって奴らが何かしたに違いない!その証拠に、奴らがこの下水を通る時は、あんなモンスターは出てこないんだ」
しかし、だからといって白獅らと勝手に別れることも出来ないし、この協力関係は断ち切りたくはない。もし利用されているだけだとしても、少なくとも彼らはシン達WoFのユーザーに危害を加えることはないのだから。
「なら、アンタが俺達と来ないか?彼らに説明すればきっと受け入れて・・・」
シンの申し出の言葉を遮るように、その男は悲しい表情を浮かべて断った。
「無理だよ・・・。私兵になった時点で、俺達の居場所は把握されてる。もし俺がついていけば、アンタとその仲間達の居場所が知られて、ただでは済まないだろう・・・」
「・・・なら、尚更一緒にはいけない」
そういうと、男はシンの腕を掴み命乞いをするかのように訴えかける。
「頼む・・・。アンタは戦えるんだろ?少しでも仲間が必要なんだ。それに・・・」
彼が執拗に勧誘してくるのには、ある理由があった。初めに言った通り、少しでも戦力が必要なのは確かだが、シンのように現実の世界での戦闘を行える者は、そう多くはないのだそうだ。
そもそもキャラクターの反映方法すら知らない者達がほとんどで、何も知らないまま戦地に放り出されても、現代で平和に暮らしてきた彼らに、すぐに対応できるものではない。
それでも徐々に力をつけ、少しづつ同じ境遇にある仲間達を集めていた彼らは、十分な戦力と人数、そして組織の信頼を得たところで脱走を試みようとしているのだと話す。
「今、この東京のセントラルには多くの組織の幹部クラスが集まってる。そいつらに見つかれば、ただでは済まない。アンタが一緒にいた奴・・・。WoFのユーザーなのか?」
「そうじゃないが・・・事情を話せば何か力になれるかも知れない」
「なら今すぐ彼を止めた方がいい。電力の供給を遮断したのは奴らだ。警察や現実に生きる者達の手で復旧させるには、時間がかかる筈だ。それを餌に敵対組織や、邪魔者を炙り出そうとしている・・・。勿論、施設にも幹部の連中がいる。いくらアンタの仲間が強くても、奴らを複数相手にして勝てるほど甘くはないぞ」
罠かも知れないということは、初めから想定されていたことだった。だからこそ隠密で事を成そうとしていた。用心していることには変わりないが、何の因果か相手側の兵から情報を受け取ったシンは、すぐに施設へ向かった朱影へメッセージを送る。
シンの視線がWoFのメニューを開く動きだと察した男は、なるべく面倒ごとが起きる前に引かせたいと焦らせる。
だが、彼らの杞憂も虚しく、既に外では何かしらの動きがあったようだった。
突如聞こえてくる大きな物音。それは地上からのものであるとみて間違いないが、下水道にもハッキリと聞こえてきたということは、朱影が表に出るところを狙われたのではないかと、二人に想像させる。
「今のはッ・・・!?」
「・・・遅かった。いいか?もう一度言う。この下水道も外も、完全に包囲されている。逃げ場なんてない。奴らは電力を復旧させに来た者を、敵対者として始末すると言っていた。もしアンタの仲間を助けにいけば、俺達の身も危ない。だが、俺についてくれば、アンタだけなら救える」
そんな事を言われても、シンにはどうするべきか即断するほどの余裕はなかった。朱影からの返事は返ってこない。そこで考えたのは、一度白獅に現状の報告と、今後の動きについて指示を仰ぐと言うものだった。
実際、この男の話がどこまで信用できるものなのかも分からない。だが、必死に訴えかけてくる様子からは、とても嘘をついているようには思えなかった。
しかし、シンは現実の世界で過去に、信じていた友人から裏切られ孤立し、自堕落の毎日を過ごすようになってしまった。人を信用するということに、臆病になっていた。
「もう一人、連絡を取りたい人物がいる。遠距離になるが、メッセージを送っても?」
「WoFのメッセージ機能なら、奴らに検知されることはないから大丈夫だ。俺達もそれで連絡を取り合っているからな」
WoFのメッセージ機能は、彼らにのみ使える通信機能だが、アサシンギルドはシン達らWoFのユーザーの協力を得て、同じようなシステムを仲間内のみで構築し使用している。
無論、外部からのハッキング対策もされており、暗号を知らなければその一切を盗み見ることは不可能。そのやり取りは、当事者同士にしか権限が与えられず、他者が抜き取ることも難しいのだという。
そしてシンは、それを使い今後どうするべきか。自分と仲間の命運を白獅に委ねる選択を取ったのだ。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します
地球
ファンタジー
「え?何この職業?」
初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。
やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。
そのゲームの名はFree Infinity Online
世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。
そこで出会った職業【ユニークテイマー】
この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!!
しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる