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神代 コウ

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命運を分ける決断

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 夕立のような、僅かな間に起きた一時‬の間の出来事。去りゆく彼らの背中を眺めながら、一人ご立腹な様子のデイヴィス。海のことについてあまり知らぬと言っていた彼らが最後に残した言葉。

 それは関わりのない者でさえ、その危険性を知っている程に有名な話らしい。キングへ楯突くと言うことは、それだけ恐ろしいことになると言うその界隈では知らぬ者はいないことなのだそうだ。

 「ッたく・・・!アイツらビビリやがって・・・」

 そう口にするデイヴィスであったが、シン達の心の中では寧ろ、デイヴィスの計り知れないほど強大な組織に楯突こうと言う無謀な誘いを断った彼らの方が、よっぽど冷静で周りが見えているように思えてならない。

 「アイツらの方が、余程現実が見えているように思えるが?」

 ミアが私念に駆られ冷静さを欠いているであろうデイヴィスへ、思ったことを口にする。そもそも彼の言う、政府との繋がりのある海賊達はそんな危険なことを犯すのであろうか。

 それにキング程の大規模な組織であれば、今まで政府が泳がせておいたと言うのもおかしな話だ。既にキングの息のかかった者が、政府側にいて彼を手助けしているのではないだろうか。

 「何だよ、アンタ達までビビっちまったのか!?弱みを握られてる以上、アンタ達だっていつ追い詰められるか分からねぇんだぞ?チャンスがあるのなら、不安要素は取り除いておくべきだと俺は思うがね・・・」

 デイヴィスの言い分も分からなくはない。いざキングが敵に回り対立しなければならなくなった時、シン達だけでは到底どうにか出来る相手ではない。それならば今、デイヴィスが裏から手を回した者達と共に、キングを始末してしまう方がより現実的である。

 その上シン達は、上手くいけばキング暗殺計画に加担したことすら知られることなく、目的を達成することが出来るという魅力的な特典までついている。国家転覆の共犯者であることを知っているのかまでは分からないが、そのまま放置しておくよりかはデイヴィスの言う通り、不安要素であるキングを排除しておいた方が、シン達の今後にも影響があるだろう。

 大きなリスクを抱え、世界の何処まで繋がっているかも分からない組織を壊滅させ安泰を手に入れるか、いつどんな刺客に襲われるかも分からない中で、怯えながらこのWoFの世界を生きていくのか。シン達はその選択を迫られていた。

 「ミア・・・」

 シンがミアにどうするべきか相談しようとしたところ、彼女は少しシンに対して冷たくとも取れる反応を示す。だがそれは、決してシンに決定権を押し付けたのではない。どうすることが正解なのか、その答えを知りたいのはミアとて同じこと。

 デイヴィスの潜入に必要なのは、アサシンとしての能力を持つシン。計画の成功と失敗を決定づける要素の一端を担っている彼の決断に、ミアは従うつもりでいた。

 「シン、こいつの計画に必要なのはアサシンとしてのその能力だ。上手くいくか、それとも失敗するか・・・。私らの命運の一端を担っているのは、他でもないキミなんだ・・・。キミの決断に従うよ」

 「なッ・・・何故だ!?俺一人で決められることじゃッ・・・」

 言葉を続けようとしたシンが、二人の方を向くとその視線は回答を今か今かと待つように向けられていた。逃れられぬ状況の中、シンはやむを得ずその場凌ぎの言葉を口にする。無論、彼らの命と今後の行く末を左右する決断なのだ。早々に決まる訳もなく、二人ともシンの言葉に従った。

 「はぁ・・・。俺達だけで決めて良いことではない。先ずはツクヨとツバキにも話をさせて貰うぞ。それでも良いか?」

 「あぁ、勿論だとも。お仲間がいるのなら更に心強い」

 それまでの表情とは打って変わり、飄々とした振る舞いをするデイヴィスにミアが釘を刺す。

 「まだ決断した訳じゃない。それにアンタの仲間は何処だ?この島にいるんだろ?」

 シー・ギャングを相手に戦うのであれば、相応の仲間がいる筈。ここまで一切姿を現すことなく、気配すら感じさせないほど見事に隠れている。話を聞いたのだ、少しくらいは手の内を明かして貰わねば性に合わないだろう。

 しかし、ミアの言葉を聞いてもデイヴィスは仲間を二人の元に晒す素振りはなかった。痺れを切らしたミアが声を荒立てようとしたところで、彼は信じられないことを口にする。

 「仲間・・・?そんなもん居ねぇさ。俺は一匹狼だ。それに潜入するとなれば大勢では行けねぇだろ?」

 唖然とするシンとミアの空いた口が塞がらない。こんなところまで一人でやって来たというのだろうか。潜入の話は肯けるが、計画を一人で実行しようとしていたなど正気の沙汰ではない。

 ハウエル・デイヴィス。この男にどれ程の力があり、能力があるのか。そしてどんな人脈があって政府の海賊をけしかけることが出来たのか。話が進めば進むほど、謎は増える一方だった。
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