655 / 1,646
技術力と未知なる存在
しおりを挟む
建物の中でアジトの様子を伺おうとしている明庵。それを、息を呑みながら見つめる朱影ら三人。彼が一体どこまでこちらを見えているのか。見つけて何をしようというのか分からぬまま、身動きが取れずにいた。
明庵は遺留品のチェックを終えると、今度は自らのドローンを使って周囲の景色をスキャニングし始めた。天井から床まで、高速で点滅する光がゆっくりと降りてくる。
二人の少年がアイコンタクトを取り、何やら企んでいる。少し遠くに身を潜めている朱影に見えるように、僅かに手を振り注意を向けさせる。
それに気付いた朱影に、二人の少年の片割れで、大人しくしっかりしている方の瑜那ゆだが、手でジェスチャーをし何かを朱影へ伝えようとしている。
懐から取り出した投擲用のナイフをクルクルと回し、床に突き立てるようにゆっくり降ろす。そして彼が手を離すと、ナイフはまるで床に立つようにして、瑜那の手の支えもなく刃先を突き立てたままその場に固定される。
しかし、そのままでは明庵のドローンのスキャニングに映り込んでしまう。瑜那は試そうとしていたのだ。明庵がこちらの物体を認識し、追うことができるのかどうかを。
相手の目的も知らぬまま、わざわざ手掛かりを残すのは危険であり、彼らにとっても賭けであった。だがこのまま動けずにいるよりかは、いくらか目安になるのではないだろうか。
彼の操るドローンがどこまでの性能なのか。建物内に重なるように設置されているアジトをスキャンしても、既にこちらの存在が分かっているのか表情に一切出さない明庵。
それとも単純に見えていないだけなのだろうか。アサシンギルドのアジトは、白獅らの技術により現実の世界を生きる彼らに、その存在を見られぬようハッキング対策やアクセス制限がかけられている。
故に、これまでアサシンギルドの存在は街行く人々の目に触れることなく、ハッカー集団らによってその存在を知られることもなかった。
実際、彼らもそれがどのような技術によるものなのか、詳しく分かっている訳ではなかった。彼らが身につけたその防衛手段は、知性を持たないモンスターらを調べることで身につけた技術の一つだったのだ。
WoFの世界からやってきたモンスターらは、白獅らのように知性を持つこともなく現実世界の日常に潜んでいる。
シンを襲ったスケルトンも、衣服を纏い意図的に視覚化されるような行動を取るものもいた。
つまり、WoFからやってきたモンスターらは意識することなく、現実世界の者達に見えたり見えなかったりと切り替えることが可能なのだ。その技術が何の為にモンスター達に必要だったのかは分からない。
だが、奴らはそれを上手く利用し、シンやミアのように“見える者“を探していたのだ。彼らの存在を認知し、脅かす者を削除するように。
その技術を応用することで、白獅らも視覚化を切り替えることができるようになっていた。
異世界からシン達の暮らす現実世界へ転移してきた者達は、初めは謂わば透明人間のようにその世界の住人達に認知されることもなく、未知の世界へ放り出されていた。
声も姿も伝わらない。何も分からぬまま助けを求めようとしても、反応すら返してもらえない。突然転移してきたことで、パニックになる彼らを唯一認識できる存在。
それが、同じく異世界からやって来た者達という訳だ。モンスターらに襲われるか、ノイズのように何の目的があるのかさえ分からぬ輩に殺されるか、或いは白獅らのように同じ境遇の仲間を集める者達によって保護されるか。
シン達の知らぬところで、彼ら異世界からの来訪者達が辿る運命はそう多くはなかったのだ。
そして今まさに、モンスターらが持っていた技術を利用し手に入れた不可視化をスキャニング出来るかどうか。瑜那はそれを試そうとしていた。
朱影もそれを承諾し、床に立たせたナイフをそのまま明庵のドローンがスキャンする範囲に残し、再び物陰に身を潜めた。
ドローンが発する点滅する光が降り、床の方まで下がる。そして遂に、瑜那の残したナイフをその点滅が通り過ぎた。
すると、明庵は何かを見つけたように顔を動かした。一点にナイフの方を見つめたままゆっくりと歩み寄る。彼のドローンは、朱影らを認識出来ているのだろうか。
その結果を息を呑んで見守っていると、明庵はナイフのところで立ち止まり、ゆっくりと膝を折る。そして、瑜那の残したナイフに手を伸ばす。
唾液を飲み込む音が、周りに聞こえるかのような緊張感の中、明庵の手はナイフを透過した。だが彼は、そこで仕切りに何かを探るように手を動かしている。
触れることや見ることは出来ずとも、そこに何かあるのかも知れないというのが彼には分かっているのだろう。
明庵の用いる奇妙な機械は、謂わば現実世界の最先端をいくハッカー達の技術を用いたとしても、異世界からの来訪者を完璧に視認することは出来ないことが、これで証明された。
明庵は遺留品のチェックを終えると、今度は自らのドローンを使って周囲の景色をスキャニングし始めた。天井から床まで、高速で点滅する光がゆっくりと降りてくる。
二人の少年がアイコンタクトを取り、何やら企んでいる。少し遠くに身を潜めている朱影に見えるように、僅かに手を振り注意を向けさせる。
それに気付いた朱影に、二人の少年の片割れで、大人しくしっかりしている方の瑜那ゆだが、手でジェスチャーをし何かを朱影へ伝えようとしている。
懐から取り出した投擲用のナイフをクルクルと回し、床に突き立てるようにゆっくり降ろす。そして彼が手を離すと、ナイフはまるで床に立つようにして、瑜那の手の支えもなく刃先を突き立てたままその場に固定される。
しかし、そのままでは明庵のドローンのスキャニングに映り込んでしまう。瑜那は試そうとしていたのだ。明庵がこちらの物体を認識し、追うことができるのかどうかを。
相手の目的も知らぬまま、わざわざ手掛かりを残すのは危険であり、彼らにとっても賭けであった。だがこのまま動けずにいるよりかは、いくらか目安になるのではないだろうか。
彼の操るドローンがどこまでの性能なのか。建物内に重なるように設置されているアジトをスキャンしても、既にこちらの存在が分かっているのか表情に一切出さない明庵。
それとも単純に見えていないだけなのだろうか。アサシンギルドのアジトは、白獅らの技術により現実の世界を生きる彼らに、その存在を見られぬようハッキング対策やアクセス制限がかけられている。
故に、これまでアサシンギルドの存在は街行く人々の目に触れることなく、ハッカー集団らによってその存在を知られることもなかった。
実際、彼らもそれがどのような技術によるものなのか、詳しく分かっている訳ではなかった。彼らが身につけたその防衛手段は、知性を持たないモンスターらを調べることで身につけた技術の一つだったのだ。
WoFの世界からやってきたモンスターらは、白獅らのように知性を持つこともなく現実世界の日常に潜んでいる。
シンを襲ったスケルトンも、衣服を纏い意図的に視覚化されるような行動を取るものもいた。
つまり、WoFからやってきたモンスターらは意識することなく、現実世界の者達に見えたり見えなかったりと切り替えることが可能なのだ。その技術が何の為にモンスター達に必要だったのかは分からない。
だが、奴らはそれを上手く利用し、シンやミアのように“見える者“を探していたのだ。彼らの存在を認知し、脅かす者を削除するように。
その技術を応用することで、白獅らも視覚化を切り替えることができるようになっていた。
異世界からシン達の暮らす現実世界へ転移してきた者達は、初めは謂わば透明人間のようにその世界の住人達に認知されることもなく、未知の世界へ放り出されていた。
声も姿も伝わらない。何も分からぬまま助けを求めようとしても、反応すら返してもらえない。突然転移してきたことで、パニックになる彼らを唯一認識できる存在。
それが、同じく異世界からやって来た者達という訳だ。モンスターらに襲われるか、ノイズのように何の目的があるのかさえ分からぬ輩に殺されるか、或いは白獅らのように同じ境遇の仲間を集める者達によって保護されるか。
シン達の知らぬところで、彼ら異世界からの来訪者達が辿る運命はそう多くはなかったのだ。
そして今まさに、モンスターらが持っていた技術を利用し手に入れた不可視化をスキャニング出来るかどうか。瑜那はそれを試そうとしていた。
朱影もそれを承諾し、床に立たせたナイフをそのまま明庵のドローンがスキャンする範囲に残し、再び物陰に身を潜めた。
ドローンが発する点滅する光が降り、床の方まで下がる。そして遂に、瑜那の残したナイフをその点滅が通り過ぎた。
すると、明庵は何かを見つけたように顔を動かした。一点にナイフの方を見つめたままゆっくりと歩み寄る。彼のドローンは、朱影らを認識出来ているのだろうか。
その結果を息を呑んで見守っていると、明庵はナイフのところで立ち止まり、ゆっくりと膝を折る。そして、瑜那の残したナイフに手を伸ばす。
唾液を飲み込む音が、周りに聞こえるかのような緊張感の中、明庵の手はナイフを透過した。だが彼は、そこで仕切りに何かを探るように手を動かしている。
触れることや見ることは出来ずとも、そこに何かあるのかも知れないというのが彼には分かっているのだろう。
明庵の用いる奇妙な機械は、謂わば現実世界の最先端をいくハッカー達の技術を用いたとしても、異世界からの来訪者を完璧に視認することは出来ないことが、これで証明された。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~
灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。
その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。
魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。
首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。
訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。
そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。
座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。
全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。
ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷
くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。
怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。
最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。
その要因は手に持つ箱。
ゲーム、Anotherfantasia
体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。
「このゲームがなんぼのもんよ!!!」
怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。
「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」
ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。
それは、翠の想像を上回った。
「これが………ゲーム………?」
現実離れした世界観。
でも、確かに感じるのは現実だった。
初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。
楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。
【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】
翠は、柔らかく笑うのだった。
虐げられた武闘派伯爵令嬢は辺境伯と憧れのスローライフ目指して魔獣狩りに勤しみます!~実家から追放されましたが、今最高に幸せです!~
雲井咲穂(くもいさほ)
ファンタジー
「戦う」伯爵令嬢はお好きですか――?
私は、継母が作った借金のせいで、売られる形でこれから辺境伯に嫁ぐことになったそうです。
「お前の居場所なんてない」と継母に実家を追放された伯爵令嬢コーデリア。
多額の借金の肩代わりをしてくれた「魔獣」と怖れられている辺境伯カイルに身売り同然で嫁ぐことに。実母の死、実父の病によって継母と義妹に虐げられて育った彼女には、とある秘密があった。
そんなコーデリアに待ち受けていたのは、聖女に見捨てられた荒廃した領地と魔獣の脅威、そして最凶と恐れられる夫との悲惨な生活――、ではなく。
「今日もひと狩り行こうぜ」的なノリで親しく話しかけてくる朗らかな領民と、彼らに慕われるたくましくも心優しい「旦那様」で??
――義母が放置してくれたおかげで伸び伸びこっそりひっそり、自分で剣と魔法の腕を磨いていてよかったです。
騎士団も唸る腕前を見せる「武闘派」伯爵元令嬢は、辺境伯夫人として、夫婦二人で仲良く楽しく魔獣を狩りながら領地開拓!今日も楽しく脅威を退けながら、スローライフをまったり楽しみま…す?
ーーーーーーーーーーーー
1/13 HOT 42位 ありがとうございました!
なろう370000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす
大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜
魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。
大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。
それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・
ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。
< 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >
人気MMOの最恐クランと一緒に異世界へ転移してしまったようなので、ひっそり冒険者生活をしています
テツみン
ファンタジー
二〇八✕年、一世を風靡したフルダイブ型VRMMO『ユグドラシル』のサービス終了日。
七年ぶりにログインしたユウタは、ユグドラシルの面白さを改めて思い知る。
しかし、『時既に遅し』。サービス終了の二十四時となった。あとは強制ログアウトを待つだけ……
なのにログアウトされない! 視界も変化し、ユウタは狼狽えた。
当てもなく彷徨っていると、亜人の娘、ラミィとフィンに出会う。
そこは都市国家連合。異世界だったのだ!
彼女たちと一緒に冒険者として暮らし始めたユウタは、あるとき、ユグドラシル最恐のPKクラン、『オブト・ア・バウンズ』もこの世界に転移していたことを知る。
彼らに気づかれてはならないと、ユウタは「目立つような行動はせず、ひっそり生きていこう――」そう決意するのだが……
ゲームのアバターのまま異世界へダイブした冴えないサラリーマンが、チートPK野郎の陰に怯えながら『ひっそり』と冒険者生活を送っていた……はずなのに、いつの間にか救国の勇者として、『死ぬほど』苦労する――これは、そんな話。
*60話完結(10万文字以上)までは必ず公開します。
『お気に入り登録』、『いいね』、『感想』をお願いします!
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる