World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
583 / 1,646

窮地脱出

しおりを挟む
 異様な現象の引き金を引いたシン達。その代償に、世界を旅する少年ヘラルトを失う。白馬の散り際を見るに、恐らく彼はもういなくなってしまったのだろう。

 再び落下していくシンは、最初の落下の時とは違い高度は低いものの、それでもまだ大怪我を免れない高さであることには変わりない。そしてリヴァイアサンとの距離も空いたことで、水の魔法による妨害からは逃れられた。

 「水面が近づいたら、私が魔法で受け止めるわ!ただ・・・、それよりも先に貴方が落ちてしまっては、元も子もないけどね」

 シンの落下を追うように飛んで追いかけるウンディーネは、辛そうにしながらも彼を安心させようと言葉を掛ける。が、やはりその小さな身体で、一般的な人間の質量の落下に追いつけるほど、彼女の飛行能力は高くなかった。

 薄々シンもそれには気がついていた。彼女は無理をしている。それに、距離が開けば開くほど、ウンディーネの能力だけでなくその身体も薄くなっていたのだ。

 この状況を脱する為にも、落下の速度を落とす別の手段を考えなければならない。すると、またしても彼に意外な人物からの救いの手が差し伸べられることになる。シンの身体が、突然急降下を止め、緩やかに降下し始めたのだ。

 「こッこれは・・・!?」

 彼を窮地から救ったのは、海面でシンが落としてしまったと思っていたボードに乗るキングだった。彼はシンの落下地点付近の海面に留まり、二人の方へ手を伸ばしていた。

 「アンタはッ・・・!」

 「暫くぶりぃ~。空から何やら面白そうな物が落ちて来たんでねぇ。そいつを拾いに来たついでにね」

 まるで身体にかかる重力が無くなったかのように軽くなる。そのままゆっくり海面付近まで降ろされると、キングはシン身体を担ぎ、ミア達の乗る船に向かってボードを走らせた。

 「あんなところで何やってたの?わざわざあんな怪物に飛び乗るなんて、普通じゃぁないよねぇ~?」

 どうやらキングは、リヴァイアサンの身体に起きていた異変に気づいていない様子だった。無論、大波や魔法の様子から最初の時より弱体化していることには気づいていたが、その後頭部から背にかけての呪いについては知らなかった。

 彼に全てを正直に伝えていいものかとシンは思ったが、キングの持つ知識や情報網があれば、何かわかるかも知れないと、シンは彼にリヴァイアサンの背で起きたことを話した。

 「・・・見たこともないような文字ぃ?それに黒い穴だぁ?見てみねぇことには分からんよねぇ・・・」

 「全てではないけど、一部なら私が再現できるわ」

 そう言うとウンディーネは、自身の魔力で水を操り、宙にリヴァイアサンの背に刻まれていた文字の幾つかを浮かびあがらせた。操縦の片手間に、それを視界に入れるキング。

 だが、各国に根を張る彼の情報網を持ってしても、彼女の見せた謎の文字に見覚えはないようだった。やはりこの世界の文字ではないのだろうか。ならば考えられるのは、シン達がやって来た現実世界の文字ということになる。

 しかし、こんな時の為の白獅との連絡手段が役に立たない。何故か彼は、シンの声に答えないのだ。向こうで何かあったのだろうか。

 シンは自身の学の無さを悔やんだ。どうしてあの時逃げてしまったのかと。学舎での虐めが、彼の学びに対する姿勢に大きなトラウマを残したのだ。それ以降シンは、一人でいる時に学校でやるような調べ物や筆記をしていると恐怖に駆られるようになってしまい、知識を得ることに抵抗を覚えてしまった。

 暫くボードを走らせると、すぐにミア達のいる船に到着した。キングはシンを下ろしミアとツクヨに彼を預けると、そのままツバキのボードで立ち去ろうとした。

 「おい、アンタそれッ・・・!」

 「おいおい、俺ちゃんはソイツの命の恩人だぜぇ?これは謝礼ってことで貰ってくよぉん。えらく面白い玩具だ、気に入ったぜぇ!」

 そういうと彼は、どこで操縦を覚えたのか、シンやツクヨ以上の技術で海原を駆け抜けていった。

 船には先に運ばれていたマクシムがまだ、意識を取り戻していない状態で眠っていた。疲労で椅子に寝込むシンに変わり、漸く主人の元へ戻ってきたウンディーネが、リヴァイアサンの背で起きた出来事をミア達に伝える。

 だが、やはりシンと同じくミアやツクヨでも、謎の文字の解読は不可能だった。つまり、一般的にあまり目にすることない文字であることが窺える。それと同時に、本当にこの文字の謎について分かる日が来るのか、少し不安にもなったシン。

 彼らが話している間に、マクシムが目を覚まし起き上がる。初めは見知らぬ天井に警戒していたが、ツバキの姿を見ると、彼は安心したように肩の力を抜いた。そして事情を聞き、彼らはマクシムをエイヴリーの船に送り届ける為、レールガンの積まれた戦艦を目指す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...