World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
611 / 1,646

ふりしぼる四人の勇士

しおりを挟む
 大きな影が唸りを上げながら、ハオランの真下付近から水面に向かって浮上する。シンはその鉛の尻尾を振り上げるようにボードを回転させ、波を利用し飛び上がると、引きずり出されるように尻尾の姿が現れる。

 「このようなものを用意していたとは・・・。上手く周りを利用しましたね」

 水面がシンの集めた武具の塊の浮上する勢いに押されて盛り上がる。今度はハオランがそれを利用し体勢を屈めると、飛び上がるように跳躍し、華麗に空中で回転しながら足技を放つ。

 それにより生じた衝撃波が、一つ二つと向かって来る鉛の塊に衝突する。如何にハオランのような武術を極めた者の起こした衝撃波であろうと、一二発で食い止められるほどチープなものではなかった。

 しかし、衝突した衝撃で武具の集合体から僅かばかりの鉛が、まるで瓦礫が崩れるように剥がれ落ちたのだ。一つの塊ではなく、集合体というところに活路を見出したハオランは着水すると、鉛の動きを見ながら順次、姿を現した時に同じような攻撃を繰り返していく。

 彼が攻略法を見つけ実行に移す中、シンはそれでも攻撃の手を緩めることはなかった。例えこれが無意味だとしても、今の彼にはこれしか手段がなかったのだ。

 一つ一つが武具の集合体であるため、それぞれの物体が影を生み出し、影を作り出す。中には重なり合うことで、より濃い影が生み出され、シンのスキルを増幅させている。

 もうこのようなフィールドで、これだけの影を海面に持って来ることは困難だ。ましてや、彼らが乗っているのは、一人二人を乗せるのがやっとの小さなボード。

 戦艦や海賊船のような大きな影を生み出すものは、周囲にはない。必要とあらば、再び海底の方へと潜ることで影を繋ぐことは可能だが、ゴールが近づいている今、そんなことをしている時間はない。

 こぼれ落ちる武具は、近場のものであれば集合体から影を伸ばし、回収できるものだけ回収し延命を図る。

 シンの振るう鉛の尻尾が動き回ることと、ハオランの放った衝撃波が的を外れ海面に衝突することで巻き上がる水飛沫や波で、周囲の海域は大いに荒れた。

 後方にいるキングやマクシムもその余波を受け、速度を落とすと共にボードから振り落とされない繊細な技術が求められた。キングはその卓越した学習能力の高さとセンスで、難なく先を進む。

 だが、四人の中で最もボードの操縦に慣れていないマクシムは、やや苦戦を強いられているようだった。このままではいち早くトップ争いから脱落してみせたしまうと危惧した彼は、丁度よく前にいるキングに鋼糸を繋ぎ引っ張ってもらおうと試みる。

 当然、キングはその目論見を見据えており、波や水飛沫だけでなく後方からやって来る鋼糸にも気を使いながら、巧みな操縦技術を披露する。

 二組がそれぞれ争うことで、各々の速度が落ちる。僅かに追い上げているキングとマクシムの方が早く、追いつかれるのも時間の問題ではあったが、誰かが抜きん出るような事態は避けられている。

 集めた武具の集合体が破壊されていく毎に、身体に負荷がかかっていくような感覚に見舞われる。踏ん張りが効かず、ハンドルを握る手に力が入らない。

 まるで、身体に纏っていた装甲が剥がれ落ちるように、シンの魔力が失われていく。息が上がり、長距離の走行を試みたかのような疲労感が彼を襲った。

 それでも抗おうとするのは、仲間達との勝利のためか、己の負けたくないという意地からか。辛く諦めたい時にこそ、人を支えるのは心や意志の強さなのだろう。

 流石のハオランにも疲労の色が見え始める。動きが鈍り、技に鋭さがなくなっていくのが素人目にもわかる程に。しかし、彼もシンと同じく諦めることなどなかった。

 キングは依然として毅然な様子を見せてはいるが、この中の誰よりも身体が小さく、彼が思っている以上の負荷がその身体にのしかかっていることだろう。

 時折巻きつくマクシムの糸を、僅かばかりの能力で弾く。もうそれだけ彼にも猶予がないということだ。執拗に攻撃を仕掛けるマクシムも、キングの様子が変わってきたことには、薄々気がついていた。

 こうも鬱陶しい真似をされ続けるのは、常に気を張っていなければならない疲労を生む。一刻も早く解放されたいと思うのが普通だろう。そして本来のキングであれば、マクシムの攻撃を彼毎撃退することだって可能なはずなのだ。

 それをしないということは、出来ない状態であるということ。それでも余裕を見せつけているのだから大したものだ。

 それぞれの者達が限界を迎えようとする頃、遂にシンの作り出した鉛の尻尾が、ハオランの手によって打ち砕かれる。

 「これでッ・・・最後ッ!」

 渾身の力を込めた足技が、一閃のように空を切る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~

華音 楓
ファンタジー
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられtた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一
ファンタジー
『いーわよ、そこまで言うならもう、親子の縁なんて切ってやる!! 絶対に成功するから、今に見てなさいよ!!』 如月風歌は、考えるより先に行動する脳筋少女。中学の卒業式の日に、親と大喧嘩し、その勢いで家出する。時空航行船のチケットを握りしめ、着の身着のまま&ほぼ無一文で、異世界に向かっていった。 同じ地球でありながら、魔法で発展した平行世界エレクトラ。この世界に来たのは『シルフィード』と呼ばれる、女性だけがなれる『超人気職業』に就くためだ。 上位階級のシルフィードは、トップアイドルのような存在。また、絶大な人気・知名度・影響力を持ち、誰からも尊敬される、人生の成功者。巨万の富を築いた者も、少なくはない。 だが、お金もない・人脈もない・知識もない。加えて、女子力ゼロで、女らしさの欠片もない。全てがゼロからの、あまりにも無謀すぎる挑戦。しかも、親から勘当を言い渡され、帰る場所すらない状態。 夢に燃えて、意気揚々と異世界に乗り込んだものの、待ち受けていのは、恐ろしく厳しい現実と、パンと水だけの極貧生活だった。 『夢さえ持っていれば、気合さえあれば、絶対に上手くいく!!』と信じて疑わない、脳筋でちょっとお馬鹿な少女。だが、チート並みのコミュ力(無自覚)で、人脈をどんどん広げて行く。 ほのぼの日常系。でも、脳筋主人公のため、トラブルが発生したり、たまにシリアスだったり、スポ根っぽい熱い展開も……。 裸一貫から成り上がる、異世界シンデレラストーリー。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

処理中です...