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ダミアン・フィッシャー
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着地した時にこぼれ落ちた武器を拾う男。そのまま病に犯された足で、生まれたての子鹿のようにおぼつかない様子で立ち上がる。そんな状態でまだ、デイヴィスの前に立ちはだかろうというのか。
ゆっくりと一歩づつ、前へと進んでくる男を、デイヴィスは黙って見ていた。だが、彼を驚かす事態は立て続けにやって来た。
明らかに勝負の見えている戦いに水を差すように、デイヴィスに向けて殺意のこもった敵意が放たれる。背筋に走る悪寒に気づいたデイヴィスが、咄嗟に上体を逸らし、放たれた殺意を見事にキャッチした。
それは手斧だった。如何にも海賊やヴァイキングと呼ばれるクラスの者が扱う武器。しかし、港には彼らの他に海賊船など停泊していなかった。なのに何故こんなものが、デイヴィスに向けて投げられたのか。
彼が手斧の飛んで来た方へ視線を送ると、そこには魚の入った小さな網を片手で背負いながら、こちらにやって来る人物がいたのだ。その身体は、この港町に広まっている病に犯されている。
腕や足の一部を、投げ放たれた手斧の刃のように銀色に輝かせ、町並みを鏡のように映し出している。動くのに支障のない部位に感染している為か、その者はまだ病に犯されていないデイヴィスのように、平然と動いていた。
「野郎ッ・・・!マジに殺すつもりで投げやがったな」
すると、その人物は彼の予想外の声で話しかけてきた。容姿からでは判断できなかった。上に羽織っているもののフードを深く被り、素性を隠していたからだ。
「何だ貴様?ウチの連中になんの用だ?」
女の声だ。こんなにも勢いよく投げられた手斧が、女性によって放たれたものだとは思わず、素直に驚くデイヴィス。身体の一部が変化する、恐らく初期症状と思われる状態で、こうも平然と動けていることにも驚きだ。
「随分な挨拶じゃねぇか。こっちには敵意はねぇってのに・・・」
「ウチのもんがテメェの前で倒れてた。理由なんてそれで十分だろ?」
「勝手に倒れたんだがな・・・」
随分と物騒な理由だ。こちらの都合などお構い無しということだろう。話を聞く気など全くなかったのか、女はズカズカと敵意のないデイヴィスの元へと近づいて来る。
「長・・・。すみません、仕留め損いました・・・」
「構わねぇよ。どうやら俺達に喧嘩を売る気はねぇようだからな」
女は立ち尽くすデイヴィスを尻目に、フラフラと立ち上がる男を支え、ログハウスの中へ入っていこうとする。その際、デイヴィスに顔でついて来いと言わんばかりに合図すると、扉を足で押し開ける。
「おい!誰か手当てしてやれ。足首をやっちまってる」
「お帰りなさい、長。この男は・・・?」
「見ねぇ顔だ。外から来た奴だろうよ。よりにもよってここを尋ねるとはねぇ・・・。命知らずなのか、腕に自信があるのか・・・」
仲間内で会話を始める手斧を投げた女と、ログハウスの男。デイヴィスの姿を見て、すぐに外からやってきた者と見定めたようだ。そしてその鋭い眼光は、デイヴィスの露出した身体の部位へと向けられる。
「病気にかかってねぇな・・・。あの藪医者んところで、何かされたのか?」
「薬だ。彼は健康である者に対する予防薬のようなものを持っている」
「だろうな。信じちゃいなかったが、どうやら奴の言ってたことは本当だったようだな。こうして生き証人が現れちまったら信じる他ねぇわな・・・」
どうやら彼らも、診療所のスミスのことを疑っていたようだ。例え病の予防に効く薬をチラつかされても、それでもこの町に対するスミスの犯した罪というのは、この町の住人達の間に強く根付いているようだった。
「アンタ今、ここの奴らに“長“と呼ばれていたな・・・。どういうことだ?漁師長である“ダミアン・フィッシャー“とやらは何処にいる?」
案内されたログハウスの中を見渡せど、それらしき人物は見当たらない。その代わりに、今デイヴィスの目の前には、周りの者達に長と呼ばれ、信頼されている女がいる。もしや、病によって死に絶えてしまったのだろうか。
「テメェの目の前にいるのが、その“ダミアン・フィッシャー“だ。いらねぇ知恵をつけさせやがったのは藪医者野郎か?それともハンクの糞ジジイか?」
デイヴィスは初め、この女が何を言っているのか分からなかった。ダミアンという名を聞いて、彼はそれが“男“の名前だとばかり思っていたからだ。だが、デイヴィスの目の前には強気な態度をとる女しかいない。
彼女は自分がダミアン・フィッシャーであると言ったのだろうか。固まるデイヴィスを見て、その理由を察した女が先に口を開き、その疑問に答えた。
「俺がダミアン・フィッシャーじゃ不服か?」
「・・・いや、少し驚いただけだ。名前などただの呼び名に過ぎない。重要なのは、俺が用のある人物がアンタであること、それだけだ」
ダミアンという名は、本来男性に付けられるような男性名だ。だが、デイヴィスにとって今はそんなことなどどうでもいい事だった。この町でそう呼ばれる人物が、町長の他に権力を持つ人物である。俺が重要なのだから。
「はッ!言うじゃねぇか。気に入ったぜ!話の分かる奴は楽でいい。まぁ適当に座れ。話を聞こうじゃねぇ」
そう言うと、今まで険しかった彼女の表情は一気に晴れ渡り、近くにある椅子へデイヴィスを座らせる。今彼の目の前にいる女性こそ、この港町の漁師長であるダミアン・フィッシャーその人だったのだ。
ゆっくりと一歩づつ、前へと進んでくる男を、デイヴィスは黙って見ていた。だが、彼を驚かす事態は立て続けにやって来た。
明らかに勝負の見えている戦いに水を差すように、デイヴィスに向けて殺意のこもった敵意が放たれる。背筋に走る悪寒に気づいたデイヴィスが、咄嗟に上体を逸らし、放たれた殺意を見事にキャッチした。
それは手斧だった。如何にも海賊やヴァイキングと呼ばれるクラスの者が扱う武器。しかし、港には彼らの他に海賊船など停泊していなかった。なのに何故こんなものが、デイヴィスに向けて投げられたのか。
彼が手斧の飛んで来た方へ視線を送ると、そこには魚の入った小さな網を片手で背負いながら、こちらにやって来る人物がいたのだ。その身体は、この港町に広まっている病に犯されている。
腕や足の一部を、投げ放たれた手斧の刃のように銀色に輝かせ、町並みを鏡のように映し出している。動くのに支障のない部位に感染している為か、その者はまだ病に犯されていないデイヴィスのように、平然と動いていた。
「野郎ッ・・・!マジに殺すつもりで投げやがったな」
すると、その人物は彼の予想外の声で話しかけてきた。容姿からでは判断できなかった。上に羽織っているもののフードを深く被り、素性を隠していたからだ。
「何だ貴様?ウチの連中になんの用だ?」
女の声だ。こんなにも勢いよく投げられた手斧が、女性によって放たれたものだとは思わず、素直に驚くデイヴィス。身体の一部が変化する、恐らく初期症状と思われる状態で、こうも平然と動けていることにも驚きだ。
「随分な挨拶じゃねぇか。こっちには敵意はねぇってのに・・・」
「ウチのもんがテメェの前で倒れてた。理由なんてそれで十分だろ?」
「勝手に倒れたんだがな・・・」
随分と物騒な理由だ。こちらの都合などお構い無しということだろう。話を聞く気など全くなかったのか、女はズカズカと敵意のないデイヴィスの元へと近づいて来る。
「長・・・。すみません、仕留め損いました・・・」
「構わねぇよ。どうやら俺達に喧嘩を売る気はねぇようだからな」
女は立ち尽くすデイヴィスを尻目に、フラフラと立ち上がる男を支え、ログハウスの中へ入っていこうとする。その際、デイヴィスに顔でついて来いと言わんばかりに合図すると、扉を足で押し開ける。
「おい!誰か手当てしてやれ。足首をやっちまってる」
「お帰りなさい、長。この男は・・・?」
「見ねぇ顔だ。外から来た奴だろうよ。よりにもよってここを尋ねるとはねぇ・・・。命知らずなのか、腕に自信があるのか・・・」
仲間内で会話を始める手斧を投げた女と、ログハウスの男。デイヴィスの姿を見て、すぐに外からやってきた者と見定めたようだ。そしてその鋭い眼光は、デイヴィスの露出した身体の部位へと向けられる。
「病気にかかってねぇな・・・。あの藪医者んところで、何かされたのか?」
「薬だ。彼は健康である者に対する予防薬のようなものを持っている」
「だろうな。信じちゃいなかったが、どうやら奴の言ってたことは本当だったようだな。こうして生き証人が現れちまったら信じる他ねぇわな・・・」
どうやら彼らも、診療所のスミスのことを疑っていたようだ。例え病の予防に効く薬をチラつかされても、それでもこの町に対するスミスの犯した罪というのは、この町の住人達の間に強く根付いているようだった。
「アンタ今、ここの奴らに“長“と呼ばれていたな・・・。どういうことだ?漁師長である“ダミアン・フィッシャー“とやらは何処にいる?」
案内されたログハウスの中を見渡せど、それらしき人物は見当たらない。その代わりに、今デイヴィスの目の前には、周りの者達に長と呼ばれ、信頼されている女がいる。もしや、病によって死に絶えてしまったのだろうか。
「テメェの目の前にいるのが、その“ダミアン・フィッシャー“だ。いらねぇ知恵をつけさせやがったのは藪医者野郎か?それともハンクの糞ジジイか?」
デイヴィスは初め、この女が何を言っているのか分からなかった。ダミアンという名を聞いて、彼はそれが“男“の名前だとばかり思っていたからだ。だが、デイヴィスの目の前には強気な態度をとる女しかいない。
彼女は自分がダミアン・フィッシャーであると言ったのだろうか。固まるデイヴィスを見て、その理由を察した女が先に口を開き、その疑問に答えた。
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「・・・いや、少し驚いただけだ。名前などただの呼び名に過ぎない。重要なのは、俺が用のある人物がアンタであること、それだけだ」
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「はッ!言うじゃねぇか。気に入ったぜ!話の分かる奴は楽でいい。まぁ適当に座れ。話を聞こうじゃねぇ」
そう言うと、今まで険しかった彼女の表情は一気に晴れ渡り、近くにある椅子へデイヴィスを座らせる。今彼の目の前にいる女性こそ、この港町の漁師長であるダミアン・フィッシャーその人だったのだ。
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