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無意識のセーフティー
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だが、事はそう簡単には運ばなかった。
能力を温存していたキングは、ハオランの攻勢と隙を突くようなマクシムの攻撃に遂に根を上げたのか、これまで不気味なほど使ってこなかったその力を解禁した。
ハオランの烈火の如き衝撃波の数々を避け、マクシムの糸を弾きながら、先ずはハオランの方へと近づいていく。当然、それを嫌がるハオランは遠ざけようと手数が増える。
避けきれない攻撃を厳選し、致命打にならないものだけを能力で撃ち落としていく。武術を極めたハオランの攻撃を、ここまで掻い潜れるのは、キング本人が同じような劣勢を経験したことがあるのに加え、元より備わった天賦の才があってこそ成し遂げられることだ。
遂に接近を許してしまったハオラン。衝撃波を撃つのを止めボード捌きによる近距離戦に切り替えるも、度重なる彼らの攻撃を避け続けてきたキングの方が、操縦が格段に成長していた。
奇しくも、キングを引きずり落とそうと仕掛けた攻撃で、彼の技術を急速にレベルアップさせる結果に繋がってしまっていたのだ。
「くッ・・・!なんと素早いッ・・・。いつこれ程までの技術を身につけたのだッ・・・!」
「あれあれぇ~?天下のチン・シー海賊団、最強の矛ともあろうお方がこの程度では、主人様をお守り出来ないんではなくてぇ~?」
キングは腕をハオランに伸ばし、突き飛ばすように彼の身体を遠くへと吹き飛ばした。辛うじて転覆することだけは避けたハオランだったが、キングとそれを追うマクシムに大きく差をつけられてしまった。
しかし、今の一撃でハオランはキングの現状を知ることが出来た。大きく遅れをとったのと引き換えに、勝利へ繋がる収穫を得たのだ。
キング本来の力であれば、今の一撃で息の根を止めることも可能だった。その気がなかったとしても、再起出来ないほど遠くへ吹き飛ばすことくらい雑作もないだろう。
だが彼はそうしなかった。ハオランはそれを、“しなかった“のではなく“出来なかった“のだと見抜いたのだ。
「・・・なるほど、そういう事だったんですね。ならばこの程度の失態、快く受け取りましょう・・・。真の勝利の為に・・・!」
キングの限界を悟ったハオランは、直ぐに体勢を立て直し、ボードに異常がないことを確認すると、再び先へと行った二人を全力で追いかける。
その途中、彼は海中に何かの気配が駆け抜けていくような気配に気づく。海の中を、海面を走るハオランと相違ない速度で進むなど、人間に出来ることではない。
それこそ、アシュトン海賊団の潜水艦や、ヴェインのような海を泳げる大型の魔物を召喚するなどをしなければ到底できないだろう。
だが、現状トップ争いをする者達の中に、海中を進める能力や手段を持っている者はいないはず。それでは一体、ハオランが感じた気配は何者だったのか。
レイド戦が行われた海域には、いつもの上位勢だけでなく多くの海賊達が集結していた。その中に、彼の知らぬ海の中を進む能力を持った海賊でもいたと言うのだろうか。
彼はまだ知らない。何処かへ消えたシンが、まさか海中を進み彼らを追いかけていたことを。だがその手段を誰も知らない。当の本人以外は。
トップ争いをするライバルが残り一人になったキングは、その残る追跡者に狙いを定める。マクシムも嫌な視線を感じ取ると、僅かに後退りするようにハンドルを握る手が緩む。
彼でなくても当然の反応だろう。あんなものを目の前で見せられては、身体が前に出るのを拒んでもおかしくはない。そしてまだマクシムは、キングが限界に近いことを知らない。
マクシムの実力と能力があれば、今のキングに十分太刀打ちできるのだが、なかなかマクシムにそれを知る機会が訪れない。キングが細心の注意を払っているのもあるが、ハオランのように実際にその身に受けてみなければ、相手の魔力の残量など測れるものではない。
いずれは誰かと一対一になるであろうと予想していたマクシムは、相手を捕らえることに特化した自身の能力を存分に振るい、キングへの最後の攻撃を仕掛ける。
ゴールとなる大陸までそう遠くはない。間も無く勝負を決する時と読んだマクシムは、ここが全力を尽くすタイミングと言わんばかりに怒涛の攻撃を仕掛ける。
目に見えるように鋼糸を振るい、その影で海面から別の鋼糸を忍ばせて。しかし、残り魔力が少なくなり、能力が使えなくなる瀬戸際であってもキングの注意力が衰える事はなく、寧ろ研ぎ澄まされていくように繊細な動きになる。
それを目の当たりにしたマクシムは焦り、攻撃が徐々に力任せの雑なものになっていくのに気づいていなかった。
やはり精神面でも研ぎ澄まされる武術の達人であるハオランに比べれば、どんなに強力なスキルや力を持とうと、その真なる力を引き出すことは出来ない。
これはマクシムが弱いのではなく、人である以上逃れることの出来ない、無意識のセーフティー機能のようなものだ。単純な暴力を振るうのであれば、意志や心を持たぬ生物や魔物の類の方が、存分に潜在的能力を使いこなせている。
無論、そういった生物も自身を危険に晒すことまではしない。大雑把なラインが彼らの中にもあるのだろう。だが人間の場合、そうなる前に脳が考えてしまうのだ。
それこそハオランのように悟りを開くまでに至る武の達人クラスにならなければ、無心の力を振るうことは出来ない。
だが、その人間に備わった無意識のセーフティーを解除するのは、何もいいことばかりではない。それこそ命の危険に繋がるものから、二度と腕や足を動かせなくなったりと、そのリスクも甚大なものになる。
それを見極める為、途方もない鍛錬が必要なのだ。頭ではなく、身体に叩き込むほどに。
キングの冴えたるものは、その有り余るほど強力な能力を持ちながら、考えてセーフティー機能を利用できる才能をも持っていることだ。これは彼がギャングのボスとして、様々な国や大陸の者達から得た知識のおかげでもある。
知識の量は、どんな武器よりも当人を強くさせる。例え分厚い書物を暗記していなくとも、何となく頭の中にあるだけでも、全く知識のない者とは大きな差が生まれる。
マクシムにはその経験がまだ足りなかった。否、キングの経験や知識が彼のそれとは比べ物にならないほど豊富過ぎたのだ。
ハオランと同じように、如何なる攻撃をも退けマクシムの元まで辿り着いたキングは、残された魔力でその力を振りかざす。
能力を温存していたキングは、ハオランの攻勢と隙を突くようなマクシムの攻撃に遂に根を上げたのか、これまで不気味なほど使ってこなかったその力を解禁した。
ハオランの烈火の如き衝撃波の数々を避け、マクシムの糸を弾きながら、先ずはハオランの方へと近づいていく。当然、それを嫌がるハオランは遠ざけようと手数が増える。
避けきれない攻撃を厳選し、致命打にならないものだけを能力で撃ち落としていく。武術を極めたハオランの攻撃を、ここまで掻い潜れるのは、キング本人が同じような劣勢を経験したことがあるのに加え、元より備わった天賦の才があってこそ成し遂げられることだ。
遂に接近を許してしまったハオラン。衝撃波を撃つのを止めボード捌きによる近距離戦に切り替えるも、度重なる彼らの攻撃を避け続けてきたキングの方が、操縦が格段に成長していた。
奇しくも、キングを引きずり落とそうと仕掛けた攻撃で、彼の技術を急速にレベルアップさせる結果に繋がってしまっていたのだ。
「くッ・・・!なんと素早いッ・・・。いつこれ程までの技術を身につけたのだッ・・・!」
「あれあれぇ~?天下のチン・シー海賊団、最強の矛ともあろうお方がこの程度では、主人様をお守り出来ないんではなくてぇ~?」
キングは腕をハオランに伸ばし、突き飛ばすように彼の身体を遠くへと吹き飛ばした。辛うじて転覆することだけは避けたハオランだったが、キングとそれを追うマクシムに大きく差をつけられてしまった。
しかし、今の一撃でハオランはキングの現状を知ることが出来た。大きく遅れをとったのと引き換えに、勝利へ繋がる収穫を得たのだ。
キング本来の力であれば、今の一撃で息の根を止めることも可能だった。その気がなかったとしても、再起出来ないほど遠くへ吹き飛ばすことくらい雑作もないだろう。
だが彼はそうしなかった。ハオランはそれを、“しなかった“のではなく“出来なかった“のだと見抜いたのだ。
「・・・なるほど、そういう事だったんですね。ならばこの程度の失態、快く受け取りましょう・・・。真の勝利の為に・・・!」
キングの限界を悟ったハオランは、直ぐに体勢を立て直し、ボードに異常がないことを確認すると、再び先へと行った二人を全力で追いかける。
その途中、彼は海中に何かの気配が駆け抜けていくような気配に気づく。海の中を、海面を走るハオランと相違ない速度で進むなど、人間に出来ることではない。
それこそ、アシュトン海賊団の潜水艦や、ヴェインのような海を泳げる大型の魔物を召喚するなどをしなければ到底できないだろう。
だが、現状トップ争いをする者達の中に、海中を進める能力や手段を持っている者はいないはず。それでは一体、ハオランが感じた気配は何者だったのか。
レイド戦が行われた海域には、いつもの上位勢だけでなく多くの海賊達が集結していた。その中に、彼の知らぬ海の中を進む能力を持った海賊でもいたと言うのだろうか。
彼はまだ知らない。何処かへ消えたシンが、まさか海中を進み彼らを追いかけていたことを。だがその手段を誰も知らない。当の本人以外は。
トップ争いをするライバルが残り一人になったキングは、その残る追跡者に狙いを定める。マクシムも嫌な視線を感じ取ると、僅かに後退りするようにハンドルを握る手が緩む。
彼でなくても当然の反応だろう。あんなものを目の前で見せられては、身体が前に出るのを拒んでもおかしくはない。そしてまだマクシムは、キングが限界に近いことを知らない。
マクシムの実力と能力があれば、今のキングに十分太刀打ちできるのだが、なかなかマクシムにそれを知る機会が訪れない。キングが細心の注意を払っているのもあるが、ハオランのように実際にその身に受けてみなければ、相手の魔力の残量など測れるものではない。
いずれは誰かと一対一になるであろうと予想していたマクシムは、相手を捕らえることに特化した自身の能力を存分に振るい、キングへの最後の攻撃を仕掛ける。
ゴールとなる大陸までそう遠くはない。間も無く勝負を決する時と読んだマクシムは、ここが全力を尽くすタイミングと言わんばかりに怒涛の攻撃を仕掛ける。
目に見えるように鋼糸を振るい、その影で海面から別の鋼糸を忍ばせて。しかし、残り魔力が少なくなり、能力が使えなくなる瀬戸際であってもキングの注意力が衰える事はなく、寧ろ研ぎ澄まされていくように繊細な動きになる。
それを目の当たりにしたマクシムは焦り、攻撃が徐々に力任せの雑なものになっていくのに気づいていなかった。
やはり精神面でも研ぎ澄まされる武術の達人であるハオランに比べれば、どんなに強力なスキルや力を持とうと、その真なる力を引き出すことは出来ない。
これはマクシムが弱いのではなく、人である以上逃れることの出来ない、無意識のセーフティー機能のようなものだ。単純な暴力を振るうのであれば、意志や心を持たぬ生物や魔物の類の方が、存分に潜在的能力を使いこなせている。
無論、そういった生物も自身を危険に晒すことまではしない。大雑把なラインが彼らの中にもあるのだろう。だが人間の場合、そうなる前に脳が考えてしまうのだ。
それこそハオランのように悟りを開くまでに至る武の達人クラスにならなければ、無心の力を振るうことは出来ない。
だが、その人間に備わった無意識のセーフティーを解除するのは、何もいいことばかりではない。それこそ命の危険に繋がるものから、二度と腕や足を動かせなくなったりと、そのリスクも甚大なものになる。
それを見極める為、途方もない鍛錬が必要なのだ。頭ではなく、身体に叩き込むほどに。
キングの冴えたるものは、その有り余るほど強力な能力を持ちながら、考えてセーフティー機能を利用できる才能をも持っていることだ。これは彼がギャングのボスとして、様々な国や大陸の者達から得た知識のおかげでもある。
知識の量は、どんな武器よりも当人を強くさせる。例え分厚い書物を暗記していなくとも、何となく頭の中にあるだけでも、全く知識のない者とは大きな差が生まれる。
マクシムにはその経験がまだ足りなかった。否、キングの経験や知識が彼のそれとは比べ物にならないほど豊富過ぎたのだ。
ハオランと同じように、如何なる攻撃をも退けマクシムの元まで辿り着いたキングは、残された魔力でその力を振りかざす。
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