World of Fantasia

神代 コウ

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 現実世界に戻ってきて初めてのメッセージ。何の疑いもなく、WoFの世界と同じ感覚でメッセージ画面を開こうとする慎。視線をアイコンに合わせ操作する。

 送信先が瑜那となっており、件名が“緊急“となっていた。無論この状況下の中で送られたものなので、彼もきっと慎に急いで確認してもらいたかったことは分かる。

 だがそれなら、どうして直接いってくれなかったのだろう。窓に頭を近づけ、少し大きな声で喋れば運転席にいる慎にも届いたことだろうそれをしなかったのは、何か彼なりに理由があってのことなのだろうか。

 「瑜那・・・?」

 早速メッセージの本文を開いてみると、慎の前に瑜那が何やら入力していた時と同じ、背景を透過するホログラムのディスプレイが現れ、メッセージを表示する。

 《車が落下を止め、宙にぶら下がった頃に白獅さんの言っていた、“WoFのキャラクターの投影“を試みてください。その瞬間なら相手側にも貴方の変化を見られることも、データを計測されることもないでしょう。なるべく我々アサシンギルドのメンバー以外に、貴方が姿を変えられることを知られない方が良いかと思います。初めは上手くいかないかも知れませんが、生きていたいのなら身につけなければならない力です。どうか臆さず試みてみて下さい》

 メッセージを読んだ時、慎は白獅に言われたことと、初めてミアが助けてくれた時のことを思い出した。WoFのキャラクターが現実の世界で動き回り、モンスターと戦う光景を見た時は、何とも不思議な感覚だった。

 WoFの世界は、ゲームとしてプレイしていた時と然程変わらなかったが、現実世界の建物や風景の中に、ファンタジー世界のものが存在するのは何とも違和感があった。

 あちらの世界へ向かう際は、スマホやPCといったデバイスが必要になる。慎は自分の服を調べ、スマホがあるかどうかを探した。すると、外出時にいつも入れているポケットに、それらしき感触を感じると、手を突っ込み暗い穴蔵から引っ張り出すように引き抜く。

 彼のての中にあったのは、間違いなく自分のスマホだった。初めてWoFの世界へ転移した時から何も変わっていないのか、それとも白獅が準備してくれたのか。今は分からないが、ミアに説明を受けた時の事を思い出しながら、WoFへログインし、キャラクター選択画面を開く。

 すると画面には、いつもは書かれていない文章が存在していたのだ。普段なら「このキャラクターでログインしますか?」という確認の文章と、“はい“と“いいえ“が表示されるのだが、見た事もない項目が一つ追加されていた。

 そこには「このキャラクターを自身にインストールし、貴方のデータをアップロードします」という文章が表示されていたのだ。

 これが正解かどうかは分からなかったが、直感で慎はこれが“キャラクターを投影する“事なのだと信じた。普段とは違う操作を行うことに違和感と不安を抱えつつも、視線を新たな項目に合わせる。

 間も無くして表示は消え、代わりにインストール中の文字が表示された。瑜那からのメッセージを表示させていたディスプレイは、慎の視界の邪魔にならないよう、透明度が強くなっており、ついモニターを出しっぱなしでスマホを操作していたことに気がつく。

 視線をホログラムのディスプレイに合わせると透明度は弱まり、手にしているスマホの画面よりも前面にディスプレイが表示された。そしてその画面にも、WoFにアクセスしたスマホの画面に表示されているのと同じ、“インストール中“の文字が表示され、ぐるぐると読み込んでいる表示が現れていた。

 「・・・?同期してるのか、これは・・・。これで合ってる・・・?」

 慎が行う作業が一時的になくなってしまい、手持ち無沙汰になる。特にすることもなく、他の操作はしない方がいいかと考えた慎は、少しでも外の様子を伺おうと、窓から外を見渡す。

 どうやら車体は、何かによって吊り下げられている状態になっているようだ。位置としては頭上の高速道路と、下に見える木々から、丁度中間らへんの位置で踏み止まっていることが確認できる。

 窓から頭を出し下を見てみると、この高さから落下したら確実に無事では済まないことが分かる。そして、恐る恐る頭上を見上げると、黒煙が広がっており先が見えなくなっていた。

 爆弾が仕掛けられていたのは、慎のいる位置より僅かに上のようだ。煙が車体より少し上で起こっている。もし煙の中だったら、呼吸すらままならなかったかもしれないと思うと、冷や汗が止まらなかった。

 胸を撫で下ろす大きなため息を吐くと、慎はサイドミラーに映る自分の姿を見て驚愕した。そこには日頃いつも見ていた服装をした、この現実世界には似つかわしくない人物が映っていたのだ。

 「あっ・・・シンだ・・・。シンがいるッ・・・!」

 彼の口にした言葉を再現するかのように、サイドミラーに映ったシンは口元を覆った布の先でモゴモゴと口を動かしていた。
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