World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
486 / 1,646

天海這う影

しおりを挟む

 その声は一般の者達には聞こえなかった。キングやエイヴリー、そして一部の船長クラスの実力を持った者達と、様々な知識と道徳を有する智徳の者達にのみ、直接頭の中に語り掛けられているかのような感覚があった。

 「人間風情 ガ 我ガ幻影 ヲ 打チ破ルカ・・・」

 皆、一様に何事かと驚いた表情で声の聞こえる天を見上げる。空から聞こえている訳ではないのは分かっている。だが、声が頭の中で聞こえたことで、咄嗟に上を向いた。

 空は依然、黒い暗雲に覆われ、時折鳴り響く雷鳴と稲光を臨かせる、荒れ狂う海面に良く似た雲海が広がっている。思わず雲の動きを目で追いかけ、刹那に駆ける雷光に焦点が奪われる。

 時期に雲の色はより濃く、雷鳴はより激しく。そしてそれを映し出すように、海面も激しく波を荒立て、水飛沫が騒がし音色を奏でる。

 声を聞き取ることのできない者達も、様子の変わった空と海に、何かが起ころうとしている凶兆を感じ取り、息を殺しながら周囲に目を配り、何が起こるかも分からぬ厄災に備える態勢を取る。

 キングが視線を天から船へと戻し、船員達や後方で彼等の船団を守るように陣取るダラーヒムの船団の方へと、慌ただしく視線を切り替える。彼の船にキング等と同じような反応をしている者はいない。

 しかし、僅かに見えるダラーヒムの姿は、まるでキングの様子を確かめるように船首へ乗り出し、こちらを見ていた。彼の様子を見て、キングは確信した。ダラーヒムにもこの声が聞こえているのだと。

 その直後、キングの船にジャウカーンから無線が入る。

 「ボスッ・・・!この声は・・・」

 キングが返す言葉を脳内で選んでいる内に、それを遮るように頭の中に直接語り掛けてくる声が、再び聞こえてくる。エイヴリーの船団でも、キングのところと同じようなことが起こっていた。

 彼のところでは、同じ船内にいたアルマンと、何故かヘラルトにもその声が聞こえているようだった。無論、二人とも経験したことのない現象に、目を見開いて静かに驚きを表している。

 上空ではシャーロット等をドラゴンの背に乗せ、エイヴリーの船団へ帰還しようと向かうロイクが、同じく何処からか聞こえてくる声に困惑している。周囲を見渡す内に、共にいる二人と支線が合い、同じ声が聞こえているかのような反応を示していた。

 答え合わせをするように言葉を交わそうとしたところで、丁度遮るようにして、こちらにも新たな声が聞こえてくる。

 「マタ 我ヲ コノヨウナ場二 駆リ出スカ。如何二 無意味ナ 行イデアルカ 再度 思イ出サセテ ヤロウ」

 その言葉を皮切りに、空と海の様子が更に荒々しさを増し、まるで嵐の中にいるのかとでも言うように、船を大きく揺らす。不安定な足場に、バランスをとっている間に、彼等海賊達の周りに、身の毛もよだつようなものが姿を現す。

 それは、エイヴリーの兵器で倒した筈と思われていた、蟒蛇の巨大な身体だった。ゆっくり海面から姿を現した蟒蛇の身体は、その鱗をベルトコンベアのように次々に流しながら、海域を這いずり回る。

 また振り出しに戻ったかのように、彼等のいる海域のあちらこちらにその姿を現した蟒蛇。だが、キングやエイヴリーさえもゾッとさせたのは、何も蟒蛇が復活したからではない。

 鳴り止まず激しさを増す雷鳴に空を見上げると、なんとそこには海面と同じく、雲海を這いずり回る二体目の蟒蛇が姿を臨かせていたのだ。巨大な体表は、雲の中を進み、海上と同じくあちらこちらにその姿を現している。

 その数を見ていると、果たしてこれは二体で済むのだろうかと思ってしまう程だった。しかし空にも海にも、まだ蟒蛇の頭部はどこにも見当たらず、そのような報告も入らない。

 海上では再び、一体目の蟒蛇と同じように各所で海賊達が、その体表に砲撃を始める。しかし、以前とは比べ物にならない厄介な事態が発生する。それは海の中を進み、砲撃をする海賊船に近づくと飛び上がり、船員達を襲った。

 巨大な蟒蛇の身体に舵を取られる中、今度は翼の生えた小型の龍のようなモンスターが、無数に出現し彼等を襲い始めたのだ。ただでさえ足場の悪い船上で、海の中は勿論空中であっても自在に動き回る小型モンスターに襲われ、砲撃だけに集中出来なくなってしまった海賊達は、戦力の低い船から次々に沈没していった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...