443 / 1,646
レイド開戦
しおりを挟む
突き上げられた勢いで、複数の船体がバラバラになる。乗り合わせていた船員もまた宙を舞う。予期せぬ敵の抵抗を受ける中でも、エイヴリー海賊団の幹部達は冷静に対処にあたる。
エイヴリーと共にウィリアムの店を訪れていた幹部の一人、マクシムもまた、上空へ打ち上げられた仲間の救出の為、素早い動きと彼の能力を活かした技で、船を飛石のように次々に渡り、宙を舞う仲間を指から放たれる蜘蛛の糸のようなもので繋げていく。
鋼鉄の糸を指から放ち、時に鋭く斬り刻み、またある時には落下から身を守るクッションのように柔軟に、強度を巧みに調節出来る彼特有の武器を所持していた。その糸を使い、宙に巻き上げられた仲間達を船の残骸ごと空中で受け止めるマクシム。
また別の幹部は、数多のドラゴンを召喚し、仲間達を拾い上げる。流石にドラゴンの身体では船を受け止めることは出来なかったが、人員の救助を務める彼らが溢れ落とした船の残骸は、エイヴリーが直々に手をかざし、先程の砲台の時と同様に船体を組み替え、再び船の形へと戻したのだ。
船をその場で組み替えてしまうなど、容易なことではない。ましてや距離の空いている船へも効果は発揮される。これはグレイスやチン・シー達同様、エイヴリーもまた特別なクラスに就いている証拠だった。
“クラフトマスター“、それがエイヴリーの能力の秘密。マスターの称号を冠しているのは、その道を極めた者である証明であり、それまでの過程で会得するクラスの能力とは、比べ物にならない程の規模や威力を使いこなすことが出来る。
マスターの特権はそれだけではなく、スキルに使われる魔力の量も大幅に軽減され、クールタイムも短くなる。マスターの称号を会得するまでの長い道のりに見合うだけの能力が、一芸を極めし者に与えられる。
エイヴリーの就くクラスである“クラフター“は、そこにある物を使って、別の物に作り変えたり、新たな物を備えたりなど、改造増築に加え、変形分解など、物作りのスペシャリストと呼べるクラスである。
唯一、大きな欠点と言えるのは、未知なる物を作り出すことが出来ないということ。その目で見た物や、レシピなどその人物の見聞が試されるクラスでもあるのだ。その点エイヴリーは海賊として世界中を旅して回っていることもあり、人並み以上の知識や経験を積んで来ている。
それこそ、作れぬ物などないのではないかという程、世界中の凡ゆる武具や兵器などに組み替えることが可能となっている。その能力を使えば、わざわざウィリアムに船を作ってもらう必要など無いように思えるが、見たことも聞いたこともないような未知なる物は作れない。
そこで、エイヴリーは未知なる物をウィリアムに作らせ、その後の修復や増築は自らの能力でカバーするという手段を用いていた。漸く作り上げた船を、一目見ることですぐに同じ物を複製出来てしまうのが、ウィリアムには面白くなかった。
彼のご機嫌を損ねてしまったエイヴリーは、代わりに世界中の珍しい鉱物や魔力を帯びた素材などを持ち帰り、ウィリアムの新たな製造意欲を掻き立てた。そうして、持ちつ持たれつの関係を築く中で、弟子として働くようになったツバキが二人の関係を知り、持ち込まれる素材に興味を持ったことで、今回のようなボードを作り出すことに繋がった。
エイヴリーの能力で、打ち上げられ損壊した船も元通りに作り変えられ、仲間達も幹部らの働きにより誰一人として犠牲を生み出すことなく、蟒蛇の第一波を凌ぎ切ることに成功した。それが果たして、蟒蛇の攻撃なのかと言われると、疑わしいものではある。
こちら側の先制攻撃に驚いた蟒蛇が移動を早めただけ。ただそれだけで攻撃かと見まごう程の被害を受けることになった。もし、本格的に攻撃を仕掛けて来るようになったら、一体どれ程の威力になってしまうのだろうか。
深海へと潜ったのか、蟒蛇の影が海面から覗けなくなる。雨風に揺られ、荒立たしい波の音に蟒蛇の声も聞こえない。敵対する相手やモンスターの位置を特定する、索敵能力に長けた者達の力を持ってしても、漠然とした位置こそは捉えられても、蟒蛇の頭部や尻尾の位置までは細かく分からない。
次なる攻撃に備え、いつでも反撃に出られるように準備を整えるエイヴリー海賊団。そこへ遂に、蟒蛇が攻撃を仕掛けて来る。蟒蛇の動きを探ろうと、海を覗き込んでいた船員の眼前に、徐々に真っ黒な影が近づいて来た。
「いたぞッ!こっちに・・・」
周囲の者達に、モンスターの接近を伝えようとするも、影は瞬く間に彼らの船を飲み込んでしまいそうな程大きく広がっていった。そして次の瞬間には、海面に付近に大口を開けた蟒蛇の姿があった。
「・・・えっ・・・?」
突然鳴り響く爆音と共に、今まで姿を隠していた蟒蛇の頭部が海面から飛び出した。心臓を打ち付けられたかのような衝撃が走り、一斉に音の下方を振り向くエイヴリー海賊団。するとそこには、それまで居たはずの者達と数隻の船が一瞬にして姿を消し、代わりにこちらを見下ろす巨大な蟒蛇の頭部がそこにあった。
海中へ戻ることなく、蟒蛇はこちらを見て、自分の存在を知らしめているかのように睨みを利かせていた。エイヴリーは直様周囲の船の砲台を作り変え、蟒蛇の方に向ける。
「漸く姿を現したか・・・。俺の部下を何人喰らった?すぐに見返りを与えてやる・・・!」
睨み合う一人の海賊と、巨大な海の主。小さな人間達を一蹴するように、大きな口を開け、威嚇の大咆哮をあげる。大気が歪む程の大声で轟き、海は蟒蛇を中心に大きな波を立てる。咆哮に士気を下げられながらも、エイヴリーは部下に迎撃の号令を出す。
エイヴリーと共にウィリアムの店を訪れていた幹部の一人、マクシムもまた、上空へ打ち上げられた仲間の救出の為、素早い動きと彼の能力を活かした技で、船を飛石のように次々に渡り、宙を舞う仲間を指から放たれる蜘蛛の糸のようなもので繋げていく。
鋼鉄の糸を指から放ち、時に鋭く斬り刻み、またある時には落下から身を守るクッションのように柔軟に、強度を巧みに調節出来る彼特有の武器を所持していた。その糸を使い、宙に巻き上げられた仲間達を船の残骸ごと空中で受け止めるマクシム。
また別の幹部は、数多のドラゴンを召喚し、仲間達を拾い上げる。流石にドラゴンの身体では船を受け止めることは出来なかったが、人員の救助を務める彼らが溢れ落とした船の残骸は、エイヴリーが直々に手をかざし、先程の砲台の時と同様に船体を組み替え、再び船の形へと戻したのだ。
船をその場で組み替えてしまうなど、容易なことではない。ましてや距離の空いている船へも効果は発揮される。これはグレイスやチン・シー達同様、エイヴリーもまた特別なクラスに就いている証拠だった。
“クラフトマスター“、それがエイヴリーの能力の秘密。マスターの称号を冠しているのは、その道を極めた者である証明であり、それまでの過程で会得するクラスの能力とは、比べ物にならない程の規模や威力を使いこなすことが出来る。
マスターの特権はそれだけではなく、スキルに使われる魔力の量も大幅に軽減され、クールタイムも短くなる。マスターの称号を会得するまでの長い道のりに見合うだけの能力が、一芸を極めし者に与えられる。
エイヴリーの就くクラスである“クラフター“は、そこにある物を使って、別の物に作り変えたり、新たな物を備えたりなど、改造増築に加え、変形分解など、物作りのスペシャリストと呼べるクラスである。
唯一、大きな欠点と言えるのは、未知なる物を作り出すことが出来ないということ。その目で見た物や、レシピなどその人物の見聞が試されるクラスでもあるのだ。その点エイヴリーは海賊として世界中を旅して回っていることもあり、人並み以上の知識や経験を積んで来ている。
それこそ、作れぬ物などないのではないかという程、世界中の凡ゆる武具や兵器などに組み替えることが可能となっている。その能力を使えば、わざわざウィリアムに船を作ってもらう必要など無いように思えるが、見たことも聞いたこともないような未知なる物は作れない。
そこで、エイヴリーは未知なる物をウィリアムに作らせ、その後の修復や増築は自らの能力でカバーするという手段を用いていた。漸く作り上げた船を、一目見ることですぐに同じ物を複製出来てしまうのが、ウィリアムには面白くなかった。
彼のご機嫌を損ねてしまったエイヴリーは、代わりに世界中の珍しい鉱物や魔力を帯びた素材などを持ち帰り、ウィリアムの新たな製造意欲を掻き立てた。そうして、持ちつ持たれつの関係を築く中で、弟子として働くようになったツバキが二人の関係を知り、持ち込まれる素材に興味を持ったことで、今回のようなボードを作り出すことに繋がった。
エイヴリーの能力で、打ち上げられ損壊した船も元通りに作り変えられ、仲間達も幹部らの働きにより誰一人として犠牲を生み出すことなく、蟒蛇の第一波を凌ぎ切ることに成功した。それが果たして、蟒蛇の攻撃なのかと言われると、疑わしいものではある。
こちら側の先制攻撃に驚いた蟒蛇が移動を早めただけ。ただそれだけで攻撃かと見まごう程の被害を受けることになった。もし、本格的に攻撃を仕掛けて来るようになったら、一体どれ程の威力になってしまうのだろうか。
深海へと潜ったのか、蟒蛇の影が海面から覗けなくなる。雨風に揺られ、荒立たしい波の音に蟒蛇の声も聞こえない。敵対する相手やモンスターの位置を特定する、索敵能力に長けた者達の力を持ってしても、漠然とした位置こそは捉えられても、蟒蛇の頭部や尻尾の位置までは細かく分からない。
次なる攻撃に備え、いつでも反撃に出られるように準備を整えるエイヴリー海賊団。そこへ遂に、蟒蛇が攻撃を仕掛けて来る。蟒蛇の動きを探ろうと、海を覗き込んでいた船員の眼前に、徐々に真っ黒な影が近づいて来た。
「いたぞッ!こっちに・・・」
周囲の者達に、モンスターの接近を伝えようとするも、影は瞬く間に彼らの船を飲み込んでしまいそうな程大きく広がっていった。そして次の瞬間には、海面に付近に大口を開けた蟒蛇の姿があった。
「・・・えっ・・・?」
突然鳴り響く爆音と共に、今まで姿を隠していた蟒蛇の頭部が海面から飛び出した。心臓を打ち付けられたかのような衝撃が走り、一斉に音の下方を振り向くエイヴリー海賊団。するとそこには、それまで居たはずの者達と数隻の船が一瞬にして姿を消し、代わりにこちらを見下ろす巨大な蟒蛇の頭部がそこにあった。
海中へ戻ることなく、蟒蛇はこちらを見て、自分の存在を知らしめているかのように睨みを利かせていた。エイヴリーは直様周囲の船の砲台を作り変え、蟒蛇の方に向ける。
「漸く姿を現したか・・・。俺の部下を何人喰らった?すぐに見返りを与えてやる・・・!」
睨み合う一人の海賊と、巨大な海の主。小さな人間達を一蹴するように、大きな口を開け、威嚇の大咆哮をあげる。大気が歪む程の大声で轟き、海は蟒蛇を中心に大きな波を立てる。咆哮に士気を下げられながらも、エイヴリーは部下に迎撃の号令を出す。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる