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窮地回避
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二人が“異変“について語る。だが、朱影らにはそれがイマイチ何なのか分からなかった。慎と明庵の話に出てくる“異変“というワードは抽象的なものであり、アサシンギルドの面々のように最早日常となってしまっている者達にとっては、理解し難いもののようだった。
「アイツらの言う“異変“ってのは何だ?」
「視覚的なことですかねぇ・・・。彼ら・・・特にあの刑事風の男の方は、僕らやアジトのことは分かっていないようですし・・・」
「ん~・・・俺にはよく分からねぇなぁ。つまりどう言う事だ?」
「要は、俺達が起こす出来事が現実に影響を及ぼす事を“異変“っつってるってことか?」
「えぇ、恐らくは・・・」
「ふぅ~ん、面倒くせぇ奴ら」
彼らが再び二人の会話に戻ると、話は明庵の身の上話に入っていた。それほど詳しく話していた訳ではないが、明庵の職業と、その捜査の途中でWoFというゲームに出会い、“異変“を感じるようになっていったのだという。
それについて、妙に興味を持ち始めた慎の反応を見て、明庵が突っ込む。何故そこまでこの話題に食いついて来るのかと。
慎は僅かに口籠る。自分が置かれている状況を説明すれば、事態は好転するのだろうか。この出雲明庵という男は、本当に信用に足りる者なのか。
彼の意思の中にあったのかは定かではないが、白獅らとの出会いのことやアサシンギルドのことは口にせず、まだ迷っている様子だった。
そこを突くように明庵の問いが突き刺さっていた。このままではいつ口を割るか分からない。慎のもどかしい様子に、朱影の武器を握る手に力が入る。
すると、慎の開こうとした口を止めるように、彼の前にメッセージの表示が現れる。
その表示は、慎と明庵の二人の様子を伺っていた朱影ら三人にも、慎に対し誰かからメッセージが送られたであろうことが、すぐに見てとれた。
それを見た三人は目を丸くし、互いに顔を見合わせて、まるで何かを確認するかのように表情を変える。声は出さない。未だに周囲にいる明庵のドローンに音声データをスキャンされかねないからだ。
「あ・・・あぁ、いえ・・・俺もその話題のゲームをやってただけでして。特に深い理由はありません」
少しわざとらしくはあったが、慎はどうやらWoFのプレイ中に“異変“に巻き込まれ、現実の世界とWoFの世界を行き来出来る様になったことは口にしなかった。
「・・・そうか。それじゃぁついでだ。君にも彼らと同じ質問をするが、そのゲームをプレイして、私生活に支障をきたしたことはないか?何か・・・ありえないものを見るようになったり、感じるようになったことは?」
「いえ、ゲーム内で流れていた音楽が耳を離れず、VRを接続してなくても脳内再生されるくらいのことはありますが、それはどのゲームや動画なんかを見ていてもあり得るくらいの、取るに足らないことだと思いますが・・・」
上手くかわした様に見えるが、長年多くの犯罪者や容疑者から事情聴取してきた明庵には、慎の僅かな変化が見破られていた。
初めて会話をした時とは違い、急に何か触れられたくないものを隠すように饒舌になったのだ。確かに、事件に巻き込まれ意識を失っていたとするならば、脳の働きが正常に戻るまで少し時間がかかることも考えられる。
だが、慎にその兆候は見られなかった。その上での先程の言動と饒舌。小さな変化ではあるが、明庵にとって決して見過ごせるものではなかった。
「なるほど、そうか。それくらいの話なら、別段珍しい話でもないか」
しかし、明庵は何故かそれを伏せたまま、敢えて慎を泳がせるような言葉を続けたのだ。やはり一筋縄ではいかない様子の明庵だったが、それを傍観していた三人にはそこまで深く考察する余裕はなかった。
何者かからのメッセージと共に、慎の様子が変わるのを見た三人は、そのメッセージの送り主が白獅であろうことに気がつき、安堵していたのだ。
「ッぶねぇ~・・・。間一髪ってやつぅ?」
「如何やら僕らの意図が伝わったみたいですね!流石白獅さんです。だから
僕に直接返事を送らず、そのまま彼に送ったという訳ですね」
「なになに?どういう事よ?俺達助かったの?」
未だによく分かっていない様子の宵命の肩を、もう大丈夫だと言わんばかりに軽く数回叩く瑜那。張り詰めていた空気が緩和されたかのように、三人を取り巻いていた緊迫感が取り払われる。しかし・・・。
「さて・・・外では話せない話をいた訳だが。君にはそれとは別件で聴取しなければならないことがある。悪いが一緒に来てもらおう」
「・・・え?」
当然と言えば当然か。調査用ドローンが徘徊する中で、発見されることなく建物内部に取り残されていたのだから。何故、如何やって事件現場にいたのか。建物内にあったカメラと照合しながら事情を聞かなければならないのだろう。
「アイツらの言う“異変“ってのは何だ?」
「視覚的なことですかねぇ・・・。彼ら・・・特にあの刑事風の男の方は、僕らやアジトのことは分かっていないようですし・・・」
「ん~・・・俺にはよく分からねぇなぁ。つまりどう言う事だ?」
「要は、俺達が起こす出来事が現実に影響を及ぼす事を“異変“っつってるってことか?」
「えぇ、恐らくは・・・」
「ふぅ~ん、面倒くせぇ奴ら」
彼らが再び二人の会話に戻ると、話は明庵の身の上話に入っていた。それほど詳しく話していた訳ではないが、明庵の職業と、その捜査の途中でWoFというゲームに出会い、“異変“を感じるようになっていったのだという。
それについて、妙に興味を持ち始めた慎の反応を見て、明庵が突っ込む。何故そこまでこの話題に食いついて来るのかと。
慎は僅かに口籠る。自分が置かれている状況を説明すれば、事態は好転するのだろうか。この出雲明庵という男は、本当に信用に足りる者なのか。
彼の意思の中にあったのかは定かではないが、白獅らとの出会いのことやアサシンギルドのことは口にせず、まだ迷っている様子だった。
そこを突くように明庵の問いが突き刺さっていた。このままではいつ口を割るか分からない。慎のもどかしい様子に、朱影の武器を握る手に力が入る。
すると、慎の開こうとした口を止めるように、彼の前にメッセージの表示が現れる。
その表示は、慎と明庵の二人の様子を伺っていた朱影ら三人にも、慎に対し誰かからメッセージが送られたであろうことが、すぐに見てとれた。
それを見た三人は目を丸くし、互いに顔を見合わせて、まるで何かを確認するかのように表情を変える。声は出さない。未だに周囲にいる明庵のドローンに音声データをスキャンされかねないからだ。
「あ・・・あぁ、いえ・・・俺もその話題のゲームをやってただけでして。特に深い理由はありません」
少しわざとらしくはあったが、慎はどうやらWoFのプレイ中に“異変“に巻き込まれ、現実の世界とWoFの世界を行き来出来る様になったことは口にしなかった。
「・・・そうか。それじゃぁついでだ。君にも彼らと同じ質問をするが、そのゲームをプレイして、私生活に支障をきたしたことはないか?何か・・・ありえないものを見るようになったり、感じるようになったことは?」
「いえ、ゲーム内で流れていた音楽が耳を離れず、VRを接続してなくても脳内再生されるくらいのことはありますが、それはどのゲームや動画なんかを見ていてもあり得るくらいの、取るに足らないことだと思いますが・・・」
上手くかわした様に見えるが、長年多くの犯罪者や容疑者から事情聴取してきた明庵には、慎の僅かな変化が見破られていた。
初めて会話をした時とは違い、急に何か触れられたくないものを隠すように饒舌になったのだ。確かに、事件に巻き込まれ意識を失っていたとするならば、脳の働きが正常に戻るまで少し時間がかかることも考えられる。
だが、慎にその兆候は見られなかった。その上での先程の言動と饒舌。小さな変化ではあるが、明庵にとって決して見過ごせるものではなかった。
「なるほど、そうか。それくらいの話なら、別段珍しい話でもないか」
しかし、明庵は何故かそれを伏せたまま、敢えて慎を泳がせるような言葉を続けたのだ。やはり一筋縄ではいかない様子の明庵だったが、それを傍観していた三人にはそこまで深く考察する余裕はなかった。
何者かからのメッセージと共に、慎の様子が変わるのを見た三人は、そのメッセージの送り主が白獅であろうことに気がつき、安堵していたのだ。
「ッぶねぇ~・・・。間一髪ってやつぅ?」
「如何やら僕らの意図が伝わったみたいですね!流石白獅さんです。だから
僕に直接返事を送らず、そのまま彼に送ったという訳ですね」
「なになに?どういう事よ?俺達助かったの?」
未だによく分かっていない様子の宵命の肩を、もう大丈夫だと言わんばかりに軽く数回叩く瑜那。張り詰めていた空気が緩和されたかのように、三人を取り巻いていた緊迫感が取り払われる。しかし・・・。
「さて・・・外では話せない話をいた訳だが。君にはそれとは別件で聴取しなければならないことがある。悪いが一緒に来てもらおう」
「・・・え?」
当然と言えば当然か。調査用ドローンが徘徊する中で、発見されることなく建物内部に取り残されていたのだから。何故、如何やって事件現場にいたのか。建物内にあったカメラと照合しながら事情を聞かなければならないのだろう。
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