World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
590 / 1,646

水面を駆ける男達

しおりを挟む
 彼らが今最も必要としていた、魔獣の頭を海へと沈める事ができる人物が現れた。これでレールガンの射線へリヴァイアサンを引き摺り出す事が出来るようになった。

 しかし、肝心のリヴァイアサンの頭部への道がなかったのだ。如何に跳躍力のあるハオランでも、不安定且つ狭い足場のボードの上では、本来の跳躍力を出すことは出来ない。

 リヴァイアサンの首をよじ登っていこうとしても、風穴の穴の空いた身体の再生を留める為に放ったチン・シー海賊団の炎が行く手を阻み、登り切る事が出来ないのだ。

 「おいッ、シーちゃんとこの兄ちゃん!このッ・・・デカブツの頭って登れるぅッ!?」

 必死にリヴァイアサンとの力比べに興じているキングが、早速訪れたハオランに彼らの行おうとしている思惑を語る。目に現れた希望に縋るような眼差しを向けるキングに、彼は気まずそうに返答する。

 「キング・・・。いえ、今の私には少々厳しいですね・・・」

 「はぁッ!?だってアンタ、空を飛んでただろ?あれで軽々行けるじゃぁねぇか!?」

 「言っておきますが、何も私は空を飛べる人間ではありません。韋駄天はエンチャントされた武具であり、その能力は無限に使える代物ではないのです」

 彼の言う通り、エンチャントされた武器や防具には様々な能力が付与されるのだが、それは無制限に発動できるものではない。回数制限や特定の条件下でのみ発動するものもあれば、期限があるものもある。

 ハオランの足に備えられた韋駄天は、シュユーによってエンチャントされた能力により飛行能力を得ていた。そしてその能力もまた有限であり、使用回数が定められていた。

 「実はというと・・・、ここまで来る間に少々使い過ぎてしまいまして・・・」

 「・・・アンタがそれほど苦戦を強いられたってことかい?」

 「・・・・・」

 キングはある情報網から、このレースでフランソワ・ロロネーが何かを企んでいる事を知っていた。その企みが、チン・シー海賊団へ対するものだと言うことも。

 それを彼女らに知らせなかったのは、何も深い理由がある訳ではない。単純にキングのシー・ギャングとチン・シー海賊団が、仲間でも同盟を結んでいるわけでもなかったからだった。

 無論、交渉を持ちかけられればその情報を取引材料にするつもりでいた。しかし、チン・シーのみならず誰しもキングの組織に借りを作りたいとは思わないのが普通。

 例えロロネーの企てを知っていたとしても、チン・シーは彼に頼ることはなかっただろう。誤算があったとすれば、ロロネーが実力を隠していたことだ。

 それまでのレースにも、フランソワ・ロロネーの名はあった。だが、順位も別段上位というわけでもなく、目立った活躍もなかったため情報量が少なく、どのような戦闘を得意とする海賊団であるかが分からなかった。

 そこに関してはキングも同じで、ロロネーがシン達の探している黒いコートの男達と接触したことで、人智を超えた能力を手に入れていたことなど知る由もなかった。

 これが図られたことなのかは分からないが、どちらにせよハオランの韋駄天が再び飛行能力を手に入れるには、シュユーの力が必要となるということだ。それをキングに説明すると、チン・シー海賊団がすぐ側まで来ていることをキングは彼に知らせ、急ぎエンチャントしてくるよう頼んだ。

 「貴方の方は、どれくらい保つんです?」

 「俺ちゃんを誰だと思ってんのよッ・・・!そんな心配してねぇで、さっさと戻ってちょうだいなぁ。多分、エイヴリーのおっさんの方は準備出来てっと思うからよッ・・・」

 暫くキングの表情を見つめた後、ハオランはボードの向きを変え、チン・シーの元を目指し始めた。彼は気づいていた。キングが強がりをしていたことを。

 余裕そうな態度をとってはいたが、その額に滲む汗や震える手足を見れば限界が近いであろうことなど、ハオランはお見通しだった。

 それに、一人の人間があれほど巨大な生物を押さえ込むなど、常軌を逸しているのは一目瞭然。のんびりしている時間がないのは確実。ハオランは持てる力を尽くし、ボードを走らせる。

 その途中で彼は、リヴァイアサンへと向かうシンとすれ違う。

 「ハオランッ・・・!?」

 「すみません、今は話している余裕がッ・・・」

 止まることなく駆け抜けようとする彼に、シンは彼をリヴァイアサンの頭部まで連れていけば、風穴を広げ頭を千切落とすことも可能なのではないかと考え、急ぐ彼を呼び止めるように提案した。

 「待ってくれ!これからあの魔物の頭に登る。アンタの力を借りられないか!?」

 シンの言葉に急ブレーキをかけて止まるハオラン。ボードからは凄まじい勢いで水飛沫が跳ね上がる。そしてシンの口にしたリヴァイアサンを登る方法が、エンチャントのかけ直しよりも早いものかどうかを確認する。

 通常、シュユーのエンチャントは事前に準備をして行うもの。彼の韋駄天に関しては、毎回出撃前に済ませている。戦闘の最中で再補給したことは一度もなかった。

 故にハオランの中で、無視出来ない不安要素があった。もしこのままチン・シー海賊団の元へ辿り着き、シュユーの元を訪れても確実にエンチャントをしてもらえる確証がなかったのだ。

 目的が一緒なら、シンのその方法を確認してからでも遅くはない。それに彼の言い方からすると、一度魔物の頭部に登ったかのような口ぶりであったのを見逃さなかったハオラン。

 そしてシンは、ミアの精霊ウンディーネの力を借り、ボードで駆け上がれる道を登る事を説明すると、ハオランは二つ返事で了承し、すぐに今も耐え続けているキングの元へ急行する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します

地球
ファンタジー
「え?何この職業?」 初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。 やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。 そのゲームの名はFree Infinity Online 世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。 そこで出会った職業【ユニークテイマー】 この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!! しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

幼馴染と一緒に勇者召喚されたのに【弱体術師】となってしまった俺は弱いと言う理由だけで幼馴染と引き裂かれ王国から迫害を受けたのでもう知りません

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
【弱体術師】に選ばれし者、それは最弱の勇者。 それに選ばれてしまった高坂和希は王国から迫害を受けてしまう。 唯一彼の事を心配してくれた小鳥遊優樹も【回復術師】という微妙な勇者となってしまった。 なのに昔和希を虐めていた者達は【勇者】と【賢者】と言う職業につき最高の生活を送っている。 理不尽極まりないこの世界で俺は生き残る事を決める!!

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

処理中です...