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神代 コウ

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瑜那からのメッセージ

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 暫くすると宵命のついている手のひらから、ワイヤーを繋ぎ止める金具のような物が現れる。そこには頑強に固められた真っ黒で何か分からない物が、黒煙の向こう側へと、急速に伸びていった。

 「さぁ・・・あともう一本ッ・・・!」

 そう言うと宵命は、再び手をつき黒い影を出現させる。その間に瑜那は、身体の前で手をスライドさせ、ホログラムで出来たディスプレイを表示させて何やら入力をしていた。

 警備ドローンをハッキングしていた時と同様に、何かへアクセスしているのだろうか。瑜那の入力よりも先に、宵命のワイヤーの方が先に繋がったようだ。

 策の準備が整った宵命は、ディスプレイへの入力に夢中になっている瑜那へ、作業の終了を報告する。

 「おい!終わったぞ。いつまでやってるッ!?」
 「ぁ、あぁごめん。もう終わるよ。それで?上手くいきそうかい?」

 「おうよ!これだけ頑丈なモンは、そうそうねぇぜ!」
 「それはよかった。いい引きをしたね!やっぱり僕より運が良いな」

 ディスプレイを消し、宵命の準備した黒く先へ伸びる影を掴み、感触を確認する瑜那。先程の言葉の通り、彼の想像する以上の強度の物が引けたようだ。首を数回、小刻みに縦に振ると、二人は決意の眼差しで互いを見つめる。

 「いくよ、宵命ッ!」
 「いくぜ、瑜那ッ!」

 その言葉を合図に、二人の少年は同時に車から飛び出し、前方へと飛んでいった。慎の想像した通り、常人ではあり得ない動きと速度で黒煙の中へと消えていった二人には、WoFのシンのようにステータスの補正が掛かっているのだろう。

 しかし、彼らの作戦は突如、トラブルに合う羽目になる。慎の乗る車を離れ、前方の黒煙の先へと飛び込んでいった瑜那と宵命だったが、視界不良の煙の中で突然、瑜那の声が聞こえた。

 「うッ・・・!」

 爆発の勢いで飛び散った瓦礫が、黒煙へ飛び込んだ瑜那に命中してしまったのだ。強い衝撃に身体は弾かれ、その勢いを殺されてしまった。宵命が出した黒い影を手に、瑜那は意識を失ったまま転落していってしまった。

 衝撃を堪えようと声を殺してしまったのが不運へと繋がる。炎と瓦礫の飛び散る音で、瑜那の声は宵命に届くことはなかった。

 一人作戦通り、道路の向こう側へと辿り着いた宵命が、瑜那も無事に辿り着けたかと顔を向ける。しかし、黒煙のせいで姿は確認できず、その気配も感じることはなかった。

 「あぁ!?おい、瑜那?どこだ!?返事しろッ!」

 宵命の声は黒煙に飲み込まれるように消えていき、彼に向けて返される言葉も音もなかった。

 「アイツッ・・・!まさかッ!?」

 彼は手にした黒い影を道路に繋ぐと、車に残してきた金具と同じものが道路から現れ、二つの地点を黒い影が結ぶ形となった。繋ぎ終えたことにより、黒い影に身を包んでいた物が影のベールを脱ぎ捨て、これまで少年達が使っていたワイヤーとは比較にならない程の太さのワイヤーが現れた。

 するとワイヤーはすぐに道路の下へ向けて垂れ下がり、何かに引っ張られるようにピンと張られる。その先に何が繋がれているのか、言うまでもないだろう。

 少年達が手にしていたワイヤー。それを辿れば瑜那もいるはず。崩落した道路へと向かい、覗き込むように身を乗り出す宵命。

 「くッ・・・!おい!聞こえるかぁッ!?」

 しかし、彼の呼びかけに応える声はしなかった。

 爆発により崩落した道路から落下した慎は、車の中で必死に衝撃に耐えようとハンドルを握りしめていた。そして落下して間も無く、車体は何かに吊られるように降下を止める。

 だがその衝撃は強く、車の屋根をメリメリと剥がし始めた。シートに叩きつけられるような衝撃の後、車はゆっくりと大きく前後に揺れていた。

 「たっ助かった・・・のか?」

 全身に走る痛みに顔を歪めながら、細めた目で周囲を確認する慎。しかし、窓の外は黒煙でほとんど何も見えず、あちらこちらに燃え移った炎の明かりが見えた。

 そしてもう一つ、慎の視界に映り込んでいたものがあった。それはWoFの世界にログインしている時に見えるようになる、メッセージの通知アイコンだった。

 「何で・・・ログインしていない筈なのに・・・?」

 メッセージ機能はあくまで、あちら側の世界にいる時だけしか表示されないものだった筈。それが現実世界にいても見えるようになっているというのは、一体どういう訳か。

 混乱しながらも、WoFの世界と同じようにアイコンを開き、メッセージを確認する。するとそこには、瑜那から慎に宛てたメッセージが届いていた。
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