World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
679 / 1,646

予想外の襲撃方法

しおりを挟む
 緩やかな坂を登りながら徐々に高度を上げていく。外に見える景色も、まだ人の手が入っていない自然を残したものに変わり、見下ろす形になっている。

 「爆発か!?爆発なのか!?」
 「静かにして!宵命!大丈夫、慌てなくてももうすぐ暴れられるから」

 「お、俺はいつ手動に・・・?」

 「僕が合図するので安心して下さい。朱影さん、気配は感じますか?」

 目を閉じ、周囲の音に耳を澄ませる朱影。風の音に隠れる爆弾の発する僅かな音を聞き取ろうとしている。しかし、彼のその表情は曇っていた。どうやらなかなか見つけることが出来ないでいるらしい。

 「チッ・・・!分からねぇな。まさか罠なんて無かったってオチはねぇだろうなぁ!?」

 「まさか・・・。だって後をつけてくる数台の後続車は、一定の距離を保って近づこうしないんですよ?何か仕掛けがあるからこそ、距離をとっているのでは?」

 初めから襲うつもりなら、わざわざ距離を空けたり場所を選んだりはしないだろう。朱影らにとっては、寧ろその方がありがたかったのだが、恐らく相手側も無策で攻めてくるつもりはないようだ。

 「だが、俺の耳に引っ掛からねぇなんてッ・・・」

 朱影が自前のパッシブスキルで音探知を敢行する中、今まで沈黙を保っていた先頭を走る相手の後続車が、遂に動き出した。

 それは彼らの予想を上回る方法で、攻撃を始めたのだった。朱影が自慢の能力を語ろうとしたところで、後続車の一台が大きな音を立てて飛び上がったのだ。

 車はまるで、ジャンプ台にでも登ったかのように大きな跳躍を見せて加速し、慎達の乗る車へと上空から近づいてきた。

 物音に驚いた一行が、一斉に後方を確認すると、そこには空を飛ぶ車が形を変えながら飛んでいるのがその目に映る。

 「なッ・・・!」
 「何だありゃぁ!?」

 「馬鹿なッ・・・!」

 ありえない光景に大粒の汗が額を伝う。機械の部品がぶつかり合う鈍い音を立てながら、空中で形を変える車は、徐々にその変形後の姿を予想させる姿へと変わっていく。

 車の後方部分が形を変え、何かの動物のような足の形へと姿を変える。足先の形状や太ももの様子から、四足獣の何かであることがすぐに分かった。

 「あ、あれはッ・・・!」

 「豹だ!黒豹みてぇな姿に変わりやがったッ・・・!」

 「このままじゃ押し潰されッ・・・!」

 瑜那が言葉にするよりも先に、上空へと飛び上がった車は黒豹を模した形状へと変わり、タイヤではなく外装パーツを組み替え足のようにし、慎達の乗る車をそのまま上空から襲う。

 窓から顔を出して見ていた朱影が、咄嗟に助手席から慎の前にあるハンドルを奪う。しかし、自動運転のセーフティが掛かり、思うようにハンドルを切ることが出来ない。

 だが、それが功を奏したのか、避けなければという強い意志でハンドルを回そうとした朱影の力を、程よく軽減させたハンドルは、振り切ることなく車体を横に向け、そして手を離すと再び正常な向きへと車体を修正してくれたのだ。

 辛うじて飛びかかりを躱した慎達の車。車体は大きく揺さぶられ、道路の壁面へ擦り付けたが、大きな被害もなく無事に走れている。

 「おいおい!ハンドルが回らなかったぞ!?」

 「ぐ、偶然でしたが今回はそれが功を奏したようですね・・・。慎さん、すみません。思っていた展開とは大分異なる事態になりました」

 高度が上がり切った地点で、爆破により進行を妨害されるであろうと予想していた彼らだったが、実際は瑜那の言うように思いもしない展開となる。

 待ち伏せではなく、直接後をつけて来ていた車が襲いかかって来たのだ。

 「おい!後ろの車がッ・・・!全部犬みてえになっちまったぞ!?」

 宵命が窓から顔を覗かせ後方を確認していると、彼らの車を襲った一台だけでなく、後をつけていた車達が次々に一台目と同じように変形し、豹のような姿で追いかけて来ていたのだ。

 「スピードが上がった!?」

 「慎さん!自動運転から手動に切り替えます!僕の指示でハンドルを左右に回して避けて下さい!」

 「そっそんな器用なこと、ペーパーの俺にはッ・・・!」

 「僕と宵命でアシストします!貴方は車体の向きを戻すことに慣れて下さい。こればかりは数をこなすしかありません」

 そう言うと瑜那は、車の制御システムを解除し、手動運転へと切り替える。半ば強制的にハンドルを握らされた慎の身体は強ばり、強くハンドルを握り締めた手は汗で湿っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...