World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
602 / 1,646

思惑に満ちる戦場で

しおりを挟む
 十分に距離を空けたかのように思えた、キングの仕掛けた無重力の罠。最早この差は決定的かと思われたが、罠から解放されたシン達の勢いは、キングに追い付かんとする速度で巻き返してきたのだ。

 特に群を抜いて飛び出して来たのは、先程までトップ争いに身を投じていたハオランだった。彼は武術による衝撃波を利用しボードにブーストをかけ、限界を超えた速度で前を行くキングを、怒涛の勢いで追いかける。

 シンとマクシムも、ボードの加速度が振り切らん勢いで追いかけるが、ここにきて能力の差が如実に現れ始めた。シンの影を操る能力と、マクシムの鋼糸を用いる能力では、ハオランのような推進力を得ることが出来なかった。

 何とかして食いつこうとハオランの後を追うが、みるみる距離は開いていく。自身の力で加速するには限界がある。そう悟ったマクシムは、まだハオランが自身の鋼糸の範囲にいる内に、彼に気づかれぬよう糸を飛ばして、ボードに括り付けた。

 当然、人一人分の重みが加われば流石にハオランにも気づかれる。だが、糸が括り付けられさえすればそれだけで良かった。何故なら、ハオランにマクシムを振り解いている時間などなかったからだ。

 ここで足を止めていてはキングに先を行かれる。多少速度が落ちても構っている暇はなかった。

 ハオランのボードに繋いだ糸を掴み、引っ張って行ってもらおうとしているマクシムは、シンの方を振り返り口角をあげて軽く手を振った。

 「協定はこれで終わりだ。こっからは個人戦ってことで」

 「何ッ!?」

 「アンタもあんなの聞かされちゃぁ、ハートに火をつけられちまったんじゃないのかい?」

 「・・・・・」

 戦力的に劣るシンとマクシムが協力関係を解除するのは、勝利を掴む上で得策とは言えない。キングやハオランと競り合うことになれば、どうしても力負けしてしまう。

 だがマクシムの言うように、ハオランの心境を告げられた今、誰かと手を組み策を講じようという気は起こらなかった。

 それは合理的ではなく、身を危険にさらうかも知れない。それでも心に宿った熱いものを絶やしたくはない。今はただ、その感情に従い浸っていたい。そう思ってしまっていた。

 「そんじゃぁ、せいぜい頑張ってついて来なよ!」

 「クソッ・・・!このまま追うしかないのか・・・?」

 しかし、ここではシンの影が使えない。先を行く彼らを追う手立てがなくなってしまったシンは、ただボードを走らせるしかなかった。

 ふと、彼はあることに気がつく。目の前の作戦や、キング達を追いかけることで精一杯で気づけなかったことがある。

 先を行く彼らに唯一追いつけるかも知れない手段。だがそれは、シン自身を危険に晒す行為でもあった。それでもこのまま、彼らが戦いに興じるのを指を咥えて見ていたくはなかったのだ。

 リスクがあろうと、シンは彼らに負けたくなかった。置いて行かれない為に、今自分が出来ること試さずにはいられなかった。

 シンはボードの勢いに従い、波に合わせて大きく飛び上がるとそのまま突き刺さるように海中へと飛び込んでいった。彼はそのまま姿を消し、海面から気配が途絶えた。

 精神の中でシンと繋がったことのあるハオランは、リンクの余波かその僅かな気配を感じ取り、シンが何処かへ消えるのを確認する。しかし、彼が逃げたとは思わなかった。

 共にフランソワ・ロロネーを倒し、苦難を乗り越えた彼が何もせず引き下がる筈がないと。きっと何か仕掛けてくるだろう。そう思いながらハオランは、胸を高鳴らせた。

 次はどんな手で驚かせてくれるのだろう。ハオランの中には、純粋にレースを楽しもうとする意識でいっぱいだった。

 先頭を走るキングだったが、速度はあくまでボードに搭載されている加速度の範囲を出なかった。彼はスピードアップに自身の能力を使っていなかった。正確には使えなかったのだ。

 リヴァイアサン戦で消費した魔力量は、彼の想像を遥かに超えた限界ギリギリのものだった。後を追ってくるハオラン達に、大盤振る舞いできるだけの力は残されていなかった。

 キングにも余裕がなかった。その上、単純な肉弾戦において魔力を必要とせず、己の得意分野で存分に暴れ回ることの出来るハオランには、十分過ぎるくらいの警戒が必要となる。

 残された魔力は全て彼に使い切るくらいの心持ちでなければ、足元を掬われてしまう。そうならない為にも、今あるリードを大事にしたかった。しかしそんな彼の思いも届かず、後方から迫るエンジン音と海を裂く水飛沫の音が、徐々に彼を飲み込もうと迫っていた。

 「いや~・・・。これはちょっと厳しいかもしんないねぇ・・・」

 不安を抱く彼とは逆に、追う者の意思は鋭い槍のように真っ直ぐで迷いがない。先ずはキングに追い付かないことには話が進まない。彼が何か企んでいるであろうことも考慮しながら、ハオランは能力をフル活用してボードを走らせる。

 マクシムも、何としてでも彼にキングへ追いついてもらわなければならない。その為に少しでも彼の足手纏いにならぬよう、最小の動きにとどめ手綱を握る。

 ハオランがキングに近づくに連れ、ある程度余裕の出てきたハオランは荷物となるマクシムを振り切ろうと、鋼糸を引き千切らんと行動し始めた。波に跳ね上げられ、飛び上がった隙に身体を回転させ、その鋭い刃のような足技で鋼糸を狙う。

 簡単には切断できず、何度も打ち込むハオラン。その度にマクシムの身体は大きく揺さぶられ、海に振り落とされそうになる。潮時を感じたマクシムは、自ら鋼糸を剥がし、自力で進む選択を選んだ。

 だが考えもなく諦めたわけではない。ハオランがキングを追い抜けば、再び彼らは衝突する。その隙を突き一気に追い抜いてやろうと目論んでいたのだ。

 重荷が無くなったハオランは、水を得た魚のように加速してキングを追いかける。みるみる距離を離していくハオランの背中を見つめ、マクシムは不敵な笑みを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-

星井柚乃(旧名:星里有乃)
ファンタジー
 旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』  高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。 * 挿絵も作者本人が描いております。 * 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。 * 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。  この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

転生令嬢の幸福論

はなッぱち
ファンタジー
冒険者から英雄へ出世した婚約者に婚約破棄された商家の令嬢アリシアは、一途な想いを胸に人知の及ばぬ力を使い、自身を婚約破棄に追い込んだ女に転生を果たす。 復讐と執念が世界を救うかもしれない物語。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件

なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。 そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。 このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。 【web累計100万PV突破!】 著/イラスト なかの

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...