World of Fantasia

神代 コウ

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暗殺者と造船技師の少年

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 三人が、シン達の仲間が待つ船へ辿り着く。目に映る親しんだ乗り物の光景に、異変はない。島で出会した彼らや、別の何者かによる襲撃を受けた様子は見受けられない。自分達の船が変わらずそこにあったことに、一先ず安堵する二人。

 そしてシン達の船を見たデイヴィスは、想像していたものとは違ったのか、少し驚きとも唖然とも取れるような表情で彼らの船を眺める。ここまでデイヴィスを連れて来たシン達だったが、そもそも彼の船は何処にあるのだろうか。

 「あれが俺達の船だ。あそこで仲間の意見を聞いて、アンタの計画に手を貸すかどうか決める」

 「あぁ、それは構わねぇが・・・。アンタ達、こんな小さな船でここまでやって来たのか?」

 口を開けて眺めるデイヴィスがシンに尋ねる。確かにレース序盤の洗礼や、ロロネー海賊団との戦闘は過酷なものであったが、何もそこまで驚くようなことなのか。シンはデイヴィスの反応に疑問を抱いていた。

 「そうだが・・・。何かおかしいのか?」

 「いや、レースの参加に小さな船で挑む者達も多くいる。だがその殆どは序盤の常連組による襲撃や、例えそこを乗り越えられても他の連中に覆われて脱落するのが関の山だ。そんなレースをここまで乗り越えて来られるような単騎船は、よっぽど強ぇ奴が乗ってるか、相当腕の立つ航海士が乗っているか・・・。或いは船自体の性能がすげぇんだろうなと、思っただけさ・・・」

 多くの者達が参加するフォリーキャナル・レース。その大半が序盤の洗礼や、その後の襲撃で姿を消し残るのは常連組の船か、実力を伴った新星達という構図になるのが恒例らしい。

 デイヴィスが驚いていたのは、シン達のような一隻だけの船でここまでやって来る船が、そもそも珍しいことにある。洗礼を乗り越えても、勢力の小さい参加者達というものは、他の者達から標的とされやすい。

 常連のキングやチン・シーといった大船団は勿論、他の名だたる海賊団を押し退け勝ち抜くのも容易なことではない。そういった者達は、自分達よりも勢力の劣る参加者を標的にすると、少しでも順位やポイントを稼ぐ為に彼らが道中で手に入れた財宝や珍しいアイテムなどを奪い取る手段に出てくるのが定石。

 だが、残りの山場をレイド戦のみに控えたレース中盤以降まで生き残った少数勢力というものは、逆にその力を誇示する異様な雰囲気を放つのだという。ましてや、シン達の乗って来たような小さな船が、一隻でこんな海域にまでやって来たとなると余程の強者であるか、優勝候補の大海賊団による傘下の船である可能性が出てくるのだ。

 下手に手を出せば返り討ちに合う。そんな雰囲気を、シン達の船も知らず知らずの内に放っていたのだ。

 「あの船は、グラン・ヴァーグで知り合った“ウィリアム・ダンピア“という造船技師の元で働いていた弟子が作った船なんだ。まだ子供だが、その技術と知識はッ・・・」

 シンが話を続けようとしたところで、デイヴィスが食い入るように彼の口にした名に興味を示した。多くの海賊がその名を頼りに、自分達の船を作って貰おうと訪れる。だが相応の者でなければなかなか順番が回ってくることはなく、多額の金額を要求されてしまうのだとか。

 そんな海の世界でも一流の造船技師でもあるウィリアムと知り合うことができ、その上彼の元で働く凄腕の弟子が作った船ともなれば、そんじょそこらの船よりも格段に性能が変わってくるのだという。

 「なッ・・・!?アンタら、あのウィリアムと知り合いなのか!?しかもそのお弟子さんの作った船を手に入れられるって・・・。一体どんなコネがあるんだ?」

 やはりウィリアムという名は、それ程までに有名なものなのだとシンとミアは確信する。そんな彼の店を紹介してくれ、グラン。ヴァーグまで連れて来てくれた馬車の主人、アランもまた一体何者だったのだろうか。

 「色々と事情があってな・・・。交換条件みたいなもので船を見繕ってもらったんだ。それもあるから俺達もこのレースでいい結果を残さなきゃならない。それを相談する為にもここまで来たんだ」

 優勝候補である、大海賊でもありシー・ギャングという大きな組織のボスであるキングを討ち取るということは、それはそれで強烈なインパクトをレースに残すことになる。だがそれはあまりにリスクを伴うもの。師匠であるウィリアムと共に、レースを何度も観てきたツバキの了承を得ることが一番の壁と言っても過言ではない。

 無茶をしてレース敗退になったり、命を狙われる危険性がある計画を二つ返事で承諾するとはとても思えないし、恐らくそれが当然の判断だろう。

 周囲の警戒と船の防衛に務めていたツクヨが、甲板から船に近づくシン達の姿を見つける。大きく手を上げ合図を送るが、見慣れぬ人物が加わっているのを見て動きが止まる。だが彼はシンやミアの事を信頼している。故に彼らの連れて来た人物であれば、それなりの事情があるのか、少なくとも悪い者ではないと、すぐにシン達を船に招き入れる準備へ取り掛かる。

 「遅かったじゃねぇか。何か良いモンはあったか?財宝やアイテムも、レースの順位を決めるポイントになるからなぁ。少しでも拾っておいて損はねぇからな・・・」

 船の改造を進めるツバキが、シン達の方を振り返ることもなく作業に没頭し声をかける。二人と共に船へ上がって来たデイヴィスが、シンの言っていたウィリアムのところで働く子供の弟子の姿を見て、驚きの表情と声を上げる。

 「マジかよ・・・本当にガキが乗ってやがる・・・」

 聴き慣れない声に思わず手を止め反応するツバキ。否、彼が反応したのは突然聞こえて来た知らぬ者の声にではなく、その者が発した“ガキ“という言葉にだった。静かにドスを利かせた声色で答える彼の様子から、その心境が手にとるように伝わってくる。

 「・・・誰だぁ・・・?俺を“ガキ“なんて呼ぶ無礼モンはよぉ・・・」

 ツバキは作業を中断し立ち上がると、その声の主へ振り返り睨みを利かせる。キング暗殺計画を持ち掛けた者と、半ばその決定権を握っている者達の初対面は最悪なスタートになってしまったと、シンとミアは頭に手を当て大きな溜め息と共に首を小さく横へ振った。
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