546 / 1,646
募る不信感
しおりを挟む
閑散とした港町へ再び戻って来ると、病が発症した者を診療所へ運ぶ船員とすれ違う。だがこれ以上町にいるのは危険だと判断したデイヴィスは、感染していない船員を集め、診療所のスミスから受け取った防錆効果のある薬を分け与える。
薬を飲んだ者達が代わりに感染者の運び込みを行い、残りの者達は診療所へと向かった。感染者を運び終わった後は、船に積んである必要な物資を診療所まで運んでおくように指示し、デイヴィスはそのまま町の建物を虱潰しに訪れる。
「おい!誰かいねぇか?」
すると、奥の方で疲れ切ったような女性の声が聞こえてきた。声はするものの姿を見せない住人。スミスは町の病の進行はだいぶ進んでいると言っていた。要するに、今聞こえてきた女性の声の主は、歩けなくなるような位置に症状が現れたか、或いは既に錆が全身に回ってしまっている重傷者であると言うことだろう。
全く躊躇することなく、土足で上がり込んでいくデイヴィスは、声のした方へ向かい、具合の悪そうな女性を発見する。ベッドに寝たきりの状態で横たわる女性の顔は、錆に侵食され辛うじて話せているような状態だった。
「悪りぃな、勝手に上がらせてもらったぜ」
顔を少しだけデイヴィスの方へ向け、視線が頭から足先へとゆっくり下がっていき、再び顔へと戻ってくる。デイヴィスの風貌を見て、直ぐに彼が海賊であるのを悟る女性。
しかし、相手が誰であろうと関係ない。既に身体は自由を失い、家を荒らされるも命を絶たれるも成すがまま。抵抗する気力すら持ち合わせていないほど、疲労困憊しているようだった。
「アンタ・・・アタシを殺してくれるのかい・・・?」
意外な言葉ではなかった。こんな状態になってしまっては、いずれ呼吸器官が錆て苦しみの中で死んでいく未来しかない。それならば一層のこと楽にしてもらった方が、幾分かましだと言うもの。
「残念だがここには違う理由で来た。話の出来る人間がすくねぇと聞いてる。喋れなくなっちまう前に、病や町のことで気になったことがあれば教えろ。病の原因を掴めたのなら、助けてやらんでもない」
「気になってること?そりゃぁ町医者のスミスって奴のことさ。なんだってこんな病気を流行らせやがったのか・・・。アイツが原因だとしか考えられないね。アイツは、薬を持っていながらそれを渡しやしない。治られちゃ困るのさ、きっと・・・」
診療所で聞いた話の通りだった。町の者は診療所のスミスを、病気をばら撒いた張本人だと思っているらしい。だがそれは間違いで、彼の作った薬は決して病を治すためのものではなく、あくまで感染予防にしかならないのだ。
「それは間違いだ。アイツの薬は感染予防の為のものであって、治療の為のものではない。要するにお前達が服用したところで、無駄だから渡さなかっただけなんだろうよ」
「どうだかね・・・。医者ってもんはどうにも信用できないね。アタシらの知らない方法で病気や怪我を治しちまうが、結局のところアタシらには、その薬が何でできてるかなんてわからないんだ。毒でもなんでも混ぜることだって出来るんじゃないかい?」
どうやら彼女は、診療所のスミスに疑いを持っているようだ。だが彼女の言い分も分からなくはない。確かに、然るべきところで調べれば、彼らが薬として処方しているものを知ることはできる。
だが、大きな国の書物庫でもないかぎり、一般の国民や町の者達がそれを知る機会などない。彼女の言うように薬に何かを混ぜ込み飲ませることで、町で感染者を出し拡散させることもできる。
「何でそんなにアイツを毛嫌いしてるんだ?アンタらは・・・」
「前にも同じようなことがあったのさ。病気が町中に広まって死者も出てた。そんな時アイツは、町から離れたんだ。病で人が死んでいる中でよ?信じられる?」
まるで怒りを吐き出すかのように、デイヴィスに思いの丈をぶつけてくる女性。どうやらスミスは、町が危機的状況に陥った時に、姿を晦ましたようだった。
「町のほとんどが病に犯された頃にひょっこり戻ってきて、それからアイツの診察で徐々に回復していったけど・・・。面倒を見てくれた町を蔑ろにしてまで離れる理由って何?もう少しでこの町は崩壊しかけたんだから。それからよ。アイツに不信感を持つ人達が増えたのは・・・」
彼が町の人達にどんな説明をしたのかは分からない。だがその一件でスミスは、町の住人達に不信感を与えてしまったようだ。彼女らがスミスを疑う理由は、前科からくる不信感だ。
「なるほど。町の連中はスミスに不信感を持ってるって訳か。他には?何か気になることはねぇか?」
「そうね・・・。今、再び町の危機を迎えて、町長や漁師長はどうしているかしらね?何か対策を考えてくれてるのかしら・・・」
ここで有力な情報を持っていそうな者達の存在が明らかになる。町の長であれば、住人達が知らない何かを知っているかもしれない。それに、漁にでる者達であれば外からの知識を身につけることも可能だ。
「町長とやらはどこにいる?」
「この家を出て、町の中心へ向かうと見えてくる大きな建物がそうよ。私達のお金で建てた豪勢な建物にいるはず」
「分かった、ありがとよ。もし治療の目処が立ったら治してやるよ」
「期待しないで待ってるよ・・・」
皮肉を込めて女性はデイヴィスを送り出す。彼女の話に出ていた通り、デイヴィスは彼女の家を出ると、そのまま言われた通り、町の中心部で豪勢な建物を探す。
薬を飲んだ者達が代わりに感染者の運び込みを行い、残りの者達は診療所へと向かった。感染者を運び終わった後は、船に積んである必要な物資を診療所まで運んでおくように指示し、デイヴィスはそのまま町の建物を虱潰しに訪れる。
「おい!誰かいねぇか?」
すると、奥の方で疲れ切ったような女性の声が聞こえてきた。声はするものの姿を見せない住人。スミスは町の病の進行はだいぶ進んでいると言っていた。要するに、今聞こえてきた女性の声の主は、歩けなくなるような位置に症状が現れたか、或いは既に錆が全身に回ってしまっている重傷者であると言うことだろう。
全く躊躇することなく、土足で上がり込んでいくデイヴィスは、声のした方へ向かい、具合の悪そうな女性を発見する。ベッドに寝たきりの状態で横たわる女性の顔は、錆に侵食され辛うじて話せているような状態だった。
「悪りぃな、勝手に上がらせてもらったぜ」
顔を少しだけデイヴィスの方へ向け、視線が頭から足先へとゆっくり下がっていき、再び顔へと戻ってくる。デイヴィスの風貌を見て、直ぐに彼が海賊であるのを悟る女性。
しかし、相手が誰であろうと関係ない。既に身体は自由を失い、家を荒らされるも命を絶たれるも成すがまま。抵抗する気力すら持ち合わせていないほど、疲労困憊しているようだった。
「アンタ・・・アタシを殺してくれるのかい・・・?」
意外な言葉ではなかった。こんな状態になってしまっては、いずれ呼吸器官が錆て苦しみの中で死んでいく未来しかない。それならば一層のこと楽にしてもらった方が、幾分かましだと言うもの。
「残念だがここには違う理由で来た。話の出来る人間がすくねぇと聞いてる。喋れなくなっちまう前に、病や町のことで気になったことがあれば教えろ。病の原因を掴めたのなら、助けてやらんでもない」
「気になってること?そりゃぁ町医者のスミスって奴のことさ。なんだってこんな病気を流行らせやがったのか・・・。アイツが原因だとしか考えられないね。アイツは、薬を持っていながらそれを渡しやしない。治られちゃ困るのさ、きっと・・・」
診療所で聞いた話の通りだった。町の者は診療所のスミスを、病気をばら撒いた張本人だと思っているらしい。だがそれは間違いで、彼の作った薬は決して病を治すためのものではなく、あくまで感染予防にしかならないのだ。
「それは間違いだ。アイツの薬は感染予防の為のものであって、治療の為のものではない。要するにお前達が服用したところで、無駄だから渡さなかっただけなんだろうよ」
「どうだかね・・・。医者ってもんはどうにも信用できないね。アタシらの知らない方法で病気や怪我を治しちまうが、結局のところアタシらには、その薬が何でできてるかなんてわからないんだ。毒でもなんでも混ぜることだって出来るんじゃないかい?」
どうやら彼女は、診療所のスミスに疑いを持っているようだ。だが彼女の言い分も分からなくはない。確かに、然るべきところで調べれば、彼らが薬として処方しているものを知ることはできる。
だが、大きな国の書物庫でもないかぎり、一般の国民や町の者達がそれを知る機会などない。彼女の言うように薬に何かを混ぜ込み飲ませることで、町で感染者を出し拡散させることもできる。
「何でそんなにアイツを毛嫌いしてるんだ?アンタらは・・・」
「前にも同じようなことがあったのさ。病気が町中に広まって死者も出てた。そんな時アイツは、町から離れたんだ。病で人が死んでいる中でよ?信じられる?」
まるで怒りを吐き出すかのように、デイヴィスに思いの丈をぶつけてくる女性。どうやらスミスは、町が危機的状況に陥った時に、姿を晦ましたようだった。
「町のほとんどが病に犯された頃にひょっこり戻ってきて、それからアイツの診察で徐々に回復していったけど・・・。面倒を見てくれた町を蔑ろにしてまで離れる理由って何?もう少しでこの町は崩壊しかけたんだから。それからよ。アイツに不信感を持つ人達が増えたのは・・・」
彼が町の人達にどんな説明をしたのかは分からない。だがその一件でスミスは、町の住人達に不信感を与えてしまったようだ。彼女らがスミスを疑う理由は、前科からくる不信感だ。
「なるほど。町の連中はスミスに不信感を持ってるって訳か。他には?何か気になることはねぇか?」
「そうね・・・。今、再び町の危機を迎えて、町長や漁師長はどうしているかしらね?何か対策を考えてくれてるのかしら・・・」
ここで有力な情報を持っていそうな者達の存在が明らかになる。町の長であれば、住人達が知らない何かを知っているかもしれない。それに、漁にでる者達であれば外からの知識を身につけることも可能だ。
「町長とやらはどこにいる?」
「この家を出て、町の中心へ向かうと見えてくる大きな建物がそうよ。私達のお金で建てた豪勢な建物にいるはず」
「分かった、ありがとよ。もし治療の目処が立ったら治してやるよ」
「期待しないで待ってるよ・・・」
皮肉を込めて女性はデイヴィスを送り出す。彼女の話に出ていた通り、デイヴィスは彼女の家を出ると、そのまま言われた通り、町の中心部で豪勢な建物を探す。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる