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神代 コウ

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審議の結果

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 僅かに聞こえる観客の声で意識を取り戻す。身体の痛みや倦怠感よりも何よりも、彼らは真っ先に身を起こし周囲を確認した。大勢の人々が彼らの周りで、花火のような喝采と称賛の拍手を送る。

 群衆の中に彼らの求めるものはなく、その視界に止まったのはホログラムによるデジタル表現された、浜辺に揺らめくゴールテープだった。それもすぐに消える。トップ争いをしていた他の者達はどうしているか。

 辺りを見渡すように首を振る。そこには自分と同じように周りの様子を伺う三人と目が合う。まだ誰も、その答えを得てはいないようだ。大きく肩を揺らし、全身に酸素を送るようにゆっくりと呼吸を整えながら唖然としている。

 そこへ、数人のものと思われる足音が近づく。彼らは視線を音の鳴る方へと向けると、身なりを整えた大会の運営スタッフと思しき者達が、彼らの無事を確認し手を貸した。

 追従していた他のスタッフが、彼らの乗っていたボードを回収する。ブレーキをかけることもなく、勢いよく海岸に飛び込んだせいで外装は剥がれ、所々凹凸は見られるものの、奇跡的に大きな損壊は見られない。

 「結果はッ・・・!?誰が勝ったッ!?」

 いの一番に声を上げたのは、エイヴリー海賊団のマクシムだった。危機迫る見幕でスタッフの腕を掴む彼を、落ち着かせるように宥める。そしてスタッフが口にした言葉に、彼らは再び思考を止めてしまう。

 「落ち着いて下さい。良いですか?よく聞いて下さい。皆さんは見事、このフォリーキャナルレースを完走されました。確認の為、それぞれの所属する団体や参加者名をお願いします」

 「そんなこと後でいくらでも教えてやる!誰が一位でゴールしたかを教えろってんだッ!」

 「まッ・・・!まだ分からないんですッ!だからその間、皆さんのことを・・・」

 「あぁ?・・・わ、分からねぇだぁ・・・?」

 スタッフの者が言うには、未だかつてこれほど順位争いを繰り広げた記録がなく、彼らや選手同様、会場は大いに盛り上がり白熱していたのだという。そして彼が、自身の証言を確かなものとする証拠があるとでもいうように、上空の方を指さす。

 そこにはホログラムモニターに映された、彼らがゴールする瞬間を捉えた映像が、繰り返し流されていた。様々な角度やスロー再生、ゴールテープを切る瞬間の停止画など。多くの審査員による確認と吟味がされているようだ。

 「大人しく待つしかないようですね。全力は尽くしました。後は公平な判断が下ることを願うだけです・・・」

 ハオランのいう通り、ここで足掻いたところで結果は変わらない。むしろあまり騒ぎ立てるとその方が失格やペナルティを受ける危険がある。あのキングでさえ大人しく従っているのだ。シンもスタッフに案内されるまま、仮設テントによる救護室へと案内される。

 「それではこちらで少々お待ち下さい。結果が出ましたら会場での発表となりまので、またお出迎えにあがります。それではまた」

 「・・・ありがとう、ございます」

 選手同士のいざこざを避ける為か、四人はそれぞれ別のテントへと案内された。治療を受けるといっても、この世界の住人ではないシンにとってはそこまで重要で急を要するものではない。そもそも大きな傷を受けていないシンは、外部の治療よりも、空っぽになった魔力の補充の方が有難かった。

 「貴方、このレースに参加するのは初めて?」

 椅子に座らされたシンに治療を施してくれていた看護師の女性が話しかけてきた。

 「え?えぇ、そうです・・・」

 「会場で噂になってましたよ。他の方々は上位が約束されているような常連の方々ですからね。見慣れない方がトップ争いに入ってくると、凄く注目されるんです。あれはどこの海賊だ?とか。一体何者なんだ?って」

 おっとりとした気持ちの落ち着く声が、シンの疲れた心を癒してくれるようだった。彼らと競り合う中で、相当な集中力と緊迫感、焦りや不安など、様々な心境の変化が激しかった為、余計に染み渡る。

 「そうなんですか。なんか・・・嫌だな、そういうの・・・」

 「え?」

 「苦手なんです、注目を浴びるのとか。緊張するし、それに・・・」

 「それに?」

 「他人が自分のことをどう思っているのとか、想像しちゃうんですよね。それも良くない方向に・・・」

 シンは自分の知らないところで在らぬ噂を立てられ、学生時代に孤立していた。それも、噂を流した張本人が友人と思っていた人物だった。信頼していたという意識はないが、それでも心を許していた者が影でそんなことをしていたと知れば、人を信用出来なくなるのも無理もない。

 登校する段階から、周りが何やら自分に視線を向けているのに気が付いた。噂をされる側というものは、人に視線や声に敏感になっているもの。当人が視界の中にいる状態でしているのだ。余程鈍感でなければ、気づかない筈がない。

 そしてその視線は、明らかに良いものではないのが分かった。何もおかしなことはしていない筈なのに、何故こんなことになったのか。一先ず彼は気付かないフリをしながら、真実を知るまでその嫌な空気に耐え続けていた。

 だが、その真実を知った時、彼の中で何かを繋ぎ止めていた糸のようなものが切れるのを感じた。それから彼は学校へ行かなくなり、人と会うのすら怖くなってしまった。

 その時に出会ったのがWoFで、そこで出会った名前も顔も声すらも知らない人々によって、徐々にその心に負った深い傷を癒していったのだ。おかげで外に出ることも出来るようになり、上っ面だけでならば人とも多少の言葉のやり取りが可能になった。

 看護師の女性の声は、どこかWoFを遊んでいた頃の人々と接する時のような感覚があった。だからだろうか。心の内がポロリとこぼれ落ちた。

 「そう・・・。きっと何か、お辛いことがあったのでしょうね。でも安心して下さい。今ここにある貴方の噂は、貴方の功績を称えるものですから」

 彼女は何も聞かずに、ただ優しい微笑みをシンに向けた。それがシンにとって、どこか昔のWoFを思い出したかのようで心地よかった。

 暫くして、テントの中に先程のスタッフが戻ってくる。

 「お待たせしました、シン様。これよりレースの到着順位を発表致します。動けるようであれば、会場へお連れ致します」

 「・・・よろしくお願いします」

 いよいよ審議の結果が発表される。当人達は全力を尽くし、誰が勝ってもおかしくない状態だった。それに、ゴールする寸前の映像でも全くといって良いほど順位が分からなかった。

 噂になるぐらいの注目度を集め、彼らの乗って来たボードは会場内に丁重に保管され、一般客でも目にできるギャラリーになっていた。一先ずこれで、ツバキとの約束は大方達成出来ただろう。

 残すはその順位だ。シンは、掛け値なしに彼らのような強者と互角に渡り合えたのだという、“自信“が欲しかった。
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