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水平線の向こうから
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到着順位が発表されて暫くした後、彼らが辿った遠くの水平線に一つの影が見えてくる。一時の落ち着きを取り戻していた会場は、シン達が姿を現した時とは違った響めきに包まれ騒然となる。
一息ついていた彼らも群衆の歓声に気付き、席を立つ。各自、各々に出来る精一杯の責務は果たした。だがレースはまだ終わっていない。彼らがここで出来ることは最早何もないが、その緊張感はゴールの手前でデッドヒートを繰り広げたような感覚だっただろう。
しかし、彼らの経験した息の詰まるような緊張感とは違い、その姿が現れた時点でどこの勢力の船かが分かる。ゴールから離れてはいるものの、ほぼその時点で勝負が決まると言っても過言ではない。
「頼むッ!俺達の船であってくれッ・・・!」
マクシムが祈るように手を合わせる。彼の到着順位は四位。まだ望みはあるものの、ここでキングのシー・ギャングやチン・シー海賊団に先を越されては、上位入賞に影がかかってしまうかもしれない。
彼に落ち度はない。だが責任を感じているマクシムは、他の誰よりも気が気ではなかっただろう。
上空から映像を撮影している飛行ユニットからは、高度を上げたり先へ進んで確認しようとする動きは見られない。主催者側はあくまで、レースを楽しみにしている人々の為、自らの目で確かめ、周りの人間や仲間達と言葉や感想を交わしてほしいと思っているようだ。
映画を観た直後に、あれはこうだった。これはこうだったと、感想や考察を交わすのと同じように、その時にしか楽しめない時間を大切にしたかったのだ。
日々の生活や人生の中で、これほど多くの人々と同じ時間を共有し大声を出して応援や歓声を飛ばすことは、刺激のない毎日や疲れを感じる者達にとって、負の感情を発散させる重要なイベントでもあるのんだから。
そして、漸くどこに所属する船か見えたのだろう。一部の会場で海賊団の名が上がり始める。風の便りで運ばれてきたその声を耳にする彼ら四人。確実に信用できる情報ではないし、自らの目で確かめたわけでもないが、彼らは今その不確かな情報を信じるしかなかった。
彼らに続き、会場へ姿を現したであろう海賊団の名は、一人の男に希望を与える情報となった。
「ありゃぁ、エイヴリー海賊団じゃねぇか!?」
「おい!エイヴリー海賊団だってよ!」
「こりゃぁまだ分からねぇぞ?到着順位が遅れてても、彼らは絶対にレイド戦で活躍してるだろうからな」
噂を耳にしたマクシムは大きく目を見開き、緊張の糸が解れたように止めていた息を吐き出し、膝に手をつく。その様子から彼がどれだけ気を張っていたのかが窺える。
反対に、その噂を耳にしたハオランの表情は曇る。一位と四位ではポイント差も馬鹿にならない。しかし、歓声の中から聞こえたように、エイヴリー海賊団はレイド戦において目覚ましい活躍をしていた。それはハオラン自身もよく分かっている。
チン・シー海賊団の本隊は、フランソワ・ロロネーの襲撃を受けレイド戦への参加が大いに遅れてしまった。ハオランが先行して戦場へ赴き、出来る限りのことはしたが、それでもマクシムやロイク、リーズやアルマンの活躍には到底及ばない。
ハオランの所属するチン・シー海賊団が総合優勝を勝ち取るには、少しでも多く早く本隊がゴールする必要がある。少なくともエイヴリー海賊団やシー・ギャングの部隊よりは先に到着したいところだ。
上位を争い続けるキングは、彼らとは違いあまり表情に出さない。それどころか彼は、観客の声が聞こえ始めた時だけ反応したものの、ずっと優雅に食事や酒を嗜んでいる。
勝利に確証があるから。という訳ではなさそうだ。仲間を信じているといった雰囲気でもない。無論、勝利への執着を捨てた訳でもなければ、仲間達の力を信じていない訳でもない。
ただ彼は、その期待や不安に一喜一憂することに有意性を感じていなかっただけだった。キングくらいの年頃であれば、そういった感情に身を任せて楽しむものだろう。
それだけ彼は大人の世界に染まってきたということなのだ。楽しいものを素直に楽しめなくなり、辛くとも表情や態度に出さない。誰かに頼ることもなければ、心の内を人に明かすこともなくなってしまった。
キングの周りには、常に裏切りや策謀が渦巻いており、自分以外の何者も心から信用しようとは思えなくなっていた。
それでも、同じ年頃の子供やまだ物心すらついていない幼児には、そういった世の中の黒いものから遠ざけるようしてきた。彼の命を狙っていたデイヴィスの妹も、キングに拾われなければ今頃どうなっていたのかさえ分からない。
自身が過ごせてこれなかった分を、何も知らぬ他の者達に味合わせたくなかったのだろう。意識してそうしていたかは定かではないが、キングは自分自身で運命を決められぬ者達へは優しかった。それは彼の船の船員達を見れば、一目瞭然だった。
反対に彼は、本当の自分自身を偽り、どこか普通とは思えない狂った道化のような仮面を被り、演じている。当然、全てが演技ではないが弱みを見せないところも、彼を慕う部下達にとっての理想像にもなっていた。
最初の船がどこの船か騒ぎ出されて間も無く、その後を追うようにいくつもの船が姿を現す。攻撃されていないところを見るに、同じ海賊団の船団と見て間違いないだろう。
上空から撮影していた飛行ユニットが、先頭の船の海賊旗を捉える。観客が口にしていた噂の真偽を確かめるように、会場に表示されたモニターにその海賊旗が映される。
やはり先陣を切って現れたのは、エイヴリー海賊団で間違いなかった。だが、それほど大差のない後方に他の海賊のものと思われる船団が続いている。
リヴァイアサンの死骸から流れた血海を、いち早く抜けたのは何もエイヴリー海賊団だけではなかったようだ。
一息ついていた彼らも群衆の歓声に気付き、席を立つ。各自、各々に出来る精一杯の責務は果たした。だがレースはまだ終わっていない。彼らがここで出来ることは最早何もないが、その緊張感はゴールの手前でデッドヒートを繰り広げたような感覚だっただろう。
しかし、彼らの経験した息の詰まるような緊張感とは違い、その姿が現れた時点でどこの勢力の船かが分かる。ゴールから離れてはいるものの、ほぼその時点で勝負が決まると言っても過言ではない。
「頼むッ!俺達の船であってくれッ・・・!」
マクシムが祈るように手を合わせる。彼の到着順位は四位。まだ望みはあるものの、ここでキングのシー・ギャングやチン・シー海賊団に先を越されては、上位入賞に影がかかってしまうかもしれない。
彼に落ち度はない。だが責任を感じているマクシムは、他の誰よりも気が気ではなかっただろう。
上空から映像を撮影している飛行ユニットからは、高度を上げたり先へ進んで確認しようとする動きは見られない。主催者側はあくまで、レースを楽しみにしている人々の為、自らの目で確かめ、周りの人間や仲間達と言葉や感想を交わしてほしいと思っているようだ。
映画を観た直後に、あれはこうだった。これはこうだったと、感想や考察を交わすのと同じように、その時にしか楽しめない時間を大切にしたかったのだ。
日々の生活や人生の中で、これほど多くの人々と同じ時間を共有し大声を出して応援や歓声を飛ばすことは、刺激のない毎日や疲れを感じる者達にとって、負の感情を発散させる重要なイベントでもあるのんだから。
そして、漸くどこに所属する船か見えたのだろう。一部の会場で海賊団の名が上がり始める。風の便りで運ばれてきたその声を耳にする彼ら四人。確実に信用できる情報ではないし、自らの目で確かめたわけでもないが、彼らは今その不確かな情報を信じるしかなかった。
彼らに続き、会場へ姿を現したであろう海賊団の名は、一人の男に希望を与える情報となった。
「ありゃぁ、エイヴリー海賊団じゃねぇか!?」
「おい!エイヴリー海賊団だってよ!」
「こりゃぁまだ分からねぇぞ?到着順位が遅れてても、彼らは絶対にレイド戦で活躍してるだろうからな」
噂を耳にしたマクシムは大きく目を見開き、緊張の糸が解れたように止めていた息を吐き出し、膝に手をつく。その様子から彼がどれだけ気を張っていたのかが窺える。
反対に、その噂を耳にしたハオランの表情は曇る。一位と四位ではポイント差も馬鹿にならない。しかし、歓声の中から聞こえたように、エイヴリー海賊団はレイド戦において目覚ましい活躍をしていた。それはハオラン自身もよく分かっている。
チン・シー海賊団の本隊は、フランソワ・ロロネーの襲撃を受けレイド戦への参加が大いに遅れてしまった。ハオランが先行して戦場へ赴き、出来る限りのことはしたが、それでもマクシムやロイク、リーズやアルマンの活躍には到底及ばない。
ハオランの所属するチン・シー海賊団が総合優勝を勝ち取るには、少しでも多く早く本隊がゴールする必要がある。少なくともエイヴリー海賊団やシー・ギャングの部隊よりは先に到着したいところだ。
上位を争い続けるキングは、彼らとは違いあまり表情に出さない。それどころか彼は、観客の声が聞こえ始めた時だけ反応したものの、ずっと優雅に食事や酒を嗜んでいる。
勝利に確証があるから。という訳ではなさそうだ。仲間を信じているといった雰囲気でもない。無論、勝利への執着を捨てた訳でもなければ、仲間達の力を信じていない訳でもない。
ただ彼は、その期待や不安に一喜一憂することに有意性を感じていなかっただけだった。キングくらいの年頃であれば、そういった感情に身を任せて楽しむものだろう。
それだけ彼は大人の世界に染まってきたということなのだ。楽しいものを素直に楽しめなくなり、辛くとも表情や態度に出さない。誰かに頼ることもなければ、心の内を人に明かすこともなくなってしまった。
キングの周りには、常に裏切りや策謀が渦巻いており、自分以外の何者も心から信用しようとは思えなくなっていた。
それでも、同じ年頃の子供やまだ物心すらついていない幼児には、そういった世の中の黒いものから遠ざけるようしてきた。彼の命を狙っていたデイヴィスの妹も、キングに拾われなければ今頃どうなっていたのかさえ分からない。
自身が過ごせてこれなかった分を、何も知らぬ他の者達に味合わせたくなかったのだろう。意識してそうしていたかは定かではないが、キングは自分自身で運命を決められぬ者達へは優しかった。それは彼の船の船員達を見れば、一目瞭然だった。
反対に彼は、本当の自分自身を偽り、どこか普通とは思えない狂った道化のような仮面を被り、演じている。当然、全てが演技ではないが弱みを見せないところも、彼を慕う部下達にとっての理想像にもなっていた。
最初の船がどこの船か騒ぎ出されて間も無く、その後を追うようにいくつもの船が姿を現す。攻撃されていないところを見るに、同じ海賊団の船団と見て間違いないだろう。
上空から撮影していた飛行ユニットが、先頭の船の海賊旗を捉える。観客が口にしていた噂の真偽を確かめるように、会場に表示されたモニターにその海賊旗が映される。
やはり先陣を切って現れたのは、エイヴリー海賊団で間違いなかった。だが、それほど大差のない後方に他の海賊のものと思われる船団が続いている。
リヴァイアサンの死骸から流れた血海を、いち早く抜けたのは何もエイヴリー海賊団だけではなかったようだ。
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