World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
508 / 1,646

運命の歯車、逸れた歯車

しおりを挟む
 キングの暗殺以前に、蟒蛇との戦闘に手を焼いていたロバーツと会話をする中でも、デイヴィスの胸中には妹の事しか頭になかった。漸く手繰り寄せたチャンスをみすみす見逃す訳にはいかない。

 例え彼らの協力を得られずとも、レースで出会ったまさに天の導きと言わんばかりに有力なシンの能力。アサシンの影を用いた移動があれば、どんな状況でもキングの船に誰にも気取られる事なく忍び込むことが出来る。

 最悪の場合、キングから真実を聞き出しその内容如何では、刺し違えてでもその首を討ち取らんと決意していた。その結果、この戦場がどんな惨状になろうとも、もしキングが妹を手に掛けた主犯であるならば、自尊心を維持できる自信は彼にはなかった。

 デイヴィス達を乗せたツバキの船が、ロバーツの本船に合流する頃、蟒蛇にある異変が起き始める。引き続き、各所に姿を現す蟒蛇に身体に、各々の海賊達が攻撃を仕掛ける中、突如鼓膜を震わせる程の雄叫びが、海域一帯に轟々と響き渡った。

 思わぬ事態に海賊達の手が止まる。攻撃を中断し、どこから聞こえるのかもわからない雄叫びの発生源を探す。明らかに人のものではない。それに誰かの召喚獣にしては余りにも大きな雄叫びで、巨大な召喚獣を呼び出していたヴェインのものでもない。

 一同が可能性を潰していくと、行き当たる答えは皆同じだった。その場にいる誰よりも大きく、意のままに海を動かし、風を操り天候さえも味方につけていた、彼らの討伐目標である蟒蛇しかいなかった。

 これまでの攻撃では、蟒蛇に悲鳴を上げさせられるような一撃をまだ与えられていない。ではこの雄叫びは一体何によるものなのか。誰が引き起こしたものなのか。いくら探せど、その答えは誰の目にも届くことはなかった。

 それもその筈。如何なる攻撃にも怯むことのなかった蟒蛇を唸らせたのは、たった一人の人物だったのだから。その人物は、雲海を泳ぐ蟒蛇の頭部に短剣を突き刺し張り付いていた。

 強靭な外皮をもろともせず突き刺さった短剣からは、呪術のものだろうか象形文字のようなものの羅列が、次々に蟒蛇の頭部へと広がっていく。

 「本来、ここにあるまじき者であるのは私も同じだ・・・。共にこの戦場から退場してもらおう。そして運命の歯車は定められた道を辿り、逸れた歯車はお前達へ近づく為の道を辿ることになる」

 剣を突き立てていたのは、黒いコートに身を包んだ何者かだった。その声は男のもので、姿や顔はその漆黒の生地に覆われ確認できない。だが、その者はどうやら敵ではないようだった。

 黒コートの男によって掛けられた呪術のようなものにより、蟒蛇の起こしていた海流が弱まり、雲海では風や雨が弱まり、攻撃を妨げていた雷が発生しなくなっていった。

 突然の出来事に、レイド戦へ臨んでいた全ての者が驚いた。それは世界を見て回る大海賊であっても、凡ゆる裏家業に通じようという組織の者であっても変わらない。

 レールガンによって千切れ飛んだ身体を再生させた蟒蛇に、再びエイヴリーが文明の叡智の力をその身体に撃ち込む。これまでの雷撃にに比べると、やや充填不足ではあったが、その威力は見劣りしない。

 閃光のような一撃が蟒蛇の身体を捉えると、その強固な鱗を破壊し、肉の壁に風穴を開ける。すると、これまでになかった蟒蛇による反応が現れたのだ。激痛に悶えるように、悲鳴のような声を上げて暴れ出す蟒蛇。

 しかし、何より彼らを驚かせたのは、その霊撃による傷口だった。ここまで、切断されても風穴を開けられても元通り再生してきたその身体が、現状を保ち失われた部位を戻すことはなかったのだ。

 海賊達による攻撃が通じるようになった。それはまるで、落ちているかも分からない汚れが、突然綺麗に無くなったかのような達成感。自身の行いが、意味のあるものだと分かった時のような喜び彼らの中に湧き上がる。

 「雷撃が・・・通った・・・。傷口が再生しないッ!」

 「何故だ?何故突然、通じるようになった?あの怪物に一体何が起きたんだ・・・?」

 思わず目を見開き驚愕するアルマンと、蟒蛇に起きた突然の異変に困惑するエイヴリー。一体何が引き金となって攻撃が通じるようになったのか。これまでの戦いをいくら思い返そうと、心当たりが全くと言っていいほど思い当たらない。

 だがこの機を逃すことは出来ない。直ぐに次なる雷撃の準備に取り掛からせるエイヴリー。そして味方の船を更に集め戦艦を拡張すると、主砲となるレールガンとまではいかないが、別の兵器をクラフトし始めると、レールガンのチャージが完了するまでの間に、砲撃を浴びせていく。

 「何だ・・・?おっさんとこの攻撃が通じてるじゃねぇか・・・」

 上空の蟒蛇を攻撃するエイヴリーの様子を見ていたキングが、それならば海上の蟒蛇はどうかと再び剣をその手に取り、鋭い斬撃を撃ち放つ。海を裂くように放たれた斬撃は、海面に浮かぶ蟒蛇の身体を深々と斬りつけた。

 雲海の蟒蛇と同じく、その身体は再生することなくキングの与えた傷跡を刻み、目に見える形で蟒蛇にダメージを与えた。

 「一気に勝機が見えてきたな・・・。さぁて!また変なことが起きる前に片付けちまうか!」

 時を同じくして、海上で蟒蛇の身体へ砲撃を浴びせていた、ロバーツの船に乗るウォルターも雄叫びの後の異変を感じ取り、再び自身のスキルで弾数を増やし、砲弾の雨を浴びせる。

 それまで、少しでも攻撃の手を緩めると再生されていた蟒蛇の身体は、彼の爆撃を受け鱗を剥がし、体表を焦がす。蟒蛇は嫌がるように身体を海中へと潜らせていくと、追撃をさせないよう小型のモンスターを複数送り込んでくる。

 「今までと違う・・・?明らかにダメージが入っている。いけるぞ!この調子なら・・・!」

 勝機を見出したウォルターと船員達が一気呵成に畳み掛ける。そしてロバーツの船に合流したデイヴィスが彼の元へと向かい、ツバキの船を離れ周囲で起きている異変を見て、今後の計画を二人で話し合う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~

華音 楓
ファンタジー
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられtた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一
ファンタジー
『いーわよ、そこまで言うならもう、親子の縁なんて切ってやる!! 絶対に成功するから、今に見てなさいよ!!』 如月風歌は、考えるより先に行動する脳筋少女。中学の卒業式の日に、親と大喧嘩し、その勢いで家出する。時空航行船のチケットを握りしめ、着の身着のまま&ほぼ無一文で、異世界に向かっていった。 同じ地球でありながら、魔法で発展した平行世界エレクトラ。この世界に来たのは『シルフィード』と呼ばれる、女性だけがなれる『超人気職業』に就くためだ。 上位階級のシルフィードは、トップアイドルのような存在。また、絶大な人気・知名度・影響力を持ち、誰からも尊敬される、人生の成功者。巨万の富を築いた者も、少なくはない。 だが、お金もない・人脈もない・知識もない。加えて、女子力ゼロで、女らしさの欠片もない。全てがゼロからの、あまりにも無謀すぎる挑戦。しかも、親から勘当を言い渡され、帰る場所すらない状態。 夢に燃えて、意気揚々と異世界に乗り込んだものの、待ち受けていのは、恐ろしく厳しい現実と、パンと水だけの極貧生活だった。 『夢さえ持っていれば、気合さえあれば、絶対に上手くいく!!』と信じて疑わない、脳筋でちょっとお馬鹿な少女。だが、チート並みのコミュ力(無自覚)で、人脈をどんどん広げて行く。 ほのぼの日常系。でも、脳筋主人公のため、トラブルが発生したり、たまにシリアスだったり、スポ根っぽい熱い展開も……。 裸一貫から成り上がる、異世界シンデレラストーリー。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

処理中です...