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神代 コウ

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ロールを外れたイレギュラー

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 男はロロネーに言葉を連ねる。しかし彼には、そのローブの男が口にしている言葉の意味が理解できず、ただ聞き流しているような状態だった。

 「フランソワ・ロロネー。お前に与えられたロールを解除し、永遠の輪廻から解放してやることが出来る。さすれば何者にも邪魔されぬ、お前だけの生を桜花することが出来るだろう」

 「・・・何を言っている・・・?お前は誰だ?俺は・・・死んだのか?」

 素性の知れない男と、海とも空中とも取れない真っ暗な空間で二人きり。他には何も見えず、何も聞こえない。ロロネーの口にしたようにこの世のものとは思えないところで、理解出来ぬ問いに返答を求められる。

 ローブの男は彼の言葉など意に介せず、まるで与えられた台本を淡々と読み連ねるように、感情のない声色で僅かに困惑の様子を見せるロロネーに畳み掛けるように言葉を投げかける。

 「断れば再び歯車は回り出す。このロールはお前でなければならない訳ではない。都合よく私の目についたのがお前だった、それだけだ」

 「誰でも・・・良かった?・・・ナピスの奴らでもか・・・?」

 会話というにはあまりにも一方的なやり取りの中で、初めて感情を込めた言葉を発したロロネーに、男は僅かに口を噤むような間を空ける。感情のない男から答えを聞こうといった様子で睨みつけるロロネー。

 「そうだ・・・」

 初めてロロネーの言葉に対して、返事を返したローブの男。そして恐らく想像していた通りの回答を得たロロネーは、続けて男に対し自分が望まなかった場合のことを尋ねる。

 「俺がアンタの望む返答をしなかったら、奴らのところへも同じことをしに行くのか?」

 「私が赴くというのとは少し違うが・・・、同じことを尋ねる者もいる」

 男の答えを聞いた時点で、ロロネーの心は決まっていた。この男が何のことを言っているのかは、この時のロロネーには一切分からなかったが、一つだけ彼の中に芽生えたものがある。

 それは、例えこの男の言うことが何であろうと、ロロネーや同じ地獄を共有した仲間以外に、何事であろうとナピスの奴らに渡すわけにはいかないという感情だ。それがロロネーの心の中に芽生えてからは、彼はこの男の言うことに流されてやろうという気になった。

 元より地獄のような日々や、死にかけるような体験もしてきた。今更どんなことが起ころうと受け入れる覚悟が出来ていたのだ。

 「奴らに流れるのなら俺がそれを止める。一体俺に何をさせようというんだ?」

 「簡単なことだ。変化を望まず世界を成す歯車の一つに戻るか、それとも別のモノへと変わり世界を乱す歯車になるか・・・」

 男は簡単なことだと言ったが、ロロネーには男が変化を求めるかを尋ねている事だけは理解出来た。だが肝心の、何に変わるかが明かされない。現状という意味ならば、ロロネーは変わりたいと思っている。

 ただ憎悪を吐き出すだけの機械のように生きるよりも、かつての自分やモーガンのように、もう一度新たな世界へと飛び出してみたい。しかし、これまでの心が変わることを彼は望まなかった。

 ロロネーをこれまで駆り立ててきたのは、自身を長らく苦しめてきたナピス国の者へ対する憎悪だった。この恨みの気持ちだけは忘れたくない、忘れてはいけない。死のうが転生しようが、到底許せるものではない程根深く、彼の心を燃やしていた。

 「変わるというのは、全てか?その後の俺には何が残る」

 「基本的な構成は変わらない。私が変えるのは、お前自身の在り方だけだ。望むなら記憶や過程を変更することも出来る」

 「分かった、変化を受け入れよう。だが中身はこのままでだ。この記憶と憎悪は俺を成す重要なものとなる」

 男は微かに鼻で笑うと、再びロロネーへ腕を伸ばす。すると淡い光が魔法のように溢れ出し、彼を包み込んでいく。全身が光で覆われると、気泡のようにロロネーの身体はその光と共に上昇しながら分解され、真っ暗な空間から消え去った。

 「イレギュラーを見つけるには、イレギュラーで誘い出すのが一番。多くのデータが集まるイベントであれば尚の事。直ぐに結果は出るだろう」

 そう言うとローブの男は、ロロネーの居なくなった真っ暗な空間から姿を消した。同時にロロネーは、ただ沈没を待つだけの崩壊した海賊船にいた。

 霧雨のようにしっとりと細かな滴が宙を舞う。厚い雲に覆われたその海域は、天候こそ何か良からぬ兆しを感じさせながらも、音もなく肌に纏わり付く霧を生み出していた。その中心にある海賊船で目覚めたロロネーは、自身の身体に起きた変化に気づき、静かに笑い出す。
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