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神代 コウ

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執着と執念と

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 三者三様の思いで男と対峙するシン達。攻撃を仕掛ける瞬間を図るように、タイミングを合わせる三人。先ず最初の一打を打ち込みに行ったのは、ハオランだった。

 この中の誰よりもロロネーに恨みのある彼は、素早い踏み込みで拳を放つ。すると、倒れていたロロネーは床に落ちていた小さな麻袋をハオランに投げつける。打ち放った拳とは反対の手で麻袋を弾くハオラン。

 しかし、その中から出て来たのは塩だった。何処にでもあるような、調理等に使われる何ら変哲もない塩だが、まるで指から溢れ落ちる砂のように滑らかなそれは、目眩しのようにハオランの正面で飛散する。

 「くッ・・・。しまった!ロロネーは!?」

 ハオランが目を瞑った僅かな一瞬に、ロロネーはその姿を霧へと変え壁を通り抜けて行った。まだ逃げるだけの余力を残していたかと、ロロネーの底知れない魔力を見縊ってしまったが、そんなロロネーを追撃したのはツクヨだった。

 「お任せあれ・・・」

 目を瞑り、布都御魂剣の能力でロロネーを探知したツクヨが、通り抜けて行った壁の方を向いて抜刀術のような構えを取る。そして目にも留まらぬ剣捌きで、鋭い連撃を放つ。僅かに部屋の中に届く光を刀身が反射しているかのように、青白く綺麗に一直線に放たれた残像の光が幾つも壁に描かれる。

 斬り刻まれた壁が数多の破片に砕け、爆風に吹き飛ばされたように吹き飛んでいく。その破片の先に、血の滲んだ霧を纏ったロロネーの姿が薄っすらと見える。想定外の追撃を受け、霧化が解けてしまっているようだった。

 実体に戻るのを待たずして、今度はシンが動き出す。ロロネーが吹き飛んだ先へ、素早く周囲の影から、徐々に床に映し出される男の影目掛けて、幾つもの影のロープを伸ばし繋げる。シンのスキル“繫影“で実体に戻ったロロネーの身体は、まるで宙に浮いているかのようにピタリと固定される。

 「何ぃッ!身体がッ・・・!?」

 瀕死にまで追い詰められたロロネーは、自身が霧の状態を保てていないことと、実体に戻る僅かな一瞬を狙い撃ちされ、身動きが取れなくなったことに驚く。そこへ再度、拳を構えたハオランが渾身の一撃を放つ。

 「鋭穿拳鋭穿拳ルイ ツァン ツェン!」

 船内からまるで大砲でも撃ったかのような、一直線に伸びる衝撃波が放たれる。宙吊りになるロロネーは、自らに向けて放たれる衝撃波を眼前に捉えながら、残された力で亡霊を近くに呼び出した。

 「うッ・・・!ぉぉぉおおおッ・・・俺を守れぇぇッ!!」

 濃霧に紛れ、白い靄が男の周りを飛び回るように降りてくると、ハオランの放った衝撃波の前で止まり、迎撃の構えを取る。しかし、亡者の群れは煙を払うようにその姿を掻き消され、一撃の元葬りさられる。

 レーザービームのような鋭い一撃がロロネーの胸部を穿つ。人間であれば当然生きてはいないであろうという程、見事に決まる。歯を食いしばりながらも、その隙間から血が漏れ出す。

 ロロネーは痛みに耐えながら全身に力を込め、身体を縛る影を強引な力技で振り解く。やっとの力で放ったスキルが打ち消され、膝をつくシン。胸に手を当て、飛び出しそうにリズムを上げる心臓を落ち着かせながら、勝負の行方を見守る。

 衝撃波の命中を確認するよりも先に、ハオランは次の攻撃の為、走りながらロロネーに近づくと高く飛び上がる。着地したロロネーは顔を上げ、上空のハオランを視界に捉える。だが、着地から見上げるまでの工程の中で、一人その姿を確認出来なかった者がいた。

 ロロネーがその存在に気付いた時には既に遅く、彼は背後に回っていた。戦いの中で相手の姿を見失う程、ロロネーには余裕がなかった。男が捉えていたのは、この戦いにおける宿敵であるハオランだけだった。それはまるで、差し違えてでもこの男だけは殺すのだという、強い意志を感じる程に。

 身体が痛みと疲労で軋み、今にも倒れ込んでしまいそうになる。本当は先程のハオランの一撃で勝負を決めたかった。全力で技を打てる回数も底が見えている。もう船内で放ったような連撃は打てない。しかしその鋭さとスピードは損なわれず。寧ろ今までで一番、研ぎ澄まされているようであった。

 景色や空間ごと切れたのでは無いかという、唖然とするほどの一閃。ロロネーの身体が腰の辺りで上と下に別れ、血の混じる水蒸気を吹き出す。鮮血を浴びる代わりに水蒸気が付着するツクヨ。そこで初めて彼は気がついた。

 ロロネーの発生させる水蒸気は、熱を帯びていたのだ。焼けるように熱い水蒸気に、顔を覆いながら倒れるツクヨ。それでも彼は目を開けようとしなかった。いつまたロロネーが霧となって消えるか分からない。そうなればロロネーを探し出せるのも、実体に戻せるのもツクヨしかいない。

 何としてもこの能力だけは解除しないと、必死に耐えていた。彼の一閃を受け、ロロネーはそのまま半身を船に置き去りに、上空にいるハオランヘと文字通り飛んで行った。
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