World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
638 / 1,646

報告と再会

しおりを挟む
 シー・ギャングの元を離れたシンは、ダラーヒムに見送られながら宴の場を後にした。街は未だに賑やかで、まるで繁華街のような煌びやかな雰囲気と光に包まれている。

 他国からも多くの人が押し寄せるイベント事。この時期になると店は時間帯を変え、漁師達は仕事を休みにする。街は眠らなくなるのだという。

 シンが街へと消えていくのを静かに見送っているダラーヒム。だが、彼はシンとは交流がない筈。何故街にその姿を消して行くまで、その場に立ち止まり見送っているのか。

 「・・・えぇ、何事もなく全員辿り着きました。・・・分かりません。ですが、何者かによって神獣リヴァイアサンの弱体化が謀られたのではないかと・・・。いえ、そのような者がいたようには・・・。それに、彼らがやってのけたようには思えません。・・・はい、分かりました」

 ダラーヒムは虚な目をしながら、何者かと話しているようだった。しかし、彼の周りに怪しげな人影など見当たらない。まるで彼にしか見えていないような、空想上の人物に話しかけるかのように、感情もなく淡々と言葉を連ねている。

 聞かれては都合の悪いことなのだろうか。小声で周りにいる者達に聞こえぬよう、独り言のようにぶつぶつと報告をしているようだった。

 相手側の声は周りには一切聞こえておらず、側から見ても何も不自然には見えていない。何かを思い出しているのだろうくらいにしか見えない。

 あまり長くはない報告を終えると、彼の目には再び光が戻り、いつも通りのダラーヒムへとまるで人格が変わったかのように戻る。意識を失っていたのか周囲を見渡し、自分が何をしていたのかを思い出そうとする。

 だが、彼の中にあるのはシンを見送ったところまでの記憶だけで、それ以降の独り言を言っていた時の記憶はないようだ。

 我に帰ったダラーヒムは、特に気にする素振りもなくキングの元へと戻って行った。

 シンが街を歩いていると、意外な人物から声をかけられた。彼とは関わり合いもあったものの、そこまで友好的な関係ではない。だが、シンの方よりも相手側の方が特に彼に対し、恩を感じていた。

 「お?アンタは確か、シンじゃないか!」

 店の中から出てきた男が、シンを呼び止めるように後ろから声をかける。聞き覚えのある声に振り返ると、そこには共にレースの終盤で戦闘争いを繰り広げたライバルの一人、マクシムが立っていた。

 「エイヴリー海賊団のところの。確か名前は・・・」

 「マクシムだ。レースん時は随分と世話になったな」

 男の言葉に対し、頭を傾げるシン。彼にはそこまで、マクシムを世話した覚えはなかった。それよりも印象深いのは、レース終盤でキングを止めるために共闘しようと声をかけられたことくらいだった。

 「助かったぜ。あん時アンタに拾われなかったら、今頃俺はここにはいなかったからな・・・」

 「・・・・・?」

 「おいおい、忘れちまったのか?レイド戦の時に、俺がどでかい魔物から振り落とされたのを助けてくれたじゃねぇか!」

 そこで漸く彼の言っていることを理解したシン。ミアの提案により、リヴァイアサンから落ちてくるマクシムを救出し、恩を着せようというとてもじゃないが本人には言えない事情があったことを隠しながら、シンは話を合わせた。

 「あ・・・あぁ、そういえばそんな事も」

 「船長からも、よろしく伝えておいてくれって言われてるんだ。そんなに大したことは出来ねぇかも知れないけどよ、何か力になれることがあったら言ってくれよ」

 ミアの計画通り、エイヴリー海賊団のマクシムに恩を着せることには成功していたようだ。しかし、シン達もこの街に長居するつもりはない。また別の場所で起きているであろう“異変“について探さなければならない。

 かといって、それを彼らに相談する事もできない。そもそも彼らに、異変を認知することが出来るかさえ分からない。

 あくまで異変に感じているのは、WoFのゲームをプレイしていたシン達の目線でしかない。本来起こりうるイベントが、全く別のものに変わっていたり、推奨レベルでは到底攻略不可能なモンスターが現れたりと、明らかにクリアさせる気のない難易度になっている。

 外の世界からやって来た者達にすれば異常な出来事かも知れないが、ここで生きている者達にすれば、運の悪い巡りあわせ程度にしかならないのかも知れない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【修正中】ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜

水先 冬菜
ファンタジー
「こんなハズレ勇者など、即刻摘み出せ!!!」  某大学に通う俺、如月湊(きさらぎみなと)は漫画や小説とかで言う【勇者召喚】とやらで、異世界に召喚されたらしい。  お約束な感じに【勇者様】とか、【魔王を倒して欲しい】だとか、言われたが--------  ステータスを開いた瞬間、この国の王様っぽい奴がいきなり叫び出したかと思えば、いきなり王宮を摘み出され-------------魔物が多く生息する危険な森の中へと捨てられてしまった。  後で分かった事だが、どうやら俺は【生産系のスキル】を持った勇者らしく。  この世界では、最下級で役に立たないスキルらしい。    えっ? でも、このスキルって普通に最強じゃね?  試しに使ってみると、あまりにも規格外過ぎて、目立ってしまい-------------  いつしか、女神やら、王女やらに求婚されるようになっていき…………。 ※前の作品の修正中のものです。 ※下記リンクでも投稿中  アルファで見れない方など、宜しければ、そちらでご覧下さい。 https://ncode.syosetu.com/n1040gl/

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

処理中です...