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神代 コウ

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キングの独壇場

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 彼は船には居らず、行方不明となってしまった船員達は、捜索隊のスキルにより見つけられ、リーズやロイクのスキルで生み出された魔物達によって、次々に救出されていく。

 大きな船団ともなれば、何も戦闘スキルだけあればいいというものではない。彼らのような生命反応を追える者達がいるだけで、敵の索敵や仲間の救助が格段に楽になる。

 勿論、それを妨害するようなクラスやスキルも存在するが、相手がモンスターであればそういったケースは極稀となる。魔力を使う知性の高いモンスター等が、それらに該当するが、大抵の場合が人型のモンスターである場合が殆どだ。

 蟒蛇の爆風に巻き込まれた時、マクシムとはそれ程離れた距離にはいなかった。もしロイクと同じ方向に飛ばされたのであれば、それ程遠くには居ないはず。命に優先順位を付けるべきではないと分かっていても、ロイクは自分が向かって来た方角に多めのドラゴンを送った。

 エイヴリーもそんな彼の行動に気づいてはいたが、止めようとはしなかった。マクシムの帰還を望んでいるのは、エイヴリーも同じということだろう。捜索は順調に進み、海に振り落とされた船員達も次々に船へと引き上げられていく。

 中には息を引き取っていた者もいたが、多くは戦闘復帰が可能な状態で回収され、破壊された船もエイヴリーのクラフト能力で再生し、実質的な被害は見た目ほど大きくはならなかった。マクシムの抜けた穴を除いては。

 蟒蛇の起こした爆発による被害から、戦力を整えていくエイヴリー海賊団とは打って変わり、殆ど無傷の状態で生還したキング海賊団。爆発で目眩を起こしている蟒蛇に近づき、ダメージ量によるポイントを狙うキング。

 しかし、いくら無防備とはいえあの巨体にダメージを入れるのは容易ではない。生半可な砲撃や個人の対人スキルでは、殆どダメージを与えられない。それこそ、マクシムとロイクがやってみせた、敵の攻撃を利用した自爆を誘うのが最も現実的だろう。

 だが、キングは蟒蛇が目覚めるのを待つこともなく、船に積んである兵器も使わずに直進していく。ある程度近づいたところで船が止まると、すると船員の一人が甲板へ上がって来て、蟒蛇を見つめるキングへ話しかける。

 「ボス・・・これ以上は・・・」

 「あぁ、ご苦労さん!もうここでいいや」

 キングは振り返ることなく、片手を上げ船員に合図を送ると船に戻っているように伝える。そしてキングは軽く準備運動を始めると、指や首をポキポキと鳴らし身体を慣らす。一通りの準備を整えると、キングは大人しくなり、蟒蛇の方を眺める。

 「さて・・・、行くとしますかぁ!」

 ゆっくりと甲板を歩き出すキングは、徐々にその足を早め走り出すと、強い踏み込みと共に甲板から飛び上がる。その勢いはまるで、チン・シー海賊団最大の戦力であるハオランの跳躍に似たものがあった。

 しかし、キングの身体からはそんな跳躍が出来るなどとは、想像もつかない。ハオランの跳躍は、踏み込んだ時に船を揺らす程の衝撃があったが、キングの跳躍は一切船に影響を及ぼすこともなかった。

 上空へと飛び上がって行くキングの軌道は、人のものとしては少し不自然だった。それはまるで上空を浮遊でもしているかのように長距離の放物線を描き、蟒蛇のところまでやって来ると、曇天の空を仰ぎながら目眩を起こしていた蟒蛇の頭部に着地する。

 「俺、こう見えて強いのよ~ん・・・」

 不適な笑みを浮かべるキングは、蟒蛇の鼻先でその巨大な瞳を見下ろしながら、拳を叩きつけた。一見すればジェット機に子供が触れるように、何が起こる訳でもない光景が広がるはずなのだが、実際に彼が引き起こした現象は、とても一人の人間が起こしたものとは思えなかった。

 キングの小さな拳が蟒蛇の鼻先をバシッと叩く。すると蟒蛇の鼻は大きく歪み、先程の爆発にも引けを取らない衝撃が辺り一帯へと広がる。鈍い轟音と共に広がる衝撃は、遠くまで飛ばされていたエイヴリー海賊団の元にまで届いた。

 「なッ・・・何の音だッ・・・!?」

 「あのモンスターの方からだッ・・・!」

 船をクラフトしていたエイヴリーが、衝撃波の発生源である蟒蛇の方を見る。そこには数隻の海賊船が近づいているだけで、どこからも砲撃や大きなスキルをしようしたような形跡は見当たらない。

 なのに突然、蟒蛇の頭部から衝撃波が生まれた。それも蟒蛇自身が発した訳ではない衝撃波。何か強烈な一撃を打ち込まれたであろう事が予想される。そして彼は知っている。こんな事が出来る者などそうはいない。そしてこの場にいるもう一つの船団は、彼らと優勝を競り合う因縁の相手でありライバルでもある、キングのシー・ギャング。

 「小僧・・・、直ぐに獲物は返してもらうからな・・・」

 キングの見せる異様な戦闘模様。エイヴリーは内心、このままでは彼にダメージ量で上を行かれてしまうと、僅かに焦りを見せながらも、船団の立て直しと、未だに行方の分からないマクシムの安否を心配していた。
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