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氷の絶景、炎の壁
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キングの船団が見せたような波の凍結。だが、シャーロットの見せた大波の氷像は、その規模も威力も彼等のものとは別格だった。そして何より恐ろしい事は、彼女はこれを一人でやってのけたと言う事だ。
数人の魔術師が息を合わせ、一斉に発動する事で漸く波の一部を凍結させたキングの部下達とは比べ物にならない魔力を有している。それが一人で海を渡れる所以なのだろう。
シャーロットを標的として捉え、近づいてくる海賊は多い。彼女自身、一人でいるのは周りの海賊達を欺く為だとも言われているようで、実際レースでも一人で財宝を持っているところを幾多の海賊が襲ったが、皆返り討ちに遭っている。
蟒蛇の巨大な大波の一部を氷塊に変えたシャーロットは、その氷塊の中で大波をやり過ごす。自分ごと氷漬けになった彼女が閉じていた目を見開くと、辺りを覆い尽くしていた氷はまるで花吹雪のように細かな結晶となり弾け飛んで、そこら中をキラキラと光らせ幻想的な光景を作り出す。
散った結晶の中から現れたのは、何処かの景色を模したような広範囲に渡る大規模な氷の彫刻だった。今にも動き出しそうなほど躍動感のある動物に加え、そよ風を感じさせる草木の様子は、見る者の目には実物と相違ない色や香りを与える。
「何だ、ありゃぁ・・・?」
「い・・・一瞬であんなものを・・・。ほ・・・他にもまだあれ程の力を持った海賊がいたのか・・・。そもそも彼女は海賊なのか?」
荒々しい海流と天気の中、シャーロットの作り上げた彫刻の周りだけは別次元のように静まり返っていた。空を見上げ、余韻を感じていた彼女がゆっくりと顔を下ろす。すると、岩のように大きな氷塊が突然砕け、中から全身氷で出来た馬車が現れると一目散に彼女の元へと馳せ参じる。
彼女はそのまま、中の透けた氷の馬車に乗り込むと、蟒蛇と召喚士の海賊ヴェインの召喚獣が取っ組み合いをしている方へ向けて、馬を走らせて行った。
圧巻の光景を目の当たりにし、唖然とするキングの部下と幹部の船員達。だがゆっくり彼女の作品を鑑賞している暇はない。シャーロットとは違い、彼等はこれから大波を乗り越えなければならないからだ。
そんな夢でも見ているかのように惚ける彼等を、大きく手を叩き現実へ引き戻すキング。彫刻の空間の横からは、シャーロットを避けるように大波が迫って来ている。
「ほぉ~らぁ~!俺らも負けてらんないよぉ~?はいッ!これは船長命令でぇ~す。俺達も凄いってところ、存分に見せつけちゃってよ」
キングの呼びかけに一早く答えたのは、その性格から何となく予想出来る通りの人物だった。その者は勢いよく自身の船を急発進させると、大波に向かって突っ込んで行き、寸前で横向きに止めると、その力を存分に振るった。
「とぉ~ッぜんだぜ!ボス!確かにすげぇのは認めっけど、あんなんじゃ盛り上がれねぇぜ!もっとアチィやつじゃねぇとなッ!」
部下のこともお構いなしに動き出し、景気付けの先鋒を担ったのは炎の魔術師ジャウカーンだった。彼は一人用の船で、ジェットスキーのような形状をした特殊な船に乗り換えると、自身の魔力をたっぷりと船に注ぎ込み、まるで巨大なドラゴンのブレスのように強烈な炎を噴射しながら海面を走り回る。
ジャウカーンの通った後には炎の道が出来ており、それが幾重にも渡り積み重なっていくことで、蟒蛇の大波にも負けない巨大な炎の壁を作り出した。暗雲が立ち込め陽の光も届かぬ程薄暗い海域に、燃えたぎる炎の壁が彼の闘志のように熱い光を灯す。
彼の作り上げた炎の壁と蟒蛇の大波が接触する。すると、激しい蒸気と共に大規模に渡り水が沸騰するような音が響き渡る。蒸気は凄まじい勢いで上空へと上がり、黒々とした雲へと合流する。それにより天候は更に激しさを増し、雷鳴と稲妻の数が著しく増え始める。
「どぉーーーだぁッ!最高にブチ上げて行くぜぇ!野郎共ぉぉぉッ!!」
「FUUUUUぅぅぅーーーッ!!」
多いに盛り上がるジャウカーンの船団と、ド派手な技を見せつける彼の勢いに、大いに心を高揚させるキング。遠目で見ていた彼も両手を上げて拍手し、部下達を捲し立てて盛り上げる。それはまるで、酒に酔った者達によるボルテージが振り切っている状態の、最高潮に盛り上がっているパーティーのように騒がしいものとなっていた。
「全く・・・彼を見ていると頭が痛くなります・・・。しかし、キング様がご満悦であらせられるようで何より。彼のせいで熱くなってしまった戦場に涼しさと癒しを与えましょう」
ジャウカーンの活躍に、やれやれといった様子で頭を抱えるトゥーマーン。しかしながら彼の炎は、それを見ていた幹部の者達や船員達の心にも火をつけ、負けていられないという闘争心を植え付けた。
数人の魔術師が息を合わせ、一斉に発動する事で漸く波の一部を凍結させたキングの部下達とは比べ物にならない魔力を有している。それが一人で海を渡れる所以なのだろう。
シャーロットを標的として捉え、近づいてくる海賊は多い。彼女自身、一人でいるのは周りの海賊達を欺く為だとも言われているようで、実際レースでも一人で財宝を持っているところを幾多の海賊が襲ったが、皆返り討ちに遭っている。
蟒蛇の巨大な大波の一部を氷塊に変えたシャーロットは、その氷塊の中で大波をやり過ごす。自分ごと氷漬けになった彼女が閉じていた目を見開くと、辺りを覆い尽くしていた氷はまるで花吹雪のように細かな結晶となり弾け飛んで、そこら中をキラキラと光らせ幻想的な光景を作り出す。
散った結晶の中から現れたのは、何処かの景色を模したような広範囲に渡る大規模な氷の彫刻だった。今にも動き出しそうなほど躍動感のある動物に加え、そよ風を感じさせる草木の様子は、見る者の目には実物と相違ない色や香りを与える。
「何だ、ありゃぁ・・・?」
「い・・・一瞬であんなものを・・・。ほ・・・他にもまだあれ程の力を持った海賊がいたのか・・・。そもそも彼女は海賊なのか?」
荒々しい海流と天気の中、シャーロットの作り上げた彫刻の周りだけは別次元のように静まり返っていた。空を見上げ、余韻を感じていた彼女がゆっくりと顔を下ろす。すると、岩のように大きな氷塊が突然砕け、中から全身氷で出来た馬車が現れると一目散に彼女の元へと馳せ参じる。
彼女はそのまま、中の透けた氷の馬車に乗り込むと、蟒蛇と召喚士の海賊ヴェインの召喚獣が取っ組み合いをしている方へ向けて、馬を走らせて行った。
圧巻の光景を目の当たりにし、唖然とするキングの部下と幹部の船員達。だがゆっくり彼女の作品を鑑賞している暇はない。シャーロットとは違い、彼等はこれから大波を乗り越えなければならないからだ。
そんな夢でも見ているかのように惚ける彼等を、大きく手を叩き現実へ引き戻すキング。彫刻の空間の横からは、シャーロットを避けるように大波が迫って来ている。
「ほぉ~らぁ~!俺らも負けてらんないよぉ~?はいッ!これは船長命令でぇ~す。俺達も凄いってところ、存分に見せつけちゃってよ」
キングの呼びかけに一早く答えたのは、その性格から何となく予想出来る通りの人物だった。その者は勢いよく自身の船を急発進させると、大波に向かって突っ込んで行き、寸前で横向きに止めると、その力を存分に振るった。
「とぉ~ッぜんだぜ!ボス!確かにすげぇのは認めっけど、あんなんじゃ盛り上がれねぇぜ!もっとアチィやつじゃねぇとなッ!」
部下のこともお構いなしに動き出し、景気付けの先鋒を担ったのは炎の魔術師ジャウカーンだった。彼は一人用の船で、ジェットスキーのような形状をした特殊な船に乗り換えると、自身の魔力をたっぷりと船に注ぎ込み、まるで巨大なドラゴンのブレスのように強烈な炎を噴射しながら海面を走り回る。
ジャウカーンの通った後には炎の道が出来ており、それが幾重にも渡り積み重なっていくことで、蟒蛇の大波にも負けない巨大な炎の壁を作り出した。暗雲が立ち込め陽の光も届かぬ程薄暗い海域に、燃えたぎる炎の壁が彼の闘志のように熱い光を灯す。
彼の作り上げた炎の壁と蟒蛇の大波が接触する。すると、激しい蒸気と共に大規模に渡り水が沸騰するような音が響き渡る。蒸気は凄まじい勢いで上空へと上がり、黒々とした雲へと合流する。それにより天候は更に激しさを増し、雷鳴と稲妻の数が著しく増え始める。
「どぉーーーだぁッ!最高にブチ上げて行くぜぇ!野郎共ぉぉぉッ!!」
「FUUUUUぅぅぅーーーッ!!」
多いに盛り上がるジャウカーンの船団と、ド派手な技を見せつける彼の勢いに、大いに心を高揚させるキング。遠目で見ていた彼も両手を上げて拍手し、部下達を捲し立てて盛り上げる。それはまるで、酒に酔った者達によるボルテージが振り切っている状態の、最高潮に盛り上がっているパーティーのように騒がしいものとなっていた。
「全く・・・彼を見ていると頭が痛くなります・・・。しかし、キング様がご満悦であらせられるようで何より。彼のせいで熱くなってしまった戦場に涼しさと癒しを与えましょう」
ジャウカーンの活躍に、やれやれといった様子で頭を抱えるトゥーマーン。しかしながら彼の炎は、それを見ていた幹部の者達や船員達の心にも火をつけ、負けていられないという闘争心を植え付けた。
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