495 / 1,646
蛇と竜と蝙蝠と
しおりを挟む
少年にとってグラン・ヴァーグで行われるレースは、まさに選り取り見取りの催し物だった。彼の所持する書物の中にはとても珍しい物が多く、交渉の材料にできた。
歴史的な資料に加え、様々な人物の文献、中にはファンタジーの世界らしくスキルを習得できる本もあった。それらの書物や重要な本を共有することを条件に、船に乗せてくれる海賊を探していたが、彼に近づいてくるのはそんな彼の書物に価値を見出した悪い海賊ばかりだったが、そこへ現れたのは天下の大海賊、エイヴリー海賊団の幹部の一人マクシムだった。
ツクヨとツバキと共に、エイヴリーの海賊船を改造する為の素材を運んでいる最中に絡まれ、騒ぎを起こしたくなかったツクヨ達の代わりに海賊達を退けたマクシム。
そのままその場を後にした彼を追いかけ、ヘラルトはエイヴリー海賊団の本隊へと向かう。そして彼は、世界の宝の在処を記したとされる難解な文章で書かれた不思議な書物、死海文書を交渉にだし、晴れてエイヴリー海賊団のアルマン部隊へ加入することが出来たのだった。
研究熱心のアルマンは、ヘラルトの持ち込んだ大量の本や書物の数々に感銘を受け、寝る間も惜しんで読み漁っていた。少年は彼に、自分に近いものを感じていたが、同時に理解できない部分もあった。
それは、夢や理想に胸を躍らせるばかりではなく、現実と比較しどうすればそのような世界が実現可能になるのかを、真剣に考えていたのだ。側から見れば馬鹿にされるようなことかもしれないが、アルマンはそれでも誰かが創り出した世界や物語を、夢幻で終わらせるのではなく、誰もが体験できる世界を目指したかったようだ。
彼とは違い、どちらかというとそんな彼を側から見る側の人間に近かったヘラルト。本や書物で様々な世界を見て、幻想に浸るのは好きだったが、あくまでそれは幻想に過ぎないと心のどこかで思っていたのだ。
そこがヘラルトとアルマンの違いだった。それがエイヴリーの言う心の成長なのだろう。文字や言葉だけでは伝わらない現実があり、それに触れることでより強く夢や理想を追いたくなる。
幻想に近づきたければ現実に目を向けなければならない。アルマンが本や書物で得た知識に溺れるヘラルトに、よく言っていた言葉だ。その時の彼には意味が分からない言葉だったが、ここで漸くその意味が汲み取れた気がしていた。
「さぁ行くぜ野朗共!神が造り出した神獣とやらに、人間の紡いできた叡智を見せつける時だッ!」
彼等が話している間に完了したレールガンの再装填。謎の雷に阻まれた攻撃の真相を確かめるべく、エイヴリー海賊団の最大火力を誇る兵器が、再び火を吹く。
一方、エイヴリー海賊団の幹部であるリーズは、自身の身体の傷を癒やし終え、万全の状態にまで復活を遂げた。元々ヴァンパイアの種族である彼女は、普通の人間とは身体の構造が違う。
戦線へ帰って来た彼女は、ロイクの竜騎士隊と同じく、雲の中へと上昇して行くと、雲海を這い回る蟒蛇の身体へ攻撃を始める。彼女のクラス、タクティシャンの能力により巨大化した眷族の蝙蝠は、ヴェインの召喚獣程ではないが、そのステータス自体も大きく上昇し、元のサイズでは小型のモンスターにさえまともにダメージを出せなかったが、蟒蛇の強靭な鱗を剥がせるまでになった。
ロイクの竜騎士隊と協力し、リーズの巨大化した蝙蝠による音波を使った魔法攻撃で鱗を剥がし、竜騎士隊が畳み掛けるようにして攻撃を仕掛ける。
「戦略は海上戦の時と同じだ!リーズ、ある程度なら能力の質を落としても構わない。他の場所にも眷族を送れるか?」
「誰に言ってんだぁ?任せときなよ。遅れた分はきっちり取り返してやるさ・・・!」
ロイクが心配するまでもないくらいに、リーズの闘志は燃えていた。魔物の策略にまんまとしてやられたのが、相当に彼女の勘に触ったようだ。それまで一体の巨大化した蝙蝠に乗って戦っていたリーズは、更に数体の蝙蝠を呼び出すと、タクティシャンの能力で巨大化させ、更に彼女の能力をエンチャントさせた上で、蟒蛇の身体を攻撃する別の部隊の元へ飛び立たせる。
するとリーズは、蝙蝠に攻撃させる直前に、もう一つのクラスであるインキュベータの能力を付与し、音波による攻撃を放たせる。先程の攻撃とは違い、やや威力が落ちたかのように見えたが、この攻撃は鱗へダメージを与えるだけの攻撃ではなかった。
彼女はインキュベータの能力で、蟒蛇の体表を老化させ、鱗の再生能力を著しく劣化させたのだ。これにより、エイヴリーの乗る戦艦の兵器、レールガンの攻撃を待たずしても、それなりのダメージを蟒蛇に与えられるようになったのだ。
「そんなに飛ばして大丈夫か?」
「今回の相手は只者じゃなさそうじゃないか。モンスターのくせに趣向の凝った攻撃なんてして来やがって・・・。出し惜しみして後悔する前に、一気に畳みかけてやるさ。それにこれなら、船長の兵器による砲撃が奴に命中しさえすれば、きっととんでもないダメージを叩き出せるよ!」
リーズはたかがモンスターだと侮った自分の失敗から学び、一切の妥協を許さない怒涛の攻めを見せる。彼女の奮起は周りの者達を突き動かし、士気はこれまで以上に上昇した。
自分達の働きが船長の攻撃の助けになると信じ、一心不乱に立ち向かう。迎え撃つは蟒蛇の這い回る雲の中から発生する雷撃。不規則な動きと閃光のように速い攻撃に苦しみながらも、彼等は撃ち落とされる仲間達を越えて立ち向かう。
歴史的な資料に加え、様々な人物の文献、中にはファンタジーの世界らしくスキルを習得できる本もあった。それらの書物や重要な本を共有することを条件に、船に乗せてくれる海賊を探していたが、彼に近づいてくるのはそんな彼の書物に価値を見出した悪い海賊ばかりだったが、そこへ現れたのは天下の大海賊、エイヴリー海賊団の幹部の一人マクシムだった。
ツクヨとツバキと共に、エイヴリーの海賊船を改造する為の素材を運んでいる最中に絡まれ、騒ぎを起こしたくなかったツクヨ達の代わりに海賊達を退けたマクシム。
そのままその場を後にした彼を追いかけ、ヘラルトはエイヴリー海賊団の本隊へと向かう。そして彼は、世界の宝の在処を記したとされる難解な文章で書かれた不思議な書物、死海文書を交渉にだし、晴れてエイヴリー海賊団のアルマン部隊へ加入することが出来たのだった。
研究熱心のアルマンは、ヘラルトの持ち込んだ大量の本や書物の数々に感銘を受け、寝る間も惜しんで読み漁っていた。少年は彼に、自分に近いものを感じていたが、同時に理解できない部分もあった。
それは、夢や理想に胸を躍らせるばかりではなく、現実と比較しどうすればそのような世界が実現可能になるのかを、真剣に考えていたのだ。側から見れば馬鹿にされるようなことかもしれないが、アルマンはそれでも誰かが創り出した世界や物語を、夢幻で終わらせるのではなく、誰もが体験できる世界を目指したかったようだ。
彼とは違い、どちらかというとそんな彼を側から見る側の人間に近かったヘラルト。本や書物で様々な世界を見て、幻想に浸るのは好きだったが、あくまでそれは幻想に過ぎないと心のどこかで思っていたのだ。
そこがヘラルトとアルマンの違いだった。それがエイヴリーの言う心の成長なのだろう。文字や言葉だけでは伝わらない現実があり、それに触れることでより強く夢や理想を追いたくなる。
幻想に近づきたければ現実に目を向けなければならない。アルマンが本や書物で得た知識に溺れるヘラルトに、よく言っていた言葉だ。その時の彼には意味が分からない言葉だったが、ここで漸くその意味が汲み取れた気がしていた。
「さぁ行くぜ野朗共!神が造り出した神獣とやらに、人間の紡いできた叡智を見せつける時だッ!」
彼等が話している間に完了したレールガンの再装填。謎の雷に阻まれた攻撃の真相を確かめるべく、エイヴリー海賊団の最大火力を誇る兵器が、再び火を吹く。
一方、エイヴリー海賊団の幹部であるリーズは、自身の身体の傷を癒やし終え、万全の状態にまで復活を遂げた。元々ヴァンパイアの種族である彼女は、普通の人間とは身体の構造が違う。
戦線へ帰って来た彼女は、ロイクの竜騎士隊と同じく、雲の中へと上昇して行くと、雲海を這い回る蟒蛇の身体へ攻撃を始める。彼女のクラス、タクティシャンの能力により巨大化した眷族の蝙蝠は、ヴェインの召喚獣程ではないが、そのステータス自体も大きく上昇し、元のサイズでは小型のモンスターにさえまともにダメージを出せなかったが、蟒蛇の強靭な鱗を剥がせるまでになった。
ロイクの竜騎士隊と協力し、リーズの巨大化した蝙蝠による音波を使った魔法攻撃で鱗を剥がし、竜騎士隊が畳み掛けるようにして攻撃を仕掛ける。
「戦略は海上戦の時と同じだ!リーズ、ある程度なら能力の質を落としても構わない。他の場所にも眷族を送れるか?」
「誰に言ってんだぁ?任せときなよ。遅れた分はきっちり取り返してやるさ・・・!」
ロイクが心配するまでもないくらいに、リーズの闘志は燃えていた。魔物の策略にまんまとしてやられたのが、相当に彼女の勘に触ったようだ。それまで一体の巨大化した蝙蝠に乗って戦っていたリーズは、更に数体の蝙蝠を呼び出すと、タクティシャンの能力で巨大化させ、更に彼女の能力をエンチャントさせた上で、蟒蛇の身体を攻撃する別の部隊の元へ飛び立たせる。
するとリーズは、蝙蝠に攻撃させる直前に、もう一つのクラスであるインキュベータの能力を付与し、音波による攻撃を放たせる。先程の攻撃とは違い、やや威力が落ちたかのように見えたが、この攻撃は鱗へダメージを与えるだけの攻撃ではなかった。
彼女はインキュベータの能力で、蟒蛇の体表を老化させ、鱗の再生能力を著しく劣化させたのだ。これにより、エイヴリーの乗る戦艦の兵器、レールガンの攻撃を待たずしても、それなりのダメージを蟒蛇に与えられるようになったのだ。
「そんなに飛ばして大丈夫か?」
「今回の相手は只者じゃなさそうじゃないか。モンスターのくせに趣向の凝った攻撃なんてして来やがって・・・。出し惜しみして後悔する前に、一気に畳みかけてやるさ。それにこれなら、船長の兵器による砲撃が奴に命中しさえすれば、きっととんでもないダメージを叩き出せるよ!」
リーズはたかがモンスターだと侮った自分の失敗から学び、一切の妥協を許さない怒涛の攻めを見せる。彼女の奮起は周りの者達を突き動かし、士気はこれまで以上に上昇した。
自分達の働きが船長の攻撃の助けになると信じ、一心不乱に立ち向かう。迎え撃つは蟒蛇の這い回る雲の中から発生する雷撃。不規則な動きと閃光のように速い攻撃に苦しみながらも、彼等は撃ち落とされる仲間達を越えて立ち向かう。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
戦闘職をしたくてVRMMOを始めましたが、意図せずユニークテイマーという職業になったので全力でスローライフを目指します
地球
ファンタジー
「え?何この職業?」
初めてVRMMOを始めようとしていた主人公滝沢賢治。
やろうと決めた瞬間、戦闘職を選んでいた矢先に突然出てきた職業は【ユニークテイマー】だった。
そのゲームの名はFree Infinity Online
世界初であるフルダイブ型のVRゲームであり、AIがプレイヤーの様子や行動を把握しイベントなどを考えられるゲームであった。
そこで出会った職業【ユニークテイマー】
この職業で、戦闘ではなくてスローライフを!!
しかし、スローライフをすぐにはできるわけもなく…?
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
幼馴染と一緒に勇者召喚されたのに【弱体術師】となってしまった俺は弱いと言う理由だけで幼馴染と引き裂かれ王国から迫害を受けたのでもう知りません
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
【弱体術師】に選ばれし者、それは最弱の勇者。
それに選ばれてしまった高坂和希は王国から迫害を受けてしまう。
唯一彼の事を心配してくれた小鳥遊優樹も【回復術師】という微妙な勇者となってしまった。
なのに昔和希を虐めていた者達は【勇者】と【賢者】と言う職業につき最高の生活を送っている。
理不尽極まりないこの世界で俺は生き残る事を決める!!
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる