World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
556 / 1,646

洞窟探索

しおりを挟む
 洞窟へ向かう道すがら、デイヴィスはダミアンの名の由来をハーマンに伺う。彼女の父もまた、漁師長として彼らをまとめ、町長らのやり方に屈する事なく抵抗し続けていたのだという。

 彼女のあの勇ましさは、そんな父の姿を模したものなのだとか。海賊や略奪者達と戦う父親の背中は、彼女を心配させたがそれ以上に、憧れの姿をしていた。

 漁師長の子が必ずしも後を継ぐ訳ではなかったが、彼女は父のようにありたいと、日々戦闘の訓練を行い、若くして海賊達を迎撃する部隊に混じり、その手を血に染めてきた。

 父親譲りの身体能力と統率力で、その頭角をみるみる表していき、次第に彼女を中心として戦闘を行う部隊は、上手く一つにまとまっていった。

 「だが、それが何故女である事を否定することに繋がる?」

 「もう知ってるかもしれないが、この町は昔の仕来りや決まりごとを重視する傾向にあって、女や子供が男の仕事場である漁に出たり、剰え海賊共と戦うなど許されることではなかった」

 よくある話だ。女が男の仕事に口を出したり踏み入るのは許されないといういう話。この港町にもそのような、どこにでもある慣わしがあり、町の住人達や町長サイドの人間に知られれば面倒なことになる。

 彼女の父ダミアンも、そういった昔の仕来りに縛られることを嫌ってはいたが、可愛い我が子を危険に晒すのには反対だったのだ。そこで彼女は、父に黙って髪を切り落とし、男のような格好で部隊に潜り込んで戦っていた。

 初めのうちは反対していたダミアンも、彼女の存在が部隊の中で大きくなったいき、その才能を開花していく様を見るにつれ、外せない存在へとなっていくのを感じ、遂には彼女を頼るほどにまで成長したことを、心から喜んだ。

 「だから別にアンタに隠していた訳じゃない。あれが彼女や俺達にとって普通の事だっただけだ」

 「確かに。嘘をつけそうな器用な人間には見えなかったな・・・」

 「それ故、彼女はつけ込まれやすい。悪巧みを計画する者や、町長の意見に賛同する漁師による密告なんて事も少なくなかったんだ。だから漁師達は、家族のように深い信頼関係を築く必要があった」

 漁師の中にも、町長のやり方に賛同する者はいた。ダミアン達のように危険を冒さなくとも町は守れる。海賊達に交渉を持ちかけ、襲撃をやめさせることができる。

 だが、それで奴らが満足する筈などなく、要求は次第に大きくなっていくことは火を見るよりも明らかだった。だからこそ、恐怖や暴力に屈することなく戦う意志を見せつけることが大切だったのだが、そこにはかけがえのない者達の血が絶えず流れた。

 戦うことに疲れた者達が、町長サイドの人間達に寝返ることも少なくはなかった。誰しもが安全で平穏に暮らしたいと思うことだろう。しかし、彼らの町は交渉で生きていけるほど資源はなく、大きな町でもなかったため、取引材料が無くなるのも時間の問題だった。

 近隣諸国との貿易で町を豊かにしていく町長らの働きも、海賊や略奪者達と戦い牽制する漁師達の働きも、どちらも失うことの出来ない重要なことだった。

 「そこへこの病か・・・。救いの手は差し伸べられず、外からやってくる者もいない。町の崩壊は避けられないな」

 「・・・先生に頑張ってもらうしかない。その為に重症な者や死者の解剖を提案しているんだがな・・・。あの人は優しすぎる。それに難しい立場でもある。人間の身体をバラすなど、とても賛同の得られる所業じゃない・・・」

 「だが、そうしなければ町は滅びるんだぞ?」

 「それでもだ。自分の身内や愛する者が、他人の手で肉塊になるのを良しとする人間はそうはいない。戦いの中で多くの死に触れてきた俺達ならまだしも。他の連中には受け入れがたいことなんだろう・・・」

 死んでしまえば、この世に残された肉体などただの“物“でしかない。だが、動かなくなった途端に割り切れるほど、ここの者達は強くない。死に慣れてしまうことを強さと言うのは間違っている。

 彼らこそ正常な精神の持ち主で、死をなんとも思わなくなってしまうことこそ異常なのだ。そういった点では、部外者であり、多くの死を乗り越えてきたデイヴィスもまた、心の壊れた異常者なのかもしれない。

 彼女のこととダミアンの名について話しているうちに、二人は入り江の洞窟にまでやって来ていた。海水はすっかり抜けており、水分をたっぷりと含んだ砂が相場の悪い沼のようになっている。

 岩場を上手に渡っていき、洞窟の入り口にやって来るデイヴィスとハーマン。手元と近場にあるものを使い、簡易的な松明を作ると明かりを灯し、暗い穴蔵の中へと入っていく。

 「中は入り組んでいるからな。離れずついてきてくれ」

 彼の持つ明かりだけが頼りで、足元すらろくに見えない。少しでも離れてしまうと、松明の光が闇に飲み込まれてしまうように見えなくなる。波に置き去りにされ、魚が足元の岩場に身体を打ち付ける音が聞こえる。

 天井から落ちる水滴が、洞窟の中で反響し心地の良い音が耳へと伝わる。そして暫く進むと、ハーマンは足をとめ、デイヴィスの方へ振り返る。

 「ここから先は一本道だ。迷うこともないだろう・・・」

 そう言うと、手に持った松明の火を自ら持ち込んだ折り畳み式のランタンに灯し、松明の方をデイヴィスへ差し出した。そんな物を持っているなら、何故初めから明かりを分けなかったのか。

 「どうした?突然・・・」

 「案内はここまでだ。これ以上先に入ることを、俺達は許されていない」

 デイヴィスが率直に思ったこと。誰にも言わなければ分からないのではないか。しかしそれは余所者である彼の考えであって、この町の者達にとっては、宗教上の問題で食べられないものがあったり、足を踏み入れてはならない場所があったりするものと同じなのだろう。

 「安心しろ。水位が上がってくるまでには、まだまだ時間がある。それに水位が上がってくれば分かる筈だ。そしたらすぐに戻ってくればいい」

 「理由は聞かない方がいいのか?」

 「大袈裟な理由ではないないが、その方が助かる。ただ、誓ってお前を騙そうとしている訳ではないとだけ言わせてくれ。何かあればすぐにダミアンに知らせ、助けを呼ぶ。その時は大声で叫んでくれ。洞窟の外で待っている」

 「・・・分かった。アンタを信じよう。案内、感謝する」

 二人はそこで別れ、デイヴィスは奥へ、ハーマンは入り口の方へと向かっていった。彼の言うように、先の洞窟は一本道であり、迷うことなく足を進めることができたが、道は次第に狭くなっていった。

 そして一人になって暫く進むと、書物庫で見た洞窟の地図にもあった広間へと辿り着いた。手にした松明の明かりだけでは照らしきれない。近場に燃やせるものはないかと探すが、普段ここが海水に満たされていることを考えると、絶望的かもしれない。

 だが、燃やせるものはなくとも、照明代わりになりそうな物だけは見つかった。デイヴィスは自身の持ち物から火を灯せそうな物を取り出すと、広間のあちこちに明かりを灯していった。

 「なるほど・・・ここが生贄の間だったんだろうな。海の神とやらに連れて行かれるまでの間、死なれないようにここで過ごしていたのか、こんな物が洞窟にある訳だ・・・」

 広間には、如何にも誰かがそこで暮らしていたような食器や道具が、錆びた状態で散らばっていた。儀式が行われていたのは、今の町長よりも何代も前の話。当然、その間ここは無人の状態で放置されていたことだろう。

 そして彼の足元には、財宝を探し求め迷い込んだ海賊のものだろうか、多くの人骨がバラバラの状態で散らばっており、祭壇らしき台座には、ロープの絡まった人骨がくたびれるように横たわっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

恋人を寝取られた挙句イジメられ殺された僕はゲームの裏ボス姿で現代に転生して学校生活と復讐を両立する

くじけ
ファンタジー
 胸糞な展開は6話分で終わります。 幼い頃に両親が離婚し母子家庭で育った少年|黒羽 真央《くろは まお》は中学3年生の頃に母親が何者かに殺された。  母親の殺された現場には覚醒剤(アイス)と思われる物が発見される。  だがそんな物を家で一度も見た事ない真央は警察にその事を訴えたが信じてもらえず逆に疑いを掛けられ過酷な取調べを受ける。  その後無事に開放されたが住んでいた地域には母親と自分の黒い噂が広まり居られなくなった真央は、親族で唯一繋がりのあった死んだ母親の兄の奥さんである伯母の元に引き取られ転校し中学を卒業。  自分の過去を知らない高校に入り学校でも有名な美少女 |青海万季《おおみまき》と付き合う事になるが、ある日学校で一番人気のあるイケメン |氷川勇樹《ひかわゆうき》と万季が放課後の教室で愛し合っている現場を見てしまう。  その現場を見られた勇樹は真央の根も葉もない悪い噂を流すとその噂を信じたクラスメイト達は真央を毎日壮絶に虐めていく。  虐められる過程で万季と別れた真央はある日学校の帰り道に駅のホームで何者かに突き落とされ真央としての人生を無念のまま終えたはずに見えたが、次に目を覚ました真央は何故か自分のベッドに寝ており外見は別人になっており、その姿は自分が母親に最期に買ってくれたゲームの最強の裏ボスとして登場する容姿端麗な邪神の人間体に瓜二つだった。  またそれと同時に主人公に発現した現実世界ではあり得ない謎の能力『サタナフェクティオ』。  その能力はゲーム内で邪神が扱っていた複数のチートスキルそのものだった。  真央は名前を変え、|明星 亜依羅《みよせ あいら》として表向きは前の人生で送れなかった高校生活を満喫し、裏では邪神の能力を駆使しあらゆる方法で自分を陥れた者達に絶望の復讐していく現代転生物語。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ

真義あさひ
ファンタジー
俺、会社員の御米田ユウキは、ライバルに社内コンペの優勝も彼女も奪われ人生に絶望した。 夕焼けの歩道橋の上から道路に飛び降りかけたとき、田舎のばあちゃんからスマホに電話が入る。 「ユキちゃん? たまには帰(けぇ)ってこい?」 久しぶりに聞いたばあちゃんの優しい声に泣きそうになった。思えばもう何年田舎に帰ってなかったか…… それから会社を辞めて田舎の村役場のバイトになった。給料は安いが空気は良いし野菜も米も美味いし温泉もある。そもそも限界集落で無駄使いできる場所も遊ぶ場所もなく住人はご老人ばかり。 「あとは嫁さんさえ見つかればなあ~ここじゃ無理かなあ~」 村営温泉に入って退勤しようとしたとき、ひなびた村を光の魔法陣が包み込み、村はまるごと異世界へと転移した―― 🍙🍙🍙🍙🍙🌾♨️🐟 ラノベ好きもラノベを知らないご年配の方々でも楽しめる異世界ものを考えて……なぜ……こうなった……みたいなお話。 ※この物語はフィクションです。特に村関係にモデルは一切ありません ※他サイトでも併載中

処理中です...