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キングの噂
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想像した絶望的な状況に足が竦む。そしてそんなシンに、手を差し伸べるかの如く男が言葉をかける。それは乗るだけの価値があると思わされる、実に巧みなものだった。心配を抱えてしまったシンにとって、これ程効くものもないだろう。
「何、安心してくれ。一緒にキングの首を取ってくれっていうんじゃぁない。アンタには、奴のいる船への潜入経路を作ってもらいたいだけさ。これならアンタが関与してることもキングの連中に知られることもねぇ・・・」
「・・・・・」
思わず黙るシンに、ミアは口車に乗せられるなという表情でシンの方を見てくる。まだもう少し。男の話を呑むには、些か時期尚早だろう。言葉を失うシンの代わりに、考えるだけの時間や内容を吟味するための情報を聞き出そうとするミア。
「待て。アタシらはまだアンタの名前すら知らない。一体、アンタは何者で何をしている?」
男は目的に夢中になり忘れていたのか、思い出したかのように自己紹介を始める。
「あぁ・・・そうだったな、遅くなってすまない。俺は“ハウエル・デイヴィス“。金目的で賞金のかかった海賊を狙うようになってから、巷じゃ海賊狩りなんと呼ばれている、俺自身しがない何処にでもいるような海賊さ」
ハウエル・デイヴィス。シン達がグラン・ヴァーグで情報収集している時に、名前くらいは聞いた覚えのあるものだった。その時も、海賊狩りと名を馳せレースで財宝や珍しいアイテムだけでなく、参加者の首を狙う者もいるという話だった。
「デイヴィス・・・?聞かん名だな。そんな一介の海賊狩りが狙うには、随分と大き過ぎる獲物だと思うが・・・?」
デイヴィスに鎌をかけられた事を根に持っているのか、ミアは彼の名前など知らぬと嘘をついた。そしてミアは、彼のことを知るには十分過ぎるほどの良い質問をした。彼女の言う通り、懸賞金目的で狙うには余りに敵が強大すぎる。
政府の内通者を煽ってまで差し向けるなど、その行いは少し執着し過ぎているのではないかと、疑われても不思議ではなかった。よくぞ自分達の身の保身に走らず、そのことに気づけたなと、シンはミアの言葉の駆け引きに素直に感心した。
「・・・痛いところを突かれるな。確かにアンタの言う通り、キングを狙うのは俺の個人的な私念からだ。・・・何としても果たさなきゃならねぇ事があるんだよ・・・」
飄々と話していたデイヴィスの表情が、少しだけ強張る。彼とキングとの間に、何かしらの因縁があるのだろう。実際本人も個人的な思いがあるのだと語っている。それもこの後、彼の口から語られる事だろう。
その中に、シン達にとっても必要な情報が含まれているかもしれない。今度こそ冷静な精神の元、彼の言葉を見極めなければと気を引き締めるシン。
「俺には妹がいるんだ。ガキの頃は仲良く遊びに行ったり、やんちゃしたりしたものさ。だが貧しかった俺の家は、商人達に荒らされ両親は殺された。妹を連れて逃げ出そうとしたが、妹は拐われて商品として売り飛ばされた。必ず助けると約束して、俺は妹が売り飛ばされた商売相手を探し、それが人身売買事業を行っていた海賊であることを掴んだ・・・」
「その元締めが、キングだったと・・・?」
口を開いたミアに、デイヴィスは無言で頷いた。要するに彼の妹は、人身売買の商品として海賊に明け渡され、その事業の大元がキングの組織なのだと言う。
グラン・ヴァーグの酒場でシン達が情報収集を行っていた際、キングはミアに突っかかって来た海賊ウォードを追い払ってくれた。あの時の様子からは、そんなことをしているような人物であるなど想像出来なかったが、ギャングのボスともなれば考えられない話でもない。
シンやミアに目を付けていたのも、商品としてだったのだろうか。大きな組織をやりくりしていくには、そう言った事業にも手を出して行かねばならないと言うことなのか。
「中でもキングは、子供を中心として仕入れているという噂を聞き、俺なりに調べてみたらどうやら本当だったようだ・・・。奴の商船に子供が多く乗っているのを見つけた。俺の妹は・・・キングによって売り捌かれた可能性が高い。奴に妹を何処へやったのかを問い質し・・・殺すッ」
力強く放ったその言葉には、彼の執念のようなものが込められていた。余程デイヴィスにとって妹の存在が大きかったのだろう。大事な者が、まるで物のように扱われ商売の道具になり、奴隷として何処かで酷い扱いを受けていることを考えると、気が気でないだろう。
「・・・どうする?ミア。確かに俺達にとっても、キングに聖都でのことを知られているのはマズイんじゃないか?俺達の存在を気取られない範囲で手を貸し、キングを討って貰うっていうのは・・・?」
「奴の情報網がどの程度なのかは想像つかない・・・。そんな相手に気付かれることなく事を済ますなんて出来るだろうか・・・。いずれにせよ、コイツの策とやらを詳しく聞く必要があるな」
シンとミアは、自分達の身の安全を確保する為、まずはデイヴィスにキング暗殺の手筈について話を聞くことにした。
「何、安心してくれ。一緒にキングの首を取ってくれっていうんじゃぁない。アンタには、奴のいる船への潜入経路を作ってもらいたいだけさ。これならアンタが関与してることもキングの連中に知られることもねぇ・・・」
「・・・・・」
思わず黙るシンに、ミアは口車に乗せられるなという表情でシンの方を見てくる。まだもう少し。男の話を呑むには、些か時期尚早だろう。言葉を失うシンの代わりに、考えるだけの時間や内容を吟味するための情報を聞き出そうとするミア。
「待て。アタシらはまだアンタの名前すら知らない。一体、アンタは何者で何をしている?」
男は目的に夢中になり忘れていたのか、思い出したかのように自己紹介を始める。
「あぁ・・・そうだったな、遅くなってすまない。俺は“ハウエル・デイヴィス“。金目的で賞金のかかった海賊を狙うようになってから、巷じゃ海賊狩りなんと呼ばれている、俺自身しがない何処にでもいるような海賊さ」
ハウエル・デイヴィス。シン達がグラン・ヴァーグで情報収集している時に、名前くらいは聞いた覚えのあるものだった。その時も、海賊狩りと名を馳せレースで財宝や珍しいアイテムだけでなく、参加者の首を狙う者もいるという話だった。
「デイヴィス・・・?聞かん名だな。そんな一介の海賊狩りが狙うには、随分と大き過ぎる獲物だと思うが・・・?」
デイヴィスに鎌をかけられた事を根に持っているのか、ミアは彼の名前など知らぬと嘘をついた。そしてミアは、彼のことを知るには十分過ぎるほどの良い質問をした。彼女の言う通り、懸賞金目的で狙うには余りに敵が強大すぎる。
政府の内通者を煽ってまで差し向けるなど、その行いは少し執着し過ぎているのではないかと、疑われても不思議ではなかった。よくぞ自分達の身の保身に走らず、そのことに気づけたなと、シンはミアの言葉の駆け引きに素直に感心した。
「・・・痛いところを突かれるな。確かにアンタの言う通り、キングを狙うのは俺の個人的な私念からだ。・・・何としても果たさなきゃならねぇ事があるんだよ・・・」
飄々と話していたデイヴィスの表情が、少しだけ強張る。彼とキングとの間に、何かしらの因縁があるのだろう。実際本人も個人的な思いがあるのだと語っている。それもこの後、彼の口から語られる事だろう。
その中に、シン達にとっても必要な情報が含まれているかもしれない。今度こそ冷静な精神の元、彼の言葉を見極めなければと気を引き締めるシン。
「俺には妹がいるんだ。ガキの頃は仲良く遊びに行ったり、やんちゃしたりしたものさ。だが貧しかった俺の家は、商人達に荒らされ両親は殺された。妹を連れて逃げ出そうとしたが、妹は拐われて商品として売り飛ばされた。必ず助けると約束して、俺は妹が売り飛ばされた商売相手を探し、それが人身売買事業を行っていた海賊であることを掴んだ・・・」
「その元締めが、キングだったと・・・?」
口を開いたミアに、デイヴィスは無言で頷いた。要するに彼の妹は、人身売買の商品として海賊に明け渡され、その事業の大元がキングの組織なのだと言う。
グラン・ヴァーグの酒場でシン達が情報収集を行っていた際、キングはミアに突っかかって来た海賊ウォードを追い払ってくれた。あの時の様子からは、そんなことをしているような人物であるなど想像出来なかったが、ギャングのボスともなれば考えられない話でもない。
シンやミアに目を付けていたのも、商品としてだったのだろうか。大きな組織をやりくりしていくには、そう言った事業にも手を出して行かねばならないと言うことなのか。
「中でもキングは、子供を中心として仕入れているという噂を聞き、俺なりに調べてみたらどうやら本当だったようだ・・・。奴の商船に子供が多く乗っているのを見つけた。俺の妹は・・・キングによって売り捌かれた可能性が高い。奴に妹を何処へやったのかを問い質し・・・殺すッ」
力強く放ったその言葉には、彼の執念のようなものが込められていた。余程デイヴィスにとって妹の存在が大きかったのだろう。大事な者が、まるで物のように扱われ商売の道具になり、奴隷として何処かで酷い扱いを受けていることを考えると、気が気でないだろう。
「・・・どうする?ミア。確かに俺達にとっても、キングに聖都でのことを知られているのはマズイんじゃないか?俺達の存在を気取られない範囲で手を貸し、キングを討って貰うっていうのは・・・?」
「奴の情報網がどの程度なのかは想像つかない・・・。そんな相手に気付かれることなく事を済ますなんて出来るだろうか・・・。いずれにせよ、コイツの策とやらを詳しく聞く必要があるな」
シンとミアは、自分達の身の安全を確保する為、まずはデイヴィスにキング暗殺の手筈について話を聞くことにした。
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