592 / 1,646
制限された条件下で
しおりを挟む
殿を買って出たシンは、ウンディーネと共に迫り来るモンスターを待っていた。周囲には砲撃音やリヴァイアサンの咆哮、激しく打ちつけ合う波の音から人々の叫び声まで、騒々しく入り混じる。
その中で、ウンディーネの作り出した水の道に流れる音の変化を聞き取ろうと、耳を澄ませる。何かの群れが水流を切り裂くように泳ぎ進み、獲物を狙う獣のような研ぎ澄まされた唸り声を漏らしているのが聞こえ始めた。
「もう一度言うけれど、貴方が私から離れたり瀕死の状態にされてしまうと、私はこの姿と能力を保てなくなるわ。当然、この水流も道も失われてしまう・・・。気をつけてね」
「分かってる。今度は戦いに集中できるんだ。次こそしくじらないさ・・・!」
流れる水の上で、ボードをその場に止めるように速度を調整し、来るべき時に備えるシン。手にした短剣に力が入る。呼吸を整え、登って来た水の道の先を見つめる。
勇しく構える彼の前に訪れた変化は、水の中を泳いで進む水流の変化や、唸りを上げる獣の声といった比喩的なものではなく、もっとダイレクトに視覚へと映り込んで来た。
シンのいる位置から、丁度リヴァイアサンの首で陰になって見えなかった水の道から、鮫のように鋭利な背ビレを突き出し、勢いよくその姿を現した。
小型の龍のようなものから、魚人タイプのもの、そしてリヴァイアサンをそのまま小さくしたかのような、多種多様なモンスター達が、大名行列を率いてやって来たのだ。
先頭を行くモンスター達がターゲットを捕捉し、牙を剥き出しにして飛びかかって来た。素早く短剣を複数本投げて牽制するも、モンスター達はお構い無し、その数を武器にした特攻を仕掛けてくる。
間一髪のところでボードを僅かにズラし、突進を躱しつつすれ違い様に一体のモンスターの身体を別の短剣で切り裂く。悲鳴のような声を上げながら水の道に着水し、もがきながら沈んでいくと、道を貫通し海へと落下していった。
しかし、シンが避けたことで数体のモンスターが彼を無視しながら先へと向かって行く。例えシンが標的になろうとも、全てのモンスターが彼を狙っている訳ではなさそうだ。
「コイツらッ・・・!狙う相手を分担してやがるのかッ!?」
「私の魔力を帯びた水から反応を探っているのかもしれないわ。水中で生息してる彼らには、水中に伝わる何かを感知する能力が備わっているものよ」
思っていた以上に賢く攻めてくるモンスター達に苦戦を強いられるシン。先を行くハオランの為にも、少しでも多くの追手をここで食い止めなければならない。
そういった焦りが、彼に無茶な行動を取らせてしまう。モンスター達が近づく前の段階での投擲数を増やし、飛びかかろうとする前に撃墜する作戦に切り替え、それでも撃ち漏らしたモンスターには、無意識の内に自らボードを動かし身体を張って壁になろうとする行動が目立ち始める。
ある程度強引ではあるものの、勢いをつけたシンの体当たりで軌道をズラされたモンスターの中には、それで水の道を外れて海へと落下していく者達もいた。
だが一度バランスを崩すと、通り過ぎたはずのモンスターがここぞとばかりに進路を変えて、シンの背後から攻撃を仕掛けようとしていた。
「後ろッ!奴ら戻って来てるわ!」
「ッ・・・!?」
この状況で背後までカバーするのは、一人では到底不可能だった。ウンディーネは水の道を作るのに魔力を使っているため、戦闘には参加出来ない。その代わり彼の目となり、周囲の状況を伝えるアシストをしてくれてはいるが、それをどうにかするだけの能力を、シンは持ち合わせていなかった。
広範囲攻撃を行えるクラスやスキルがあれば話は別だが、元々少数戦向きのクラスであるシンには、大勢の敵を一辺に相手にする戦闘は不向きだった。
更に彼を苦しめたのが、光を透過する水上戦という要因が、彼の得意とする影を用いたスキルを悉く封じてしまっているのだ。
地上戦のようにくっきりとした影があれば、複数の敵を足止めする手段を彼は持っていた。ミアと初めて挑んだ強敵、メアのアンデッドの群れとの戦闘で見せた力だ。
本来の戦闘スタイルを封じられ、真っ向勝負しか手段のないシンにはかなり厳しい状況であった。それでもここで撤退する訳にはいかない。
モンスターの群れに集られ、猛攻を受けつつも辛うじて凌いではいるものの、疲労とダメージが蓄積され、徐々に動きが鈍くなるつつある。避けられるはずの攻撃を受け、当たるはずの攻撃が空を切る。
そして、弱まる彼を先に仕留めてしまおうと、モンスター達が一斉攻撃に出る。
すると、避けきれず身を張って耐える覚悟をしていたシンに、突如海面から無数の岩石が砲弾のように放たれる。
その中で、ウンディーネの作り出した水の道に流れる音の変化を聞き取ろうと、耳を澄ませる。何かの群れが水流を切り裂くように泳ぎ進み、獲物を狙う獣のような研ぎ澄まされた唸り声を漏らしているのが聞こえ始めた。
「もう一度言うけれど、貴方が私から離れたり瀕死の状態にされてしまうと、私はこの姿と能力を保てなくなるわ。当然、この水流も道も失われてしまう・・・。気をつけてね」
「分かってる。今度は戦いに集中できるんだ。次こそしくじらないさ・・・!」
流れる水の上で、ボードをその場に止めるように速度を調整し、来るべき時に備えるシン。手にした短剣に力が入る。呼吸を整え、登って来た水の道の先を見つめる。
勇しく構える彼の前に訪れた変化は、水の中を泳いで進む水流の変化や、唸りを上げる獣の声といった比喩的なものではなく、もっとダイレクトに視覚へと映り込んで来た。
シンのいる位置から、丁度リヴァイアサンの首で陰になって見えなかった水の道から、鮫のように鋭利な背ビレを突き出し、勢いよくその姿を現した。
小型の龍のようなものから、魚人タイプのもの、そしてリヴァイアサンをそのまま小さくしたかのような、多種多様なモンスター達が、大名行列を率いてやって来たのだ。
先頭を行くモンスター達がターゲットを捕捉し、牙を剥き出しにして飛びかかって来た。素早く短剣を複数本投げて牽制するも、モンスター達はお構い無し、その数を武器にした特攻を仕掛けてくる。
間一髪のところでボードを僅かにズラし、突進を躱しつつすれ違い様に一体のモンスターの身体を別の短剣で切り裂く。悲鳴のような声を上げながら水の道に着水し、もがきながら沈んでいくと、道を貫通し海へと落下していった。
しかし、シンが避けたことで数体のモンスターが彼を無視しながら先へと向かって行く。例えシンが標的になろうとも、全てのモンスターが彼を狙っている訳ではなさそうだ。
「コイツらッ・・・!狙う相手を分担してやがるのかッ!?」
「私の魔力を帯びた水から反応を探っているのかもしれないわ。水中で生息してる彼らには、水中に伝わる何かを感知する能力が備わっているものよ」
思っていた以上に賢く攻めてくるモンスター達に苦戦を強いられるシン。先を行くハオランの為にも、少しでも多くの追手をここで食い止めなければならない。
そういった焦りが、彼に無茶な行動を取らせてしまう。モンスター達が近づく前の段階での投擲数を増やし、飛びかかろうとする前に撃墜する作戦に切り替え、それでも撃ち漏らしたモンスターには、無意識の内に自らボードを動かし身体を張って壁になろうとする行動が目立ち始める。
ある程度強引ではあるものの、勢いをつけたシンの体当たりで軌道をズラされたモンスターの中には、それで水の道を外れて海へと落下していく者達もいた。
だが一度バランスを崩すと、通り過ぎたはずのモンスターがここぞとばかりに進路を変えて、シンの背後から攻撃を仕掛けようとしていた。
「後ろッ!奴ら戻って来てるわ!」
「ッ・・・!?」
この状況で背後までカバーするのは、一人では到底不可能だった。ウンディーネは水の道を作るのに魔力を使っているため、戦闘には参加出来ない。その代わり彼の目となり、周囲の状況を伝えるアシストをしてくれてはいるが、それをどうにかするだけの能力を、シンは持ち合わせていなかった。
広範囲攻撃を行えるクラスやスキルがあれば話は別だが、元々少数戦向きのクラスであるシンには、大勢の敵を一辺に相手にする戦闘は不向きだった。
更に彼を苦しめたのが、光を透過する水上戦という要因が、彼の得意とする影を用いたスキルを悉く封じてしまっているのだ。
地上戦のようにくっきりとした影があれば、複数の敵を足止めする手段を彼は持っていた。ミアと初めて挑んだ強敵、メアのアンデッドの群れとの戦闘で見せた力だ。
本来の戦闘スタイルを封じられ、真っ向勝負しか手段のないシンにはかなり厳しい状況であった。それでもここで撤退する訳にはいかない。
モンスターの群れに集られ、猛攻を受けつつも辛うじて凌いではいるものの、疲労とダメージが蓄積され、徐々に動きが鈍くなるつつある。避けられるはずの攻撃を受け、当たるはずの攻撃が空を切る。
そして、弱まる彼を先に仕留めてしまおうと、モンスター達が一斉攻撃に出る。
すると、避けきれず身を張って耐える覚悟をしていたシンに、突如海面から無数の岩石が砲弾のように放たれる。
0
お気に入りに追加
296
あなたにおすすめの小説
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。
蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-
星井柚乃(旧名:星里有乃)
ファンタジー
旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』
高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。
* 挿絵も作者本人が描いております。
* 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。
* 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。
この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
転生令嬢の幸福論
はなッぱち
ファンタジー
冒険者から英雄へ出世した婚約者に婚約破棄された商家の令嬢アリシアは、一途な想いを胸に人知の及ばぬ力を使い、自身を婚約破棄に追い込んだ女に転生を果たす。
復讐と執念が世界を救うかもしれない物語。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件
なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。
そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。
このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。
【web累計100万PV突破!】
著/イラスト なかの
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる