World of Fantasia

神代 コウ

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鍛え上げられた人間兵器

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 一人の人間が抑え込めるような質量の魔物ではない。だが、彼らの目にはそのあり得ないような光景が写っていた。それまで何度か力を披露していたキングだったが、エイヴリーやチン・シーに感化され、実力を表し始めた。

 キングがリヴァイアサンの頭部を海面に倒すように抑えつけたおかげで、砲身の角度を変えることが出来なくなってしまったレールガンでも、狙えるようなところにまで下がってきた。

 これにより、レールガンを治す必要がなくなったエイヴリーは、このチャンスをものにせんと、修復に使っていた能力を全て、再装填の為に費やす。直接エイヴリーが手を加えることで、レールガンの再装填が加速する。

 しかし、それには相応のリスクを伴い、大量の魔力を消費してしまうことになる。今までエイヴリーがレールガンの再装填に手を加えなかったのは、それを杞憂してのことだった。

 だがキングの全力を持ってしても、解き放たれたリヴァイアサンの力を完全に抑え込むには至らなかったのだ。あともう少しというところで、リヴァイアサンの頭部はレールガンの射線から僅かに上のところで踏み止まっていた。

 「ッ・・・俺ちゃんも焼きが回ってきたか?全力でやってんだけどねぇ~ッ・・・!」

 惜しいところで下がり切らないリヴァイアサンの頭部を見て、キングの力を持ってしても、やはりあそこまで巨大な魔物を押さえつけるのは不可能なのかと見つめるエイヴリー。

 「・・・?様子がおかしいな・・・」

 「どうしたんです?」

 「デカブツの頭が、もう少しってところでレールガンの射線上まで降りてこねぇ・・・。奴が意図的にあそこで留めてるとは思えねぇ。つまり、奴の力を持ってしても、あれが限界ってこった・・・」

 希望を見出していたところに、聞きたくもない真実を聞かされたかのような反応を示す船員。これではレールガンの装填が完了しても頭部を狙うことは出来ず、結局可動装置の修復作業を行わなければならない。

 「ではどうしますか?このまま装填が完了し次第、修復するしかないということでしょうか・・・?」

 「そうだな・・・。或いは、デカブツの頭部を上から叩き伏せられるだけの力があれば、コイツでぶち抜いてやるんだが・・・」

 エイヴリーが含んだ言い方をしたのは、彼らにこれ以上悪い知らせを伝えない為だった。キングがあれ程苦戦するリヴァイアサンの頭部を、そう簡単に押さえつけられるものではない。

 それこそキングの能力に匹敵するか、至らずとも劣らぬ実力がなければ不可能。エイヴリー自身を含めたエイヴリー海賊団の面々は、強力な力や能力を持つ者はいても、巨大な魔物を押さえつけられるような怪力に特化した者はいない。

 それはキングのシー・ギャングの幹部達も同じで、ダラーヒムがパワータイプの攻撃が可能ではあるが、錬金術で巨大な物を作り出すだけの物資が必要になる。

 だがそれを実現させようとすれば、海上にある海賊船をいくつ使うことになるのか、想像すら出来ない。それでは何人の命と船を犠牲に、漸く賭けの場に立てるかという、メリットに見合わぬリスクが要求される。

 雲行きが怪しくなる最終決戦の場に、荒波を割いて向かってくる一人の人物がいた。

 各々がそれぞれの役割に必死になり、この場に近づく影に気付かぬ中、その人物は海面でリヴァイアサンの首元で踏ん張っているキングを見つけ、何をしようとしているのかを悟ると、彼を邪魔しないようにリヴァイアサンへ近づく。

 そして巨大な大木のように太い首に近づくと、目にも止まらぬ素早い拳を数回打ち込む。すると突然、リヴァイアサンはバランスを崩したかのようにぐらりとよろめき、頭部が海面に近づく。

 突然軽くなったことに驚くキング。抜かりない彼は、そんな不測の事態があっても力を緩めることなく、逆に踏ん張りを効かせリヴァイアサンの頭部を下がったところで固定させる。

 「何だ・・・?誰か来たのかッ?」

 すると、リヴァイアサンの首に攻撃を打ち込んだ人物が口を開く。

 「何という肉の壁・・・。私の指圧が根幹にまで届かない・・・!?」

 リヴァイアサンの頭部に起きる異変を見ていたチン・シーは、その人物の接近を誰よりも早く感知していた。何故そのようなことが出来たのか。

 それは彼女が、その人物と深い関わりのある人物であるが故だった。この作用はシンの中にもまだ残っており、彼女がレイドの戦場を詳しく特定出来たのも、彼らのその気配を感知していたからだったのだ。

 「おぉ・・・無事であったか。まさか此度のレイドがこれ程の事態になっているとも知らず、苦労をかけたな・・・“ハオラン“」

 シー・ギャングの幹部であるスユーフと共に、リヴァイアサンの身体を攻撃していたハオランが、いつの間にか攻撃を引き上げ一人でこんなところにまでやって来ていた。

 彼はリヴァイアサンへの攻撃を続ける最中、空を駆ける炎の鳥の姿を視界に捉えていた。そんな事ができる人物など、彼の中では自分が所属するチン・シー海賊団の連携弓技でしか見たことがなかった。

 すぐにチン・シーが戦場にやってきた事を悟ると、彼はスユーフに彼女の元へ行きたいと伝え、スユーフを彼の船団へ送り届け、急いでリヴァイアサンの頭部があるこの場までやって来たのだった。
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