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ここで生きている
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操舵室へと帰ってきたシンとミアに、外へ出て行ったはずのデイヴィスはどうしたのかと尋ねるツクヨ。二人は経緯を話し、彼が代わりに外の見張りにつき、友軍の船を探すことになったと伝える。
すると丁度その頃、海中に潜り海上を行くシンプソンの船団と足並みを揃え進んでいた、アシュトンの潜水艇からシン達の船へ通信が入る。
「海流が激しくて進むのが困難になって来たぞ。どうする?当初の予定とは違ってしまうが、海面へ浮上するかこの距離を保ち様子を見るか・・・」
海上にいる蟒蛇の身体が、周囲の海水を凄まじい勢いで巻き込み、船が思い通りに進めない程の流れを作っている。それは海上よりもアシュトンのいる海中の方は数倍激しく、とてもでは無いが進むことはおろか、その場に止まっていることすら儘ならない状態にあった。
「そうか・・・分かった、上がって来てくれ。こんなところで立ち往生では、戦闘どころじゃないだろう。海中からの奇襲は諦めよう・・・。その代わりこっちには別の手段があるからな・・・」
言わずもながらその手段こそ、シンのスキルによる影の道を通る方法だ。会話に出てくる度、シンの背中に重たい荷物が積み上げられていくようだった。思わず口籠る彼の背中を叩き、安心させるように頷くミア。
彼女もシンにプレッシャーを与えてしまったかと、少し後ろめたく思っているようだった。作戦や任務の、帰趨を握る者の心境は分かっているつもりだった。
ガンスリンガーのクラスに就いていることで、敵将や重要人物を狙撃することも多かったミアは、それこそ初めのうちは手が震えたり、心臓の鼓動が胸を突き破って来そうなほど緊張していた。
だが、大半の人間は初めから全てを完璧にこなすことなど出来ないもの。稀に何でもこなす、所謂天才や天賦の才を持った者がいるが、殆どの老練家達は、失敗や成功といった経験を積み重ね、人に教えることの難しい感覚の域にまで達したことで、周囲から達人と呼ばれるようになっていったのだ。
見えないところでの努力や、人には話せない程の失敗を経て、超人と呼ばれるほどの技術力を身につけた。人はその人物の数えきれない程の経験を見ることなく、知ることなく彼らがあたかも最強や天才であるかのように祭り立てる。
今まさにシンは、その“経験“を積もうとしているのだ。戦闘で自分が移動するだけに使うのとは訳が違う。誰かの命運を背負い、仲間の今後を左右してしまうかもしれない大仕事。
ミアの叩いた背中が、重く身体に染み渡る。これが夢や幻、或いはゲームの中でないことを彼に教えるように。痛みと言うほどの衝撃ではない。だがその手のひらから伝わった彼女の温もりや、思いは紛れもなくこれが彼らにとっての現実の一部であることを再確認させた。
「まだ緊張する・・・?」
「ん・・・少し・・・」
仲間達の前で不安な様子を出すまいと、精一杯の強がりをするが、ミアにもツクヨにもまるで自分の事のように、その溢れ出さんばかりの胸の鼓動が伝わっていた。
それを見ていたツバキが一人大きなため息を吐き、今のシンにとって辛辣な言葉をかける。
「はぁ~・・・。こんなんで大丈夫なんかねぇ・・・?どうにも不安でならないぜ。もし失敗ったらと思うと、今後の俺の輝かしい未来がおじゃんだなんて・・・」
「おいッ・・・!」
神経質になっているであろうシンに、言葉を選んで慎重に話しかけていたツクヨやミアが、思わずツバキの口を止めに割って入る。直接関与しない彼らにとっては、ツバキの言うことはもっともかもしれない。
今がすぎて仕舞えば、あの時はこうだったと笑い話にできるかもしれないが、まだ少年の彼にはシンの今の心境など、読み取ることなど出来るはずもないだろう。故に子供の言葉とは、大人の様々な意味と思惑に飾られた言葉とは違い、真っ直ぐに飛んで来るものだ。
その撃ち放たれた暴投は、時としてどんなに優しく包まれた言葉よりも、相手を励ますこともある。それは受け取る側の問題であり、投げる側のツバキには微塵も彼らの思うような意味は込められていなかった。
「こっちは初めっから“命懸け“でやってんだ。じじぃに黙ってボード作ってた時も、レースへ参加するって決めた時も、アンタらを俺の船に乗せた時もだ。こんな勝手なことしてもし結果が出せなかったら、二度と造船技師としてじじぃの元へは戻れねぇ・・・。俺みてぇな何処ぞの奴とも知れねぇガキを面倒見てくれる奴なんて、何処にもいないかも知れねぇ・・・。アンタはこれが“やり直しの利く事“とでも思ってんのか?」
ツバキの言った“やり直しの利く事“と言う言葉が、彼らにとってこれが今まで遊んでいたゲームの世界であることと、心の何処かで死んだら何処からかやり直しになる。或いは目が覚めるのではないかと思っていたのだ。
だが、この世界で生きているツバキやデイヴィスにとっては、これが一度きりの人生であり、やり直すことの出来ない人生の分岐点であるのだ。ツバキにはシンの緊張が、保険の効く中での緊張感のように見えていたのかも知れない。
「・・・命懸け・・・」
「そうだよ。アンタはこれから行う自分の行動に命を賭けれるのか?その覚悟があんのかよ!」
少年を止めようとしていたミアもツクヨも、彼の言葉に思わず聞き入ってしまっていた。シンだけではない。自分達もまた、命を賭ける覚悟を試されているように感じていた。
「そうか・・・。ありがとう、ツバキ。まさかお前に教えられるとは思ってもなかったけど・・・。それでも“覚悟“したよ。俺はここで“生きている“。何処でも同じなんだ・・・。生きるのも、死ぬのも・・・」
「ぁ・・・ぁあ?何言ってんだ急に・・・」
何のことだかさっぱり分からないツバキと、シンの覚悟の意図がよく分かったミアとツクヨ。シンのいう通り、彼らは今この世界で生きている。例え生まれや育ちが別の世界であっても、痛みや悲しみも、嬉しさや楽しさも何も変わらない。
感情や感覚は等しくそこにある。それは彼らのこれまでの旅が証明していること。死ぬような思いもして、感謝されながらの別れも経験してきた。その経験は紛れもなく彼らの胸の中にあるのだ。
すると丁度その頃、海中に潜り海上を行くシンプソンの船団と足並みを揃え進んでいた、アシュトンの潜水艇からシン達の船へ通信が入る。
「海流が激しくて進むのが困難になって来たぞ。どうする?当初の予定とは違ってしまうが、海面へ浮上するかこの距離を保ち様子を見るか・・・」
海上にいる蟒蛇の身体が、周囲の海水を凄まじい勢いで巻き込み、船が思い通りに進めない程の流れを作っている。それは海上よりもアシュトンのいる海中の方は数倍激しく、とてもでは無いが進むことはおろか、その場に止まっていることすら儘ならない状態にあった。
「そうか・・・分かった、上がって来てくれ。こんなところで立ち往生では、戦闘どころじゃないだろう。海中からの奇襲は諦めよう・・・。その代わりこっちには別の手段があるからな・・・」
言わずもながらその手段こそ、シンのスキルによる影の道を通る方法だ。会話に出てくる度、シンの背中に重たい荷物が積み上げられていくようだった。思わず口籠る彼の背中を叩き、安心させるように頷くミア。
彼女もシンにプレッシャーを与えてしまったかと、少し後ろめたく思っているようだった。作戦や任務の、帰趨を握る者の心境は分かっているつもりだった。
ガンスリンガーのクラスに就いていることで、敵将や重要人物を狙撃することも多かったミアは、それこそ初めのうちは手が震えたり、心臓の鼓動が胸を突き破って来そうなほど緊張していた。
だが、大半の人間は初めから全てを完璧にこなすことなど出来ないもの。稀に何でもこなす、所謂天才や天賦の才を持った者がいるが、殆どの老練家達は、失敗や成功といった経験を積み重ね、人に教えることの難しい感覚の域にまで達したことで、周囲から達人と呼ばれるようになっていったのだ。
見えないところでの努力や、人には話せない程の失敗を経て、超人と呼ばれるほどの技術力を身につけた。人はその人物の数えきれない程の経験を見ることなく、知ることなく彼らがあたかも最強や天才であるかのように祭り立てる。
今まさにシンは、その“経験“を積もうとしているのだ。戦闘で自分が移動するだけに使うのとは訳が違う。誰かの命運を背負い、仲間の今後を左右してしまうかもしれない大仕事。
ミアの叩いた背中が、重く身体に染み渡る。これが夢や幻、或いはゲームの中でないことを彼に教えるように。痛みと言うほどの衝撃ではない。だがその手のひらから伝わった彼女の温もりや、思いは紛れもなくこれが彼らにとっての現実の一部であることを再確認させた。
「まだ緊張する・・・?」
「ん・・・少し・・・」
仲間達の前で不安な様子を出すまいと、精一杯の強がりをするが、ミアにもツクヨにもまるで自分の事のように、その溢れ出さんばかりの胸の鼓動が伝わっていた。
それを見ていたツバキが一人大きなため息を吐き、今のシンにとって辛辣な言葉をかける。
「はぁ~・・・。こんなんで大丈夫なんかねぇ・・・?どうにも不安でならないぜ。もし失敗ったらと思うと、今後の俺の輝かしい未来がおじゃんだなんて・・・」
「おいッ・・・!」
神経質になっているであろうシンに、言葉を選んで慎重に話しかけていたツクヨやミアが、思わずツバキの口を止めに割って入る。直接関与しない彼らにとっては、ツバキの言うことはもっともかもしれない。
今がすぎて仕舞えば、あの時はこうだったと笑い話にできるかもしれないが、まだ少年の彼にはシンの今の心境など、読み取ることなど出来るはずもないだろう。故に子供の言葉とは、大人の様々な意味と思惑に飾られた言葉とは違い、真っ直ぐに飛んで来るものだ。
その撃ち放たれた暴投は、時としてどんなに優しく包まれた言葉よりも、相手を励ますこともある。それは受け取る側の問題であり、投げる側のツバキには微塵も彼らの思うような意味は込められていなかった。
「こっちは初めっから“命懸け“でやってんだ。じじぃに黙ってボード作ってた時も、レースへ参加するって決めた時も、アンタらを俺の船に乗せた時もだ。こんな勝手なことしてもし結果が出せなかったら、二度と造船技師としてじじぃの元へは戻れねぇ・・・。俺みてぇな何処ぞの奴とも知れねぇガキを面倒見てくれる奴なんて、何処にもいないかも知れねぇ・・・。アンタはこれが“やり直しの利く事“とでも思ってんのか?」
ツバキの言った“やり直しの利く事“と言う言葉が、彼らにとってこれが今まで遊んでいたゲームの世界であることと、心の何処かで死んだら何処からかやり直しになる。或いは目が覚めるのではないかと思っていたのだ。
だが、この世界で生きているツバキやデイヴィスにとっては、これが一度きりの人生であり、やり直すことの出来ない人生の分岐点であるのだ。ツバキにはシンの緊張が、保険の効く中での緊張感のように見えていたのかも知れない。
「・・・命懸け・・・」
「そうだよ。アンタはこれから行う自分の行動に命を賭けれるのか?その覚悟があんのかよ!」
少年を止めようとしていたミアもツクヨも、彼の言葉に思わず聞き入ってしまっていた。シンだけではない。自分達もまた、命を賭ける覚悟を試されているように感じていた。
「そうか・・・。ありがとう、ツバキ。まさかお前に教えられるとは思ってもなかったけど・・・。それでも“覚悟“したよ。俺はここで“生きている“。何処でも同じなんだ・・・。生きるのも、死ぬのも・・・」
「ぁ・・・ぁあ?何言ってんだ急に・・・」
何のことだかさっぱり分からないツバキと、シンの覚悟の意図がよく分かったミアとツクヨ。シンのいう通り、彼らは今この世界で生きている。例え生まれや育ちが別の世界であっても、痛みや悲しみも、嬉しさや楽しさも何も変わらない。
感情や感覚は等しくそこにある。それは彼らのこれまでの旅が証明していること。死ぬような思いもして、感謝されながらの別れも経験してきた。その経験は紛れもなく彼らの胸の中にあるのだ。
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